第7.5話 衣装合わせ
====================
第7.5話 衣装合わせ
====================
「――衣装が、届きました!」
真壁が。
でかい、段ボールを。
二つ。
引きずって、きた。
「重っ……これ、何」
「制服です」真壁は、額の、汗を、拭いた。「十年前の」
……。
え?
◇
「うち、制服、五年前に、変わってるんです」真壁は、言った。「デザインが」
「そうなのか」
「はい。今のは、二代目です」真壁は、段ボールを、開けた。「で、旧デザインのが、被服室に、まだ、残ってて」
「なんで、残ってるんだ」
「文化祭とかで、使うみたいです」真壁は、言った。「あと、卒業生が、忘れていったやつとか」
……。
段ボールの、中には。
制服が。
何着も。
詰まって、いた。
今のと。
少し、違う。
男子は。
学ラン。
今は、ブレザーだから。
だいぶ、印象が、違う。
女子は。
セーラー服。
今は、ブレザーに、リボンだ。
……。
十年前は。
これを。
着て、いたのか。
あの、六人も。
◇
「じゃあ、役者のみなさん、着替えて、きてください!」
「はーい」
……。
俺は。
その場に。
座った、まま。
動かなかった。
裏方は。
衣装が、ない。
……よし。
平和だ。
「あ、森本くんは、そのままで、大丈夫です」
「わかってる」
「照明の、位置、確認、お願いしますね」
「了解」
……。
楽で、いい。
心底。
そう、思った。
◇
で。
五分後。
男子が。
戻って、きた。
「……なんだ、これ」
田口が。
学ランの、詰襟を。
引っ張って、いた。
「首、苦しい」
「似合ってるじゃん」
「嘘つけ」
……。
まあ。
正直。
微妙、だった。
と。
「――ふん」
不破が。
出てきた。
……。
……。
似合って、いた。
めちゃくちゃ。
似合って、いた。
背が、高いから。
学ランの、線が。
まっすぐ。
出る。
「……ずるいだろ」
「才能の、差だ」
「服だろ、これ」
「服を、着るのも、才能だ」
……。
むかつく。
でも。
事実だ。
◇
「――お待たせしました」
演劇部の、佐々木さんが。
先に、出てきた。
セーラー服。
「おお、いいですね!」真壁が、言った。
「なんか、恥ずかしいです」
「かわいいですよ!」
……。
続いて。
五百旗頭が。
出てきた。
「……どうですか」
「あ、いいですね!」真壁が、言った。「なんか、真面目そうです!」
「褒めていますか?」
「褒めてます!」
……。
まあ。
似合っては、いる。
いや。
こいつは。
何を、着ても。
だいたい。
真面目に、見える。
……で。
最後に。
◇
「……あら」
御手洗が。
出てきた。
……。
……。
……え。
……。
息が。
一瞬。
止まった。
……。
似合って、いた。
いや。
似合ってる、とか。
そういう、次元じゃ、なかった。
……なんて、言えば、いいんだろう。
セーラー服の。
紺色が。
御手洗の。
白い肌に。
やたら。
映えて、いて。
いつも。
蛍光色の、何かを。
羽織って、いるから。
その、落差が。
……。
それに。
髪。
いつもは。
下ろして、いるのに。
今日は。
後ろで。
ひとつに。
まとめて、いる。
……首筋が。
見えて、いる。
……。
……。
……いや。
待て。
何を。
見て、いるんだ。
俺は。
◇
「あら、森本くん」
御手洗が。
こっちに、気づいた。
「……お、おう」
「どうかしら?」
御手洗は。
くるり、と。
回って、みせた。
スカートが。
ふわり、と。
揺れた。
……。
「……あ、ああ。……いいん、じゃないか」
「そう?」
「うん」
「ふふ」御手洗は、嬉しそうに、笑った。「なんだか、昔の、女学生みたいね」
「……そうだな」
「セーラー服って、もともと、水兵の、軍服なのよ」
「……へえ」
「イギリス海軍が、起源で。それが、子ども服に、なって。……日本に、入ってきたの」
「……ああ」
「明治の、終わりごろに、ね」
……。
世界史が。
始まった。
……いや。
でも。
今は。
それが。
ありがたかった。
何か。
喋って、いてくれないと。
……。
……妙に。
落ち着かない。
◇
「――ちょっと」
後ろから。
声が、した。
湊ミライだった。
「……なんだよ」
「あんた」ミライは。
じとーっ、と。
俺を、見て、いた。
「……見すぎ」
「――は!?」
「見すぎだって」ミライは、言った。「さっきから、ずーっと、御手洗さん、見てる」
「見てない!」
「見てた」
「見てない!」
「じゃあ、聞くけどさ」ミライは、腕を、組んだ。「御手洗さん、髪、どうしてる?」
「――後ろで、ひとつに、まとめて」
……。
……あ。
ミライが。
にやり、と、した。
「……ほらね」
「……」
「即答じゃん」
「……」
「うわー、キモ」ミライは、鳥肌を、さすった。「あんた、ほんと、そういうとこだよ」
「……うるさい」
……。
顔が。
熱く、なって、いた。
……くそ。
◇
「あら、二人とも、どうしたの?」
御手洗が。
首を、かしげた。
「なんでもない」
「森本が、御手洗さんの、髪型を、即答した」
「言うな!」
「あら」御手洗は、自分の、髪に、触れた。「変かしら?」
「変じゃ、ない」
「そう?」
「……似合ってる」
……。
言って、しまってから。
気づいた。
御手洗が。
きょとん、と、して。
それから。
……。
みるみる。
顔が。
赤く、なった。
「……そ、そう」
「……ああ」
「……ありがとう」
……。
二人とも。
それ以上。
何も。
言えなく、なった。
「……うわー」
ミライが。
心底。
呆れた顔で。
言った。
「……勝手に、やっててよ」
◇
と。
そのとき。
稽古場の、入口に。
誰かが。
立って、いるのに。
気づいた。
……東海林だった。
コートを、着たまま。
竹刀袋を、担いで。
じっと。
こっちを。
見て、いた。
「……四季」
「……」
東海林は。
何も、言わなかった。
ただ。
少しだけ。
目を。
そらして。
「……通りかかった」
とだけ。
言った。
「そうか」
「……ん」
……。
会話が。
続かない。
三か月。
ずっと。
こうだ。
「――あ、東海林さん!」
真壁が。
気づいて。
手を、振った。
「見学ですか? どうぞ、入ってください!」
「……いい」
「え、でも」
「……邪魔に、なる」
東海林は。
そう言って。
少し。
頭を、下げて。
廊下を。
歩いて、いった。
……。
俺は。
その、背中を。
見送って、いた。
……。
……。
「……森本」
ミライが。
ぽつり、と。
言った。
「なんだよ」
「……追わなくて、いいの?」
……。
「……いいんだよ」
「ふーん」
ミライは。
それ以上。
何も。
言わなかった。
……。
誰も、いなくなった、廊下を。
しばらく。
見て、いた。
……。
なんだか。
やたら。
寒かった。
(第7.5話 了)




