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151話 アズリア、騎士の悲惨な結末

 だが、気付かれず間近にまで接近を果たした動く屍体(ゾンビ)が、アタシに触れる事は無かった──何故なら。


炎の矢(ファイアアロー)っ!」


 戦闘に参加させまいと、後方に控えて貰っていたランディが魔法を発動させ。

 アタシの足元に忍び寄っていた動く屍体(ゾンビ)を狙い撃ちにしたからだ。


 突如、ランディが魔法を放った事と。その炎の塊が描いた軌道にまずは驚いたが。


「う、おッ⁉︎」


 炎が炸裂した地面へと視線を落とすと、まさに眼前には足元を()動く屍体(ゾンビ)の上半身が燃え上がっていたが。

 問題は、アタシとの距離の近さだ。


「──ッて、こりゃ動く屍体(ゾンビ)?」


 あと少し、ランディの魔法が遅れていたら。動く屍体(ゾンビ)が伸ばした腕がアタシに届いていたかもしれない。

 いくら動く屍体(ゾンビ)の怪力とはいえ、単純な力なら負ける算段はない……が。動く屍体(ゾンビ)の接近に気付いていなかったアタシが不意を突かれれば話は別だ。


 アタシは今度こそ、燃え盛る炎の中で動く屍体(ゾンビ)が動かなくなったのを確認した後。

 知らずの内に迫っていた危機を救ってくれた男へと、視線を移すと。


 魔法を発動した直後だというのに、まるで何事もなかったような態度のランディは。

 呆れた表情をアタシへと向け。


「全く、肝心なところで抜けてるんだよな、お前は」

「わ……悪りぃ、ッ」


 今、アタシが戸惑いながらも口から出た言葉は、紛れもなく本心からの謝罪だった。


 先程、ランディ本人からの説明を聞いたように。強引に魔法の待機時間を短縮する、という無茶はおそらく何かしらの代償を必要とした。

 その代償を払った結果こそ、簡単な「炎の矢(ファイアアロー)」を放った直後に見せた、肩を上下し息を荒げる程の疲労なのだ。


 だからこそ、ランディの体力回復を最優先するという理由で。つい直前にはアタシ自らが、ランディの参戦を拒んだばかりだっただけに。

 休息を取ってもらうべき当人(ランディ)の手を(わずら)わせ、魔法を使わせてしまった事態に。アタシは咄嗟(とっさ)に謝罪以外の言葉が出てこなかったのだ。


 ならば、これ以上手を借りる訳にはいかない。


 つい直前に腰を粉砕した動く屍体(ゾンビ)は二体。

 その一体が今、ランディが放った魔法で燃やされたとなれば。脚を失った残る一体が、まだ何処(どこ)かで地面を()っているだろう。

 アタシは、その残骸を探すため周囲に視線を巡らせた。


「──見つけたッ!」


 おそらくは、先のアタシの一撃で吹き飛ばされた方向が違ったためか。上半身のみの動く屍体(ゾンビ)を発見した位置は、まさに今炎上中の動く屍体(ゾンビ)とは離れた場所だった。

 アタシは早速、発見した動く屍体(ゾンビ)へと駆け寄って行くと。今度は頭を踏み潰すのではなく、後方へと脚を大きく振り。地面で藻掻(もが)動く屍体(ゾンビ)の頭を渾身の力を込め、力を溜めた脚を振り抜き──蹴り飛ばしたのだ。


 アタシは頭のみを遠くへと蹴り飛ばす想定だったが、蹴りの威力が強すぎたのか。


「──あ」


 脚の(すね)に、硬い頭蓋(ずがい)が割れる感触。続けて動く屍体(ゾンビ)の頭を覆っていた腐肉が崩れ、頭部は細かな破片となって砕け散ったのだ。

 幸運にも、アタシが蹴り飛ばそうとした方向にはランディも。味方の兵士やワイラーら岩人族(ドワーフ)も含め、誰もいなかったが。

 もし味方が蹴り飛ばした側にいたなら。バラバラに砕けた動く屍体(ゾンビ)の腐肉や骨片を全身に浴び、戦場は悲惨な状態になっていただろう。


 いや、(ただ)一人。蹴り飛ばした先、しかも至近距離で座り込んでいた人物がいた。

 アタシに絡んできた挙句、一度は救援を拒み二人を失った伯爵家所属の名も知らぬ騎士、その最後の生き残りだ。


「や、やめっ! ぎゃあああああ⁉︎」


 まるで断末魔を思わせるような絶叫を響かせながら、盛大に飛び散った動く屍体(ゾンビ)の破片が逃げ場なく直撃し。騎士の全身がみるみる腐肉で汚れていく。

 ──が、アタシは別に悪いとは思わなかった。

 (むし)ろ、アタシの最後通告を拒んだばかりに二人の騎士は死ぬだけでなく。死んだ後も動く屍体(ゾンビ)へと変貌(へんぼう)させられ、言わば「二度殺された」のだ。

 二人が辿った末路に比べれば、腐肉を全身に浴びる程度、何の事はない。


 それに……騎士は叫び声を上げていたが。口を開けていたら、腐肉の飛沫が口に飛び込む可能性すらある。

 腐汁(ふじゅう)を浴びるだけで、熱病や傷が()む危険があるのに。それを飲み込んでしまったなら、危険はさらに増大する。


 まあ、アタシには関係ないが。


 それよりもアタシが気になったのは、動く屍体(ゾンビ)の頭部を破砕してみせた蹴りの威力だ。


「……やっぱり」


 アタシの力が増してしまっている。

 これまでの力加減ではまるで追いつかない程に。


 膂力(りょりょく)──腕力や脚力が増大する事は、一見すれば有利な事しかないと思える。

 腕力が増せば、一撃の威力は上がるし、重量ある武器を扱うのも容易(たやす)くなる。脚力が上がれば、それだけ瞬発力も高くなり、自分に有利な距離を維持する力にもなる、等。「敵を倒す」というただ一点にのみ目的を絞れば、これ以上ない長所と言えるだろう。

 しかし一方で、力の加減や制御が利かないという事は。

 周囲との協調を取れず、無為に敵の生命を奪ってしまう結果に繋がるし。何より戦闘時以外の日常では、あらゆる場面で不便を()いられてしまう。

 実際、アタシが養成所に入所して半年間。力の加減が利かずにランディら三人や、その他訓練生にも。模擬戦の際にやり過ぎてしまったり、散々迷惑を掛けてきたのが身に染みていたからだ。


 だが──今は、身体の異常を(かんが)みる時ではない。

 騎士が引き連れてきた動く屍体(ゾンビ)は、まだ二体残っていたのだから。


「あ、危ねぇ危ねえ? ここで考え事なんてしたら、さっきの繰り返しじゃねえかッ!」

 

 アタシはほんの一瞬だけ、自分の身体の異変について思案を巡らせようとした自分の頭を左右に強く振り。

 頭の中から、今だけはその悩みの種を追放すると。


 自分の悪癖への憂さ晴らしとばかりに、残る二体の(なか)ば焼け焦げた動く屍体(ゾンビ)を睨み付け。

 力の加減がまだ利かない両脚で地面を蹴り、握っていた両手剣(グレートソード)の有効範囲に捉えるために前方へと跳躍すると。


 その両手剣(グレートソード)を一閃。


 焼け焦げ、動きがさらに鈍重となった動く屍体(ゾンビ)にその剣閃を回避出来る筈もなく。重量のある剣刃は見事に首を捉え、一撃で首の骨を両断、頭部を胴から斬り離す事に成功した。


「これで残るはあと一た──」


 動く屍体(ゾンビ)の首を()ねたアタシが、最後に残る一体へ視線を向けた瞬間。


 視線の先にいた動く屍体(ゾンビ)の手足、それに胴体や首が突然、両断されて地面へと崩れ落ちていく。


「……へ、ッ?」


 アタシはまず、背後にいたランディがまた魔法で動く屍体(ゾンビ)を倒したものかと疑ったため、思わず振り返るも。

 目が合ったランディは、アタシの意図を察したのか。それでも手と首を左右に振り、魔法を発動した事を否定してみせる。


 確かに炎であれ、風の刃であれ。魔法を発動させたのなら、その描いた軌道を目の当たりにする筈だが。

 今回は魔法の痕跡を、アタシは一切見る事は出来なかった。


「じゃ、じゃあ一体、誰がッ?」

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