第十七話
「私『白眼の呪い』の持ち主なのです」
私は正直に打ち明けたのです。
不安もありましたが、嫁ぐ際だって馨さまにも岬さんにも、隠しようのないことはとにかく早く打ち明けておりました。その結果かお二人との今の関係──呪いを恐れず親しくしてくださっていることにつながっているとすれば、隠すよりも真実を伝えることのほうが、大事なのではないかと私なりの判断を下したのです。もしこれで馨さまにご迷惑がかかるようなことがあれば私が誠心誠意謝罪いたします!
ところが……どうしたことでしょう?英臣さまは、私の白眼をじっとみたまま、ご自身も驚きで目を見開き、固まってしまわれました。
その間すでに5秒近く……。
私の白眼に人を固まらせるような力があるわけではありませんが。そんな力でも備わっているのかと思わされるくらいの時間でした。
「英ちゃん、驚いただろ」
英ちゃん? 馨さまがそのような気さくな呼び名で上官に声をかけました。大丈夫なのでしょうか? そして英臣さまは馨さまに声をかけられて我に返ったようです。
「俺も妻の園子も、『白』の呪いを持っているのだ」
馨さまがそう続けることさえも私ははらはらとした気持ちです。
二人とも呪いを持つ夫婦。言われてみて初めて、この家に家に来るのは恐ろしいことなのではないか。そんな風に思いましたが、
「ふは」
英臣さまが頭に手を置いたかと思えば、
「ハハハハハ! これはたまげた。カオル、お主なんとよき相手を見つけたものか! めでたきことじゃ!」
とにんまりと微笑みながら大きな声を上げられたのです。
「あの……。驚かせてしまいましたでしょう。申し訳ございません……」
「驚いたもなにも……園子さん!」
「は、はい!」
英臣さまは私の両肩にがしっと手を置かれました。少々重たいです
「お主の白眼は、呪いなんかじゃない。『神通力』なんじゃ!」
「じんつうりき……?」
色々な小説を読んできましたが、その言葉は初めて聞きました。
それから私たちは応接間へと移動しました。
「此度、ご結婚おめでとう。カオルはガキの頃からの遊び相手で、ようやく家庭におさまることになり大変うれしいのじゃ」
二人で頭を下げます。なるほど、お二人は幼馴染みだったのですね。仕事上は上官でも、帰宅すれば気心知れた相手なのでしょう。気さくに呼び合うことにも納得します。
「いやあ、嫁ぐ者がおらず、結納品を送りまくっとる聞いた時は、驚いてなあ。このまま一生独り身だったらどうしようかと思ってたとところじゃ」
「みなまでいうな」
続けて隣に腰かけている馨さまがぼそっと耳元でつぶやかれました。
「聞き流してくれ」
なるほど、これが仰っていた『余計な話』ということですね。私は英臣さまと馨さまの気心知れた関係にほっこりと優しい気持ちになりました。
用意していた煎茶と和菓子も召し上がっていただきながら、話は本題へと移りました。
「閑話休題、奥方もいるところで話があってのう。園子さん、俺とカオルの仕事はご存じか?」
「はい、帝国陸軍でお仕事をなさっていると」
「ああ、認識に相違はない。ただ、うちの部隊は少々特殊でな。『帝都陸軍異能特殊部隊』そう名乗っている」
「異能特殊部隊……?」
「この世には、明らかに人の手で起きたとは思えない常軌を逸する事件があるんじゃ」
異常な事件。私にはあまり知見がなく何の事だろうと思いました。
「呪いや祟り、怪異などによるものだ」
そんな私に馨さまが私にわかりやすいように補足してくださいます。
「それらを調査し、時には事件を鎮圧する。それが俺らの仕事じゃ」
「大変すばらしいお仕事でございますね」
「ははあ、奥方は物分かりがよいのう。胡散臭いと言われてしまうものじゃというのに」
もちろん驚きはあります。陸軍といえば、陸上での訓練・戦闘がお仕事かと思っておりましたから。
「この部隊は表向きには存在も明らかにされていないんじゃ」
そんな大層な秘密をどうして私にお話してくださったのでしょう? すると、まるで心を見透かされたかのように英臣さまはその真実を打ち明けてくださりました。
「本来、奥方であれ任務に関して話をすることは控えてきたが、さっき話した『神通力』それが肝じゃ。俺は帝国で忌み嫌われる『白』こそが、我らの請け負う事件解決に必要な力であると考えておる」
「それは……本当に……?」
「ああ、本当じゃ」
これには驚きました。これまで20年ずっとこの『白眼の呪い』を恐ろしいものと思ってきましたから。
「驚いたじゃろう」
「はい。私は白眼のせいで、子どもの頃は蔵に閉じ込められており、大きくなってからも家から出ることは許されてこなかったのです」
「そうだったのか……」
それは、恥ずかしい過去であると思って、馨さまにも黙っていたこと。
「子どもの頃、こんな想像をしてきたのです。皆が嫌うこの白眼ですが、これが私や他の誰かを傷つけるようなことはたった一度もありませんでした。ですから、心の中で本当は呪いではなく誰かを救う祝福の力なのだ、と。そう思ってつらい現実に耐えてきたのです」
そこまでお話しするつもりはなかったのに、生まれて初めて『白眼』を肯定していただいたことで、思わず言葉が零れました。
「園子」
馨さまがそっと私の手を握りしめました。
「もう気後れする必要はない」
「そうじゃ。奥方の言う通り、白の力は『祝福』の力じゃ」
今日ほど人生で幸せを感じた瞬間はございませんでした。




