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最後の新女王探し開始

四条天皇は11歳の頃、イタズラで滑石(かっせき)を廊下に塗って誰かを転ばせてやろうとした。

しかしそれで死んだのは自分だった。

イタズラは程々に。

それがどんな結果を生むのか最悪も考えた方がいい。

或いは自らに返ってくる事もある。

イタズラなんてものはやらない方がいいのだよ。

ドッキリカメラなんて番組があったけれど、あれはヒヤヒヤして見ていられなかったなぁ。


テヘペロ会長から話を聞かされ、俺たちはまずデンジャーサイトで情報を収集していた。

「某国自らの情報なのか。オーストラリアにも新女王を放っていたのね」

「だったら何処かにいるはずなの‥‥」

「とは言え、オーストラリアは広いわよねぇ~」

「策也なら見つけられるわよ」

「いやいや、流石に見た事もない新女王を、『魔力』も持たないこの世界で探さすのは至難の業だ」

この世界での探索が難しい理由を改めて言うと、それはやはり魔力を蓄える者がいない事だ。

だから魔力から個人を特定しづらいし、大きな念力(まりょく)を持った者も探しづらい。

自ら持つ念力は常に抑えられていて、強さが測れない。

最も魔力を蓄える俺たちは、強い者ならそれを抑えて分からないようにするんだけれどね。

そして今回の場合もそうだけれど、見た事の無い者を探すのは基本的には不可能。

当然デンジャーサイトにもその映像はなかった。

あってもデジタル映像だと、なかなか上手くはいかないみたいなんだけれどね。

実際に見るか、或いは魔法映像でないと厳しい。

アナログだといけそうな気もするけれど、そんなものはこの世界には存在していなかった。

ちなみに俺の見たものは魔法映像にして映し出せるけれど、データとして提供する際はデジタル映像に処理されている。

科学世界と魔法世界ってのは共存しにくいのかも知れないな。

「それでぇ~、探す為のヒントになるような情報は無いのかしらぁ~」

「キマイラBに関する情報は、それほど多くはなさそうね」

「少ないながらも多少ヒントにはなると思いたいな‥‥」

キマイラBは、変わった蜂とは言え一応蜂だ。

春から秋にかけて活動し、冬はあまり動きを見せない。

これから冬に向かうオーストラリアでは働き蜂をつくらず身を潜める時期だ。

見つけるのは難しそうだな。

春になると交尾をしていない新女王でも沢山の卵を産み、働き蜂を数週間以内に大量につくる。

肉を集めさせ新女王はドンドン力を蓄えてゆく。

秋になるとまず新女王を産む。

数は決まっていないけれど、八匹以上は産むとされている。

その後ハチ公となり得る雄蜂を八匹産む。

生まれた雄蜂は新女王一匹とだけ交尾をし、その後その新女王に食べられるなどして冬を前に死ぬ。

キマイラと化した新女王は、同種族間交配だと基本的にはキマイラを産まないけれど、交配のやり方や食べている物によってはキマイラハチ公を産む。

つまりこれから探す新女王が、もしも人間やハチ公を食ってキマイラ化した場合、更にハチ公を産む可能性はあるという事だ。

但しオーストラリアはこれから冬なので、一年近くはその心配をしなくても良いと思われる。

「一年以内に探せば良いのかしら?」

「この情報が正しければな」

しかし嫌な予感はする。

例えば核の放射能で変異し、この情報が当てはまらなくなっているとか。

流石にそんな可能性は無きに等しいとは思うけれど、世の中何があるか分からないからなぁ。

それにしてもこのサイト、俺に編集権限も付与されているぞ。

大丈夫か?

何かイタズラしてやろうか。

たとはアクセスした奴に『ウイルスに感染しました』なんて表示する。

或いは『貴方のデンジャーカードのデータを全て削除しました』なんてのもビックリするぞ。

ガラケーの頃は結構そういうサイトが流行ったよね。

ちなみにこの世界のガラケーでも、ネットサイトを閲覧する事はできる。

デンジャーカードの読み取り機能が付いていれば、当然デンジャーサイトも可能だ。

‥‥。

そんな子供みたいな事はやめておこう。

ちょっとした気持ちでイタズラしても、それがとんでもない事に繋がったりするのだ。

歴代天皇は色々な教訓を日本国民に伝えてくれているよ。

「それで策也ちゃん‥‥どうするの?‥‥」

「とりあえずオーストラリアでしばらくは探索だな。向こうに拠点が欲しい所だけれど‥‥」

「デンジャー協会に用意させましょう~」

‥‥。

「なるほど、その手があったか」

こんな大変な仕事、押し付けられたようなもんなんだから、それくらいはやってもらえるよね。

「もしもし私なの‥‥。オーストラリアに広い庭付き一戸建てを頼むの‥‥」

いきなり電話するんか-い!

狛里は電話が好きなのだろうか。

「狛里。流石にそれだけ言っても無理だろ。事情説明とか色々と必要なんじゃないか?」

「大丈夫なの‥‥。いつも直ぐに届けてくれるの‥‥」

「いつも直ぐに届く?」

そういえば偶に謎の『お菓子詰め合わせ段ボール』が届くな。

ネットスーパーで買い物をしているんだと思っていたんだけれど‥‥。

すると今度は天冉の携帯が鳴った。

「もしもしぃ~。は~い!シドニー郊外ねぇ~。了解よぉ~」

‥‥。

そんなバカな。

しかも天冉に電話が掛かってきてるんだけれど‥‥。

「一応聞くけど、今の電話はなんなんだ?」

「狛里ちんの要望通りぃ~、シドニーに広い庭付きの一戸建て物件を確保してくれたわぁ~。自由に使って良いってさぁ~」

一体どうなっている?

俺の知らない所で何が起こっているんだ?

つかこんな短時間で物件確保だと?

「デンジャー協会って凄わよね」

「本当にな」

俺は詮索しない事にした。

だって狛里や天冉とデンジャー協会の間に何があったのか、知るのが恐ろしいんだもん。

物件はおそらくデンジャー協会が所有していたものだろうけれど‥‥。

そんな感じで俺たちは、シドニーに向けて旅立つ事となった。


次の日の夕方にはシドニーに到着していた。

俺が生前暮らしていたシドニーがどんな場所なのかは知らないけれど、とりあえず雰囲気は日本の都会と変わらない。

みたまもおそらく知らないだろうからそうなるのは当然か。

あちこちに書かれている文字は、結構カタカナが多いような気もするけれど、普通に漢字や平仮名も使われている。

バンクーバでは一寸神だったし、急いでいてあまり意識して見ていなかったんだけれど、日本語共通の世界ってこうなるんだな。

ちなみにアルファベットも使われてはいるけれど、この世界では『プログラミング言語の為の文字』という位置づけだ。

それを普通に文章内や人名以外の名前で使う事もあるし、ローマ字入力でも使用する。

プログラミング言語から、普通に使われるようになっているものもあるようだ。

何にしても英語が無い日本って感じの世界だね。

で、早速デンジャー協会が用意してくれた家に着いた訳だけれど‥‥。

「ちょっとでかくね?」

「貴族の屋敷ねぇ~」

「これなら中で鬼ごっこもできるの‥‥」

いやしねぇから。

本気でやったら家が壊れるから。

ちなみにアーニャンは来ていない。

一応警察庁特別顧問なので、日本をずっと離れる訳にはいかないのだ。

尤も少し手伝ってもらうくらいならセーブポイントへ飛んでくれれば良いだけだし、俺たちも別にここで生活するつもりは無いからね。

「お嬢様気分が味わえそうなの‥‥」

「ベッドはフカフカかしらぁ~」

無いよな?

セーブポイントを作る場所が欲しかっただけで、狛里と天冉が一緒に付いてきたのも、旅行気分を味わいたかっただけのはず。

「鍵があったの‥‥」

屋敷の鍵は伝えられていた通り庭全体を囲う柵の門辺りに隠されていて、それを狛里が見つけた。

「とりあえず中に入りましょう~」

天冉は狛里から鍵を渡されると、それで門の鍵を開けた。

辺りはもう暗かったけれど、この辺りと屋敷の入口付近は電灯が点いていたので普通に屋敷には入れた。

俺たちは目が良いから、電灯なんて点いてなくても問題はないけれどね。

屋敷の中は、完璧に整備されていた。

俺が魔改造する必要もほとんどない。

それでも一応セーブポイントを設置する部屋だけは、部外者が入れないように永続の結界を張っておいた。

セーブポイントが使える人だけが入れる部屋ね。

セーブポイントが完成したら、俺は一度アーニャンを呼んでセーブさせておいた。

これでオーストラリアでの活動に問題はないだろう。

「キラキラな電気が付いてるの‥‥」

「私が暮らしていた王族の屋敷よりも豪華だわぁ~」

‥‥。

問題はないはずだ。

浮かれる二人に若干の不安は感じたものの、とりあえず俺たちの任務はスタートしたのだった。


結局俺たちはシドニーで朝を迎えた。

活動準備が整ってからデンジャー協会のお世話係のような人もやってきて、豪華な料理を提供してくれたのだ。

「これは罠だ‥‥」

再びアーニャンも呼んで、夜遅くまで豪華料理を食べまくりのパーティー。

俺たちは一体何をしに来ているのか。

そう思わせる方向に仕向け、仕事をさせる狙いなのかもしれない。

恐るべきテヘペロ会長。

知らんけどw

アーニャンはとりあえず日本に戻り、俺たち三人でまずは探索だ。

空からの探索も考えたけれど、見逃していては意味がない。

地上でじっくり探す必要があると考え、俺たちは手分けして探す事にした。

シドニーからより遠い西の方は俺が担当し、一番近い東側は天冉が探す。

俺は隠密行動魔法とウィンディゴの透明化を使って姿を消した。

そして一気に空へと飛翔する。

この世界で人間の域を超えたレベルを持っている者は多分少ない。

しかしハチ公はその域だ。

隠密行動魔法だけではハチ公にはバレるんだよね。

そこでウィンディゴの透明化も重ねる訳だけれど、これもまた完璧に姿を消せるのではない。

意識阻害系なので、意識されると見破られる可能性はある。

ならば後はできるだけ上空を飛ぶ事で、見つからないようにするしかない。

十キロ以上上空まで行き、俺はオーストラリアの西の端を目指した。

一時間もすると目的エリアに到着する。

俺は近くに人がいない所を選んで降り立った。

荒野のど真ん中。

道も何も無い所。

ここから走って新女王を探す。

但し見つけられなければ見つけられないでも良いと俺は考えている。

新女王が一匹だけなら、半年後には働き蜂を生んで見つけやすくなるだろうし。

そもそも小さな蜂が一匹、見つけるのは困難だよ。

問題はハチ公の存在と、新女王が人間を食らって人間サイズになる場合。

新女王はこれから冬を越す為に活動を停止させるので、俺が注意するべきは生き残ったハチ公が新女王の元に来ている事だけ。

つまり今回の探索は、新女王を見つけるのではなく、生きているかもしれないハチ公最後の一人を見つける事なのだ。

そんな訳で俺は、普通のデンジャーが走れる速度で移動しながら、人間サイズのハチ公に絞って探索を開始した。

まずはできるだけ人のいない所を探す。

人に紛れられると見つけるのは難しい。

何処かに潜んでいる可能性から潰して行く。

それにしても、人どころか虫もあまり飛んでいない。

こんな所に新女王がいるとは思えないな。

ハチ公がオーストラリアに来るとしたら、新女王がいるからなのだ。

荒野を探しても意味は無い気がする。

と言っても西側に森林は少ないんだよね。

もしも見つけるとしたら天冉か。

一応一寸神も付けているし、天冉の方で見つかる可能性は高そうだ。

そんな事を思いながら、俺はひたすらオーストラリアを走るのだった。


新女王探索が始まって三日目の朝。

既に探索を続けているのは俺だけになっていた。

「策也ちゃん‥‥飽きたの‥‥」

「策也ちんが全部パパっとやっちゃってぇ~、それでいなければいないわよぉ~」

そう言って二人は日本に戻ってしまった。

確かに二人が探すのは無駄だと思える。

そもそも狛里と天冉には探索する為のスキルがない。

勘が鋭いから近くにいれば見つけられるとは思うけれど、それだけだと一体どれだけ時間がかかる事やら。

二人とも、もしもの時の被害を防ぎたいとは思っているけれど、探索だと大した力になれないという事も分かっているんだよなぁ。

だったら一寸神や妖凛・冥凛に探してもらった方が良いだろう。

結局俺が一人でなんとかするのが効率が良さそうだ。

とは言え狛里や天冉が嫌がる事を、妖凛や冥凛にやらせるのも忍びないよね。

俺は一寸神を召喚して探索させる事にした。

一寸神なら小さいし、こちらが見つかる可能性も低くなるかな。

ただ小さいなりにデメリットもあるから、これ以上は小さくしない方がいいだろう。

そんな訳で今日からオンリーロンリー。

当然俺もだんだん嫌になってくる訳で‥‥。


昼過ぎには走るのをやめていた。

「見つかる気がしねぇ‥‥」

活動していない新女王蜂なんて、普通見つけられない。

しかも見た事もない個体。

ハチ公がいれば見つけられるかもしれないけれど、生き残っているのかすら不明だ。

生き残って新女王に会いに来ていたとしても、交尾をして多くは死んでゆく。

ハチ公を食って新女王が人間サイズになっていたとしても、既に活動はやめている時期。

対応を考え直す必要があるのではないか?

頭がゴチャゴチャする。

こういう時はおめでたいヤツらに中和してもらった方がいいだろう。

俺はそう考え、とりあえず気晴らしに闇の家に落ちる事にした。

すると直ぐに奴らがやってきた。

少女隊の二人ね。

「ご主人タマ!会いたかったのです!」

「妃子の方が会いたかったのね」

二人はそう言いながら手を取り合って俺の首を狙ってきた。

俺はマトリックス避けで攻撃をかわすと、背後から二人の首を掴んで顔面から地面に叩きつける。

「うげっ!」

「ぐほっ!」

今日も闇の家は平和だなぁ。

「ご主人タマの愛を今日も感じられて良かったのです」

「そうなのね。痛みがとても心地良いのね」

しかしこいつら、本当に大丈夫だろうか。

完全にマゾだな。

二人は鼻から赤いものが流れ出る顔を起こし、満面の笑みを浮かべた。

むしろ怖い。

ちなみに鼻血なんて流すような攻撃はしていない。

というか少女隊に血なんて流れてないし、仮に流れていたとしてもチートレベルに強いからね。

でもわざわざノーガードで攻撃を受けて、流血演出をしているんだよな。

「お前たちが今の攻撃で鼻血を流すとかあり得ないだろ?」

「スキンシップは全力で受け止めるのです」

「そうなのね。演出がないと勿体ないのね」

そういう問題かよ。

まあでも痛みをそこそこにしか感じられない俺たちにとっては、こうやって体に刺激を与え反応が出るのは快感なのかもな。

なんにしても俺たちはいつもの挨拶をして、部屋でお茶する事にした。

ソファーの真ん中に俺が手を広げ座り、両脇に少女隊がピッタリとくっついて座る。

異世界転生した頃の俺は、こんなのを夢見ていた。

何も感じないのは何故だろうか。

少女隊は俺自身でもあるし、こいつらだからね。

「それでご主人タマ、こんな時間からどうしたのです?」

「いつもはこんな時間にこないのね。猫蓮を転ばせてやろうと廊下に滑石を塗っていたらいきなり来るから、ビックリして妃子が転んだのね」

「お前は四条天皇かよ!実は‥‥、カクカクシカジカそういう訳でさ」

少女隊にはこれだけ話せば全て伝わる。

なんせ俺たちは一心同体少女隊なのだから。

「なるほどそんな事になってるのです」

「でもそれなら簡単なのね」

「簡単?」

まさかこいつらから良い提案が聞けたりするのか?

「そうなのです。それなら下僕にしたハチ公に新女王の場所を聞けばいいのです」

「新女王の所に現れたのね。だったら何処にいるのか分かるはずなのね」

‥‥こいつらマジで俺の見落としていた解決方法を言ってのけやがった。

「まさか賢者のご主人タマが気づかなかったとかないのです?」

「まさかあり得ないのね」

「も、もちろんだ。それは既に聞いてみたけれど、どういう訳か分からなかったらしい。下僕になると本能が失われたりするのかもな」

屈辱だ。

こいつらが分かる事に気づけなかったなんて。

一刻も早く戻って確かめたい。

「分かっていたのです。行き詰まった時はゆっくりして美味しいものを食べるのです」

「そうなのね。今日は美味しい料理を作るのね。今から作るので待ってるのね」

「いやそこまでしなくてもいいぞ」

「駄目なのです。ご主人タマに元気になってもらうのです」

「そうなのね。絶対に帰っちゃ駄目なのね」

こんな時に限って張り切りやがって。

いつもなら『これでも食って元気だすのです』とか言いながら『チャオなんとか』って言う猫のおやつを出して来るだろ。

それでいいんだよ。

とは言え二人の親切を無駄にはできず、俺はしっかりと二人の作ったフルコース料理を食べるのだった。


「美味かったよ。じゃあ俺はそろそろ帰るよ」

「分かったのです。早く帰って下僕に新女王の場所を聞き出すのです」

「そうなのね。妃子たちもご主人タマと同じように、嘘はなんとなく分かるのね」

‥‥屈辱だ。

バレていたのかよ。

そりゃそうか。

そもそも少女隊に隠し事なんてできない。

この汚名はいつか返上するぞ。

俺は精一杯の笑顔を残してから、逃げるようにエルドラールへと戻るのだった。

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