魔王は蜥蜴と戦います
そうして我らは雷帝と共にボスの間へと辿り着いたのである。
全く、始めからこうなるのであればボス討伐しても良かったではないか。と思ったが、愚痴を言ってもしょうがないので黙っておいた。
(そういえば此処のボスは、他のと違って決まった場所に居るのだな...)
思うと今までのボスは、草原や海岸、森の中などに居たので、此方からしっかりと戦いに向かうという事がなかったのだ。
ふと、我は魔王の間へと足を踏み入れた勇者を思う。
奴は一体どの様な気持ちであの扉を開け入って来たのだろうか。敵わぬかも知れぬ敵に命を賭け、友に懸け、我の前へと踏み入れたあの男は。
我はあの男を殺した事に後悔はない。あれは決闘であったのだ。お互いの命を賭けた戦いであった。そう思っている。
だが我は座り待っていただけだ。奴が来なければ戦う事も無かった。しかし奴は、あの男は自ら足を進め戦いの場へと訪れたのだ。今になって少しだけ奴の気持ちが理解出来た。
勿論、こんな生易しいものでは無いだろうが。力を失い挑戦する者となって初めてわかる。
恐らくあの男は震える手で扉へと手を掛け、勇気を振り絞り押し開けたのだろう。自らの命だけではなく、多くのものを背負いながら。
今の我でも、その思いは到底推し量れるものでは無いのだ。
故に我は冥福を祈る。我が剣を抜き刺し貫いたあの者の冥福を。
「さて、行くとしようぞ。エリアボスの下へ!!」
ドオオオン!!!
魔王がボス部屋の扉を開けた時、突如衝撃が走る。壁面を覆う岩が震えパラパラと小石が落ちる。
魔王の目の前に突如として落ちて来たソレは、巨大な蜥蜴の魔物だった。
爬虫類独特の光沢のある肌に、背中に生えた無数のトゲ、吸盤の付いた指に鋭い牙、一瞬ドラゴンと見紛う様な姿をしている。
「なっド、ドラゴンだと!!? この様な場所で...マズい。ユリ!朔夜!逃げろ!!」
現にエリアボスの姿を知らなかった魔王も勘違いしていた。
......
「ぷ! あははっやっぱりね」
「やっぱりなの」
「くははっ、な! 俺の言った通りだろ?」
その反応を見て三人は示し合わせていたかの様に笑う。その原因に気付いたのか、魔王も顔を緩め笑う。
(むぬぬ、先程三人でひそひそ話していると思ったらそう云う事であったか! 雷帝の奴があの顔で悪戯好きとはな。我のアンニュイな気分も吹っ飛んでしまったではないか! ふはははは!)
だが意外と悪い気分ではない。雷帝も我の様子を見て気を使ったのだろう。全く、人間には面白い奴も居たものだ。
「くくっやりおるではないか雷帝よ! だが今に見ておれ。今度は我がお主を出し抜いてくれるわ!! ふーっはっはっはっはー」
魔王は高らかに笑った後、キッと気を引き締め巨大な蜥蜴を睨む。それを見て、ユリ達も意識を漸くボスへと向ける。
一方、巨大な蜥蜴はスルスルと素早く動き、魔王達へと廻り込む様に這い進む。
「来るぞっ!! 散れ!!」
逸早く察した魔王は皆に声を掛け、自らも部屋の奥へと跳ぶ。
魔王が跳びながら後ろを見ると、其処には蜥蜴の口から長い舌が急速に伸び、先程まで居た場所へと一瞬にして届いていた。
(あの一撃は速い。軌道を予測し避けねばっ!!)
魔王は空中で身を翻し、大剣を抜くとそのままエアクラッシュ放つ。
その飛ぶ斬撃は瞬く間に巨大な蜥蜴の胴へと届いた。
しかしエアクラッシュはヌメリとした皮膚に長い線の様な傷を付けただけだった。
「っは! やるじゃん。初見で避けて反撃かよ」
雷帝は魔王の動きに感嘆する。
とは言っても雷帝もソロプレイヤー最強の一人。見せ付けられては戦わない訳にはいかない。
「おらおらー行くぜー」
雷帝は腰に掛けられた和弓を手に取り構える。
素早く矢を携えると、体が青く光り、引き、打つ。そう、雷帝は弓を得意とするプレイヤーだ。
「一本通し、雷装」
雷帝が放ったスキル「一本通し」は、読んで字の如く一本の矢を放つ技スキルだ。だが、その射突貫通能力は高い。例え鋼鉄で出来た板であっても豆腐に箸を刺すが如く易々と貫くだろう。
当然今の一撃も巨大な蜥蜴を刺し貫かんとばかりに体の中へと埋まっていく。
だがその一撃には、思わぬ追撃が待っていた。
弓矢から流れる電撃が蜥蜴の巨体を巡り突如ビクビクッと震え、苦しみ止まる。雷帝の名は伊達ではなかった。放たれた矢には雷の力が付与されていたのだ。
しかし、それだけでは終わらない。
「止まったな。鳳仙花、雷装」
一本の矢が再び放たれると、それは空中で無数に分かれ乱れる。その一本一本を繋ぐ様に雷光が走りそのまま蜥蜴の体へと突き刺さる。
強い。
魔王はそう思った。雷帝が放つ弓と雷の多段攻撃は反撃する間も近付く事も赦さないのだ。
「ぬっ! やりおるな雷帝よ!!」
「へへっだろーってもまだまだ全力じゃないぜ」
その言葉からは雷帝の余裕が伺えた。
そのやり取りの合間にもユリや朔夜は巨大な蜥蜴の足へと魔法を放ち、剣を振るう。
あっという間にボスのHPの1割が無くなる。最初の一撃以降動く事も叶わずに。
しかしそれにも終わりが訪れる。巨大な蜥蜴はまたスルスルと素早く動くと、壁を登り首を曲げ振り向くと舌を伸ばす。
その上から伸びた舌先は魔王へと急速に伸び、地に届く。
魔王はそれをギリギリで躱す。但し身体を回転させ、まるでスケートのトリプルアクセルの様にだ。
「サークルスライスッ!!」
手に持った大剣もそれに伴い弧を描き、舌が地に留まる一瞬の隙を付いて切り刻む。サークルスライスは回転斬りの上位技であり、W大剣剣技初段のスキルである。僅かな間に複数回の斬撃を放つ剣技だ。
ザザンッ!!
巨大な蜥蜴はその痛みと出来事に驚愕し、凄まじい速度で上へ上へと這い登る。蜥蜴と言ったがその動作は家守か居森の様であった。ただその身体に入った模様や爪牙は確かに蜥蜴なのだ。
「うおー、すげ、あのタイミングに合わせるとかマジかよ。イビルリザードのアレは結構早いんだけどな」
そう、この巨大な蜥蜴は蒼き山岳のエリアボス、名を「イビルリザード」と謂う。やはりボスだけあって大きくタフだ。
変わった点と言えばやはりその壁をつたう能力。この能力のせいで戦士タイプのプレイヤーは勒に攻撃を当てる事も出来ないのだ。
だが、雷魔法や弓などのスピードある攻撃手段を持つ者にとっては格好の的。雷帝に於いてはまさに雑魚同然であった。
「弓技・隼、雷装」
雷帝はそれに向け矢を放つ。
先程よりも速い矢は、まさに隼の様に飛び、滑空し上昇する軌道でイビルリザードの頭部に突き刺さる。さらに電撃が襲い、蜥蜴の手が身体が、壁から剥がれ落ちる。
イビルリザードは地にその巨体を打つ。地面は揺れ、衝撃で蜥蜴は怯む。
その隙を逃す程甘い面々では無い。
朔夜は舞う様に飛び、片刃の剣を次々とその右前足に叩き込む。
ユリは力強く豪快に、剣技や魔法を何度も放つ。
魔王もまた、その頭部に向かって縦に一撃、強力な斬撃を放つ。
一気に押し寄せる強烈な連撃に怯んだイビルリザードに向かって。弦を引き溜めに溜め於いたとっておきの弓技を雷帝は放つ。
「離れろっ! 弓技二段・破動弓、雷々装!!」
バチバチと青白い光を纏い、回りの空気を突き破りながらその一撃は、何者も避ける事の出来ない速さで飛ぶ。
シュドオッォォ!!!バアアアン!!
衝撃と共に雷光が弾ける。
その光景はまさに圧巻だった。
弓技二段破動弓とは、和弓技スキル二段の最初に覚える技である。その特性上溜めを必要とし、その間は移動する事が出来ないが、変わりに強力な一撃を与えるという技だ。
我等の怒涛の攻撃でイビルリザードのHPは早くも残り6割にまで減少していた。
...
それからも激しい戦いは続き蜥蜴は遂に残り一割、紅い光を纏い暴れだす。一方、魔王達はと言うと、ユリが蜥蜴の尻尾を躱し切れずにダメージを負ったが、すぐさま他の者が足止め、ユリは退避し回復する事で容易く難なきを得た。
因みに、攻略組がイビルリザードと戦えばこの状態に達するまでに1時間は掛かるだろう。しかし、魔王達はその半分、30分にも届かぬ早さで成し遂げていた。
ササッ!ブオッ!
その時、紅く光るイビルリザードは凄まじい早さで這い、風を押しのけ雷帝へ向け牙を剥き突進する。
しかし雷帝はそれを跳んで躱す。だが、イビルリザードはさらにその尾を振り、跳んだ雷帝へと追撃する。
「ちっ! なんだよこれ...いきなり早過ぎんだろ!」
ヴオン!!
「 なっ!?――――っぐはっ!!」
雷帝はイビルリザードの尾を喰らう。突然の加速に驚愕しながらも一撃目を跳んで躱すが、其処に尾のしなる鞭が飛んで来たのだ。空中では流石の雷帝も躱し様もない。
「がはっ...っつ痛てえ。はぁ、やべえな」
その様子を見て、魔王や朔夜はイビルリザードに向かい駆け剣を振るう。ユリは雷帝に向け回復呪文を詠唱する。
しかしイビルリザードは執拗に、浴びる斬撃を無視して弱った雷帝を追う。
もはや雷帝は躱し切れないと誰もが思ったその瞬間。魔王も遂に<オーバードライブ>を使おうと念じ始めたその時。
...
「弓神の迦具矢」
雷帝は何やら小声で呟くと、突進する巨大な蜥蜴に向け、唯その弦を弾いたのだ。しかしその瞬間。
まるでジェット機が飛び去るような轟音と共に、強烈な雷光をまるで彗星の如く残しながら。雷帝の弓から放たれたソレは、イビルリザードの頭部へと衝突し貫き去っていった。そして、その先の分厚い岩壁をも破壊し大きな風穴を開けていく。
あろうことか、そのたった一回の攻撃は、矢を携える事もなく直進する巨大な蜥蜴を貫き、いとも簡単に命を奪い去っていたのだ。
......
テレレテッテレー♪(((テレレテッテレー♪)))
突如として鳴ったあの音と共に、沈黙が終わりを告げる。そして雷帝からぼそりと言葉が呟かれる。
「...やっべ、使っちまった。やっぱ見ちゃった?」
雷帝は少し困った様に我等を見て話す。
「え!? 今のって...も、もしかして称号スキル...?」
一方ユリは、その光景に驚愕しながらも、正体にある程度心当たりがある様子であった。
我もまた恐らくではあるが、アレが称号によって得たスキルだと考えている。でなければ説明がつかない。それ程までにあの雷帝の一撃は強力であったのだ。
「え、知ってんの称号? マジか。もしかしてユリちゃんと魔王に掛かってたアレもそうだった? なんか見たことないスキルだと思ってたんだよなー。そうかー、そんなに知ってる訳じゃないけどやっぱりそうだったか。」
雷帝は一人納得したかの如く喋る。だが自分以外の誰かも称号を持っている事は少し意外だった様だ。
(にしても......ユリちゃんとは何なのだ!!? )
助こました様に気安くちゃん付けとは。しかもユリはユリで目を輝かせて話しておるし! ...と!? な、何故我はそんな事を気にしておるのだ? ......む!そ、そうだ、ユリは我の命の恩人であるからな!悪い虫が付かぬ様にせねばならんのだ!!ふはははー!
しかし、魔王が一人ぶつぶつと考えている間にもユリや朔夜は雷帝と話し込んでいた。
「ん? ああそうなんだよ。なんか弓で強力なの打てねーかなーとか、矢が切れたら弓って終わりだよなーとか前々から考えてんだけど、そしたら丁度ピッタシの覚えててさー。めっちゃラッキーじゃねみたいな。ただ、10分間再使用不可だし、スキルPtの消費が激し過ぎて連発出来ねーけど。そういえばユリちゃんも称号持ってる?」
「はい、持ってますよ。それに朔夜ちゃんも魔王もです。それにしても全員が全員持ってるなんて凄い偶然ですね」
「マジか、魔王も朔夜も持ってんだ。たしかにすげーな。ま、称号は条件わかんねーわ、難しいわで取れる奴ってのは結構限られそうだから、最前線なら会う確率も高いのかもな。ユリちゃんはどんな名前の称号なの?」
(...か、完全に会話に入るタイミングを失っておる。くっ...だが、人の恋路を邪魔する奴はユニコーンに突かれて死んでしまえと言うからな...此処は見守っぬおお!恋なのか!ユリはあの金髪ユラユラ野郎に恋なのか!?)
因みに全くそんな事はない。朔夜含め雷帝や狐白などの有名ソロプレイヤーに憧れているだけである。と言っても世に憧れから始まる恋多きこと。魔王の邪推も仕方がないと言えば仕方がないのだった...
(ふん!別に我が気にする事ではないのだ! 第一、我はユリの命を守るのが役目であるからな! 我がそこまで心配する必要などないのだ!!ふはは、ふーははははー)
一人の少年の、悲しい強がりが其処にはあった...
そうこうして魔王一行は雷帝と様々な事を話した。雷帝の称号は「魔力を操る者」という名らしい。
取得条件は大体名前の通りだが、詳しいことは身の安全を考慮して言えないとの事だった。攻略組の言う通り、我らも称号の取得条件に関して話さない様にしているので、詮索はしなかった。
それから、扱う武器の話しやソロプレイをしている理由などを聞いた。因みに雷帝も我の武器には驚いていた様だ。
その雷帝の武器、和弓についてであるが。これがまた少し変わった形状をしておる。我が知る普通の弓よりも長く細いのだ。
しかも大弓の様に頑丈で力強いと云った感じではなく、和弓は繊細にして鋭いと云った印象を受ける。ユリ達の世界に伝わる伝統的な弓なのだそうだ。
そして何故ソロプレイヤーだったかというと。雷帝としては別にパーティでもソロでも良かったそうだ。勿論、ギルドの様に大勢で集まって仲良く行動なんてのは面倒臭いから苦手。らしいのだが、何でも朔夜や狐白? にはパーティを組もうと誘った事もあったそうである。
朔夜はそれを聞くと、あの時は色んな勧誘で大変だった、ごめんなさい。と謝っていた。雷帝も性格か、別になんとも気にしていない様である。あと何故か、狐白はムカつくからもう絶対誘わないと怒っておった。
それと別な理由で、実力が離れると面倒臭過ぎてパーティなんか絶対無理と言っておったな。まあ、実力が違えば自ずと何方かは無理をする事になる。しょうがないのであろう。
一方、我らの事を話すと雷帝は驚いたり笑ったりしながら楽しそうに聞いておった。そしてなんと、雷帝は我らの仲間になると言うのだ。
ソロも飽きたし、流石に死にたくないから仲間に入れてくれ。だそうだ。まあ、我としても多くの人間と関わるのも悪くはないし、何より強い者が仲間になればユリや朔夜も安心して戦えるだろう、と思い二つ返事で了承した。
我らは1時間程話し、大体を語り終えた所で一旦別れ蒼き山岳を降りた。雷帝の提案で、折角ボス討伐者としてバレていないのだから態々自ら身を明かす事はない。と云うことになり、フレンド登録をして雷帝を見送ったのだ。
四体のエリアボスを倒した事で、始まりの草原に今夜ステージボスが現れるそうだ。何度となく聞いた話しによると、相当手強いボスらしい。期待もあるが、仲間の安全も考えしっかりと準備して挑むべきたろう。
そうして雷帝と別れ30分も経った頃。
「さて、そろそろ我らも街へ戻るか? それにマキさんに鉱石とボス素材を見せて驚かせてやらねばならんからな!! フーッハッハッハッハー!!」
「そうねっ! 今日は私達も頑張ったし、雷帝さんやマキさんも誘ってパーッと豪華にご飯でも食べよっ」
「うん! 賑やかそう楽しみ」
「うむ、そうだなっ! では皆で共に食を囲むとしよう!!」
「うんっ! そうしよそうしよー! 折角だし自分達で作って食べようよー」
「賛成、焼肉にする!」
「うん! じゃあ野菜とかお魚も足してBBQにしよっか」
「ばーべーきゅーとはなんだ?」
そんな事を話しながら、我らは街へと帰ったのだった。




