10.意地悪しようか
「ふーん…アンネルがそんなことを言っていたのか。可愛い…。」
影の騎士であるクロードから、アンネルの『恋心をへし折る宣言』について報告を受けた王太子は、うっとりした顔で呟いた。
「どうゆう思考回路してんだかわかりませんが、あのお嬢様相当変わってると思いますよ…。普通のご令嬢だったらとっくにあなたに恋してるでしょうし、今更恋心に気付くって…。」
クロードが心底呆れながら告げると、王太子はにっこりと笑い
「そこがアンネルのいい所だよね、普通の令嬢じゃないから僕は好きなんだよ。でも、流石に恋心をへし折るって言われるのは傷付くなぁ…。ちょっと意地悪しようか…。」
意地の悪い笑顔でクロードに告げた。
クロードは身震いした。
うわぁ、嫌な予感だ…。あのお嬢様に長年恋し続けたせいで狂ってるんだな…。
クロードがこう思うのには他にも理由がある。
王太子は自室の他にアンネルを愛でる部屋という部屋を持っている。そこにはアンネルの肖像画が数え切れないくらい飾られていて、アンネルの好きな花や着なくなった服なども置かれている。
クロードがこの部屋に初めて訪れた時は、驚きとドン引きにより倒れそうになった。
「それで、意地悪って何するんですか??」
「従姉妹のアイリーンを使って、アンネルへの恋心が冷めたように見せる。」
アイリーンを使ってって…言い方悪いなと思いつつも、クロードは疑問を投げかける。
「あのアイリーン様が言うことを聞くとは思えないんですけど…?」
アイリーン様は可愛いらしく世の中の男達の人気も高いが、性格は可愛らしい見た目とは反対に男らしい性格をしていてとても頑固である。
どうも王太子とは仲が悪く会う度に口喧嘩をしているのだ。
「大丈夫だよ、アイリーンの弱点を最近やっと見つけたからそれを利用すれば協力してくれる。」
あのアイリーン様に弱点なんてあるのか?と考えていると、王太子は笑いながら
「まぁ、楽しみにしててよ。クロードには、噂を流してもらうのを手伝ってもらうけどさ。」
「はいはい、わかりましたよ。」
「それじゃあ、早速アイリーンに手紙を出して手伝ってもらおうかな…。」
意地の悪い笑みを浮かべながら王太子は言った。
アンネルを傷付けてしまうかもしれないのは心苦しいが、傷付いた顔も可愛いだろうな…。
王太子がそんなことを考えていると
「でも、最近ほんとにあのお嬢様は変わりましたよね。パーティーでの正式な婚約発表が行われて以来、感情豊かになったじゃないですか。」
ククッと笑いながらクロードが言った。
「確かにね…。あの時はアンネルがあまりにも可愛いことを言うものだからつい声をあげて笑ってしまったんだけど、それ以外はいつも通りに接していたはずなんだよね。」
王太子にとっては不可解な疑問だったが、クロードは気付いていた。
あのお嬢様にとってあなたの胡散臭い笑顔じゃない笑顔を初めて見たからときめいたんじゃないですか?とは口に出さない。
口に出さない方が面白いだろうな…。
と、内心笑っていると
「クロード、失礼なことを考えていると本当にクビを飛ばしちゃうよ?」
「こわっ…。気をつけますよ…。」
ギクリとしながらも何とか答える。
クビが飛ばなくて良かった、この人ならやりかねないのが恐ろしいところだ。
クロードと王太子のやり取りなど知る由もないアンネルは、久しぶりに一日中ぐっすりと寝ていた…。




