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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
十年前の、密室

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82/113

第9話 台本にない台詞

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第9話 台本にない台詞

====================



公演まで、十日。


稽古は。


通し稽古の。


段階に。


入って、いた。



◇



「――今日は、頭から、最後まで、通します」


真壁(まかべ)が、言った。


「途中で、止めません。……何か、あっても、続けてください」


「はい」


……。


通し稽古。


二時間近く。


止めずに。


やる。


俺は。


照明の、位置で。


スイッチに。


手を、かけた。


……緊張する。


出番も、ないのに。



◇



と。


稽古場の、後ろの、扉が。


静かに。


開いた。


誰かが。


入ってきた。


……。


柏木(かしわぎ)先生、だった。


……。


心臓が。


跳ねた。


「あ、柏木先生!」真壁が、明るく、言った。「見学ですか?」


「ああ」柏木は、微笑んだ。「進路指導部として、生徒の活動を、見ておこうと、思ってね」


……。


嘘だ。


と。


直感的に。


思った。


でも。


証拠は。


ない。


「どうぞ、後ろの、椅子に」


「ありがとう」


柏木は。


後ろの、パイプ椅子に。


座った。


……。


俺は。


五百旗頭(いおきべ)を。


見た。


五百旗頭も。


こっちを。


見て、いた。


目が。


合った。


……気を、つけろ。


そう。


言われた、気が、した。



◇



稽古が、始まった。


第一場。


六人が。


図書室に。


集まる。


第二場。


異変に。


気づく。


第三場。


最初の。


死。


……。


順調、だった。


みんな。


上手く、なって、いた。


特に。


不破(ふわ)は。


相変わらず。


無駄に。


上手い。


御手洗《みたらい》も。


隅で。


動かずに。


書き続けて、いる。


その、姿が。


やたら。


真に迫って。


いた。


……で。


第五場。


その、場面で。


それは。


起きた。



◇



台本では。


こう、なって、いた。


五百旗頭が。


演じる、教師が。


倒れる。


そして。


他の、生徒たちが。


それを。


発見する。


……。


その、直前。


湊(みなと)ミライが。


稽古場の、隅から。


声を、上げた。


「――ちょっと、待って」


全員が。


動きを、止めた。


「湊さん?」真壁が、振り返った。「止めないでって、言ったのに」


「ごめん」ミライは、言った。「でも、ちょっと、試したいことが、ある」


「試したい?」


「うん」ミライは、台本を、持って。


五百旗頭の、ところへ。


歩いて、いった。


「五百旗頭さん」


「はい」


「ここの、台詞。……変えて、いい?」


「変える?」


「うん」ミライは、言った。「一言だけ」


……。


なんだ?


何を。


する気だ。



◇



「なんて、言えば、いいのですか」


「――『どうして、あなたが、ここにいるの』」


……。


え。


「……台本には、ない台詞です」


「うん。ない」ミライは、あっさり、言った。「わたしが、考えた」


「なぜ?」


「……なんとなく」


……。


嘘だ。


こいつ。


絶対。


何か。


狙って、いる。


「真壁さん、いい?」ミライは、言った。「一回だけ」


「え、あ、はい。……いいですけど」


「じゃ、やってみて」


……。


五百旗頭は。


少し。


迷って。


それから。


頷いた。


そして。


倒れる、直前の。


位置に。


立った。



◇



稽古が。


再開した。


五百旗頭が。


書架の、間を。


歩く。


そして。


何かに。


気づいた、ように。


立ち止まって。


振り返って。


……。


言った。


「――どうして、あなたが、ここにいるの」


……。


その、瞬間。


……。


がた。


と。


音が、した。


後ろで。


……。


俺は。


振り返った。


柏木先生が。


立って、いた。


パイプ椅子が。


倒れて、いた。


……。


顔が。


真っ青、だった。



◇



「……先生?」


真壁が。


驚いて。


言った。


柏木は。


我に返った、ように。


慌てて。


椅子を。


起こした。


「……あ、いや。……すまない」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だ」柏木は、額の、汗を、拭いた。「ちょっと、立ちくらみが」


……。


嘘だ。


立ちくらみで。


あんな。


音は。


しない。


椅子を。


蹴倒す、ほど。


立ち上がったんだ。


反射的に。


「……失礼するよ」柏木は、言った。「邪魔を、して、悪かった」


そして。


逃げるように。


稽古場を。


出て、いった。


……。


全員が。


呆然と。


その、背中を。


見送って、いた。



◇



「……なんだ、今の」


田口が。


つぶやいた。


「……先生、体調、悪かったのかな」


「そうかもね」


みんなは。


そう。


納得しようと、して、いた。


でも。


俺は。


見て、いた。


柏木先生の。


顔を。


あれは。


体調じゃ、ない。


……あれは。


……。


ミライを。


見た。


ミライは。


平然と。


台本を。


めくって、いた。


「――はい、続けよう」


と。


何事も、なかったように。


言った。



◇



稽古が、終わって。


みんなが。


帰った、あと。


俺は。


ミライを。


捕まえた。


「おい」


「なに」


「今の、なんだ」


「なにが」


「とぼけるな」俺は、言った。「あの、台詞。……お前、狙って、やっただろ」


ミライは。


少し。


黙って。


それから。


言った。


「……気づいた?」


「気づくだろ」


「ふーん」ミライは、にやり、と、した。「意外と、見てるじゃん」


「うるさい」


……。


ミライは。


稽古場の。


窓際に。


座った。


外は。


もう。


暗い。


「あのさ、森本」


「なんだよ」


「柏木先生、最近、よく、来るよね」


「……来るな」


「稽古、始まってから」ミライは、言った。「三回目だよ、今日で」


……。


三回。


気づかなかった。


「……お前、数えてたのか」


「まあね」ミライは、言った。「で、思ったの。……なんで、来るんだろうって」


「進路指導部だから」


「他の部活には、行ってないよ」ミライは、あっさり、言った。「調べた」


……。


こいつ。


やることが。


えげつない。



◇



「で、試した」ミライは、言った。


「あの、台詞で?」


「うん」


「なんで、あの台詞、なんだ」


ミライは。


少し。


考えて。


それから。


言った。


「……逆に、聞くけど」


「なんだよ」


「十年前、あの部屋にいた六人が」ミライは、言った。「――もし、七人目を、見たとしたら」


……。


……え。


「なんて、言うと、思う?」


……。


……。


心臓が。


止まりそうに。


なった。


『どうして、あなたが、ここにいるの』


……。


それは。


いるはずのない、人間を。


見たときの。


台詞だ。


「……お前」


「別に」ミライは、肩を、すくめた。「ただの、思いつきだよ」


「思いつきで、あんなこと」


「――でも、当たったでしょ」


……。


反論。


できなかった。



◇



「柏木先生は」ミライは、言った。「あの台詞に、反応した」


「……ああ」


「つまり」ミライは、言った。「――何か、知ってる」


……。


「十年前」ミライは、言った。「あの部屋に、七人目が、いた」


「……いや、待て」俺は、言った。「それは、飛躍だ」


「飛躍かもね」ミライは、あっさり、認めた。「でもさ」


ミライは。


窓の、外を。


見た。


「――柏木先生が、何かを、隠してるのは、確実」


……。


それは。


そうだ。


あの。


顔色は。


尋常じゃ、なかった。



◇



「……なあ、湊」


「なに」


「お前、なんで、そこまで、するんだ」


……。


ミライは。


少し。


黙った。


それから。


言った。


「……なんとなく」


「嘘つけ」


「嘘じゃないよ」ミライは、言った。「……ただ」


「ただ?」


「――あの手記の人」ミライは、言った。「なんか、放っとけないの」


……。


え。


「わたしさ」ミライは、言った。「一年のとき、誰にも、見られてなかったでしょ」


「……ああ」


「あの人も、そうじゃない?」ミライは、言った。「――名前も、ないんだよ」


……。


「『委員長』って、呼ばれてる」ミライは、言った。「十年経っても。……誰も、名前を、呼ばない」


「……」


「必死で、書いたのに」ミライは、言った。「誰にも、読まれてない」


……。


ミライは。


立ち上がった。


「……だからさ」


「……」


「――読んでやりたいの」


……。


その、声が。


いつもの、ふざけた、調子じゃ、なくて。


俺は。


何も。


言えなかった。



◇



帰り道。


一人で。


歩きながら。


俺は。


ずっと。


考えて、いた。


『どうして、あなたが、ここにいるの』


その台詞に。


柏木先生は。


立ち上がった。


椅子を。


蹴倒すほど。


……。


なんで。


……。


いくつか。


可能性が。


浮かんだ。


一。


柏木先生が。


その台詞を。


知って、いた。


二。


柏木先生が。


その場に。


いた。


三。


……。


柏木先生が。


その台詞を。


言われた、人物だった。


……。


ぞ、と。


した。


いや。


でも。


柏木先生は。


十年前。


あの場に。


いなかった。


……はず、だ。


生徒だった。


でも。


事件の、当日。


……。


……あれ。


いなかった、って。


誰が。


言った?


……。


足が。


止まった。


誰も。


言って、いない。


俺たちが。


勝手に。


そう。


思って、いただけだ。



(第9話 了)

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