第七話
「そ、それは……跡継ぎを産み、育てること…ではございませんか?」
「……っ!」
岬さんのおっしゃることはごもっともです。
私はふと、男爵家にいたときのことを思い出しました。
使用人の私に偏見をもたない緑さんという40代の裁縫女中がおりました。
緑さんは食事よりも酒が好き。お給金はすべて酒に消えてゆく。いつも呼気が酒臭いけれど、人に迷惑をかけることはない方で、私にいろいろなことを教えてくれました。
「園さん、嫁いだらそれで終わりと安心してはいけません」
「えっ」
「お相手に気に入られて跡継ぎを産む。そこが大事」
「そ、そうですか…」
岬さんも緑さんも同じことを仰いますのね……。
ということは、非常に重要なことなのでしょうと、頭の中に書き記します。
ただし、恋愛経験もない私が。不健康極まりない私が。
跡継ぎだなんて。夢のまた夢のお話です。
私が考えこんでいる間に、岬さんがお茶を入れて持ってきてくださいました。
「すみません、少々言葉が過ぎました……」
「いいえ。岬さんのおっしゃる通りです」
思えばこうやって岬さんと共に過ごす時間は今日までありませんでした。
そこで私は、思い切ってこれまでの生い立ちを岬さんにお話してみたのです。
「──蔵で過ごし、貴族の娘さんにもかかわらず使用人のように過ごしてこられたと……」
一通り話を聞かれた岬さんは、驚いたお顔をされました。
「奥様が、ここまで家事手伝いに長けている理由がしっくりきました」
「使用人としての振る舞いが身に染みてしまっているのです。これでは貴族の妻としては失格ですね」
「そんな風に仰らないでください」
「えっ」
岬さんは眉を下げながら、親しみを感じるようなお顔で私を見つめました。
「不謹慎ながら私、奥様と近いものを感じまして……。応援させていただきたくなりました」
岬さんが私と近いものを感じた理由は、彼女も口減らしで都会に出され、働く場所を転々としてきたせいだからだそうです。お互いのことを少し知ることができたので、私は炊事・洗濯・掃除などの仕事も引き続き手伝わせていただくことにしました。それでもしないと退屈かもしれませんし。
さて、その夜、馨さまが帰宅されました。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
そのまま、私は部屋まで荷物を運び、馨さまに家用のお召し物を手渡しました。
「お夕食になさいますか?」
「ああ」
「では準備してまいります」
下がろうとしたとき、
「おい、部屋に入ったか?」
と怒気を含んだような声で馨さまが尋ねました。
連日昼間に、軍服の手入れやベッドのシーツをきれいに整えておりますが、馨さまは勝手に部屋に入られるのを好まなかったかもしれません。
「はい。申し訳ございません……」
いつもの癖が出ました。怒られる前に先に謝罪をする癖です。
「なぜ、謝る?」
「えっ」
そう思って振り返ると、馨さまは、私がいることもあまり気にせずに、着流しの寝巻に着替えておりました。胸元がまだ大きく開いたままでしたので、思わず目を伏せます。
「近頃、部屋の空気が澄んでいるなと感じただけだ」




