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三分

幸先さいさきがいい。


一度は諦めかけていた目的――酔い止め薬を自力で、それも最速で手に入れる――を果たすことができた。

頭からは完全に召喚酔いの影響が消え去り、雲ひとつない空のようにすっきりと晴れ渡っている。

ちょっとした達成感でテンションも高まり、絶好調だ。


神殿のヨルたちは未だに何が起こったかすらわかっていないだろう。

追手が来るのにはまだ時間がかかるはずだ。


隕石落下までの残り時間は、9分。


いいぞ。時間がありすぎて困るということはない。

今のコンディションでこれだけ時間があれば、どんな困難も乗り越えられる……はず。

ポジティブ・シンキング大事。


「逃げて、生き延びる――生き延びてやる」


俺は薬品庫の一階に降り、床の隅に目をった。

そこには無造作に大小の木箱が並べられている。

蓋をされ、固くロープで縛られた木箱たち。

俺はそのうちのひとつに近づき、梱包しているロープを手早くほどく。

箱の中には赤いポーションの瓶が詰められている。中身は謎だ。


俺はロープとポーションを手に携え、窓から薬品庫の外に出た。


人影もなく、静けさに包まれたツェンテル通りを奥へと進む。

倉庫の壁に並ぶ松明の火が、ゆらゆらと揺れている。


門が見える曲がり角で、俺は立ち止まった。


壁際の松明めがけて、俺は結び目を作ったロープを投げ飛ばす。

ロープが、燭台の載った腕木に引っかかった。

反対側の壁にも同様、投げ縄の要領でロープを引っ掛ける。


俺の頭上でぴんとロープが張る。


さらに、道の両側の松明にポーションの中身をぶちまけ、火を消した。

曲がり角の周辺だけ、暗闇が落ちる。


準備完了――俺は門へと走りだした。


ツェンテル通りの最奥の門(たぶんツェンテル門とかそういうの)では、

いつか俺を捕まえた伝令が、馬に乗ったまま、門衛と会話をしている。

俺のいる場所からは会話の内容までは聞こえず、

入門手続きなのか単なる世間話なのかまではわからない。


俺はわざと足音を大きく立て、明かりの下に姿をさらした。


「ん?」馬上の伝令がこちらを向いて叫んだ。「何者だ!」


「しまった!」とわざとらしく声を上げ、俺は回れ右をした。


「待て、逃げるな!」


俺は振り返らず、来た道を駆け戻る。

背後からは伝令の馬が近づいてくる。

そして蹄の音が曲がり角を過ぎたとき、


「ぐわっ!?」


――ドサッ


伝令の呻き声とともに、大きな物が落ちる音がした。


俺はUターンして物音がした場所まで戻る。

地面に落ちたカンテラが、伝令の惨めな姿を照らしていた。

見事にロープのトラップに引っ掛かってくれたようだ。

主を失った馬も、困った様子でその場に留まっている。


「いてて……いったい何が……」


地面に寝そべっている伝令がまだ意識を持っていたので、

剣を奪って兜越しに頭を殴った。


――ガンッ


「フガッ!?」

「悪く思うなよ」


伝令の身体から鎧を剥いだ後、引きずって倉庫の陰に隠しておいた。

俺は伝令の装備をそっくりそのまま身につける。


「さて、俺がお前の新しいご主人様だ」と、馬を撫でる。「大人しくしてくれよ」


おそるおそるあぶみを蹴って、俺は馬の背中に乗った。

鎧の匂いのせいだろうか、馬は拒絶の様子を見せない。

そういや、家で飼っていた柴犬は、誰にでも尻尾を降っていたな。

チョロい動物ほど可愛いものだ。なんだかこの馬に愛着が湧いてきた。

うむ、ポチと名付けよう。


こうして、おそらくはこの世界での最速の移動手段、ポチが手に入った。


馬に乗った経験?


ないない。あるわけがない。


乗り方なんて、おいおい覚えていけばいいんです。


これからよろしくね、ポチ。


〈21:23〉


……視線が思ったより高くて怖い。

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