第四話
「っ……ぐすっ……」
「どうした?」
突然、目の前で涙を流した私に、馨さまは箸をおき、声かけてくださいました。
「なんでもございません。……温かくて素晴らしい食事をするのが、初めてなだけで」
「……」
馨さまは驚いた様子で言葉を失っておりましたが、しばらくして
「そうか」
とあまり表情を変えずに一言、そう仰ってからご自身のお食事に戻りました。変わり者と思われてしまったでしょうか。
じろじろと見すぎない程度に馨さまの表情を伺います。背筋をぴんと伸ばし、音もたてず静かに召し上がるその様は、食事に関してよちよち歩きの赤ん坊のような私と比べてたいへん美しいものでした。
ふと気づいたのですが、馨さまはもう半分くらいの食事を平らげております。なんと早いこと。一方で私はといいますと、まだそれぞれ一口くちをつけただけ。
待たせるのはいけないですよね? きっとのろまと思われてしまう。
初日からお相手の気分を害してはいけません。ひとつひとつの素材を味わっている場合ではありません。それからは、会話もせず、ただひたすら食事を噛み締め、何とか全てを平らげました。
結局、見事なお料理を楽しむわけにはいかず、食後は胃が重たくあまりいい気分ではありませんでした。
さて、夫婦となりましたが、馨さまと私は2階の別々のお部屋があてがわれました。
昼間に岬さんが案内してくださった私の部屋は大変すばらしいものです。
南向きの大きな窓が二つもあり、明るい朝日が入ってくると岬さんは仰っておりました。
室内は12畳はあり、シャワー室と呼ばれる簡易的な風呂場と、お手洗いまでがあります。しかもこれは私のためだけのもの。さらに室内には大きな箪笥や安楽椅子もあります。
私はこれまで、蔵で過ごしてきました。
蔵というのは、夏は暑く、冬は寒い場所でした。小さな明り取りの窓しかないその場所で、不要になったものの間に茣蓙を敷き、古い毛布を掛けて私は寝起きしておりました。
そんな私に与えられた柔らかなベッド。
夜にここで寝るのが楽しみで仕方なかった私ですが、なんとその夜は、初めて寝るベッドに飛び乗ることを楽しむ暇もなく、ひどい胃痛と吐き気に襲われてしまったのです──
何時間が、過ぎたでしょうか?
気付けばベッドに寝かせられておりました。ぼんやりとした意識のまま、お医者様と馨さまがお話しする声が聞こえてきました。
「腕も首も身体も大変細いことから、奥様は栄養失調の恐れが高いかと」
「栄養失調だと? 男爵家の娘がどうして」




