魔王は蚊帳の外です
始まりの草原 夜
四体目のエリアボスが討伐されたのと同日。魔王一行が海岸から帰宅の途に着いたのと同刻。
ズウウン!ズウウン!!ズウウン!!!
静寂と闇に包まれた草原に、巨大で鈍重な二足歩行生物によるであろう地鳴りが響いている。そして、その巨体は月光を背に大きな影を浮かせていた。手には、同じく巨大な棍棒を掴んでおり。棍棒を引きずり、過ぎた後には倒れた草花と大きな窪みが連続して繋がっている。
其処に一人の小人が。いや人間がその大きな影を見上げ恐怖で立ち竦んでいた。
「う...うああああああ!!」
ズドオオンッ!!プチッ
振り下ろされる巨大な壁に、不幸にもボス討伐の知らせを聞き逃したプレイヤーは。断末魔を叫び、まるで小蝿の様に軽々しく潰されたのだった。
「「ヴォオオオオ!!!!」」
巨人は、夜の静寂にけたたましい咆哮を轟かせる...
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翌日 宿屋 魔王
「ふぁ~今日もねみゅいの。それにしても、もうすこし静かにおこしてくれんのか」
我は今、堕ちてくる目蓋を漸く開くも、混沌とする意識の中にいた。
「何言ってんのよ。魔王が毎回起きないのが悪いんでしょっ!」
「魔王起こすの好き!」
「おいおい、美女二人に起こされて文句言うか普通?」
今日はなんと雷帝も加わっておる様だ。
そして、日を越す度に我の朝は騒がしくなっておる。
「無理だ...我は朝が苦手なのりゃ」
そうは言ったものの。
これ以上耳元で叫ばれたり、上に乗られてドンドンとされては敵わないので、微睡む意識を覚醒させ何とか起きる。
一日ぐらいゆっくりと昼過ぎまで寝たいものだ。
「さあ!今日の夜は蒼き山岳でレベル上げするんだから、それまでにマキさんの所に行ったりして準備するわよ」
「早くアクセサリー貰い行く!」
「あー俺もマキさんに作ってもらえるみたいだから楽しみだな。だから、魔王も早くしろよー」
今日はこれからマキさんの所に向かう様だ。
そう言えば昨日そんな事を話していた気がする。
そう、雷帝とマキさんでは、マキさんの方が目上の存在らしく雷帝もさんを付けて呼んでいる。
「うむ、わかったから我に着替えさせる時間をくれ」(メニューオープン、装備、黒の服装備)
着ていたスパッツからマキさんに最初に貰った服へと替える。
名前は黒の服というそうだ。
まあ、見た目そのままなのだがな。
「さて、それではミーアキャットへと行くとするか。雷帝は普通に街を歩いていて大丈夫なのか?」
そう、雷帝も朔夜と同様有名人なのだ。
街中を歩けば声を掛けられたり絡まれたりもするだろう。
「ん?ああ、ま、一応大丈夫だ。てか、普段は話しかけんなオーラ全開で出してるからな。それでも偶に絡んでくる奴はいるけど、脅すかボコボコにするかして、次からは絡まれない様にしてたし最近はあんまないな」
雷帝も一応苦労はしていた様である。
とは言え案外上手くこなしているのか、最近はそこまでな様子だ。
朔夜も派手な雷帝がいるおかげで、更に気配を隠せるだろう。
まあ、ここまで仲間がいれば簡単に絡まれる事もないだろうがな。
こうして我らはミーアキャットへと向かったのであった。
「じゃじゃじゃじゃーんっ!!今回もこのマキお姉さんによって改造された武器防具を徳と見るがいい~。雷帝くんは初めから作ったから注目だよ~」
マキさんが見せたのは、昨日我らが渡した武器と防具であった。
多少見た目は変わっておるが、その形や特徴から分かるのだ。
雷帝の装備に関しては、ボス素材を使って一から作られている様だ。
正直羨ましいのである。
まあイビルリザード戦では一発で3、4割程削られておったからな。
これで雷帝の防御力と耐久性も確保されるだろう。
魔王の目の前に広げられた其の武器等は、宝石を付けられたり、装飾が施されたり金属がコーティングされている。
「うむ!やはりマキさんは腕が良いのだな。しっかりと強化されたのがわかるぞ」魔王は自らの剣を取り呟く。
手に持つ大剣はその刃に金属が練り混まれ、より硬質化している様だった。
そして我らの武器や防具に埋め込まれた宝石には、攻撃力や防御力が上がったり、魔力が強くなったりと種類により様々な効果がある様だ。
それと各武器防具の傷みも修復されていた。
「おおー、この弓かっけえ、軽いのに丈夫で良く矢なるな。それにこの服もセンス良いわ」
雷帝が手に取った弓は、平和の森と蒼き山岳のエリアボス素材で作られた物であった。
マキさんは賺さずその弓についてスラスラと説明していく。
それにしても、殺人女王蜂の甲殻を使用したであろう黒と黄色の縞模様が弓の柄に良く合っている。それに弦にはイビルリザードの皮で編まれた糸が使われている様だ。レアアイテムの女王蜂の蝋とイビルリザードの胆石も使われ、程よい弾力と強度を兼ね備えた其れは、本当に良い弓である事が分かった。
一方、防具となる鞣された皮服は襟が付いた仕様で、雷帝の無精髭に良く似合っていた。何ともユリの世界ではスーツというものらしい。それから、雷帝は大量の矢も受け取っておった。これまでに貯まった魔物の素材や、有り余った石などを使って作られた様だ。
弓はその特性上、当然矢を消費するのだ。普段雷帝は大量の矢をNPCから買っていたのだが、今回はマキに頼み質の良い矢を作ってもらった様である。因みに、弓はコストパフォーマンスの悪さから使うプレイヤーは多くないそうだ。決して弱い訳ではないが、ダメージを与えるには手数が必要であり、その分矢の消費も多くなるという訳だ。
雷帝の様にソロで弓を使うプレイヤーは皆無に近いだろう。現にエリアに出た時などに見た事がない。ただ雷帝の場合は、魔法付与や強化スキルによって威力を増し、十分にその弱点を補っている様だ。
そして次に待っていたのは、我らの大イベント! アクセサリーである!!
「さあ、いよいよアクセサリーよっ!! じゃあ先ずは誰にしよっかなー♪ ダラララララララララーダン! ユリちゃん!!」
マキさんの手からアクセサリーが順に渡されていく。
何やら変な声を出しながら渡す者を決めておったが、結局全員に渡していたので特に意味はないのだろう。
我が渡されたのは、赤い宝石が填められた銀色の腕輪であった。
ちらりと横を見たところ、ユリは緑の宝石が彩られたネックレス、朔夜は青の髪留め、雷帝は赤のタイピンであった。
「きゃー可愛いっ!! それに凄い綺麗でオシャレ!! わっ!朔夜のも凄く可愛いね!! 黒髪にすっごく似合ってて可愛い!! いいなー朔夜の髪本当に綺麗だね!」
「ううんユリの髪も自然で素敵。可愛い」
なんと会話の半分以上が可愛いで占拠されておるではないか。
しかも二人は延々とそんな会話を続けているのだ。
雷帝の方を見ると、同意見だった様でやれやれいった感じである。
「やった! 気に入ってもらえたみたいだねっ! じゃあ早速説明してくよー! 先ずユリちゃんのはね! ユニ鉱石とマカラ鉱石を7:3で混ぜて、それに殺人女王蜂のゼリーを入れて合金にしたものなのです!! その金属は金色に輝くんだよっ!! そしてその金属は宝石の純度を上昇させたりしちゃうんだー。でね! それを細工して、百合の花のモチーフにしてみましたー!! これは勿論ユリちゃんの名前からね! で! で! 填めた宝石はエメラルドなんだよー。ユリちゃんのクリームがかった茶髪にはこの色が抜群だね!! さらにエメラルドには魔力を強める効果があるんだー!! もうユリちゃんは聖母様にでもなっちゃえ!! って思って気合入れて作ったんだからね! それからそれから......ペラペラ。次に朔夜ちゃん!! これはマカラ鉱石を多めにして、8:2にしてみた銀色の金属だよー!! そしてね! それでね!! でね!! さらにさらにね!!...ペラペラペラペラ」
「あ、魔王と雷帝はそれだから。」
え? 我の説明短か!!! なんか気合の入り様が全然違うよ? 我も一応このブレスレットの説明とか聞きたくなってきたのだが? 何なのだこの差は...我のこれそんなに的当に作られたのか...なんか我、悲しくなってきた。
(そ、そうである! 雷帝ならこの気持ちわかる筈だ!! そうだろう!雷て...な...んだと!!?)
「ん、どうした魔王? 長い説明受けなくてらっきーだったな! にしてもまじでマキさんのセンスやべーわ」
黙れこのアゴ鬚っ!お前の方がやべーわ!! わ、我が可笑しいのか? ちょっとドキドキして説明待ってた我が!?
......こうして魔王達はミーアキャットを去った。
「マキさん今日は本当にありがとうございした。それに徹夜させてしまってすみません。また今度お土産持ってお礼に来ますねっ!それとまたBBQしましょう」
ユリは最後にそう言うと、ミーアキャットの扉を閉め我らの所へと小走りしてきた。
ユリとマキさんは本当に仲が良いのだ。
まるで本当の姉妹の様である。
「お待たせっ! 夜まで時間あるしこれからどうする?」
「むーお腹減った」
「あー俺も朝飯抜きだったし腹減ったな。昼飯でも食い行くか?」
「うむ! そうだな。我も丁度腹が減ったところだ。適当にレストランでも入って食事にしよう」
こうして我らはレストランへと向かい歩き始める。
しかし今回もまた厄介な事に巻き込まれる羽目になったのだ。
この男によって。
「見つけたぞ雷帝!! お前が例のボス討伐者であることは分かっているのだ!!...って聞けい!!」
そう何故か分からぬが、雷帝の事をボス討伐者だと知っている者に絡まれたのだ。
見た目はゴツい中年と云った感じで、偉そうな話し方をする男だ。
だが雷帝は、まるでいつもの事だと謂わんばかりに普通に歩いておる。
しかも何事も無かったかの様にユリとうふふあははと会話しておるのだ! ぐぬぬ、だがそのスルースキル見事と言わねばなるまい。
しかし、男もそれで諦める気は無いらしく我らを追いかけ前へと立ち塞がってきた。
全くしつこい男である。
それに雷帝が我らと話していたせいで仲間だと完全に暴露てしまった。
しかも話しを聞く気が無いと悟ると、今度は生意気にもユリに突っかかってきおったのだ。
「おいお前っ!! 何故雷帝と一緒に歩いているっ? お前もボス討伐の協力者か! そういえばお前、何処かで見た事があるな...!...くくっそうか!やはりあの生意気な小僧は企んでいたか!! まさか奴の裏工作の尻尾まで掴む事になるとはな! やはり部下にお前の事を探させて正解だったわ雷帝っ!!」
そう、この男の名はガルド。
つまりあの攻略組メンバーにして、ギルド<SSS軍>のマスターである。
しかし、魔王や雷帝はそんな事を知らないでいた。
「あーうっせえー。てか何一人でごちゃちゃ喋ってんの? 面倒くさいから消えてくんね。てか関係ない奴に絡むなよ。うぜー」
雷帝は一人騒がしく喋る男に向け冷たく言い放つ。
ユリは少々雷帝の態度に慌て困った様子であった。
何故にそこまで慌てる必要があるのであろうか?
この様な男は手足を千切って川にでも捨てて置けば良いのだ。
「だとっ!! お前がセインと組んで裏でボス討伐をしている事は分かっている!! それにお前の連れている女はギルド<聖剣>に居たセインの部下ではないかっ?しらばっくれて居られると思うなよ。」
「は、意味わかんねー。さっきから何言ってんの? セインとか知らねーよ。面倒臭いから消えろよ」
雷帝はガルドを睨み、まるでそれが最後通告の様に話す。
「なっ! しらばっくれるな!! それにお前にそんな事が本当に出来るのか? 儂はギルド<SSS軍>の統帥だぞ!その意味がわかるか。お前など所詮只の一匹狼、少しは仲間も出来た様だがセインもろとも根刮ぎ叩き潰してくれるわ!」
この男には、会話というものがないらしい。とりあえず煩いしどうしたものか。
などと考えていると、突然、先程まで二人の会話を聞き入っていたユリが言葉を発した。
「待って下さい! ガルドさんですよね。私達はボス討伐を確かにしましたが、セインさんとは関係ありません。ただ、偶然にもボスに出くわしたりして討伐しただけで。セインさんや攻略組に迷惑を掛けない様にと個人的に活動していただけです!」
何やらユリはそのセインと言う男と知り合いらしい。
そういえば前にユリから聞いた様な気もするが。
どちらにせよ、それが原因で今回はさらにややこしい事になった様だ。
「お前もしらばっくれるつもりか!! ふんっこうして話していても埒が明かん! お前達がセインとは関係ないと証明出来ん限り、儂がお前らを吊るし上げセインの前に叩き出してくれるわ。どうだ? 証明する事ができるのか? くくっ出来まい!!」
全く埒が明かない。
それに騒ぎを聞きつけたのか周りに野次馬が集まってきおった。
無い物を証明などと、到底無理に決まっているのだ。
「おい、こいつらが例のボス討伐者だってよ」「嘘だろ!?こんなガキに出来る訳ねーだろ」「でも雷帝に朔夜もいるぜ」「誰だそれ?朔夜ってガルドに突っかかてる女か?」「ちげーよ。もう一人いんだろ」「あ、本当だ気付かなかったわ」「なにがどうしたんだ?」「なんか攻略組のガルドが吹っかけたらしいぜ」「朔夜に雷帝だってよ」「すげーな。でもあいつらってソロじゃなかったか?」
野次馬の声が耳に届く。
どうやら朔夜の存在も気付かれてしまった様だ。
如何すれば良いやら、全く案が浮かばん。もう一層の事この男を吹き飛ばして逃げるか、決闘で叩き潰すか。
「っと悪いな開けてくれーっておいガルドのおっさん、何騒ぎ起こしてんだよ。ってまさか雷帝か!? おいおい、もしかしてボス討伐者の話し聞いて早速突っかかってんのか? それにセインの所のユリちゃん? だっけか。...ははーん、それで絡んでるって訳か」
何やらまた一人、今度は若い少しチャラチャラとした人間が入ってきおった。
どうやら会話を聞く所によると、恐らく此奴らが攻略組のメンバーと云う事だろう。
「おいおっさん、こんな所で騒ぎ起こして良いのかよ? 先にボス討伐されたからって、仮にも攻略組のメンバーがその腹癒せに噂の救世主様に突っかかたんじゃ、聞こえが悪いぜ?SSS軍の名も地に堕ちるかもな。」
もう一人の若い男は仲裁に入ってくれる様だ。
理由は分からんがどうやら何とかせずとも助かったらしい。
「ちっ! ロジャーか! どうしていつもお前は邪魔に現れるのだ。まさかセインの差し金か!!?」
「ちっだから此処で騒ぎ起こすなって言ってんだろーが。第一攻略組の内部が荒れてるなんて噂になったら、後々お前も困るんじゃねーの?」
若い男の方が中年の男に後ろから肩を掛け、小声で話しかける。
所謂ヒソヒソ話しというやつだ。
「なっ何を言っている!? 儂は別に困る事などないっ!...ま、まあいい! 今日の所は此のぐらいにして帰ってやる! あまり調子に乗ると痛い目見るのはお前らだぞ! 忘れるなよ!!」
こうして中年のガルドとか謂う男は捨て台詞を吐いて去って行った。
一体何がしたかったのか分からんが、とりあえずは何処かへ逃げたのだ。別によかろう。
だが今度は、若い男が雷帝に話し掛けてきた様だった。
そう言えば我は、随分蚊帳の外であった様に思う......切ないとはこういう気持ちを云うのだろうか...




