第5話 配役
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第5話 配役
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十二月の、中旬。
公演まで、三週間。
稽古が。
本格的に。
始まった。
◇
「――では、正式に、配役を、発表します!」
真壁が。
視聴覚室の、前で。
宣言した。
ホワイトボードに。
名前が。
書かれて、いく。
『教師 ― 五百旗頭』
『委員長 ― 御手洗』
『部長 ― 不破』
『物知り ― 日下部』
『気弱な男子 ― 田口』
『もう一人 ― 演劇部・佐々木』
『演出補助 ― 湊』
『照明・記録 ― 森本』
……。
俺の、名前が。
いちばん、下にある。
……よし。
安全だ。
◇
「あの」
手を、挙げたのは。
五百旗頭だった。
「はい、五百旗頭さん!」
「わたしが、教師役、というのは。……本当に、いいのですか」
「はい!」
「わたし、女子です」
「そこ、変えました」真壁は、あっさり、言った。「役名、『教師』です。性別、指定してません」
「……なるほど」
「十年前の、先生が、男性か、女性かも」真壁は、言った。「……資料には、書いてなかったので」
……。
そうか。
名前も。
性別も。
わからない。
ただ。
「教師」という。
役割だけが。
記録されて、いる。
◇
「それに」真壁は、続けた。「五百旗頭さん、いちばん、重要な役ですから」
「重要?」
「はい」真壁は、真剣な顔で、言った。「――だって、犯人かも、しれないんですよね?」
……。
視聴覚室が。
少し。
静かに、なった。
「手記に、そう、書いてあるんですよね」真壁は、言った。「『死んだと思っていた教師が、立ち上がった』って」
「……ええ」
「でも、解剖の結果と、合わない」真壁は、言った。「だから、この役は」
真壁は。
ホワイトボードを、指した。
「――『犯人かもしれないし、そうじゃないかもしれない役』です」
……。
こいつ。
ちゃんと。
資料を。
読み込んでる。
「難しいと、思います」真壁は、言った。「だから、五百旗頭さんに、お願いしたいんです」
五百旗頭は。
少し、黙って。
それから。
頷いた。
「……やります」
◇
「御手洗さんも、いいですか」真壁は、言った。「『委員長』役。……手記を、書く役です」
「ええ」御手洗は、頷いた。
「大変ですよ」真壁は、言った。「出番、長いです。……ずっと、舞台の、隅に、いて。動けないまま、書き続けるので」
「……動けないの?」
「はい」真壁は、言った。「最初のシーンで、負傷して。……そこから、最後まで、同じ場所です」
……。
それは。
きつい。
二時間近い、舞台で。
ずっと。
座ったまま。
動かずに。
でも。
御手洗は。
静かに。
頷いた。
「……わかったわ」
「本当に、いいですか?」
「ええ」御手洗は、言った。「……その人は、本当に、そうしていたのでしょう?」
「……はい」
「動けなくて。痛くて。……でも、書き続けた」御手洗は、言った。「なら、わたしも、そうするわ」
……。
こいつ。
やっぱり。
本気だ。
◇
「――で、俺は」
不破が。
腕を、組んだ。
「『部長』役だ。……どういう、人物だ」
「えっと」真壁は、資料を、見た。「運動部の、部長で。体格が、いい。……最初に、パニックに、なる人です」
「パニック?」
「はい。……というか、いちばん、暴れます」
「なぜだ」
「わかりません」真壁は、言った。「……でも、手記に、そう、書いてあります。『部長が、暴れた』と」
「……ふん」不破は、鼻を、鳴らした。「愚かだな」
「不破くん」
「なんだ」
「……たぶん、その人、いちばん、怖かったんだと、思います」
……。
不破が。
少し。
黙った。
「体が、大きい人ほど」真壁は、言った。「怖いとき、暴れるんです。……止まれなくなるんです」
「……」
「わたしの、兄が、そうだったので」真壁は、あっさり、言った。「わかります」
不破は。
しばらく。
何も、言わずに。
それから。
ぼそっ、と。
言った。
「……了解した」
◇
「日下部くんは、『物知り』役」
「はい」
「情報を、整理する人です」真壁は、言った。「みんなを、落ち着かせようと、します」
「僕に、ぴったりですね」
「はい。……ただ」
「ただ?」
真壁は。
少し、言いにくそうに。
「――この人、途中から、何も、言わなくなります」
「……ほう」
「手記に、書いてあります」真壁は、言った。「『物知りが、黙り込んだ』と」
「なぜ、でしょう」
「わかりません」真壁は、首を、振った。「……何かに、気づいたのかも、しれません」
……。
日下部は。
いつもの、笑顔のまま。
少しだけ。
目を、細めた。
「……面白いですね」
……。
……こいつ。
楽しんでるな。
◇
「田口くんは、『気弱な男子』役」
「あ、はい」
「……素で、いけると、思います」
「素で、いいんですか!?」
「はい」
「よし!」
……。
こいつ。
喜ぶな。
◇
で。
稽古が、始まる、前に。
湊ミライが。
手を、挙げた。
「はい、湊さん」
「ひとつ、いい?」
「なんでしょう」
「この劇さ」ミライは、言った。「――どう、終わるの?」
……。
全員が。
真壁を、見た。
「……それが」真壁は、頭を、かいた。「実は、まだ、決まってないんです」
「決まってない?」
「はい」真壁は、言った。「だって、真相が、わからないので」
「……」
「犯人が、誰かも。何が、あったかも」真壁は、言った。「……全部、わかってないんです」
「じゃあ、どうすんの」
「とりあえず」真壁は、言った。「――わかってるところまでを、忠実に、やります」
……。
「そこから先は」真壁は、五百旗頭を、見た。「……五百旗頭さんが、書いてくれるって」
……。
全員の、視線が。
五百旗頭に、集まった。
五百旗頭は。
平然と。
言った。
「――ええ。書きます」
「書けるのか?」俺は、言った。
「今は、書けません」五百旗頭は、言った。「……でも、稽古を、してから、書きます」
「稽古を、してから?」
「はい」
五百旗頭は。
ホワイトボードの。
配役表を。
見た。
「――演じれば、わかることが、あるはずです」
◇
その、夜。
帰り道。
俺は。
ミライと。
並んで、歩いて、いた。
「……ねえ、森本」
「なんだよ」
「あんた、あの配役、どう思う?」
「どうって」
「五百旗頭さんが、教師役」ミライは、言った。「御手洗さんが、手記を書く役」
「……ああ」
「あれさ」ミライは、言った。「――偶然?」
……。
え。
「真壁さんが、決めたんだよね」ミライは、言った。「読み合わせを、一回、見ただけで」
「……そうだな」
「なのに」ミライは、言った。「めちゃくちゃ、噛み合ってない?」
……。
たしかに。
五百旗頭が、教師役。
「犯人かもしれない役」を。
探偵役が、演じる。
御手洗が、手記を書く役。
「記録」を、扱う人間が。
「記録を残した人」を、演じる。
「……偶然、だろ」
「かもね」ミライは、言った。「……でも」
ミライは。
白い息を。
吐いた。
「――なんか、誰かが、そう配ったみたいじゃない?」
……。
心臓が。
少しだけ。
嫌な、音を、立てた。
誰かが。
役を。
配る。
……それ。
前にも。
あった。
一巻の、あの、ゲームで。
(第5話 了)




