表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
32/34

第27章 並んで立つ 後半



 右腕が熱い。 じくじくと、脈を打つように熱が巡る。

 真っ白な世界。 ディアンは、自分の右腕が消えていることに気づいた。


 白い靄の奥から、誰かが歩み寄ってくる。

 痩せ型で弱そうな。

 いつもバカにしてきて、煩わしく絡んできてた――

「よぉ、ディアン!」

 ゾランが、いつもの調子で片手を上げた。

 ディアンが固まっていると、馴れ馴れしく肩に腕を回される。

 だけど、触れられない。

 その腕は、透けていた。

「元気してたか? 泣いてたかぁ?」

 ゾランは全く気にしていない様子で、バカにするような声色を出して笑う。

 ディアンは状況が読み込めず、ただただゾランを見つめることしかできなかった。

「……ゾラン……」

 それだけしか、呟けなかった。

 言いたいことが、たくさんあるはずなのに。

 頭がぼんやりして、うまく言葉にできない。

 ゾランは、少し困惑したように頬を掻いた。

「あー、その、なんだ」 

 少し言いづらそうにする。

「ディアン。こっち、来るか?」

「え……」

 ゾランの言っている意味が、少しだけ理解できた。

 優しい茶色の目が、真っすぐ向けられる。

「お前が望めば、そうなれる。独りにならねぇ。

 ……お頭も、渋い顔して待ってる」

「……親父が……」

 ディアンの気持ちが傾く。

 置いて行かれた。

 でも、ゾランが迎えに来た。

 見捨てられたわけじゃなかった。

 

 ――……ン。


 靄の外側から、誰かの声がした。

 ゾランにも聞こえているようだった。


「あいつとは、もう二度と関わらなくて済むぜ」

「あいつ……?」


 静かなのに必死な声が途切れて聞こえてくる。

 ディアンの脳裏に、白い制服が浮かんだ。

 ゾランが肩から手を離し、正面に立つ。

「選べよディアン。お前は、どうしたい?」

「え……?」

 ゾランは手を伸ばした。

「……」

 

 行きたい。

 ――でも。


 ――を……てくだ……、ディ……。


 必死そうな声が、妙に胸に引っかかり――暖かかった。

 ディアンは、小さく噛んだ。

「――俺は……」

 いいのか? 

 そっちで。


 言葉が続かないディアンを見て、ゾランの目に少しだけ影が落ちる。

「復讐の続きでもやるのか?」

 ディアンは、首を横に振った。

「あいつらは、ただのコマで……、

 殲滅命令を出した、かしらのグーリッジは殺った。だから――」

「情が移ったのか」

 冷たい声だった。

 ディアンの息が、一瞬詰まる。

「無理するな。こっちへ来い、ディアン」

 今度は優しい声だった。

 

「――俺は、そっちには……行かねぇ」


 ディアンは、拳を握って、はっきり言った。

 独り、じゃない。

 あまりに真っすぐなクレディスの声が、頭の中に響いて離れなかった。

 

「……そっか」

 頷いたゾランが、ディアンの右腕に触った。

「……お前が決めたことなら、それでいい」

 ゾランの口元がにやりと上がった。

「これで、気兼ねなく追い出せるって、お頭も言ってるし」

「親父も、そこにいるのか?」

 ゾランは頷いた。

「親父……怒ってるか? 復讐、できなくて……」

「教えねぇよ、バカ」

「でも……」

 ゾランが右腕をドンと蹴った。

 そして誰かと話しをするように、何もない空間を見つめて、頷く。

「お頭が、冥界に帰るついでに、こいつも連れて行ってやるってよ。

 感謝しろ」

「え――」

 右腕を掴み、引かれる。

「い――ってぇ……っ!」

 バリバリっと皮膚が無理やり引きはがされるような激しい痛みが脳を焼いた。

 思わず右腕を引き寄せるように動かし――触れた。

 

 戻っている。


 それに、もうゾランの姿も声も、認識することが出来なくなった。

「……行ってくる」


 目の前の白い光が強くなる。

 ディアンは、一歩、踏み出した――。



 瞼をゆっくり持ちあげる。

 はっと息をのむ音。

 藤色の瞳が、透明な涙を流した。

 右手が、暖かい手で包まれている。


「――クレディス……」

「――っ!」


 あれだけ強いのに。

 脆い。

 あれだけ憎かったのに、

 なんでだろう。

 隣にいてくれるだけで、安心できるのは。


「お前……うるさいんだよ」

 ディアンは、にやりと笑った。

「……当然です。寝すぎなんですよ――あなたは」


 風が吹く。

 クレディスの髪をふわりと持ち上げ、ディアンの視線を奪った。

 視線の先、広場の奥に、

 白いポルルージュが揺れるのを、見た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ