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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
十年前の、密室

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79/113

第7話 時間が足りない

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第7話 時間が足りない

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翌日の、稽古。


五百旗頭(いおきべ)は。


ストップウォッチを。


持って、きた。



◇



「なんだ、それ」


「計ります」五百旗頭は、言った。


「何を」


「全部です」


……。


全部。


「昨日、わかったのは、『視界』でした」五百旗頭は、言った。「では、次は、『時間』です」


「時間?」


「手記には、順序が、書かれています」五百旗頭は、言った。「教師。部長。物知り。……順番に、死んでいった」


「ああ」


「では」五百旗頭は、言った。「――その間隔は?」


……。


あ。


「一人目と、二人目の間に。……どれだけの、時間が、あったのか」五百旗頭は、言った。「書いて、ありません」


「……そうだな」


「でも」五百旗頭は、ストップウォッチを、掲げた。「――計算は、できます」



◇



「いいですか」五百旗頭は、テープの、上に、立った。「事件が、起きたのは、金曜の夜」


「うん」


「発見は、月曜の朝」五百旗頭は、言った。「およそ、六十時間です」


「長いな」


「長いです」五百旗頭は、頷いた。「……でも、死亡推定時刻は、もっと、狭い」


「狭い?」


「新聞に、書いてありました」五百旗頭は、メモを、開いた。「『六人の死亡推定時刻は、いずれも近接しており、順序の特定は困難』」


……。


「近接している、ということは」五百旗頭は、言った。「――六人は、短時間のうちに、死んでいます」


「どれくらい」


「解剖で、順序が、つかないほど」五百旗頭は、言った。「……おそらく、数時間以内です」


……。


数時間。


六人が。


数時間で。



◇



「では、稽古で、検証します」五百旗頭は、言った。「真壁(まかべ)さん、お願いが」


「はい!」


「台本通りに、動いて、ください」五百旗頭は、言った。「ただし、実際の、距離で。実際の、速度で」


「わかりました」


「わたしが、計ります」


……。


稽古が。


始まった。


いや。


稽古じゃ、ない。


これは。


実験だ。



◇



まず。


第一の。


死。


教師役の、五百旗頭が。


書架の、間で。


倒れる。


……というか。


台本上は、そうなっている。


実際には。


誰が、どうやって。


殺したのかは。


わからない。


「ここで」五百旗頭は、倒れたまま、言った。「――次は、部長です」


「はい」真壁が、指示した。「不破(ふわ)くん、位置に」


不破が。


別の、書架の、前に、移動する。


「では、二人目の、死」


不破が。


倒れる。


五百旗頭は。


ストップウォッチを。


押した。


「――十二秒」


「え?」


「今の、移動に、十二秒、かかりました」五百旗頭は、言った。「わたしが、倒れた位置から。不破くんの、位置まで」


……。


なるほど。


犯人が。


移動する。


その、時間。



◇



それから。


一時間。


全部の、パターンを。


計った。


誰が、どこで、死んだと、仮定するか。


その組み合わせを。


変えながら。


五百旗頭は。


ノートに。


数字を。


書き込んで、いった。


……途中から。


誰も。


喋らなく、なった。


みんな。


黙って。


言われた通りに。


動いて。


倒れて。


また、立ち上がった。


……妙な、気分だった。


十年前に。


本当に、死んだ人たちの。


動きを。


なぞって、いる。



◇



「――終わりました」


五百旗頭が。


顔を、上げた。


「結果は?」


「……おかしいです」


「おかしい?」


「ええ」五百旗頭は、ノートを、見せた。「移動時間の、合計。……どの順序で、仮定しても」


五百旗頭は。


数字を、指した。


「――短すぎます」


……。


え?


「短い?」


「はい」五百旗頭は、言った。「六人を、殺害するのに、必要な、移動時間。……合計しても、十分に、満たない」


「じゃあ、余裕じゃ」


「そうです」五百旗頭は、言った。「余裕が、ありすぎます」


……。


ん?



◇



「考えて、みてください」五百旗頭は、言った。「六十時間、閉じ込められていた」


「ああ」


「そして、死亡推定時刻は、近接している」五百旗頭は、言った。「数時間以内に、六人が、死んだ」


「うん」


「では」五百旗頭は、言った。「――それまでの、五十時間以上は、何を、していたのですか」


……。


……あ。


……そうだ。


金曜の、夜に、閉じ込められて。


死んだのは。


最後の、数時間。


じゃあ。


その、前は?


二日以上。


六人は。


何を。


して、いたんだ?



◇



「普通に、考えれば」五百旗頭は、言った。「――脱出を、試みるはずです」


「そうだな」


「扉を、叩く。窓を、割る。……助けを、呼ぶ」五百旗頭は、言った。「二日あれば、相当なことが、できます」


「……」


「でも」五百旗頭は、言った。「そんな記録は、ありません」


「記録が、ないだけかも」


「いえ」五百旗頭は、首を、振った。「もし、窓を割ったなら。……ガラスの破片が、残ります。扉を壊そうとしたなら、痕跡が、残ります」


「……」


「報道では」五百旗頭は、言った。「そういった、記述が、一切、ありません」


……。


ぞ、と。


した。


二日間。


六人は。


何も。


しなかった?



◇



「――ねえ」


湊(みなと)ミライが。


口を、挟んだ。


「あのさ。単純に、聞くけど」


「なんですか」


「その六人、閉じ込められてるって、知ってたの?」


……。


……え?


「だってさ」ミライは、言った。「『閉じ込められた』って、誰が、言ったの?」


「……手記に」


「手記に、書いてあるの?」ミライは、言った。「『わたしたちは、閉じ込められた』って」


五百旗頭が。


メモを。


めくった。


そして。


顔を、上げた。


「……書いて、ありません」


……。


「じゃあさ」ミライは、言った。「――もしかして、その六人。閉じ込められてる、って、思ってなかったんじゃない?」


……。


稽古場が。


静まり返った。



◇



「……どういう、ことだ」


「わかんないけど」ミライは、肩を、すくめた。「二日間、何もしなかったって、変じゃん」


「ああ」


「でも」ミライは、言った。「『閉じ込められてない』って、思ってたら。……何も、しないよね」


……。


そうだ。


出られると、思っていたら。


誰も。


助けを、呼ばない。


「じゃあ」俺は、言った。「なんで、二日も、そこに、いたんだ」


「知らないよ」ミライは、あっさり、言った。「――そういう『ゲーム』だったんじゃないの?」


……。


……。


心臓が。


跳ねた。


ゲーム。


そうだ。


十年前。


あの六人は。


選抜ゲームの。


参加者、だった。


……つまり。


二日間。


六人は。


ゲームを。


して、いた?



◇



「――五百旗頭」


俺は、言った。


「はい」


「これ、外部犯の、可能性は?」


「……外部?」


「ゲームなら、運営が、いるだろ」俺は、言った。「あのときも、いた。……見てる、やつらが」


五百旗頭が。


息を、のんだ。


「……観測者」


「ああ」俺は、言った。「六人が、閉じ込められてたなら。……外に、誰か、いたはずだ」


「……」


「その、誰かが」俺は、言った。「――中に、入れたんじゃ、ないか?」


……。


稽古場が。


静かだった。


五百旗頭は。


しばらく。


黙って。


それから。


言った。


「――否定は、できません」


……。


「密室、と、言われていますが」五百旗頭は、言った。「それは、『施錠されていた』という、意味です」


「うん」


「鍵を、持っている人間が、いれば」五百旗頭は、言った。「……密室では、ありません」


……。


誰かが。


外から。


入って。


……。


「でも」五百旗頭は、言った。「それだと、別の、問題が、生じます」


「なんだ」


「――なぜ、六人全員を、殺す必要が、あったのか」


……。


動機。


誰も。


知らない。


十年間。


誰も。



◇



「……ひとつ、いいですか」


声を、上げたのは。


御手洗《みたらい》だった。


隅に、座ったまま。


手記を、書く、姿勢のまま。


「なんだ、御手洗」


「わたし、ずっと、ここに、いるでしょう?」


「ああ」


「この位置から、考えると」御手洗は、言った。「……ひとつ、気になることが、あるの」


「なんだ」


御手洗は。


自分の、手元を。


見た。


そこには。


台本と。


稽古用の。


ノートが、ある。


「――どうして、この人は、書いたのかしら」


……。


え。


「動けなくて。痛くて。……たぶん、意識も、朦朧としていて」御手洗は、言った。「それでも、書いた」


「……ああ」


「なぜ?」


……。


……そうだ。


なんで。


書いたんだ。


「助けを、呼ぶほうが、先では、ないかしら」御手洗は、言った。「大声を、出すとか。物を、投げるとか」


「……」


「でも、彼女は、書いた」御手洗は、言った。「――誰かに、読ませるために」


……。


誰かに。


読ませる。


……。


誰に?



◇



「――それ」


ミライが。


ぽつり、と、言った。


「なによ」


「今の、御手洗さんの」ミライは、言った。「……けっこう、やばくない?」


「やばい?」


「だってさ」ミライは、言った。「その手記、『誰かが読む』って、前提で、書かれてるってことでしょ」


「……そうなる、な」


「じゃあさ」ミライは、俺を、見た。


「――誰が、読むと、思ってたの?」


……。


……。


全員、死んだ。


部屋の、中に。


生きている人間は。


いなかった。


じゃあ。


その手記は。


誰が。


読むと。


思われて、いたんだ?


「……外の、誰か、か」


俺は。


そう、つぶやいた。


五百旗頭が。


ゆっくりと。


頷いた。


「……可能性は、あります」


……。


ぞわ、と、した。


十年前。


あの部屋には。


外に。


誰かが、いて。


中の、誰かは。


それを。


知って、いた。



(第7話 了)

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