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一分

〈21:20〉


召喚された瞬間、俺はヨルたちから顔を背け、90度右に走りだした。


「おおっ!?」

「逃げる気か!」

「だめ、そっちは!」

ヨル、ラート、ペオルの三人が口々に叫ぶ。


広場へと続く階段は、三人の向こう側にしかない。

神殿は大きな岩山の上に建っていて、

他はどこを向いても切り立った崖があるのみだ。


俺は柱の間を走り抜け、大理石の床から虚空へと飛び出した。


――ドクン


心臓が高鳴り、周囲がスローモーションに見える。

真下の地面までの距離は、目測で15メートル。

五階建ての校舎から飛び降りるようなものだ。


ダッフルコートが、風を受けてブワッと宙に広がる。


放物線を描いて落ちるその先には、背の高い、樫に似た木。


俺は両手で木の枝を掴み、猿のようにぶら下がった。

枝はほんの一瞬だけしなって俺の全体重を支えると、

すぐにボキリと大きな音を立てて根本から折れた。


枝を手放し、再びしばしの自由落下。


爪先に硬いものが触れる。

俺は身体を捻り、足と膝で衝撃を受け、ごろごろと転がる。


転がる勢いで屋根から落ちそうになるが、

へりを蹴って速度を殺し、どうにか踏みとどまった。


服に着いた埃を払い、立ち上がって辺りを見回す。


足下の屋根瓦が覆っているのは、赤煉瓦の建物。


――何を隠そう、薬品庫である。


なんとまあ、薬品庫は神殿の裏にある崖の真下に建っていた。

将軍の館で地図を見て初めて、俺はこれに気付いたのだった。


灯台下暗し、とはこのことである。


今までも広場を経由してツェンテル通りに行くたび、

倉庫の裏手に崖がそそり立っているのは見えていたが、

まさかその上に神殿があるとは思いもよらなかった。


階段を降りて道を行ったり来たりするうち、

俺は結局元いた方角に戻っていたわけだ。


ま、高低差があるのだから気が付かなかったのは仕方ないか。


というか、気が付いた後も高低差のおかげでかなり苦労した。


助走が足りず崖と倉庫の間の地面に叩きつけられたり、

うまく受け身を取れなくて脚を骨折したり、

屋根から落ちて頭を打って意識を失ったり、

命が幾つあっても足りない――と言いたいところだが、

命が幾つもなきゃ、こんなサーカスの真似事やる訳が無い。


痛みや恐怖は何度ループしても薄れることはないのだ。


たぶん、召喚されたばかりの俺ならすぐ諦めただろう。


だが、その後でラートにしこたま苛め抜かれたおかげか、

俺の頭のネジが一本外れてしまったようだ。

痛みや恐怖を上回るだけの、執念と度胸が身についた。


ある意味、ラートに感謝しなきゃな。ペッ(唾を吐く)。


さて、倉庫の屋根には三角形に突き出た小屋根ドーマーがあり、

小屋根ドーマーには換気用のためか木製の鎧戸が付いている。

俺は腐りかけの鎧戸を蹴破り、薬品庫の中にするりと侵入した。


酔い止めポーションは相も変わらずドクターペッパー味。

しかし、このときばかりは格別に美味しい気がした。


〈21:21〉


細やかな勝利の味である。


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