魔王は足切り鬼です
そうして、ユリや朔夜と共に屋台へ向かった我等であった。
「これ可愛い! うわっこれも凄い可愛い! すみませーん、これ幾らですか?」
ユリは目を輝かせて、露店に並ぶアクセサリーや小物を次々と物色している。朔夜も興味あるらしく一つ一つ丁寧に眺めておる様だ。
「可愛い...」
「わっ!朔夜さん綺麗だからそういうの凄い似合うよっ!!コ、コレも着けてみてっ」
綺麗な細工が施された髪留めを頭に当てる朔夜を見てユリはさらに目を輝かせる。朔夜も照れ臭そうにしていたが嬉しそうである。だがユリは朔夜をさん付けで呼んでいる様だ。うむむ同じ年の様だが何故であろうか?
因みに我はそんな二人を後ろから眺めているだけだ。少し暇ではあるが邪魔をすれば怒られるので黙っておいてやろうと云う事だ。ふはは、気の聞く男とはそういうものだ!
「どう...?」
「うんっ! すっごーく可愛いっ!! もう抱きしめたくなるぐらい可愛いっ」
「ありがと。ユリもこれ似合うと思う。」
朔夜はそう謂うと、模様が付いたセンス良い髪結いを渡す。流石一々美しい動作をするだけあって物を見る目も良いようだ。それを着けたユリも良く似合っていおった。
そうして二人は和気藹々、嬉々爛々と楽しそうに買い物を続ける。
――――だが其処に、その様な微笑ましい空気を壊す者共、いやクソ野郎共が現れおった。
「うわ君可愛いねっ高校生?」「俺らと良いとこ行かない?」「そこのガキなんかより大人の俺らの方が楽しいぜっ?」「なあ聞いてる?もしかして緊張してんの? ははっマジウケる!」
屋台街で楽しく二人が笑ったと思えばコレである。
男の癖に何やら綺麗に着飾った二十歳そこらのくそ餓鬼共が数人してユリに絡んできおって。しかも我の事を餓鬼だと? 舐め腐っておる...ユリが居なければ叩き斬ってやる所だぞ!!
しかも此奴らは、それだけでは止まらなかった。
「ってあの朔夜じゃん!? 気付かなかった!! え!ちょっ俺らとパーティ組もうよ! なんでこんな奴と組んでの? マジありえなくねっ」
如何にも中身も薄っぺらいと云った感じの茶髪が朔夜に気付きおった。朔夜は<隠密>を使って存在感を薄めているが、恐らく奴らがユリに話しかけた事で同パーティの朔夜も気付いたのだろう。
ガヤガヤ!ハハッ!!ワイワイ! と奴らは勝手に盛り上がり手を叩きながら笑う。
そして奴等の話しも落ち着いたと思われた直後、信じられぬ事にユリの腕を掴み引っ張りおったッ!!
許せんこの腐れ外道共が。だ、だがユリらは騒ぎを起こせば困る...どうすればよいのだッ!?
「って事でこれから一緒にホテル行こうっ。いいでしょ?俺ら全員君と遊びたいって。」
――――大人数で一人の少女を囲み威圧的に話しかける。
魔王がユリを見ると其処には怯えた表情を浮かべた少女がいた。
気が強いと言えど一人の幼い女子。数人掛りで大の大人に囲まれれば恐怖する。
「何をしておるのだあああ!!! クソ餓鬼共がああッ!!!」
そのおびえるユリを見た直後、魔王に頭の血管が弾ける程の怒りが湧き上がる。そして
――――ッドゴオオオン!!!
其処には露店の棚へと打ち付けられ驚きの表情を上げる男、もう一方には人の身長程はあろうかという巨大な剣を切り上げ掲げた魔王の姿があった。
「っ!! ナニすんだクソガキーッ!!!」
周りの男達は何が起こったか一拍置いて漸く理解すると、剣や斧を抜きその少年へと切りつける。
だがその攻撃は魔王に軽々と止められ、それどころか武器を弾かれ男達は吹き飛ばされる。
魔王は我慢ならなかったのだ、ユリを守る者として、友として...それは到底耐え偲ぶ事のできるものではなかった。
「っっ!! おいふざけんなよ!! 殺すぞ!!」
初めに吹き飛ばされた男は立ち上がり魔王を睨む。
「殺すだと? その言葉の意味が分かっているのか?」
魔王の我を殺すなど、お前自身が殺される可能性など微塵も感じておらぬ蛆虫が何を謂う...たかが脅しでお前等が使って良い言葉ではないぞ。
魔王は表情を変えず、ただ冷酷に殺気の込もった目で男を睨み返す。
「うっ...うるせえ!! 舐めた真似しやがって!!」
「おい大丈夫か? クソガキが、ぜってえ許さねえ」
「ちっ...なあ、こいつマジでブチ殺そうぜ...」
他の男達が起き上がり加勢すると、さっきより怒気を強めていた。
その時...
「ちょっと魔王っ!!」
ユリは我の手を掴むと、朔夜が走り案内する裏路地の方へと従い走る。
「ユ、ユリっ! どうし「いいからっ付いてきなさい!!」」
一体如何したと謂うのだ!? やはり騒ぎはまずかったか! くっつい怒りで奴を...
有無を言わさず手を引かれる。そうして3分程走り、ようやく我等が立ち止まった所は薄暗く人気のない裏路地の物陰であった。
「ちょっと魔王っ!! なんであんなことしたのよっ!!?」
ユリはどうやら怒っている。やはり街中で騒ぎなどまずかったか...朔夜も目立ってしまった...
「......」
朔夜も目立った事を気にしてか不安そうな顔だ。これは我の所為であろう。
「っ済まない。つい...だな」
「ついじゃないでしょっ!! あんな事したら魔王が狙われちゃうじゃない!!?...た、助けてくれた事はありが...とうだけど」
「わかっておる。ユリと朔夜には迷惑を...ん?......え? 今なんと?」
ユ、ユリがありがとう? 何故ユリが我に感謝するのだ!?...あれで良かったという事であろうか...ううむわからん!
「うっさい!! 私は怒ってるのっ! 魔王は謝るのっ!!」
やっぱり怒っておった。突然ありがとうなどと謂うからって凄く怒っておる!! ぐ...ここは素直に謝っておくべきか...怖いし。
「は、はい。...すみません、今後は気をつけます。」
「可哀想」
朔夜からそんな同情の声を掛けられた。優しいやつである。
――――「見ーつけた♪」
突如、背後から先程の男の声と十数人は居ようかという仲間達がゾロゾロと現れた。
「スキルか...」
居場所が突き止められた原因は恐らくスキル、索敵系のスキルを持っておった様だ...蛆虫の癖に小賢しい。
「てか人気のないところに逃げ込むなんてバカじゃねえの!?」
男達はニヤニヤと下衆い笑みを浮かべている。恐らくその顔同様クソみたいな事をしようと妄想しているのだ!! この者共、やはり我が殺しておくか...だがユリはきっと怒り悲しむ...くっ我はどうすれば...
「とりあえず、男邪魔じゃね?」「どうする? 決闘で殺るか、街の外は目立つしよ」「ああ。あの茶髪の女でも捕まえて脅すか」「もう一人は、あの朔夜だからまだ手だすなよ」
そんな声が聞こえた。ユリは再び緊張と焦りの表情をする。
その様な顔をユリにさせてはおけなかった。怒りがまた疼き蠢き溢れ迸る。
決闘システムを使えば街中でも戦う事ができる、恐らく男の一人が言っていたのはそういう事だ...ならば我がする事は一つだ。 この状況を打破し、ユリをこの場から離す、そして蛆虫等を半殺しにする。二度とそんな事を考えぬ様に...
「クククッフーッハハハハッ!!! 何をごちゃごちゃ話しておる。我が決闘を受けてやろう。全員纏めて相手してやるわ! おっと、そう言えば屑虫共が我を殺すと言っておったな。どうだ? 命を賭けた決闘でも良いのだぞっ?」
まずは挑発し、決闘に誘い込まねば...さらに命を賭けさる。奴等が死に恐怖し自らを蔑むまで追い込んでやろう...ユリを傷つけた罪、何があろうが許さんぞ!!
――――!!!?
魔王が嗤い謂うその言葉に一瞬周囲の時が止まる。十数人に囲まれた状況で揚々と全員を相手すると言ったのだ。ましてや命を賭けてもいいと。
この男は本当のバカかキチガイでしかない...男達はそう思おうとするが、ニヤつく笑みが固まり、顔が引きつる。
しかしこの状況で引くことなどできない。その徒党の集団は仲間である筈なのに、漂う空気が互いに互いを牽制し引くことを許さないのだ。
「クソ餓鬼共が。自らの命より蛆虫の如き腐り切ったプライドを取るとはな。」
「黙れ...黙れよおお!! 受けてやるっ!! メニューオープンッ! 決闘システム起動! 参加者パーティ! 対象選択ッ!! 決闘条件、制限無しッ!死闘!」
魔王の目の前に決闘対象、決闘条件などが描かれた光の板が浮き出る。すると魔王は悩むことなくそれを許諾した。
「ちょっと魔王っ!!...大丈夫なの」
っユリを心配させてしまったか...だが奴等の命を奪うつもりなど無い。
そんな価値などこやつ等にありはせんからな。
こやつ等の腐りきった命で、我に命を賭け挑んできた戦士達の価値を下げることなど許されんのだ...
「大丈夫だ。ユリが悲しむような事はせん安心しろ。済まぬがアレを頼む。」
「っつ!そっちの心配じゃないわよ!......」( <精霊の加護> !!)
そして魔王の周りに半透明の結晶が現れる。
「それと朔夜、済まぬがユリを一時遠ざけてくれぬか」
朔夜に向け声を掛けていた魔王の身体が、突如透明な結晶に覆われる。ユリは朔夜に連れられ、文句を言いながらも離れていった。
うむ...これで一先ず場は整った。ククッ...ククククッ先程の行為、死ぬほど後悔させてやるわ!!
因みに称号により得られたスキル<精霊の加護>は決闘時でも使用できた。恐らく通常のスキルとは異なる存在だからだろう。その理から外れているのだ。この事は朔夜との組手時に確認してあったのだ。
「お、おい!! 何をしやがった!! ひ、卑怯だぞ!!」
魔王に掛けられた保護魔法を見てそんな声が上がる。
「一体何が卑怯だというのだ。ククッまさかその人数で掛かってきて卑怯と申すのか? 蛆虫程度のプライドかと思ったがそれ以下だな。」
魔王はさらに挑発する。男達も流石にそれには怒ったのか顔に青筋を立てて武器を抜く。
そうして遂に、両者の戦いが幕を開けた。
狭い路地での戦闘は男達の思う様にはいかなかった。取り囲もうにも男の巨大な剣からは距離を取らねばならず、しかも背後は建物の壁が邪魔をしてこれ以上下がれないのだ。
「ちっ!! クソガキが死ねえ!!」
一人の男は堪えられず、軽槍片手に突撃する。
軽槍とは所謂、最も一般的な槍である。
細い棒の先に尖った金属の刃が付いたリーチとスピードを生かす武器だ。
「遅いッ」
魔王はその突きを軽々と躱し、足元へと一本の大剣を振るう。
そして賺さず蹴りを放ちその男を吹き飛ばす。
ズバンッ!!ドッ!! その一撃は、男の踝から下だけをその場に綺麗に残していった。
「ぐああああああ!! ぐぎゃあぐあがあああ!!!!」
声にもならない様な叫びが聞こえる。
「ふったかが足を切られたぐらいで大げさな」
制限無しの死闘では、痛みや部位の切断などが可能なのだ。つまりデスゲーム開始後の街外と同じ状態である。と言っても回復すれば手や足も元に戻るのだから優しいものだ。
しかし、その一撃は完全に空気を魔王のモノへと変えた。
その後は悲惨なものだった。泣き喚き散らしながら逃走する者。腰を抜かし嗚咽しながら地面を這いずり逃げる者。遠くから魔法を放つが恐怖の余り魔王の横を通り過ぎ、仲間に当てる者。
それらを淡々と作業の様に刈っていく。その両足をだ。
そして、最後の一人。最初に話しかけた茶髪の男の前に魔王は立つ。
「ゆるじでっうえっ...ずみまでんずびばでん。...おうえっうえっ!」
「何をしておる?さあ早く立て。お前は決闘を申し込んだのであろう?」
汚く泣き崩れおって...こやつ等は醜く下等だ。
自らが命を掛け戦っていた事に気付いてすらいない...弱気人間の分際で、恐らく命の危険に晒されることなど無い甘っちょろい世界でのうのうと生きてきたのだろう、これが我に挑み葬ってきた者や単身魔王城へと攻め入ってきた勇者と同じ人間だなど許される筈がない! この蛆虫共が!
「むびでずっ...うっ無びでず、ずいまでん。だずけで...だずげでぐだ「いいから立てッ!!...それとも今すぐその首を狩られたいのか」」
魔王の怒号に男は慄く。有無を言わさないその言葉に男は震え砕けながら立ち上がる。
「お前は殺すと言ったのだ。お前の様な覚悟を持たぬ者が簡単に口にして良い言葉ではないっ!!」
男はビクッと身体を震わせ穴という穴から汚物を垂らし何度も何度も頷く。
全くこいつを見ていると心が腐って行く気がする...これがユリやあの者達と同じだと云うのが心底胸糞悪いのだ。
「見るに耐えんな...もういい。お前とはちゃんと決闘をしようか思っていたがその気も失せた。」
その言葉に男は安堵する。だが、それを表情に出さぬ様、懸命に演技をする。しかし、
ズバアアアン!!!ボドンッ!!
「ぐぎゃがああああああッ!!!!!!!」
酷く汚い叫び声がその場に木霊する。
「醜い...我は今、<人間感知>により嘘がわかってしまうのだ。まあ、お前のその大根演技には必要なかった様だがな」
小賢しい真似を、人間と謂うのは本当に中身はそれぞれなのだな...魔族よりも振れ幅が圧倒的に大きいぞ。何故ここまで同じ種族で違うものなのだ...生まれ持った差か、それとも生きて培ってきたものか。だが僅か十数年、しかもその内の僅か一時で人は変わるのだ。それは弱く儚い命故か、全く不思議なものである。
因みに<人間感知>でプレイヤーの嘘などが感覚的に分かるのだが、他にも対プレイヤー戦闘、PvPなるものにおいてはその攻撃の気配などが読める様であった。これらはユリや朔夜と組手をしていた時に判明した事である。
――――そうしてこの後魔王は決闘システムを解除し全員の回復を起こなった。
高価な回復薬をこんなクソ共に使ってやるのは嫌だったが、ユリに見せる訳にはいかないのだ。
そして全員を並ばせ我はユリ達を呼んだ。殺したと思われては後が怖いからな。
「「「「す、すみませんでしたーっ!!!」」」」
事件は一件落着した。
かの様に思えたが事件は噂となって広がり、女を無理やり誘った者や、襲おうとした者の前には、「足切り鬼」なる者が現れ足を切られるぞー...というSSS都市伝説となったのだった。




