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キマイラB

第二次世界大戦の最中、日本がサイパンを落とされた後東条内閣は総辞職した。

戦争中でも、民主主義はしっかりと機能していたのである。

それはつまり、大日本帝国が軍事独裁政権ではなかったという証拠。

確かにあの頃日本の政治は混乱していたけれど、軍事独裁政権との批判は全く当たらないのだよ。


朝起きると、既にみんなはリビングでテレビを見ていた。

報道番組を見るなんて、狛里にはあるまじき行為だ。

賢く世界の情勢に詳しい萌えない狛里なんて、誰も見たくはないんだよ!

と、心の中で思っていると、狛里がテレビを指差していた。

「おはようなの‥‥。テレビを見るの‥‥」

しかも『テレビを見ろ』と勧めるなんて、今日は槍でも降るのかもしれない。

なんて冗談を思いながらテレビを見ると、そこには見覚えのある風景が映し出されていた。

『これがアメリカで発生していた蜂の大群です。既に駆除は終わっているようですが、注意喚起の為に映像を公開したようですね』

『この蜂に関しては、ずっと世界中で秘密裏に扱われてきました。しかしそうは言っていられない状況になったのです』

『そうは言っていられない状況?』

『はい。この蜂はキマイラ(ビー)と言って、実は三百年ほど前に危険と言う理由で絶滅させたはずでした。しかし最近、アマゾンの奥で見つかったのです』

『そうなんですか』

『この蜂は日本のスズメバチに似ていますが、普段はおとなしいただの肉食蜂です。しかし危害を加えようとするものが現れれば、全力でそのものを食う習性があるんですよ。そして危害を加えようとしてきた種に対抗する為、食ったものの力を吸収し姿を変えていく特性があるんです』

『なんと!それでキマイラですか』

『何もしなければ問題はないのですが、当然蜂ですから警戒して駆除しようとする人が現れます。だから先に、世界が協力して秘密裏に確実に駆除する事になったのです』

『なるほど』

『しかし情報が漏れ、色々な者がアマゾンの奥に入り問題を起こしました。某独裁国家の工作員は持ち帰り、新女王を世界中の国で放ったのです。つまり生物テロですね』

『それは恐ろしい』

『ただ幸い、どこの国も素早く駆除しましたし、この時期なら大きな問題にはなりません。ヤバいオスは生まれない時期でしたから』

『それは良かったです』

『それでも見逃せば九月頃にはヤバいのが生まれてきますから、それまでに確実に駆除してもらえるよう、こうして映像を公開した訳です』

『スズメバチとの違いは、刺してくる針が無い事と、顎の牙が少し大きく強力な所です。もし見かけた方は、直ぐに警察に届け出てください』

おいおい、つまり俺たちが先日駆除したのは、某独裁国家の工作員が放ったキマイラBの女王が働き蜂を増やしたものだった訳か。

全く、本当の独裁国家ってのは手段を選ばないからな。

国際法なんて端っから守る気がないよ。

まあ日本は守りすぎて戦争に負けちゃった訳だけれど‥‥。

「この情報も(おおやけ)になっちゃったわね。テレビでこれだけ放送されればもう機密でも何でもないから話すけど、実は警察でも今国内中を探している所なのよ」

「えっ?」

「そうなのぉ~?この蜂なら先日完全に駆除したわよぉ~」

「そうなの?」

「そうなの‥‥」

‥‥。

いつの間にか、俺たちは日本を救っていたようだ。

尤もアレだけの蜂だから、直ぐに警察も見つけていたとは思うけれどね。

そしてアーニャンなら、きっと問題なく駆除できたはずだ。

「これがその蜂だ」

俺はそう言って異次元収納から袋を取り出して見せた。

「うわー。気持ち悪いー。でも間違いなくこの蜂だわ。女王蜂もいるわねぇ」

「コレ、いるか?」

「そうねー‥‥。それじゃコレを持って僕は警察に届けてくるわ。ありがとう。報酬はまた適当に口座に振り込みさせるから」

「いや別に‥‥」

いらないと言おうかと思ったけれど、断ってもどうせ振り込まれるのでやめておいた。

「だけどぉ~、もう日本にこの蜂がいなくなった訳じゃないのよねぇ~?」

「まだいるなら‥‥駆除を手伝うの‥‥」

「んー‥‥。多分大丈夫だと思う。そんなに数用意できる蜂じゃないし、主要敵国に一匹ずつ放った可能性が高そうなの。それにもしもいるとしても、これから益々数が増えてくるから、見つからない事は多分ないわ」

俺の中の妖凛が声をかけてきた。

何々?わたしの歌、じゃなくて記憶を聞け?

マクロ‥‥。

俺が寝ている間の記憶か。

テレビで垂れ流しになっていた放送から、各国一度駆除すればその後は見つかっていない事が分かった。

「分かった。万一見つかったら駆除は手伝うよ」

「うん。その時はよろしくね。じゃあ僕はコレを持ってちょっと警察に行ってくる」

「おう!」

「言ってらっしゃいなの‥‥」

そんな訳でアーニャンは、キマイラBの死骸が入った袋を持って萬屋を出ていった。

とにかく良かったな。

おそらくコレがあの漫画で言う所の『アリとの対決ストーリー』だ。

大きな問題になる前に終わらせる事ができれば、テヘペロ会長も死なないしゴルゴも魔力を失う事はないだろう。

しかし何かが引っかかる。

俺はどこか見落としているような‥‥。

「あっ‥‥。アマゾンの蜂は駆除されていない?」

再びテレビに目をやる。

すると丁度そこに言及する所だった。

『それでアマゾンで見つかったキマイラBはどうなったのですか?』

『新女王は捕まえられ各国にばらまかれています。しかし女王蜂はまだ見つかっていません。そして、禁止区域に無断で入った者たちの中に、肉をかじられている者がいるようです』

『そうするとどうなるのですか?』

『つまりこれからキマイラBは、人間のような姿に変わり、人間を襲ってくる可能性がある訳です』

やはりそうか。

おそらくこれは、もう止める事ができない。

何故ならこの世界のストーリーとして最初から決まっているんだ。

世界を創るのは神に与えられた力、或いは責務なのだろう。

だけれど、創った世界で暮らす人々はそれに巻き込まれる。

神はあまり世界に干渉し創らない方がいいのかもしれないな。

『ちなみに何かを食べて姿を変えるのは女王蜂と、生まれてくる八匹の雄蜂だけで、働き蜂は姿を変えません。文献の記述には八匹の雄蜂の事を『ハチ公』と記されており、皆にそう呼ばれ恐れられていたともあります』

『もしかしてハチ公が‥‥』

『アマゾンの奥では、既に生まれている可能性があるでしょう』

テレビのスタジオは少し騒がしくなっていた。

それでもアマゾンの話だし、仮にアマゾンから出てくるにしてもデンジャーのいる世界では大丈夫だと考えているのだろう。

深刻さはまるでない。

しかし元々虫だった者の能力はおそらく高い。

ゴキブリが人間サイズなら新幹線並みのスピードで走る訳だからな。

人間の能力(おおきさ)を手に入れた蜂は、一体どれくらいの速さで飛ぶのか。

顎の力はワニやカバを超えてくるはずだ。

そしてそんな奴らが魔法を覚えたら‥‥。

今アマゾンの奥に行こうなんて思うヤツは、よっぽど自分に自信があるかバカのどちらかに違いない。

完全に人が入るのを止めて、最高レベルのチームを作って討伐に行くか。

或いは恒久的に立ち入りを禁止にするか。

最も確実な方法は、デンジャー協会が実質管理している核ミサイルを数発撃ち込んで抹殺する。

『現在各国から選りすぐりのデンジャーがチームを組んで討伐に向かっているそうですね?』

『ええ。軍のデンジャー部隊がアマゾンに入っていると聞きます』

「えっ?」

「もしかして恵美ちんが行ってるのぉ~?」

「恵美ちゃんは強いの‥‥」

恵美がいくら強くなったとは言え、ようやく並みの武闘派デンジャーを倒せるようになったくらいだ。

まだキマイラBのハチ公や女王の強さは分からないけれど、おそらく人間レベルは超えてくると思える。

ならば恵美に勝ち目はあるのだろうか。

一対一ならともかく、複数でこられたらまず殺られるだろう。

「マズイかもしれないな。直ぐに止めた方が良いかもしれない」

『軍のデンジャー部隊なら安心ですね?』

『さてどうでしょうか‥‥。正直言いますと、今は誰もアマゾンに入れない事が重要だと考えます。もしも強い者たちが食われでもしたら、正直並のデンジャーでは太刀打ちできなくなりますよ』

少し騒いでいたスタジオが静まりかえった。

一般人も少し現状を飲み込めたか。

メディアで不安を煽るのは良くないけれど、これは事実。

「助けにいくの‥‥」

「そうしたい所だけれど、ちょっと遠すぎる。今から行っても間に合わない可能性が高い」

この世界の地図は見た。

おおよそ地球と同じような感じには見える。

だけれど星の大きさや描き方に何処か違和感を覚えるんだよな。

単純にその辺り無視して考えれば、おそらくアマゾンまでは全力で飛んで十時間くらい。

それも俺と狛里以外には無理だろう。

そこから探すと言っても、アマゾンの広さは五百五十万平方キロメートル。

魔力を感じられないこの世界では、恵美本人を見つけ出すしかない。

情報無しだと最悪見つけるまでに一ヶ月はかかる。

探索魔法が機能すれば、もっと早く見つけられるだろうけれどどうなるか。

奥地に限定してキマイラBを探せば一週間もあれば見つけられると思うけれど、それでも遅い。

仮に先にキマイラBと遭遇できたとして、最も重要な問題が勝てるかだ。

狛里は世界のバグだから、そう簡単には負けない。

だけれど相手もバグに近い所があるのではないか?

あの漫画と同じなら核で倒せる。

そしたら敵にはなり得ないけれど‥‥。

どちらにしても、デンジャーを集めて倒すなら最高のメンバーを揃えた方がいい。

各国デンジャー部隊は強いのかもしれないけれど、日本の自衛隊は恵美が副隊長になれるくらいだ。

プロのデンジャーを集めればもっと強い討伐隊が組める。

今一度考え直す必要があるだろう。

「とにかく情報が足りないわねぇ~。まずは情報収集が必要だわぁ~」

「その通りだ。しかし俺たちの情報源は恵美とアーニャンに限られる。近衛晋堂総理から電話が有った時の番号は分かるけれど、直接電話する訳にもいかんよな」

「普通に恵美ちゃんに聞けばいいの‥‥」

「‥‥!なるほど」

電話に出られるかどうかは分からないけれど、本人に直接この作戦をやめるよう提言させればいいじゃないか。

問題は、作戦行動中に携帯に出られるのか。

或いは戦闘中だったらそれが隙になって殺られる事もある。

どうするべきか。

「あ、恵美ちゃんなの?‥‥。今何処なの?‥‥」

ズコッとなー!

狛里は既に電話をしていた。

どうしようか悩んでいた俺は一体‥‥。

電話から漏れる音が聞こえる。

『今は任務中だし。話せないし』

「蜂の駆除にアマゾンに行ってるの‥‥」

『なんで知ってるし!』

「テレビで言ってたの‥‥。危険だから帰ってきた方がいいの‥‥」

『そういう訳にはいかないし。もしかしてエイプリールフール?それに実行部隊は既にアマゾンに入ってるし』

「嘘じゃないの‥‥。恵美ちゃんは行ってないの?‥‥」

『私は副幕僚長だし。情報を集めて‥‥。ん?テレビで放送されていた?‥‥なるほど‥‥。それなら一度作戦は取りやめた方が良さそうだし。今友達からも撤退を勧められていたし』

どうやら恵美はアマゾンには入っていないようだな。

それは一安心だけれど、デンジャー部隊は既にアマゾンで作戦行動中か。

無事に戻れればいいけれど‥‥。

『今、テレビの情報が入ったし。それでこれから一旦撤退するよう作戦本部に上げてくるし』

「そう‥‥なら良かったの‥‥」

狛里はそう言っていきなり電話を切った。

電話を切る前には何か言おうな。

まあ狛里らしいけれどさ。

「撤退するみたいなの‥‥。これで安心なの‥‥」

「そうだな」

しかしこれで全て問題が解決したとはいえない。

ここからプロのデンジャーたちが組織され、蜂の討伐が始まるのだ。

今ならまだ大きな被害なく終わらせる事もできるだろうけれどね。

この時の俺はひとまず最悪は避けられたと思っていた。


数日後の早朝、俺がまだ眠っている時間に恵美から電話が入った。

「作戦は止められなかったし!それで仲間が‥‥、自衛隊デンジャー部隊も、他の国のデンジャー部隊も、ほとんどが壊滅してしまったし!」

恵美の声は涙まじりだった。

まさかそのまま討伐作戦が続けられたのか。

そして結果は各国デンジャー部隊の敗北。

壊滅って事は、おそらく食われた奴もいるだろう。

デンジャーが食われたとなると、敵は益々厄介な強さを手に入れた事になる。

結局このエルドラールでは、決められた未来は変わらないのか。

それを決めたのはみたま。

もしかして俺は、みたまの為にこの世界を救う事が使命なのかもしれない。

「とにかく恵美は、日本に戻ってこい。後はきっと戦闘を得意とする上位デンジャーの役割だよ」

俺たち以外に何人が蜂と戦えるのだろうか。

話を聞いた中では、女王蜂が一番強い可能性が高い。

まず女王が人間を食えば、その分力を吸収し強くなる。

そしてそこから生まれるハチ公もだ。

更にハチ公も人間を食べれば女王と同じように強くなる。

良い食べ物は女王が優先して食べるようだから、普通に考えれば一番強くなるのだろう。

それに太刀打ちできるのは、俺たちだけかもしれない。

もう核でも倒せない可能性がある。

「私は見たし。自衛隊のデンジャー部隊は強かったし。多分こいつらには策也たちしか勝てないし」

「見た?」

映像を撮影していたのだろうか。

「ハチ公の内の一匹だけはなんとか仕留められたし。それをアメリカのデンジャー部隊の一人が、なんとか持ち帰ったし」

一匹は仕留められたのか。

と言っても討伐部隊全員で一匹。

そしてこれから更に強くなれば、プロが集まっても勝てるかどうか微妙なラインだな。

「そのハチ公。映像はあるか?」

「写真、送るし」

「ああ。パソコンの方にメールで頼む」

俺がそう言うと、直ぐにメールが送られてきた。

「これは、化け物悪魔って感じだな」

あの漫画に出てきたような、一見人間らしい姿とは言えない。

いや、ヒューマンだけれど話が通じるような相手には見えなかった。

見た目で判断できる。

こいつらと話し合いや情に訴える事は不可能だろう。

「策也はどう見るし?」

「恵美はこいつらの相手はするなよ。おそらく俺たちクラスじゃないと殺されるだけだ」

そんなクラスの奴、俺たち以外に何人いるだろうか。

ゴルゴはおそらくハチ公の一人を殺れるくらいにはなるだろう。

キルリアも仲間とやってくれるはずだ。

モブエロやタピオカ、或いはゲジの者たちも本気でやれば太刀打ちできると信じたい。

後はゴルゴの家族や、テヘペロ会長。

そしてキルリアの父親であるウォッカ。

‥‥。

希望的観測をすれば、なんとかなりそうだ。

「やっぱりそうだし」

「とにかくまずは、誰もアマゾンには近づかないようにしないとな。そしてじっくり最高のデンジャーを集めて戦うしかない」

「分かったし。私は自衛隊から政府にそうなるよう働きかけるし」

まったく、まだ未成年の恵美に背負わせるもんじゃないよな。

確かに恵美は一流のデンジャーにはなった。

だけれどまだまだ子供なんだ。

俺が強くしてしまったのがいけなかったのだろうか。

でもここまで強くなったから、自衛隊デンジャー部隊の隊員ではなく副幕僚長になれたのだ。

中途半端に強かったなら、今頃死んでいた可能性もある。

俺は自分のやった事をなんとか正当化して、今後どうすれば良いのかを考えていた。


朝食の後、俺たちはリビングで話し合いをしてた。

人数は少ないけれど、四阿(あずまや)会議を思い出すよ。

あの頃は毎日のように問題があって、本当に大変だったよなぁ。

それを思えば、今はきっとそれほど大した事じゃない。

「おそらくプロのデンジャーにも依頼が来るだろう。そしたら俺たちの所にも声がかかる可能性は高い」

「今すぐ行ってぶっ飛ばせばいいの‥‥」

「狛里、それは無理よ。この世界でルールを守らないと世界を敵に回しちゃうわよ」

狛里なら世界を敵にしても大丈夫そうだけれど、そうなったらこの世界自体消えて失くなるだろう。

それは絶対に避けなければならない。

そして今回の件で最も懸念するのは、女王が狛里クラスだった場合だ。

そしたらもう完全にお手上げだし、この場合もまた世界は間違いなく消滅する。

だからその場合の事は考える必要もない。

そうなったら後は、とりあえず俺ワールドに避難するだけだ。

ここにいる四人だけしか助からないけどね。

「とにかくぅ~、現実的な対応を考えましょう~」

「そうだな。俺たちに声がかからなければ、こちらから志願してでも討伐隊に加えてもらうしかない。できれば俺たち‥‥」

俺はアーニャンを見た。

アーニャンは転生者だけあって確かに強い。

レベル的には天冉と同レベルかそれ以上だ。

しかし一霊四魂の荒魂が使える天冉と比べると大きく見劣りするのは否めない。

アグネスくんとの戦闘を見ても、どうしても戦闘タイプじゃないんだよな。

ウインバリアでは一応勇者をやっていたから、剣技や攻撃魔法も使えるっちゃ使えるんだけれど、所詮は魔王を倒す事ができる程度。

規格外ではないのだ。

この戦いにアーニャンは参加するつもりなのだろうか。

警察は日本国内の問題に対処するだけで、海外に出る事はないと思われるけれど‥‥。

「僕がどうするのか気になるのかしら?」

「ああ。悪いがアーニャンは戦闘タイプじゃないよな。だったらこの戦いには参加しない方がいいだろう」

「確かに僕は戦闘タイプではないわね。だけど、今まで見せてきたものが全てでもないわよ。そもそも僕は人間としては規格外だし、パワーとスピードには自信があるの。おそらく力になれると思うわ」

つまり参加するって事か。

「ならばこの四人で討伐隊に参加する方向で考えよう。できればみんな一緒に、相手を各個撃破していく方向で考えたい」

実はもう一つ、大きな問題となり得る可能性がある。

それはハチ公の中の誰かが、神になってしまう可能性だ。

現在この世界に神は存在すると思われる。

しかしそれは俺が討伐しなければならない神ではない。

討伐対象はこれから生まれるのだ。

ならば今の神がハチ公の誰かに殺られて神の座が入れ替わる可能性は十分にある。

そうなると俺たちじゃお手上げだ。

天冉にみたまが憑依している事から、おそらく狛里も含めてダメージすら与えられない可能性が高い。

アーニャンはダメージを与えられても、倒す事は不可能。

もしもこのタイミングで討伐対象の神が現れたら、世界はかなり厳しい状況に陥るだろうな。

「分かれていてもぉ~、直ぐに集まれるわよぉ~。分担して探す手もあるわねぇ~」

「探すのは分担して、倒すのは全員で。それで良いと思うわ。ただ、討伐隊はきっと他にも大勢いるし、おそらくアメリカのデンジャーが作戦を決めるんじゃないかしら?」

「となると思い通りにはやれない可能性もあるか‥‥。とりあえずみんなの影には一寸神を沈めておく。最悪の場合は一寸神を盾にして逃げる準備はしておこう」

正直仕切るのって俺は好きじゃない所もある。

国取りゲームでも君主役をするより、一武将役をする方が好きだった。

だけれど確実に勝たなければならないこういう状況は、指揮権を持てないのが歯がゆいよ。

「結局‥‥、見つけ出してぶっ飛ばすしかないの‥‥」

「まあそうだな」

狛里の場合はそれでいい。

但しそれ以外の面子は逃げる算段もしておく必要がある。

そしてできれば、共に戦う他のデンジャーも助けられれば。

とにかく今は討伐隊への依頼が来るのを待とう。

話はそれからだ。

俺たちはこの時、別の可能性の事は一切考えていなかった。

しかし未来は、思い通りにはいかないもの。

予想はしていても可能性が小さければ、人はそちらを向かないものなのかもしれない。

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