三度目の正直
科学は「自然の斉一性」というものを認めているらしい。
要は「昨日も今日もお日様が東から昇ってきたなら、明日だってお日様は東から昇ってくるはず」という考え方だ。
根拠のない仮定だが、そういった仮定を積み重ねて科学は育ってきたのだという。
高校で物理を担当している白石先生が言っていたことだ。
当時の俺は「当たり前だろ?」と思ったものだが、今ならわかる。
それまで何度も起こっていたことが、ある時を境に急に起こらなくなる。
そういう考えを抱くことはとても不自然なことなのだ。
二度あることは三度ある。三度あることは永遠にある。
俺は足下で光る魔法陣を見て、自分が本当に時間ループに巻き込まれていることを確信した。
「おお、成功した……」とかなんとかヨルが目を輝かせて言っているが、構わず俺は魔法陣からつかつか歩み出る。
頭が割れるように痛いし、お腹は煮えたぎるように熱い。
今までのループで飲んだ酔い止め薬とやらの効果はまったく感じられない。
リセットされるのと同時に、肉体は召喚酔いの状態に戻っているようだ。
召喚酔いの苦しみをぐっと堪え、俺は真顔をキープする。
ちょっと取り乱しただけでも、ラートにボロクソに言われるからな。
こちらの動向に目を見張る三人――ヨル、ペオル、ラート――の前で立ち止まり、俺は言った。
「ペオルさん、薬品庫から酔い止め薬を持ってきてくれ」
毎回あの薬飲んで即死んでるから、そもそも効き目があるのかどうかわからないけれど、それでも頼りたい。頼るしかない。苦しいときのペオルさん頼み。
「えっ、えっ、わたし!?」
ペオルは驚きながら、俺の顔とヨルの顔をキョロキョロと見比べている。
勇者の俺に従うべきか、上司のヨルの判断を待つべきか、迷っているのだろう。
「頼む、急いで」俺は頭を抱えて顔を顰める。「召喚酔いが酷いんだ」
俺のダメ押しを聞いて、白いローブを翻すペオル。
「行くな、ペオル」と、ヨルがそこにストップをかける。
ヨルは丸眼鏡を光らせ、俺に尋ねる。
「勇者どのよ、どうしてそこの侍者の名前を知っておる?」
俺は少し考えた。
正直に答えれば、前回のラートのように、俺を狂人扱いするかもしれない。
偽るにしても、どういう言い訳を考えたものだろうか。
逡巡する俺を見て、ヨルはにんまりと笑みを浮かべた。
「既に遡ったのか?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓がドクンと跳ね上がった。
気付いたときには、ヨルの黒いローブに掴みかかっていた。
「ヨル! お前、この現象を――」
ヴンッ、という風切り音。
「動くな貴様!」
甲冑女ラートが斧槍を一閃したのだ。
「馬鹿者!」ヨルがラートを叱責した。「斬った後に言う奴があるか!」
「へ?」と空気の抜けるような音を出したのは、俺の喉だ。
視界がぐるぐると回転した。
意識が途切れる直前に見たのは、首のなくなった俺の身体だった。




