第十話
「さて、そろそろ昼飯じゃ」
異端児の上官は腹が減ったようだ。ちなみにこの上官、老人のような口調で話すがまだ二十代である。皇太子で若くして上に立つことも多いから、貫録を出すためにこのような口調にしたらしい。ぬばたまのような黒の髪と瞳、広い肩幅と背丈だけで十分存在感があると思うが。
「すみません、俺は今日から弁当です」
「なんだ、愛妻弁当か?」
「はい」
「うらやましいのう。だが、付き合いが悪いのう」
不満げな子供のように口をすぼませてぼそぼそっと言うと、他の者と食事へと出かけていった。
俺は園子がよこした弁当を前にしてほっとしていた。外に出る必要がなくなったのはありがたいことだ。白髪のせいで、どこにいっても好奇の目で見られる。仕事の行きと帰りだけならまだしも、昼飯時まで「また来たよ」などと噂されるのはもう、苛立ちを通り越して飽き飽きしていた。上官以外の人間はみな同じ反応をする。
弁当の蓋を開ける。香ばしい鮭と、甘じょっぱい卵焼き。昨日の今日でよくこれだけ準備してくれたな。と思いながら噛み締める。
ふと園子の目を思い出した。
──白眼の呪い。
この国で疎まれる白。園子は俺と同じ呪いを持つ。
彼女もこれまで俺と同じように差別され、気味悪いと言われる日々を送ってきたのだろうか。
その日の仕事が終わると、上官は余計なことを言ってきた。
「おい、カオル! 家に帰ったら奥方を労ってやるんだぞう」
「……わかっております」
「わかってないだろう!」
上官は肩に手を置いて、耳元でささやく。
「言葉ではない、抱いてやれと言っておるのだ」
「──英ちゃん」
俺は長年、遊び相手として付き合ってきたときの呼称で彼を呼んだ。
「なんだ急に?」
「余計なお世話だ」
じろりと睨みつける。
「ははは、怖いのう」
「俺の考えと、進め方というものがある。余計なお世話だ」
「わーかっておる。 じゃが、お主は一言言ってやらんとわからんような堅物じゃからな」
確かに上官の言葉がなければ、園子が俺のためにしてくれていることに気付かなかった。
「労うことは忘れるなよ」
「はい……」
労いか。
帰り道、商店街を歩きながら考える。彼女は何か欲しいものはあるのだろうか。考えてみれば趣味趣向の類、一切知らないことに気付く。それでも、園子が衣服を整え、食事を作ってくれている恩に何か報いたい。
「ん……?」
漢方薬の店前で、気になる商品の張り紙を見つける。これを園子にやったら喜ぶかもしれない。俺は、店に入りささやかなお礼を購入した──




