第17章 グーリッジ
クレディスに、指示書を持たせた。
あの貴族のこまごまとした悪事を調べ上げた令状。
グーリッジは、椅子から立ち上がった。
今思い返しても、忌々しい――
あの日の出来事を、思い返しながら。
*
つい一週間ほど前の、皇族パーティ。
その警護にあたっていた日。
「実は――国の宝が一つ、貴族の屋敷から盗み出されたようでして」
煌びやかなシャンデリアの光が遮られる一角で、
アルトゥールと名乗った貴族が口を開いた。
「それと同時に、白髪の子供を狙う動きも見受けられます」
不覚にも、眉が動いた。
アルトゥールは目を細めて、言った。
「王冠が戻れば、白髪の子供を狙う理由も薄れるでしょう。
急いだほうがいい。
あなたの不在時に――いつ、何が起こるか分からないので――」
グーリッジは寸でのところで舌打ちを抑えた。
そこのバカが聖騎士団団長に脅しをかけるのか。
だが、一理ある。
レイビスを守ることにも繋がるのなら、殲滅は必然。
私情ではなく、公務で判断した。
王冠は取り返した。
だが、それで終わらなかった。
後日、屋敷に図々しく上がり込んだ貴族は、企みを含んだ声色で、
一部正しいことを言った。
『秩序を保ち、国の繁栄を願うのであれば、腐りきった貴族どもの緩い管理などではなく、あなたが管理するべきだ。
……あくまで、極秘裏に』
そしてその日に、杯の情報を渡してよこした。
どこまでもふざけている。
だが同時に、納得した。
管理、保管はしてやる。
やるなら徹底的に。
――もちろん、あの貴族が所有している古剣も含めて。
*
ひとつ、ため息が漏れた。
レイビスを利用して、騎士団長をコケにしたツケは責任をもって払ってもらう。
だが、それ以上に看過できない問題があった。
先程のクレディスの報告だ。
グーリッジは窓辺に立った。
聖騎士本部への侵入者。
その正体など、どうでもいい。
問題は、その存在をクレディスが隠したことだった。
これで二回目だ。
歪んでいる。
誰かが、歪めている。
盗賊団の一つを殲滅する程度で、揺らぐはずがない。
迷うことなど、ないはずだった。
グーリッジは、デスクの引き出しを開け、
名簿をペラ、ペラ、と捲っていく。
そのページで、手を止めた。
パルチェス・フィジス。
こいつの素行、信条、態度。
なにをとっても、毒にしかならない。
グーリッジはふん、と鼻を鳴らすと、
その紙を除隊のファイルに滑り込ませ、デスクに鍵をかけた。
(――あれは、剣だ)
そして、秩序そのもの。
貴族も、
クレディスも。
すべての歪みは――明日、解消する。
これは必要な秩序の統制。
そのはずだ。
(――お前なら、どう正した?
……ファラード――……)




