第7話 時間が足りない
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第7話 時間が足りない
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翌日の、稽古。
五百旗頭は。
ストップウォッチを。
持って、きた。
◇
「なんだ、それ」
「計ります」五百旗頭は、言った。
「何を」
「全部です」
……。
全部。
「昨日、わかったのは、『視界』でした」五百旗頭は、言った。「では、次は、『時間』です」
「時間?」
「手記には、順序が、書かれています」五百旗頭は、言った。「教師。部長。物知り。……順番に、死んでいった」
「ああ」
「では」五百旗頭は、言った。「――その間隔は?」
……。
あ。
「一人目と、二人目の間に。……どれだけの、時間が、あったのか」五百旗頭は、言った。「書いて、ありません」
「……そうだな」
「でも」五百旗頭は、ストップウォッチを、掲げた。「――計算は、できます」
◇
「いいですか」五百旗頭は、テープの、上に、立った。「事件が、起きたのは、金曜の夜」
「うん」
「発見は、月曜の朝」五百旗頭は、言った。「およそ、六十時間です」
「長いな」
「長いです」五百旗頭は、頷いた。「……でも、死亡推定時刻は、もっと、狭い」
「狭い?」
「新聞に、書いてありました」五百旗頭は、メモを、開いた。「『六人の死亡推定時刻は、いずれも近接しており、順序の特定は困難』」
……。
「近接している、ということは」五百旗頭は、言った。「――六人は、短時間のうちに、死んでいます」
「どれくらい」
「解剖で、順序が、つかないほど」五百旗頭は、言った。「……おそらく、数時間以内です」
……。
数時間。
六人が。
数時間で。
◇
「では、稽古で、検証します」五百旗頭は、言った。「真壁さん、お願いが」
「はい!」
「台本通りに、動いて、ください」五百旗頭は、言った。「ただし、実際の、距離で。実際の、速度で」
「わかりました」
「わたしが、計ります」
……。
稽古が。
始まった。
いや。
稽古じゃ、ない。
これは。
実験だ。
◇
まず。
第一の。
死。
教師役の、五百旗頭が。
書架の、間で。
倒れる。
……というか。
台本上は、そうなっている。
実際には。
誰が、どうやって。
殺したのかは。
わからない。
「ここで」五百旗頭は、倒れたまま、言った。「――次は、部長です」
「はい」真壁が、指示した。「不破くん、位置に」
不破が。
別の、書架の、前に、移動する。
「では、二人目の、死」
不破が。
倒れる。
五百旗頭は。
ストップウォッチを。
押した。
「――十二秒」
「え?」
「今の、移動に、十二秒、かかりました」五百旗頭は、言った。「わたしが、倒れた位置から。不破くんの、位置まで」
……。
なるほど。
犯人が。
移動する。
その、時間。
◇
それから。
一時間。
全部の、パターンを。
計った。
誰が、どこで、死んだと、仮定するか。
その組み合わせを。
変えながら。
五百旗頭は。
ノートに。
数字を。
書き込んで、いった。
……途中から。
誰も。
喋らなく、なった。
みんな。
黙って。
言われた通りに。
動いて。
倒れて。
また、立ち上がった。
……妙な、気分だった。
十年前に。
本当に、死んだ人たちの。
動きを。
なぞって、いる。
◇
「――終わりました」
五百旗頭が。
顔を、上げた。
「結果は?」
「……おかしいです」
「おかしい?」
「ええ」五百旗頭は、ノートを、見せた。「移動時間の、合計。……どの順序で、仮定しても」
五百旗頭は。
数字を、指した。
「――短すぎます」
……。
え?
「短い?」
「はい」五百旗頭は、言った。「六人を、殺害するのに、必要な、移動時間。……合計しても、十分に、満たない」
「じゃあ、余裕じゃ」
「そうです」五百旗頭は、言った。「余裕が、ありすぎます」
……。
ん?
◇
「考えて、みてください」五百旗頭は、言った。「六十時間、閉じ込められていた」
「ああ」
「そして、死亡推定時刻は、近接している」五百旗頭は、言った。「数時間以内に、六人が、死んだ」
「うん」
「では」五百旗頭は、言った。「――それまでの、五十時間以上は、何を、していたのですか」
……。
……あ。
……そうだ。
金曜の、夜に、閉じ込められて。
死んだのは。
最後の、数時間。
じゃあ。
その、前は?
二日以上。
六人は。
何を。
して、いたんだ?
◇
「普通に、考えれば」五百旗頭は、言った。「――脱出を、試みるはずです」
「そうだな」
「扉を、叩く。窓を、割る。……助けを、呼ぶ」五百旗頭は、言った。「二日あれば、相当なことが、できます」
「……」
「でも」五百旗頭は、言った。「そんな記録は、ありません」
「記録が、ないだけかも」
「いえ」五百旗頭は、首を、振った。「もし、窓を割ったなら。……ガラスの破片が、残ります。扉を壊そうとしたなら、痕跡が、残ります」
「……」
「報道では」五百旗頭は、言った。「そういった、記述が、一切、ありません」
……。
ぞ、と。
した。
二日間。
六人は。
何も。
しなかった?
◇
「――ねえ」
湊ミライが。
口を、挟んだ。
「あのさ。単純に、聞くけど」
「なんですか」
「その六人、閉じ込められてるって、知ってたの?」
……。
……え?
「だってさ」ミライは、言った。「『閉じ込められた』って、誰が、言ったの?」
「……手記に」
「手記に、書いてあるの?」ミライは、言った。「『わたしたちは、閉じ込められた』って」
五百旗頭が。
メモを。
めくった。
そして。
顔を、上げた。
「……書いて、ありません」
……。
「じゃあさ」ミライは、言った。「――もしかして、その六人。閉じ込められてる、って、思ってなかったんじゃない?」
……。
稽古場が。
静まり返った。
◇
「……どういう、ことだ」
「わかんないけど」ミライは、肩を、すくめた。「二日間、何もしなかったって、変じゃん」
「ああ」
「でも」ミライは、言った。「『閉じ込められてない』って、思ってたら。……何も、しないよね」
……。
そうだ。
出られると、思っていたら。
誰も。
助けを、呼ばない。
「じゃあ」俺は、言った。「なんで、二日も、そこに、いたんだ」
「知らないよ」ミライは、あっさり、言った。「――そういう『ゲーム』だったんじゃないの?」
……。
……。
心臓が。
跳ねた。
ゲーム。
そうだ。
十年前。
あの六人は。
選抜ゲームの。
参加者、だった。
……つまり。
二日間。
六人は。
ゲームを。
して、いた?
◇
「――五百旗頭」
俺は、言った。
「はい」
「これ、外部犯の、可能性は?」
「……外部?」
「ゲームなら、運営が、いるだろ」俺は、言った。「あのときも、いた。……見てる、やつらが」
五百旗頭が。
息を、のんだ。
「……観測者」
「ああ」俺は、言った。「六人が、閉じ込められてたなら。……外に、誰か、いたはずだ」
「……」
「その、誰かが」俺は、言った。「――中に、入れたんじゃ、ないか?」
……。
稽古場が。
静かだった。
五百旗頭は。
しばらく。
黙って。
それから。
言った。
「――否定は、できません」
……。
「密室、と、言われていますが」五百旗頭は、言った。「それは、『施錠されていた』という、意味です」
「うん」
「鍵を、持っている人間が、いれば」五百旗頭は、言った。「……密室では、ありません」
……。
誰かが。
外から。
入って。
……。
「でも」五百旗頭は、言った。「それだと、別の、問題が、生じます」
「なんだ」
「――なぜ、六人全員を、殺す必要が、あったのか」
……。
動機。
誰も。
知らない。
十年間。
誰も。
◇
「……ひとつ、いいですか」
声を、上げたのは。
御手洗だった。
隅に、座ったまま。
手記を、書く、姿勢のまま。
「なんだ、御手洗」
「わたし、ずっと、ここに、いるでしょう?」
「ああ」
「この位置から、考えると」御手洗は、言った。「……ひとつ、気になることが、あるの」
「なんだ」
御手洗は。
自分の、手元を。
見た。
そこには。
台本と。
稽古用の。
ノートが、ある。
「――どうして、この人は、書いたのかしら」
……。
え。
「動けなくて。痛くて。……たぶん、意識も、朦朧としていて」御手洗は、言った。「それでも、書いた」
「……ああ」
「なぜ?」
……。
……そうだ。
なんで。
書いたんだ。
「助けを、呼ぶほうが、先では、ないかしら」御手洗は、言った。「大声を、出すとか。物を、投げるとか」
「……」
「でも、彼女は、書いた」御手洗は、言った。「――誰かに、読ませるために」
……。
誰かに。
読ませる。
……。
誰に?
◇
「――それ」
ミライが。
ぽつり、と、言った。
「なによ」
「今の、御手洗さんの」ミライは、言った。「……けっこう、やばくない?」
「やばい?」
「だってさ」ミライは、言った。「その手記、『誰かが読む』って、前提で、書かれてるってことでしょ」
「……そうなる、な」
「じゃあさ」ミライは、俺を、見た。
「――誰が、読むと、思ってたの?」
……。
……。
全員、死んだ。
部屋の、中に。
生きている人間は。
いなかった。
じゃあ。
その手記は。
誰が。
読むと。
思われて、いたんだ?
「……外の、誰か、か」
俺は。
そう、つぶやいた。
五百旗頭が。
ゆっくりと。
頷いた。
「……可能性は、あります」
……。
ぞわ、と、した。
十年前。
あの部屋には。
外に。
誰かが、いて。
中の、誰かは。
それを。
知って、いた。
(第7話 了)




