第六話
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私──駿河岬は10歳のとき、口減らしで東北から帝都に上京しました。
浅草の旅館の住み込み女中として、炊事・洗濯・掃除をしておりましたが、
旅館の主人が亡くなられ、店をたたむことになり、女将さんに身元保証人をお願いし口入屋に登録しました。その結果、使用人が50名もいる油小路家の台所女中に雇われたのです。
仕事で周囲に迷惑をかけることはありませんでしたが、『口入屋からの斡旋』というのが、侯爵家にとっては、よろしくなかったようです。
本来、侯爵家の女中は、縁故者やご主人様の斡旋など、身元がきちんとした方々が集められます。
私が雇われたのは、ちょうど流行り病で多くの方がおやめになった時期。
猫の手も借りたい時期に雇われた私は、執事長が急を要すと言って、家政長の許可なく雇った事情もあり、どうも、女中の中では浮いた存在となってしまいました。
そんな折、侯爵家の長男である白髪の呪いを持つ馨さまが結婚を機に家を出ることが決まり、新居の住み込み女中の募集がかかりました。
「誰が好き好んで呪われた主に仕えますか」
「そうよ、もしも呪いが移ったら大変じゃありませんか」
「いくら今の3倍のお給金がいただけるとしても、ねえ?」
誰も志願するものはおりません。
その結果、私に白羽の矢が立ったのです。
「あなたが女中に志願なさい。もしも断るのなら、ここを出ていきなさい」
そして馨さまの元で住み込み女中としての勤務が始まりましたが、さらに私を驚かせたことがありました。それは、奥様までが白眼の呪いをお持ちだったことです──
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体調が回復してから毎日、私──園子は私なりにこの家でできることを探し、まずは炊事・洗濯・掃除をしっかりと行いました。
お仕事を終えて帰宅した馨さまに少しでも気分よくお過ごしいただきたい。その一心で、室内やベッドはいつも清潔に、替えの軍服や軍帽の手入れも欠かしません。
ところがある日のこと、岬さんが困ったお顔で声をかけてきました。
「あの…奥様」
「えっ?」
「そこまでなされては、私の仕事がなくなります」
「……!」
普段、白眼の呪いを恐れて、なかなか視線を合わせてくださらない岬さんが、しっかり目を合わせてお話されたので、これはとても重要なことと捉えるべきでしょう。
「お言葉ながら、奥様は奥様としてのおつとめを果たしてくださいまし」
奥様としてのおつとめ──その言葉があまりにしっくりこなかった私は、はて?と頭を傾けてしまいました。
「岬さん、奥様のつとめとはなんでしょう…?」
私がそう尋ねると、岬さんは目をそらし、少し頬を染め上げながら言いました。
「そ、それは……跡継ぎを産み、育てること…ではございませんか?」
「……っ!」
当たり前のように仰る岬さんのお言葉が少々私には破廉恥に思えて、赤面してしまったのです。




