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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
十年前の、密室

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93/112

特別編 クリスマス

十二月も、下旬に入った。


その日の図書室は、珍しくクリスマスの話になっていた。


「――もうすぐクリスマスですね」


日下部が言った。


「みなさんは、ご予定はあるのですか」


「俺は、友達の付き合いで出かける」不破が言った。


「ああ」日下部は微笑んだ。「不破くんは、合コンに誘われているんでしたっけ」


……。


「よく知ってるな」不破は言った。「さすが、顔が広い」


「いえ、たまたま」


「合コンじゃない」不破は言った。「ただの、人数合わせだ」


「その人数合わせに、不破くんが来るからと言って、女子が集まったそうですよ」


「……」


「なかなかの、集客力ですね」


  ◇


「――いや、待て」


不破が、急に慌てた。


「知らない女子だからな。……ちょっと、東海林、勘違いするなよ」


……。


全員が、動きを止めた。


東海林が、本から顔を上げた。


「……?」


「……」


「……なにが?」


……。


不破が、固まった。


「……いや」


「……?」


東海林は、心底、不思議そうな顔をしていた。


……。


こいつ。


何も、伝わってない。


  ◇


「――こほん」


日下部が、盛大に咳払いをした。


「他のみなさんは、ご予定は?」


見事な、話題の切り替えだった。


「特にありませんね」五百旗頭が言った。「例年は平日でしたし、特に予定は立てていませんでした」


「今年は週末ですよ」


「そうですね」五百旗頭は言った。「……ですが、変わりません」


「わたしは」御手洗が言った。「家族で、ちょっと豪華な晩ご飯を食べるかも」


「いいですね」


「今年は週末だから、家族がそろうかもしれないわ」


  ◇


「――わたしはねー」


ミライが、突然、身を乗り出した。


「秘密の、かっこいい、だんしぃとぉ……」


……。


「――で、東海林さんは?」日下部が言った。


「……部活」


「なるほど」


……。


ミライが、固まっていた。


「……ちょっと」


「はい?」


「……無視した?」


「していませんよ」


「したよね?」


「気のせいです」


……。


全員、無言だった。


……こいつら、うまいな。


  ◇


で、そのあと。


ミライが、こっそり俺の隣に来た。


「……ねえ、森本」


「なんだよ」


「気づいてる?」


「何を」


「あんたの番になる前に」ミライは言った。「話題、変わったでしょ」


……。


……あ。


たしかに。


順番でいくと、次は俺だった。


「あのままだったら」ミライは言った。「あんた、『予定ない』って言うことになってたよ」


「……ああ」


「この面子の前で」ミライは言った。「『クリスマス、予定ないです』って」


……。


……うわ。


「日下部が、切り替えたんだよ」ミライは言った。「わたしを踏み台にして」


「踏み台」


「わたしが変なこと言ったから、流れが変わったの」ミライは言った。「……つまり、わたしのおかげ」


……。


「……感謝くらい、しなさいよ」


「……う、うん。ありがとう」


「よろしい」


  ◇


クリスマスイブ。


俺は、田口の家にいた。


男子が、五人。


リビングに集まって、ゲームをしていた。


「……なあ」


「なんだよ」


「クリスマスイブだぞ、これ」


「知ってる」


「男五人で、ゲーム」


「知ってるって」


……。


まあ。


楽しいから、いいんだけど。


  ◇


「――しっかし」


田口が、コントローラーを握ったまま言った。


「森本は、いいよなあ」


「なにが」


「五百旗頭さんとか、東海林さんとか、御手洗さんとか」田口は言った。「仲良くなって」


「まあ、たまたまだけどな」


「いや、それが異常なんだよ」別の男子が言った。「普通、あの三人と喋れないだろ」


……。


そうか?


「特に東海林さん」田口は言った。「あの身長で、あのスタイルで、あの顔だぞ」


「モデルかよ」


「モデルだろ、あれは」


……。


……四季が?


「あれは高嶺の花だ」田口は言った。「不破とか日下部レベルじゃないと、チャレンジできない」


「そーだよね」


  ◇


「――とすると」


男子の一人が言った。


「五百旗頭さんか、御手洗さんか」


「五百旗頭さんは、無理だろ」田口は言った。「生徒会選挙で、可愛さが全校にバレた」


「あー、あれな」


「あれで、ライバル増えたよな」


……。


増えたのか。


「だとすると、御手洗さんか」


「可愛いよなー」


「いいな、森本」


  ◇


「……あー、そうですね」


俺は、適当に返した。


「なんだよ、その反応」


「いや」


「実際どうなんだよ」田口は言った。「五百旗頭さんとか」


「……」


「憧れてただろ、お前」


「憧れてた」俺は認めた。「喋るまでは」


「喋るまでは?」


「うん」


「喋ったら?」


……。


俺は、少し考えて。


それから、言った。


「……ちょっと、性格が」


「性格が?」


「ちょっと」


「ちょっと?」


……。


「……ドキドキ、しないっていうか」


  ◇


「――は?」


全員が、動きを止めた。


「お前、何言ってんの」


「いや」


「そばにいるだけで幸せだろうが!」


「そういうもんか?」


「そういうもんだよ!」


……。


そう言われても。


宇宙にキレてる姿とか、数式を宙に書いてる姿とか、そういうのばっかり見てるからな。


「じゃあ、御手洗さんだろ」


「……まあ」俺は言った。「ちょっと、世界史のことでいっぱいのような」


「なにー!?」


「美少女に勉強を教えてもらうとか、羨ましいだろ!」


「森本のくせに!」


……。


なんで、怒られてるんだ、俺は。


  ◇


「――ところで」


一人が、思い出したように言った。


「湊の話は、しなくていいの?」


……。


……ん?


「あー、ミライね」


田口が、あっさり言った。


「あれはいいや」


「なんでだよ」


「幼馴染だから」田口は言った。「性格、知ってるから」


……。


……え。


「幼馴染?」


「言ってなかったっけ」田口は言った。「あいつ、うちの隣なんだよ」


  ◇


「――隣!?」


「いや、正確には隣じゃない」田口は言った。「母親同士が親友で」


「ああ」


「小学校まで、ずっと一緒に遊ばされてた」田口は言った。「……で、性格を知ってるから、無理」


「何が無理なんだよ」


「あいつ、口が悪いんだよ」田口は言った。「ある意味、普通の人じゃ無理だろ」


……。


わかる。


わかりすぎる。


  ◇


「――何が無理なの?」


……。


リビングの扉が、開いた。


田口の母親が、顔を出していた。


「あんたたち、隣の家まで聞こえるような大きな声出して」


「うわ、母さん!」


「何、ミライちゃんがどうしたって?」


……。


田口が、青ざめた。


「ママ――じゃない、お母さん! ちょっと、盗み聞きしないでよ!」


「聞こえるように話してたのが悪いんでしょ」


……。


正論だった。


  ◇


「なに、ミライちゃんに用があるの?」


「ない!」


「呼んでこようか?」


「やめて!!」


……。


田口が、必死だった。


「小さい頃は、あんなに遊んでたのに」母親は言った。「もう思春期だと、仕方ないのかしらねえ」


「ちょっと、やめてくれー!」田口は叫んだ。「それ、ミライに伝わったら、怒られるやつだからー!」


……。


母親は、笑いながら、扉を閉めた。


……。


田口は、床に突っ伏していた。


「……まあ」俺は言った。「田口も、大変なんだな」


「お前に言われたくない」田口は言った。「お前の幼馴染は、東海林さんだぞ。実質アイドルじゃねーか」


……。


「いやいや」俺は言った。「言うほど、実際は」


「実際は?」


「……田口と、湊と、変わらないって」


……。


「そんなわけあるか!」


  ◇


帰り道。


冬の夜は、寒かった。


息が白い。


……と。


「――ちょっと、森本」


……。


目の前に、ミライが立っていた。


「うわ」


「うわ、じゃない」ミライは腕を組んでいた。「あんた、田口たちと、わたしの話してたでしょう」


……。


「……田口の母ちゃん伝いで、もう伝わったのか」


「違う」ミライは言った。「家が近すぎて、聞こえたのよ」


……。


……聞こえてたのか。


  ◇


「ほんと、男子って」ミライは言った。「美少女の幼馴染がいると、すぐ噂するんだから」


「……そ、そうですね」


……。


……ん?


今、自分で「美少女」って言ったか?


……いや、突っ込まないでおこう。


「――ところで」俺は言った。


「なに」


「お前、『秘密のかっこいい男子と過ごす』みたいなこと言ってたよな」


「言ったね」


「その男子、どこ」


……。


ミライは、鞄からゲーム機を取り出した。


そして、画面を、俺に見せた。


「――ここ!」


  ◇


画面には、二次元のキャラクターが表示されていた。


髪の長い、目のでかい、明らかにイケメンの、男性キャラ。


「……」


「わたしの推しのかっこいい男子と、いま、現在形で、過ごしてるでしょ」


……。


「……あー、2Dか」


「違ーう」ミライは言った。「2.5D」


「どっちでもいいだろ」


「よくない」ミライは言った。「あんたたちの好きなアイドルと、変わらないでしょ」


「いや、あっちは実在してる」


「実在してても」ミライは言った。「――架空の虚像であれば、2Dも3Dも現実も、一緒」


……。


……なんか。


妙に、説得力があった。


  ◇


「……なあ」


「なに」


「それ、楽しいのか」


「楽しいよ」ミライはあっさり言った。「裏切らないし」


……。


「文句も言わないし」ミライは言った。「勝手にいなくなったりしないし」


……。


その言い方が、少しだけ、引っかかった。


でも、俺は何も言わなかった。


「……じゃ、帰る」ミライは言った。「メリークリスマス」


「ああ」


「あんたも、早く帰りなよ」


「わかってる」


ミライは、ゲーム機を鞄に入れて、歩いていった。


……。


冬の夜。


クリスマスイブ。


……男五人でゲームをして、幼馴染の話をされて、ミライに聞かれていた。


……まあ。


悪くない夜だった。


(特別編 了)

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