第2話 新しい選抜
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第2話 新しい選抜
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◇
翌日の放課後。
図書室に集まったのは、五人だった。
俺、五百旗頭、御手洗、ミライ、そして不破。
日下部は「用事がある」と言って来なかった。東海林は部活。
「――で、どういうことだ」
不破が言った。
「昨日の夜、申請書類を見つけました」五百旗頭が言った。「旧校舎二階の使用申請です」
「使用目的は」
「空欄です」
「申請者は」
「空欄です」
……。
「ふざけているのか」
「ふざけてはいないでしょう」五百旗頭は言った。「――そういう申請だ、ということです」
……。
目的も、名前も書かない。
それでも、承認される申請。
◇
「それだけで、断定はできませんね」御手洗が言った。
「ええ」五百旗頭は頷いた。「ですので、他の記録も調べました」
「何かありましたか」
「――備品の移動です」
五百旗頭は、メモを開いた。
「今週、旧校舎の二階に、机と椅子が運び込まれています」
……。
「あの部屋、空っぽだったよな」
「はい」五百旗頭は言った。「十年前の事件以降、備品は全て処分されていました」
「じゃあ、今回、新しく入れたのか」
「そうなります」
◇
「――机と椅子は、何脚ですか」
御手洗が聞いた。
いい質問だった。
「机が一つ」五百旗頭は言った。「椅子が、六脚」
……。
空気が、少し重くなった。
「六人だな」不破が言った。
「はい」
「十年前と、同じ数だ」
「……はい」
◇
「――偶然じゃないの?」
ミライが言った。
「六って、普通の数字だし」
「その可能性もあります」五百旗頭は言った。「ですが、もう一つ、気になることが」
「なに」
「――申請期間です」
五百旗頭は、書類のコピーを見せた。
「二月十日から、二月十二日まで」
「三日間か」
「はい」五百旗頭は言った。「金曜の夕方から、日曜まで」
……。
全員が、黙った。
金曜の夜から、月曜の朝まで。
十年前と、ほとんど同じだった。
◇
「……なあ」俺は言った。「これ、確定でいいのか」
「確定はできません」五百旗頭は言った。「ですが、可能性は高いと思います」
「じゃあ、止めよう」
「――どうやって?」
……。
……あ。
「そうか」
「はい」五百旗頭は言った。「わたしたちには、権限がありません」
「先生に言えば」
「なんと言いますか」五百旗頭は言った。「『机と椅子が運び込まれたので、危険です』とでも?」
……。
言えない。
何も、起きていないのだから。
◇
「――そもそも」
御手洗が言った。
「わたしたちが体験したものは、危険ではなかったのでしょう?」
「まあ、そうだな」
「誰も死ななかったし、怪我もしなかった」御手洗は言った。「脱落した人も、無事に戻ってきたわ」
「ああ」
「だとしたら」御手洗は言った。「――止める理由は、あるのかしら」
……。
「……ないな」
「ないわね」
……。
そうなんだ。
制度としては、安全に設計されている。四巻で、それは確認した。
誰も死なない。危険があれば止まる。
……なら、俺たちが騒ぐ必要はない。
◇
「――でも」
ミライが、ぽつりと言った。
「なんだよ」
「安全だからって」ミライは言った。「――怖くないわけじゃないよね」
……。
「わたしたちのときも」ミライは言った。「安全だったよ。誰も死ななかった」
「ああ」
「でも」ミライは言った。「――普通に、怖かったでしょ」
……。
……そうだ。
閉じ込められて。仲間が消えて。誰を信じていいかわからなくなって。
安全だったと、あとから知った。
でも、あのときは。
本気で、怖かった。
◇
「……対象は、誰なんだ」
俺は聞いた。
「わかりません」五百旗頭は言った。「選ばれる基準も、公表されていませんから」
「予想は」
「三つの可能性があります」五百旗頭は言った。「一。現在の二年生。二。一年生。三。学年混成」
「うちの学年って可能性もあるのか」
「あります」五百旗頭は言った。「ですが、可能性は低いでしょう」
「なんで」
「――わたしたちが、経験者だからです」
……。
ああ。
一度やった人間を、もう一度呼ぶ意味はない。
「だとすると」御手洗が言った。「――一年生かしら」
◇
その日の夜。
俺は、家で、ずっと考えていた。
一年生。
顔も名前も知らない、六人。
その子たちが、来月、あの部屋に閉じ込められる。
何も知らされないまま。
……。
俺たちも、そうだった。
何も知らずに、あの部屋に入って、ゲームだと言われて、疑心暗鬼になって。
……そして、なんとか、出てきた。
……。
あの子たちも、出てこられるだろうか。
◇
スマホが鳴った。
ミライからだった。
『ねえ』
『あんた、今、何考えてる?』
……。
俺は、少し迷ってから、返信した。
『一年のこと』
すぐに、返事が来た。
『やっぱりね』
『あんた、そういうとこあるから』
……。
続けて、もう一通。
『でも、わたしたちには関係ないよ』
『向こうも、知らない子だし』
……。
そうだ。
関係ない。
知らない子たちだ。
俺が、何かする理由はない。
……。
でも。
なぜか、寝つけなかった。
(第2話 了)




