第6話 動線
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第6話 動線
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稽古は。
旧校舎の。
三階で。
行われた。
◇
「――ここ、使っていいんですか?」
俺は、聞いた。
「はい」真壁は、鍵を、開けながら、言った。「演劇部の、稽古場です。……普段から、使ってます」
扉が。
開いた。
埃の、匂い。
でも。
資料庫ほどじゃ、ない。
中は。
がらんとした。
教室、だった。
机も、椅子も、ない。
床に。
テープで。
線が、引かれて、いた。
「あの線は?」
「舞台の、大きさです」真壁は、言った。「体育館の、ステージと、同じ寸法にしてあります」
……。
なるほど。
ちゃんと、してるな。
そして。
その、床の、上に。
白い、テープで。
別の、線も。
引かれて、いた。
四角。
長方形。
いくつかの。
直線。
「これは?」
「――図書室の、間取りです」
……。
◇
「十年前の、旧図書室」真壁は、言った。「資料に、平面図が、残ってました」
「よく、見つけたな」
「消防の、書類です」真壁は、言った。「避難経路図。……あれ、法令で、保管義務が、あるんですよ」
……。
五百旗頭と。
同じ、着眼だ。
こいつも。
ちゃんと。
調べてる。
「入口が、ここ」真壁は、テープを、指した。「書架が、この列。……全部で、六列」
「うん」
「窓が、こっち側」真壁は、言った。「そして」
真壁は。
部屋の。
いちばん、奥。
隅の、あたりを。
指した。
「――手記が、見つかったのは、ここです」
……。
部屋の。
隅。
書架の。
いちばん、奥。
入口からは。
いちばん、遠い。
場所。
◇
「――じゃあ、始めましょう!」
真壁が。
手を、叩いた。
「まず、第一場。全員が、図書室に、閉じ込められた、直後です」
役者たちが。
テープの、中に。
入って、いく。
五百旗頭。
御手洗。
不破。
日下部。
田口。
演劇部の、佐々木さん。
六人。
……六人だ。
十年前と。
同じ、人数。
そう、思うと。
少し。
背筋が。
寒く、なった。
◇
俺は。
部屋の、隅に、座って。
ノートを、開いた。
記録係。
……といっても。
何を、記録すれば、いいのか。
わからない。
とりあえず。
気づいたことを。
書けば、いいらしい。
湊ミライは。
俺の、隣に。
座って、いた。
「暇だな」
「暇だね」
「お前、演出補助だろ」
「まだ、出番ない」ミライは、あくびを、した。「動きが、固まってからじゃないと、直せないもん」
……。
なるほど。
◇
稽古が、始まった。
最初は。
ぐだぐた、だった。
誰が、どこに、立つのか。
どう、動くのか。
全然。
決まって、いない。
「不破くん、もう少し、前!」
「ここか」
「あ、行きすぎです」
「面倒だな」
「文句、言わない!」
……。
見てる分には。
面白い。
舞台って。
こんなに。
細かく。
決めるのか。
一歩の、位置まで。
◇
三十分ほど、経って。
ようやく。
全員の。
立ち位置が。
決まった。
「じゃあ、通してみます!」真壁が、言った。「第一場、いきます!」
役者たちが。
動き出した。
台詞を。
言いながら。
決められた、位置に。
移動して、いく。
……。
俺は。
それを。
ノートに。
書き写して、いた。
誰が。
どこに。
いるか。
図を、描いて。
印を、つけて。
……で。
御手洗が。
部屋の、隅に。
座り込んだ。
負傷して。
動けなく、なる。
そこから。
手記を。
書き始める、場面。
……。
……。
……あれ?
◇
「――ちょっと、待った」
俺は。
立ち上がって、いた。
「え?」真壁が、振り返った。「どうしました、森本くん」
「いや」俺は、言った。「……なんか、変だ」
「変?」
「うまく、言えないんだけど」
俺は。
御手洗の、いる、隅に。
歩いて、いった。
そして。
その、隣に。
しゃがんだ。
御手洗と。
同じ、目線に。
なる。
そして。
前を。
見た。
……。
「……見えない」
「え?」
「見えないんだ」俺は、言った。「――ここから、あそこが」
◇
全員が。
集まって、きた。
「どういうことですか?」
「見てくれ」俺は、しゃがんだまま、言った。「ここに、座ってみて」
真壁が。
隣に、しゃがんだ。
「……あ」
「な?」
「……見えないですね」
……。
何が。
見えないのか。
説明する。
手記が、見つかったのは。
部屋の、いちばん、奥の、隅。
書架の。
陰。
そこから。
前を、見ると。
書架が。
邪魔で。
部屋の。
大部分が。
――見えない。
◇
「……つまり」五百旗頭が。
テープの、上を。
歩きながら、言った。
「この位置からは。……入口が、見えません」
「ああ」
「窓側も、見えません」五百旗頭は、言った。「見えるのは」
五百旗頭は。
御手洗の、正面に、立った。
「――この、通路だけです」
……。
書架と、書架の、間の。
一本の、通路。
幅は。
一メートル、ほど。
そこだけが。
まっすぐ。
見える。
それ以外は。
全部。
書架に。
遮られて、いる。
◇
「……なあ、五百旗頭」
「はい」
「手記には、なんて、書いてあった」
「順番に、殺された、と」
「どこで?」
……。
五百旗頭が。
動きを。
止めた。
「……どこで、殺されたかは」
「……」
「――書いて、ありません」
……。
全員が。
黙った。
「手記には、順序しか、書いていません」五百旗頭は、ゆっくり、言った。「『教師が、死んだ』『部長が、死んだ』……順番だけです」
「場所は?」
「ありません」
「……じゃあ」俺は、言った。「――どうやって、見たんだ」
……。
稽古場が。
しん、と、なった。
◇
「……この位置から、見えるのは」五百旗頭が、言った。「通路、一本だけ」
「ああ」
「もし、全員が、この通路で、死んだなら」五百旗頭は、言った。「……見えます」
「でも」
「はい」五百旗頭は、頷いた。「――そんな偶然は、ありえません」
……。
六人。
いや。
五人。
全員が。
たまたま。
同じ、通路で。
死ぬ。
……ありえない。
「じゃあ」御手洗が、隅に、座ったまま、言った。「わたしは……いえ、その人は」
御手洗は。
顔を、上げた。
「――見えないものを、書いていた、ということ?」
……。
ぞ、と。
した。
◇
「可能性は、三つです」五百旗頭は、指を、折った。
「一。彼女は、移動した」
「動けなかったんじゃ」
「重傷でも、這うことは、できます」五百旗頭は、言った。「……ただし、床に、血痕が、残るはずです」
「記録は?」
「わかりません」五百旗頭は、言った。「そこまでは、報道されていません」
「二つ目は」
「二。彼女は、見ていない」五百旗頭は、言った。「――音だけで、判断した」
……。
音。
悲鳴。
物音。
誰かが、倒れる、音。
それだけで。
「死んだ」と。
判断した?
「三つ目は」
五百旗頭は。
少し。
言いにくそうに、した。
「――三。彼女は、書いていない」
……。
「別人が、書いた、ということですか」御手洗が、言った。
「可能性としては」
……。
稽古場が。
静かだった。
誰も。
何も。
言えなかった。
◇
「……ねえ」
沈黙を、破ったのは。
ミライだった。
「なんだよ」
「今の、さ」ミライは、言った。「――記録には、書いてなかったよね?」
「え?」
「『この位置からは、見えない』って」ミライは、言った。「新聞にも、資料にも、書いてなかったでしょ」
「……ああ」
「なのに」ミライは、俺を、見た。「――今、わかった」
……。
あ。
そうだ。
十年間。
誰も。
気づかなかった、ことに。
今。
気づいた。
座って。
目線を、下げて。
前を、見ただけで。
「……演じるって」ミライは、言った。「けっこう、すごいね」
……。
五百旗頭が。
テープの、上で。
拳を。
握って、いた。
「……続けましょう」
その、声が。
少しだけ。
震えて、いた。
「まだ、あります。……絶対に、まだ、あります」
(第6話 了)




