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格上との戦い

大自然は、日本人にとっては神。

日本人であるみたまが創ったこのエルドラールでは、大自然が神であっても不思議ではない。

アマゾンという世界最大の自然を核攻撃で破壊した事は、世界の神の力を奪いつつあった。

神は消えそうな命の火をなんとか燃やしつつ、ブラジルのとある町を彷徨(さまよ)っていた。

神を引き継いでくれる強者を探して、ブラジリアン柔術の使い手と片っ端からストリートファイトを繰り返す。

しかしなかなか神を引き継げるような者とは出会えない。

柔術の本場は、実は日本である。

戦後GHQによって柔術は禁止され、日本では受け継がれなくなった。

なんとか残ったのは、スポーツとして生まれ変わった柔道という競技。

それでも今、ブラジルで生き残った柔術が、再び日本へと逆輸入されている。

日本へ行こう。

神は希望を日本に託した。


俺はエルドラールに戻ると、早速アーニャンに電話をする。

『アーニャン。下僕のハチ公に新女王の居所が分からないか聞いてみてくれないか?』

『えっ?』

俺がそう言うと、アーニャンは少し驚いたように声を上げる。

そうだろうそうだろう。

普通は気が付かないよね。

『その件だけど、下僕のハチ公たちには分からなかったって、天冉には伝えてあるわよ』

‥‥。

既に確認済みだったんかーい!

『そうなの?えっと‥‥。一応聞かせてもらってもいいかな?』

『え、うん。どのハチ公も新女王が今何処にいるのかは分からなかったの。核を落とされた頃には、オーストラリアにいる事を認識できていたようなんだけどね。でもその後、気がついたら何処にいるのか分からなくなっていたらしいわ』

『そうなんだ‥‥』

可能性としては色々と考えられる。

新女王が既に死んでいる可能性。

或いはツガイになる時期を過ぎて感じられなくなったか。

既に自分たちがツガイになった事も感じられなくなった理由としては有り得るだろう。

そして新女王がフェロモンを出さなくなった可能性。

その場合、おそらく新女王はハチ公との交尾を済ませている‥‥。

結局この情報を聞いたとしても、やる事に変わりはないか。

ハチ公、或いは新女王を探し出す。

しかし人間サイズとなったハチ公と、小さな新女王でどうやって交尾をするのだろうか。

そう言えば生き残りハチ公の映像が公開された時、イチモツの形が違っていた。

人間と蜂、両方に対応できるようになっていたのかもしれん。

想像したらシュールだな。

これ以上想像するのはやめておこう。

『アレ?ところで下僕のハチ公たちに、もう一人のハチ公の存在は聞いたのか?』

『うん。聞いてるわよ。分からないみたいね』

『となるとだ。どうして下僕のハチ公たちは、アマゾンから割と近いオーストラリアではなく、中国の新女王の所に行ったんだろう?同じ所に行くよりも、違う場所の方が良い気もするし』

俺なら間違いなく誰かと一緒よりも、一人ぼっちの新女王の所に行くよな。

何にしても何かしら理由があると思われる。

『ちょっと聞いてみるね』

アーニャンはそう言って、電話の向こうで下僕を召喚しているようだった。

『僕のターン!下僕を召喚する!』

向こうからそんな声が聞こえてくる。

一体どうやって召喚しているのか気になるな。

『駄目だよそんな事しちゃ。それにしてもどうして裸なの?』

下僕を召喚したら裸らしい。

だったらイチモツの形が気になるな。

やっぱり蜂とも交尾できるようになっているのだろうか。

『だめだよ。僕には心に決めた人がいるから』

ちょっとなんの話だ?

もしかして下僕に口説かれているのか?

『だから駄目だって!落ち着きなさい!』

俺は聞いていてもいいのだろうか。

電話を切るべきか悩む。

『駄目だよ!助けて!』

『おい!大丈夫か?!』

『ふー‥‥。話は聞けたよ』

『えっ?』

何処で話していたのか全く分からないんだけれど?

よくアニメとかで誤解を生むマッサージとかならあるけれど、これだけ違うのは聞いた事もないよ。

『結論から言うと、北半球の中国を選んだのは、これから暖かくなって活動を止めなくていいかららしいわよ。そもそもアマゾンに住んでいたのは、赤道直下で今のキマイラBは年中無休が良いかららしいわ』

年中無休って。

まあ言いたい事は分かるけれどさ。

『つまり、オーストラリアはこれから冬に向かうから、みんな行きたくないと』

『というか、もう冬を越せるかどうかも分からないから、基本的にそんな地域には行かないみたいね』

『そうなんだ』

オーストラリアの新女王も、あくまでそこに放たれたからそこにいただけ。

本来今のキマイラBが生きていくには辛い場所だったのか。

となるとそこで新女王が死んでしまうという可能性もある訳だけれど、まだ寒くて蜂が死んでしまうような季節でもない。

そもそもオーストラリアの冬は、山岳地帯以外だとあまり厳しいものでもないよな。

キマイラBが活動できるほど気温は高く無いにしても、死ぬなんて事は考えられない。

ハチ公と合流してもしもまだ生存しているとすれば、オーストラリアじゃ北側地域。

もしも北側にいるなら、カナダや中国のように働き蜂やハチ公が町を襲う可能性もあるのではないだろうか。

しかしそういう情報は今のところ伝わってきていない。

オーストラリアで人が襲われているのに、情報が出てこないなんて可能性は低いよな。

結局情報を得れば得るほど、静かな今が理解できなくなる。

全ての情報を総合して考えれば、ハチ公は存在していて新女王とツガイになっているけれど、結局活動をやめている可能性が一番高い。

なのに嫌な予感は払拭しきれないよ。

何かを見落としているのではないだろうか。

冬を越せるかどうかも分からないなら、当然暖かい地域に移動する。

移動すれば活動するはずだ。

活動していても情報が出てきていない?

それはオーストラリアから出ている可能性を示唆しているのではないか。

ハチ公は中国にまでやってこられるほど飛べるのだ。

オーストラリアから出ていない方がおかしいのかもしれない。

『ありがとう。引き続き探してみるよ』

『うん』

俺はそう言って電話を切った。

とにかく新女王は生きていて、ハチ公とはツガイになっている。

俺はとりあえず、探索をオーストラリア北側に絞って続けるのだった。


一週間が過ぎ、俺なりにオーストラリア内はだいたい探し終えていた。

結局妖凛や冥凛まで動員したけれど、その痕跡すら見つかっていない。

『おい、お前たちも手伝えよ』

『いやよぉ~。世界中探すなんて無謀よねぇ~』

オーストラリアで見つからなければ、次は存在し得る所全てを探す必要が出てくる。

元々これ以上探すのは無駄にも思えるけれど、とにかく嫌な予感がする俺は探す必要があると感じていた。

ならば旅は道連れと思い嫁隊をテレパスで誘ってはみても、当然のように色よい返事が返ってくる訳もなく。

『そうなの‥‥。それにこっちも忙しいの‥‥』

しかもこいつら何処で何をやっているのやら。

家には帰ってこないし、一週間会ってないぞ。

テレパスで聞いても『しばらく戻らないの‥‥』ってそれだけだし。

『何が忙しいんだ?女手の仕事が一番だろ?』

『テヘペロちんを手伝っているのよぉ~』

なんでここでテヘペロ会長が出てくるんだ?

『そうなの‥‥。放射能は危険なの‥‥』

場所はどうやらアマゾン跡地だな。

つか前に聞いた時は教えてくれなかったのに、今日はアッサリと教えるのかよ。

そういえば元々、テヘペロが忙しいから俺はこんな面倒な事をしているのだ。

あっちはよっぽど金を積まれているんだろうなぁ。

『それで、具体的に何をしているんだ?』

『アマゾン跡地の探索よぉ~。あの核攻撃の時に、何かとてつもないエネルギーの爆発を探知したらしいわぁ~』

『エネルギーの爆発?』

『核攻撃で何かが壊れたようなぁ~。それが何かを探しているのよぉ~』

核攻撃なんかして、そもそもろくな事はない。

世界の何かが狂っていたとしても不思議じゃないよな。

『虫探しよりも宝探しの方が楽しいの‥‥』

『ヘイヘイさいですか』

どうせ向こうはメンバー集めてピクニック気分なんだろうなぁ。

こっちはただ黙々と毎日走るだけ。

なんだか急にやる気が失くなってきたぞ。

元々やる気なんて皆無なんだけどさ。

だけれどおそらく、俺が放置するとこの世界はヤバい事になる。

そんな予感が結局俺を動かすのだった。


オーストラリア探索に見切りをつけ、俺は別の国へ向かう事にした。

目指すはパプアニューギニア。

理由は、オーストラリアからも赤道にも近いから。

俺が蜂の立場なら、この国で潜む事を考えるだろう。

キマイラBが色々と考えて場所を選ぶとも思えないけれど、あらゆる面で今の状況ならこの国を選ぶのではないかと思えた。

オーストラリアの豪邸からひとっ飛びして、俺はパプアニューギニアに入った。

近くじゃないと拠点も再び必要になる。

つか面倒だなぁ。

この国で見つからなければ、また拠点から用意する必要があるだろう。

海を渡る為に空を飛んで誰かに見つかるリスクはあるのだから、既にその必要生は否定できない。

ハチ公や新女王に見つかっている可能性だってある訳で。

先に向こうがこちらを見つけた場合、奴らはどういう行動を取ると考えられるのか。

向かってきてくれれば助かるけれど、逃げる可能性も考えられる。

俺は妖凛や冥凛と分裂してから、慎重にパプアニューギニアのジャングルを走り出した。

この国には確か、文明から隔離された民族が多く住んでいる可能性が高い。

そういう部族の集落が襲われていても、おそらく直ぐにニュースにはならないだろう。

或いはずっと表に出て来る事が無い可能性だってある。

今更だけれど、やっぱりこの国が一番怪しく思えてきた。

間もなく見つけられるのではないか。

俺はなんとなくそう感じていた。


数時間走った所で、俺は一つの集落へとたどり着いていた。

一見アルカディアのオーガ集落のような、しかし衛生環境もへったくれもなく、ファンタジー世界よりもリアルに原始的な生活をしているように見える。

文明的な生活全てが良いとは思わないけれど、ここで暮らす人たちは本当に幸せを感じて生きているのかと疑問に思わずにはいられない。

コッソリと遠くから様子を伺っても、幸せの欠片も伝わって来ないから。

人々の表情が暗すぎる。

こんなだったら生きていても同じではないか。

俺がそう感じた時、笑顔の幼女が二人歩いてくるのが見えた。

へぇー‥‥。

子供が笑顔ならそれはそれでいいのだろう。

なんて一瞬思ったりもしたけれど、この集落にこの幼女二人はあまりに似つかわしくなかった。

まず服装が違う。

申し訳程度にただ要所を隠しているだけの民族衣装とは違い、明らかに文明社会側のオベベを着ている。

そしてどういう訳か、集落の人々はその二人を恐れているようだった。

まだかなり離れた所から見ている訳だけれど、俺の耳はデビルイヤーよ。

話している事は聞き取れるのだ。

「食料はそんなに必要じゃないでちゅよ。もっと普通に人間が使う物を集めてほしいのでちゅ」

「そうは言っても、我々は外界の事が何も分からないのです」

「分からないなら行って勉強すればいいでちゅわ」

完全に立場は二人の幼女が上か。

つかなんちゅう話し方をする二人だ。

まるで自分たちは赤ん坊だと云わんばかりだな。

そして明らかに何かがおかしいと感じる。

あの二人がこの集落にやってきて、力で人々を従わせているような。

力があるようには見えないけれど。

とは言え俺がここで口出しするのも違うし、見なかった事にして次に行くか。

困っている人がいるなら助けたい所だけれど、これがこの部族のやり方なのかもしれない。

俺はそう思って立ち去ろうとした。

すると幼女二人の目が俺の方に向いているのに気がついた。

まさかこの距離で気づかれたか。

森の中から集落の幼女までは百メートル以上離れている。

普通気づかれる距離ではないよな。

尤も野生の中で生きてる人間なら、気づく者がいて当然なのかも知れないけれど。

そんな事を考えている間に、幼女二人は一瞬でこちらまでやってくる。

そして有無を言わさず攻撃してきた。

「なんですとー!」

何故俺がいきなり攻撃されている?

ひっそりと暮らす部族の領域に踏み込めば、そりゃ外敵とみなされる可能性はある。

だけれど襲ってきたのは幼女だよ?

幼女にだけは敵視されない自信があったのに。

と、よく分からない自信の話をしている場合じゃない。

どうする?

反撃するか?

適当にいなして制圧できれば良いけれど、この子たちはそんなレベルじゃない。

天冉が荒魂を使って倒した新女王にも匹敵する力を持っている。

この世界は一体どうなっているんだ?

最初に来た時は全体的にレベルが低いと感じていたけれど、キマイラBの出現から何かが変わってきているのか。

キマイラB?

まさかこの子たち、キマイラBと関係が‥‥。

しかしハチ公に見られた触覚や翅はこの子たちには無い。

何にしても倒さないとこちらが殺られる可能性もゼロとは思えない強さだ。

この世界には俺らレベルの神であっても油断できない所がある。

普通の魔法じゃないからな。

倒してしまわなければ‥‥。

くっそ、幼女を殺すとか俺にはハードルが高いぜ。

幸い変な能力での攻撃は仕掛けてこない。

逃げる事はできそうだけれど、そもそも何故襲ってくるんだ?

「おいっ!俺は何故攻撃されなければならないんだ?!」

俺は幼女たちに声を掛けてみた。

しかしその声は二人には届かない。

なんというか、殺気も感じないし本能が俺を襲わせているような。

何にしてもこの子たちを放置するのも危険だ。

俺のようにここに紛れ込む者がいれば、皆殺されるだろう。

魂さえ確保しておけば蘇生もできるし、俺の人形にすれば殺した事にはならないか。

リセットワールドが俺の世界だと言うなら、おそらく素材は集められる。

これだけ自然に敵対してくる者を仲間にできるのかは不安もあるけれど、愛の小石もあるからなんとかなるはずだよね。

俺は二人の幼女に攻撃を仕掛けた。

殴る蹴るでは普通に防がれる。

全力でやらないと倒せないレベルか。

つまり魔力レベルは四百を超えているのだろう。

神の域じゃないか。

一瞬この世界の神である可能性も頭に浮かんだけれど、どう見ても女の子だし、俺の攻撃が通っている時点でそれはない。

それに神なら会えばすぐに分かるしね。

おそらくだけれど。

世界によって(ことわり)は違うからさ。

何事も断言はできないのだよ。

仕方ない。

一撃で屠ってやるか。

俺は絶対領域を展開し、『微レ存』を発動した。

「微レ存!」

この魔法は敵の周りを魔素(マナ)で満たし、体内に俺のオリハルコン弾を撃ち込んで爆発させるものだ。

内に魔力を持たないこの世界の者になら、効果は絶大ではないだろうか。

そう考えたのだけれど、逆に身体をより強固な物にして爆発に耐えようとする。

魔力を持たないこの世界では、むしろマナが周りにある方が身体強化をしやすくするのか。

それでも俺の全力魔法だ。

二人の幼女の体は木っ端微塵に吹き飛び、魂は簡単に回収する事ができた。

「幼女二人の魂、ゲットだぜ!」

自分で言っていてなんだけれど、ちょっとヤバい台詞だな。

まあ何にしても、なんとか二人を倒して魂は確保できた。

さて、ならば集落に行ってどういう事情なのか話を聞いてみるか。

俺を襲う必要が無ければ、そのまま蘇生させても良い訳だし。

でも集落の者たちも、二人の幼女を疎ましく思っていたようなんだよな。

何にしても聞くしか‥‥。

俺がそう思って一歩踏み出した時、それは起こった。

この俺でも反応できないスピードで、何かが攻撃してきたのだ。

そして俺の首は、綺麗に斬り落とされていた。

何なんだ一体?

俺が攻撃に反応できないなんて。

殺気も感じなかったぞ。

そう言えばさっきの幼女たちからも、殺気なんてものは感じなかった。

一体何がどうなっているんだよ。

俺は全思考をフル回転させて状況を把握する。

俺の後方に女性が一人。

今正に俺の体の一部、オリハルコンとなった物を食おうとしている。

駄目だ!食わせては!

そう思った俺は、瞬時にそれを瞬間移動でこちらに飛ばした。

早く体を戻してしまわないとマズイ。

というかアイツ、俺よりも魔力レベルが上に感じられる。

妖凛と冥凛がいない状況じゃ対処しきれない。

俺は直ぐに二人に戻るようテレパスを入れた。

俺を攻撃し食おうとした金髪の女の子が俺に向かってくる。

タイムストップも当然効かない。

試している場合じゃなかった。

俺は再び攻撃を受けようとしていた。

しかし蘇生が間に合っていない俺の体を、妖凛と冥凛が瞬時に退避させてくれた。

そして合体する。

完全に蘇生された訳じゃないけれど、最低限動けるようになった。

それにしても、こいつが魂をなんとかできる能力を持っていたら、俺は死んでいたな。

マジで油断大敵だぜ。

こんなに強い奴がエルドラールにはいるのか。

いや、おそらくこいつは新女王だろう。

天冉が倒した奴は、ハチ公を食ってかなり強くなっていた。

ただまだ食ったばかりで、完全体にはなっていないようだった。

一方こいつはおそらく、食ってから相当の時間が経っている。

新女王としての完成形に至ったに違いない。

触覚も翅も無いけれど、無駄だと判断したのだろう。

さっきの幼女二人は、もしかしたらこいつの子供なのか。

何にしても本気で倒さなければ殺られる。

幸い俺よりレベルが上でも、魔力の扱いはエルドラールの理の中だ。

今なら倒せる。

金髪の女の子から逃げ回りながら、俺の体は元の姿へと戻った。

オリハルコン状態のままだと危険を感じる相手なんて始めてだぞ。

欠片でも食われたら、マジで嫌な予感しかしないからな。

手を抜いていたら俺が殺られる相手。

最初から全力で攻撃させてもらうぞ。

「ロイガーツアール!」

俺は最強の魔法を放った。

女の子はかわそうとするけれど、今のロイガーツアールはオリジナルとは違う『適当』ロイガーツアール改。

レッドブルーライトニングが合わさっているのだ。

雷が避雷針に向けて落ちるように、魔法は確実に女の子を捉えた。

「うがぁっ!」

いくらレベルが高くても、魔力を体内に貯められないこの世界の者じゃこの魔法は防ぎきれないはずだ。

女の子の体は魔法によって斬り刻まれる。

「よし!」

しかし同時に体の再生も始まっていた。

なんですとー!

修復能力がべらぼうに早い。

なんだこの生命力は。

この魔法で倒せなければ、俺に勝ち目はないんじゃないか?

魂を斬る血塗られた剣もエルドラールじゃ通用しないだろうし、魂まで食い尽くすしか勝ち目が見えない。

とは言え食い合いとなるとこちらが不利だろう。

相手は俺の体の一部を食うだけで、俺以上に強くなる可能性が高い。

一方俺は魂まで食い尽くさないと敵を再起不能にはできないのだ。

倒せるのは狛里しかいないか。

駄目だ。

狛里なら倒せるだろうけれど、この世界まで消滅しかねない。

どうしてこういう新女王が生まれていると想像できなかったんだろう。

ぶっちゃけ俺は無敵だと油断していた。

一旦逃げるしかないか。

この相手なら『敗走』が通用するはずだ。

逃げてどうなる?

おそらくだけれど、こいつが本気になれば世界は滅ぶぞ。

そんな事をすれば自分まで滅ぶからやらないだろうけれど、人類の半分くらいは殺してしまうかもしれない。

なんとかこいつの力を封じられないだろうか。

「あっ‥‥」

そう言えばさっきの幼女たち。

あれがこいつの子供たちだとするなら‥‥。

彼女たちは絶対領域で体が強化された。

つまりその逆なら、きっと能力が落ちる。

俺は戦いの中で距離を取り、そして魔法を発動した。

天照大神(かみ)の領域!からのー!最強神天照降臨(かわいいはせいぎ)!」

女の子の周りに、マナの無い領域が生まれた。

そして天照大神が降臨し女の子を押し潰す。

効いている!

しかし天照大神の力が弱い?

アルカディアじゃないから、加護が届かないのか?

せっかく倒せそうなのに、この世界の理に阻まれそうだ。

いや、ならばこの世界でも通用する魔法を重ねればいいじゃないか。

俺は追加で魔法を放つ。

「業火の咆哮ハウリング!」

この魔法は恵美が使えるかずみの最大級攻撃魔法。

猛る業火がハウリングするように強化を繰り返し敵を焼き尽くす。

しかも俺のは天照大神の領域によってエリアを限定しているので威力は何倍にもなるんだよね。

相性良すぎ。

流石のキマイラBらしき女の子も、この魔法には耐えられないといった感じだった。

とは言え魔力レベルでは俺よりも上、なかなか倒しきれない。

相手の再生能力を大幅に減らせても、本来持つポテンシャルは俺以上なのだ。

蘇生能力は俺たちで言う所の『念力』が物を言う。

それに天照大神の領域内だと、マナからの魔力供給がこちらも遮断されて完璧な効果を発揮できていない。

この中で食い合いをすれば、俺が勝てる可能性はかなり高い。

アイツだって食って直ぐに強くなる訳じゃないだろう。

とは言え勝率にして七割程度か。

絶対とは言えない賭けに命は賭けられない。

何か手はないか。

そうだ。

業火の咆哮ハウリングを使うなら、わざわざ天照大神の領域を展開する必要はないんじゃないか。

相手とマナの奪いあいにはなるけれど、今の俺なら勝てる。

俺は領域をただの結界へと変化させて、マナを魔法へと集めた。

攻撃は熾烈を極め、敵の再生力を圧倒する。

殺ったか?

そう思った時、彼女は結界を破って俺の前へと近づいてきた。

攻撃は完璧だったけれど、結界が破られては意味がない。

もう一度やり直しか。

今度はテリトリーも展開して万全を期す。

しかしその前に、近づいてきたこいつから離れないと。

現状を考えると、この距離は完全に相手の間合い。

俺は既にいくつも魔法を発動した状態で、切り替えるのに時間がかかる。

まずはなんとか逃げないと殺られるぞ。

瞬時にいくつもの思考が、今は最悪の事態だと判断していた。

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