8.パーティーのその後
パーティーから1週間が経ち、アンネルはパーティーの後からミリアと顔を合わせていないことに気付いた。
自分からミリアに王太子を誘惑して欲しいとお願いしておきながら、何の話もできていないのだ。
アンネル自身、余程パーティーが疲れたのか疲労で3日間熱を出して寝込んでしまった。それ以来部屋にこもりきってだらだらと過ごしていた。
アンネルにとっては、だらだらと過ごせていたことが幸せであった。
その間にも、王太子はお見舞いに来ていたのだがアンネルはことごとく拒否し、会わずにいた。
とりあえず、ミリアに会ってパーティーでどうなったのか聞こう…!
久しぶりにミリアの部屋を訪れる。
自分の部屋からミリアの部屋まで歩いたためか足が既に痛い…。部屋にこもって運動をしていなかったためだろう。
ドアを軽く叩き、
「ミリア、アンネルよ。ちょっと話がしたいんだけど…。」
と声をかけたが、反応がない。
おかしいな…。そう思いもう一度ドアを叩く。
「お姉様…っ!!私ね、ちょっと今は具合が良くなくて…!あと、好きな人が出来たからもう協力できないわ…。ごめんなさい…帰って…!」
ミリアが部屋から叫んだ。それは泣き声も混じっていたように感じられたが、
私は、きっと体調が悪くて辛いのだろう…と浅はかに考えた。
「そうなの…ごめんなさいね。ゆっくり休んで、お大事に。」
そう告げてまた自分の部屋に戻っていった。
アンネルはミリアが泣いていた理由など知る由もなかった。
ミリアは王太子のことを思い出しただけで恐怖に陥り、震えて夜も眠れない。王太子にはトラウマを植え付けられてしまったのだ。無理もないだろう、ミリアは今まで男の人に冷たくされたことも無くましてや敵意を向けられ軽蔑されたことも無い。その一件がミリアにはショックが大きかったようで、パーティーの後からずっと部屋に引きこもっていた。
アンネルは部屋に戻り、また寝ることにした。
ベッドに入りうとうとしていると、誰かが髪を撫でているのに気が付いた。どうせ気のせいだろう…この部屋の内側の鍵は閉まっている。それに窓は空いているがこの部屋は3階なので人が入ってくることはまず無いだろう…。
「んんっ………」
撫でられているように感じ、そっとまぶたを持ち上げると、白銀の綺麗な髪が目に入った。
いや…ないない。夢か、夢だな、夢であって欲しい…。
そう自分に言い聞かせ、半ば祈るようにまたまぶたを閉じる。
「起きたかな?? ふふっ…おはようアンネル。」
うっわ間違いない…!これは紛れもなく王太子の声だ…。
慌てて飛び起きると、王太子がにこにこしながらこちらを見ている。
どうゆうことだろう…。また面倒なことになっているなぁと現実逃避してみるが無理そうだ…。
「あの…なぜこちらに??」
恐る恐る尋ねると
「あぁ、アンネルの体調が良くなったことを聞いてね。会いに来たんだ。」
そうにっこりと告げられるが色々飲み込めない。しかも、アンネル嬢と呼んでいたのにアンネルと呼び捨てになっている…。そんなことよりも真っ先に聞かなければ行けないことがあった。
「あの…殿下。どうやってこの部屋に入ったのですか??」
「窓だよ。ちょうど開いていて良かった。」
ちょうど開いていて良かった??うん…やはり飲み込めない。
「窓って…。ここ、3階ですよね?」
「そうだね?」
だからなんだとでも言いたげに首を傾げている。
そうだね?とは…!?私の認識が間違っているのだろうか??3階にあるわたしの部屋の窓が開いている、よし入ろう!とはならないんじゃないか??
パニック状態になっている私に殿下は追い打ちをかける。
「君が寝込んでいる間もお見舞いに訪れたんだけど、何故か会えなくてね。窓から入って驚かせてしまってすまないけれど婚約者だから大丈夫だよね?」
ちょっと待って、何その婚約者だからいいだろう発言…!こんなに慌てたのは人生で初めてだ。
この滅茶苦茶な婚約者のせいで、いつも冷静な自分が保てないなんてどうかしてる…!
とりあえず王太子には苦情を言っておこう。相手は王家だが、不敬罪にはならないだろう…だってこちらが不法侵入の被害者だ…。
1回深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「殿下。流石に部屋に無断で入られては困ります。今度からは、訪問してくださる前に手紙を送ってからお越しください。」
精一杯の苦情を言ったのだが
「善処するよ。そんなことより、アンネルにはもうちょっと私のことを婚約者として意識して欲しいな。」
軽く受け流された上に、注意をされてしまった。
なんて自己中…。そう悪口を心の中で呟いていると
「とりあえず今日はこれで勘弁してあげるよ。また会いに来るから、体調に気をつけてね。」
そう言って、私の頬に口付けをする。
硬直している私を満足そうな顔で見ながら、手を振って窓から帰っていった。
顔が真っ赤になって、頭がパンクしそうな私にはもう王太子との婚約破棄計画を考える余地など到底残っていなかった…。
ただ、この胸の動悸と真っ赤な頬を沈めるのに必死だった…。




