魔王は岩掘りします
蒼き山岳 入り口付近 魔王
我がこの世界に来てから早くも3週間が経とうとしている...
現在、攻略組は三体のエリアボス討伐に成功し、蒼き山岳にいる四体目のエリアボス攻略に向け準備中といったところだそうだ。我としては早く四体目も倒して欲しいと思う。
魔王は、セインの事などいざ知らず攻略組の次なる討伐を心待ちにしていた。そして続けて魔王は回想するのだった。
我らはと云うと流石に四体目はマズいということで、経験値稼ぎにスキルレベル上げ、アイテム採取、それぞれの特訓、組手練習、人助けなど色々しながら日々を過ごしている。
その甲斐あってか我のスキルもLv30となり次の段階へと進化した。朔夜など既に第三段階へと進化しそうな勢いである。因みにスキルの経験値は魔物を倒した時の他に、そのスキルを使った時にも貯まるらしい。ユリも技能の神殿で日々特訓している様だ。
それと最近問題となり始めた食糧問題については、攻略組の面々や一般からの有志で集められた者、金稼ぎを目的とした者などの活動により何とか凌いでいる。というのが現状である様だ。
因みに、未だ多くのプレイヤーは街に篭り過ごしている様である。恐らくステージボス討伐後、攻略組がエリア管理して安全に狩りを行える様にするのを待っているのだろう。
そんな話しを街で聞いたのだ。我らも、手に入った食糧は攻略組に無償で渡している。金を持たない者達に無償で配られるからである。
それから新たな問題が発生した様だ。PKギルドの出現である。
「平和の森」や「蒼き山岳」は木々が欝蒼としていて視界が悪い。その中でプレイヤーを集団で襲う「PKギルド」なるものが暗躍し始めたのだ。現在、その二つのエリアは奴らの格好の狩り場となっている。
その噂もあってか、プレイヤー達は余計に街から出ることに恐怖しているのだ。
そういえば、我もこちらの世界の言葉に慣れてきた。使われている言語は同じだが、意味が分からない言葉がかつては多かったのだ。今は殆ど理解出来るし、此処がゲームという話しも何となく理解できる。
と、そんな話しは置いといて、今我々が居るのがその「蒼き山岳」である。
我には<人間感知>なるものがあるので、普段ならばPKどころか他のプレイヤーにも出会う事はない。その存在を感知することが出来るからである。勿論、殺人者つまりPKかどうかも含めてだ。
で、何故我が物思いにこんな事を考えていたかというと。目の前に居る、我が先程縛りあげたこの男こそがそのPK、プレイヤーキラーだからだ。
此奴が既に人を殺めているのは分かっている。何故なら頭の上に浮いている文字が真っ赤だからだ! なのに、この男は白々しくも「俺は殺しなんてやってねえよ! クソが」などとほざいておった。
馬鹿なのであろうか?
とりあえず、手足でも切り落としておこう。...と思ったがユリが居るので今回は止めておいた。因みに朔夜は案外乗り気である。やはり命を賭けた戦いに身を置くに連れ、そういった感覚は薄れていくのだろう。
まあ、蒼き山岳の入り口にでもこっそり置いておけば誰かが見つけてくれるだろうか。
だがその前にこの男に尋問を行っておく。
「さて、貴様には色々と聞きたいことがある。嘘を吐く度、指を一本ずつ切り落としていくので正直に答えた方が良いぞ。因みに我はとあるスキルにより真実を見分ける事ができる。どうせ最後には全部言うことになるのだから、痛い思いはしないが得であるぞ。」
魔王は目の前の男を冷酷な目で睨みながら脅す様に話す。
手足は止めておいたが、指ぐらいなら構わぬよな? どうせ回復すれば生えてくるし。
ゴクリ...「わ、わかった。」
この男にも言葉を理解する程度の頭はあったようだ。しかし、この前の茶髪といいこの男といい、ユリや朔夜と同じ種族とは思えん。
初めに会ったのがこの男であったら、我は間違いなく人間を嫌いになっていただろう。初めて真面に出会った人間がユリで本当に良かったとつくづく思う。
「では聞くぞ? お前の名はなんと言う? PKギルドに所属する者か?」
それから我は幾つかの質問をした。この男の名はバイトだそうだ。
PKギルドの名は<RRR>。この世界<SSS>の一文字前のアルファベット三文字であり、人の命を生まれる手前へと戻す。そんな意味だそうだ。加入条件はレッドネーム保持者、つまり殺人経験を有する者だ。
そして「RRR」の規模であるが、現在100人程度のプレイヤーが集まっている様だ。だが、此奴はトップに幹部を含め、他の仲間の顔すらも知らないらしい。なにせこの男はまだ新入りだったのだ。ギルドメンバーとして正式に認められ本隊に参加するには、新たに三人のプレイヤーを殺さねばならないらしい。
恐らくその実力の確認と、裏切り者やスパイの潜入を防ぐ為であろう。この男も蒼き山岳にソロで来ているのだからある程度の実力はある様だ。一撃で沈めたので分からなかったが。
他に有益そうな情報はなかった。本来ならば情報を聞き出した後、身の保全の為にも口を封じておくべきなのだが...我も甘くなったものである。
そうして我等は、この男を「蒼き山岳」の入り口へと捨てた。待ってくれと喚いていたがそんなこと知らん。他のRRRメンバーに会えば消されるだろうし、見つけられる前に魔物に殺される可能性もある。が、所詮自業自得である。
まあ、我も偉そうな事は言えんのだがな。だからと言って、これから更に人を殺めようとする者に同情する義理はないのだ。
「これで良かったかユリ?」
そう何故この様なことになったかと云うと。我らが山道を歩いていた時、遠くにレッドネームの気配を感じたのだ。そしてその事をユリへと告げたのが発端であった。それを聞いたユリは捕まえなきゃ!!と言い出し、危険なので我が代わりを申し出たと謂う訳だ。
「ありがとう。態々危険なことさせてごめんね...でも、ああいう奴本当に許せなくて。それに放っておいたらを考えると...」
ユリはやはり優しく世話焼きなのである。我もまたそんなユリを放って置けないのだがな。
「いやよい。ユリは今のままで良いのだ。」
「ユリ優しいの良いとこ」
朔夜もユリのそういう所が好きな様である。ユリは何故か恥ずかしそうに顔を赤めている。変な事でも言ったであろうか?
「さて、もう終わったことだっ。次は蒼き山岳の洞窟へと入り鉱石やら宝石をザックザックと掘ろうではないか!! ふーっはっはっはっはー!!」
「う、うんっそうだね! さーって採掘採掘っ!」
「宝石ザックザック掘るー」
今回我等が蒼き山岳へと来ているのは、レベル上げと鉱石の採掘が目的であるからだ。詰まる所、マキさんに鉱石の採集を頼まれたのだ。
しかも、鉱石や宝石を取ってきたら武器と防具に付けて加工してくれるというので気分はウキウキである。それにマキさんはアクセサリーも作ってくれるらしく、ユリや朔夜も目をキラキラとさせておった。
マキさん曰く「蒼き山岳」以降に出現する鉱石などには、加工すると特殊な効果が付くものがあるそうだ。それで今回はピッケル片手に鉱山探索という訳である。
「うむ...???だと。わからん」
魔王は次々と岩を掘っていたが、手にする石は???と表示されるアイテムばかりであった。
「ねー魔王これ鉱石とか取れてるのかな?」
「わ、わからぬ。???としか表示されんぞ。」ユリもまた掘ってはみるのだが、鉱石かどうか分からないという感じだ。
「とりあえず、いっぱい取る」
ガキンガキンと音を鳴らし、朔夜はそんな事も気にせず淡々と岩を砕き続ける。
「うむ。しかしこの場所であっているのか。洞窟の奥の方にあるのではないか?」
現在、魔王達が居るのは蒼き山岳の中腹にある一つの洞窟、入口付近。その中は、ゴツゴツとした岩で上下左右を囲まれており、時偶にその岩の隙間からキラリと光りが目に入る。
奥に入るにつれ洞窟全体に薄くぼんやりとした光が漂っていくので、明かりは不要だ。その光は、周りの岩々が発している様であった。
「んーそうねっ。やっぱりレア素材と言えば奥にあるものよ!もうちょっと奥に行ってみましょ! ボス部屋の前まで行かなければ大丈夫よ」
ユリの言葉に、我らは洞窟を更に奥へと進む。途中に現れた魔物は蝙蝠や蜥蜴、武器を持ったゴブリンなどであった。
我らは危う気なく次々と屠る。散々レベル上げをした結果、ユリでさえも片手間に軽々と魔物を倒す事が出来ていた。恐らく今ならば此処のボスも問題なく倒せるだろう。
朔夜曰く、β版では始まりの街のエリアボスを全部一人で倒したそうだが、そこまで強さに開きは無かったらしい。ただ、ステージボスはかなり強かった。何回も負けてやっと倒した。とそう言っておった。
「うむ、この辺で良いか。何やら此処は他の所より明るいな」
「うん、ここ宝石いっぱいありそう。楽しみ。」
最近朔夜は、前より少しだけ言葉が増えた。我らに少しは慣れてくれたのだろう。たまに微かにだが笑ったりする。
「うむそうだな。朔夜は頑張り屋だから期待しておるぞ! マキさんの奴を驚かせてやろうではないか! フハハハ」
「驚かせる。まかせて!」
今も朔夜は少し笑い気持ちが篭った言葉を放った。ユリや我に影響されてか少しずつ明るい性格になっているようだな!
「うむ、まかせたぞ朔夜よ!!」
そうこうして、我等は一時間程岩を削っては掘り、削っては掘りを繰り返していた。その時。
何者かが此方に向け近付いて来るのが分かった。
この洞窟は幾つか枝分かれするものの、ほぼ一本道。高い確率でその者と合間見えることになると予測出来た。
「ユリ、朔夜。此方に人が一人近付いて来る様だ。」
それにしても、此処は仮にもボスへと続く道、現在のボス攻略エリア最前線である。ましては一人でのこのこと誰かが来る事など無いと思っていたのだが。相当の手練れか。
「レッドネームではない様だが、一応戦う準備はしておくぞ。それとユリは一応後ろに下がり精霊の加護を頼む。」
「わかった!」
それから数分、いよいよその者は足音と共に此方へと辿り着く。
「あれ、人いんの? おっかしーなーまだ誰も居ないと思ってたのに」
惚けた顔で話すのは、一人の男。緩々としたパーマが掛かった長めの金髪に、顎髭を生やした男だ。
「なに、なんでいんの? もしかしてもうボス倒しちゃった? めんどくせーなーリポップまで1時間待たなきゃじゃん」
ポリポリと頭を掻き、如何にも面倒くさそうに話す。どうやら我らがボスを倒して帰って来たと思っている様だ。恐らく精霊の加護が掛かっているのを見てそう思ったのだろう。
「ら、雷帝!!」ユリが突如大声を上げる。
何やら知っている者なのだろうか。取り敢えずこれには一安心である。
「え? なに? 俺のこと知ってんの? あっちゃーめんどくせー」
男は驚いた様子でいる。だがユリの知り合いでは無かった様だ。にしても雷帝とは大層な名前である。
「雷帝とやらよ。少し勘違いしておる様だが我らはボスなど倒していないぞ。此処で鉱石の採掘を行っていただけだ。」
「あ、そうだったのか。勘違いしてたわ、教えてくれてありがとな。らっき~」
全く掴み所のない腑抜けた男である。しかし、レベルは我らと同等。それなりに強い様である。
「あそうだわ、ここに来るぐらいだし少しは強いんだろ? 俺と一緒にボス戦ってくんね? めんどくせーし」この雷帝とやらも同じ事を思っていたらしい。にしても会ってそうそう一緒にボス討伐とは、この男本当に変わっておるな。
「ん? あれ、もう一人いたの? って朔夜じゃん。あれ朔夜って俺と同じソロじゃなかった?」
やはり朔夜は有名なのか雷帝も知っておる様だ。だが朔夜目的でパーティに誘って来た訳ではないらしく、朔夜も嫌そうな顔はしていない。
「ソロやめた。雷帝こそ人を誘うなんて珍しい」なんと朔夜は雷帝の事を知っておった。
朔夜に知り合いが居たとは知らなかったぞ。
「まーそーなんだけど。時間掛かるしめんどくせーからな。それに今回のボスって最後に強くなるらしいじゃん?ってソロやめたのか。もしかしてこの前のボス三体ってあんたら?」
どうやらバレてしまった様である。まあ、こんな所でたった三人で採掘して朔夜も居るとなれば、そう思うだろうが。他の者にばらされては少し厄介である。
「あ、いーよ別に。他の奴には言わねーから安心しな、ま、言うべき相手っても狐白ぐらいしかいねーんだけどな、くはははっ!!」
何やら雷帝なる者は笑っておる。だが他言しないのであれば問題はない。それにしても狐白とやらは一体誰であろうか。まあ別にいいのだが。
「でも、だったら口止め料ってことで一緒に戦ってくんね。朔夜が仲間になるぐらいだしそれなりに楽できそうだわー」
そう来たか。まあ、別に黙っていてくれるのなら問題はないのだが。と、ユリや朔夜に目配せすると此方もうんうんと頷いていた。しかもユリは目を輝かせておった。ま、まさかこういうのがタイプなのかっ!?
「よ、よかろう。我は魔王だ雷帝よ! で其方がユリだ」
一応自己紹介はしておいた。我は寛大なのでユリの事も教えておいてやったぞ。
「へー、ユリに魔王かいい名前じゃん。それに魔王とかカッコいいな 」
「む、そうか、そうだろう! お主意外といい奴そうであるな。ふははは!」
そうして、我らは雷帝と共にボスへと向かう事となるのだった。
「して朔夜にユリよ。なぜ此奴の事を知っておったのだ?」
「よくエリアで会ったから。雷帝強い」
「なんでって朔夜程じゃないけど有名だからよっ。ソロプレイヤー最強の三人。因みにあと二人は朔夜と狐白さんだからね!」
どうやら雷帝とやらも相当に強いらしい。しかも、朔夜が強いと言う事は朔夜と同等、もしくはそれ以上だろう。
「ま、そういうこと」そう謂う雷帝と話したところ最近ボス討伐が止まってたから早くステージボスとかと戦いたいし、めんどくせーけど倒しにきた。と言っておった。
此奴の頭には面倒臭いか面倒臭くないか以外の思考回路は無いのだろうか?




