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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
十年前の、密室

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77/115

第5話 配役

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第5話 配役

====================



十二月の、中旬。


公演まで、三週間。


稽古が。


本格的に。


始まった。



◇



「――では、正式に、配役を、発表します!」


真壁(まかべ)が。


視聴覚室の、前で。


宣言した。


ホワイトボードに。


名前が。


書かれて、いく。



『教師    ― 五百旗頭』


『委員長   ― 御手洗』


『部長    ― 不破』


『物知り   ― 日下部』


『気弱な男子 ― 田口』


『もう一人  ― 演劇部・佐々木』


『演出補助  ― 湊』


『照明・記録 ― 森本』



……。


俺の、名前が。


いちばん、下にある。


……よし。


安全だ。



◇



「あの」


手を、挙げたのは。


五百旗頭(いおきべ)だった。


「はい、五百旗頭さん!」


「わたしが、教師役、というのは。……本当に、いいのですか」


「はい!」


「わたし、女子です」


「そこ、変えました」真壁は、あっさり、言った。「役名、『教師』です。性別、指定してません」


「……なるほど」


「十年前の、先生が、男性か、女性かも」真壁は、言った。「……資料には、書いてなかったので」


……。


そうか。


名前も。


性別も。


わからない。


ただ。


「教師」という。


役割だけが。


記録されて、いる。



◇



「それに」真壁は、続けた。「五百旗頭さん、いちばん、重要な役ですから」


「重要?」


「はい」真壁は、真剣な顔で、言った。「――だって、犯人かも、しれないんですよね?」


……。


視聴覚室が。


少し。


静かに、なった。


「手記に、そう、書いてあるんですよね」真壁は、言った。「『死んだと思っていた教師が、立ち上がった』って」


「……ええ」


「でも、解剖の結果と、合わない」真壁は、言った。「だから、この役は」


真壁は。


ホワイトボードを、指した。


「――『犯人かもしれないし、そうじゃないかもしれない役』です」


……。


こいつ。


ちゃんと。


資料を。


読み込んでる。


「難しいと、思います」真壁は、言った。「だから、五百旗頭さんに、お願いしたいんです」


五百旗頭は。


少し、黙って。


それから。


頷いた。


「……やります」



◇



「御手洗さんも、いいですか」真壁は、言った。「『委員長』役。……手記を、書く役です」


「ええ」御手洗は、頷いた。


「大変ですよ」真壁は、言った。「出番、長いです。……ずっと、舞台の、隅に、いて。動けないまま、書き続けるので」


「……動けないの?」


「はい」真壁は、言った。「最初のシーンで、負傷して。……そこから、最後まで、同じ場所です」


……。


それは。


きつい。


二時間近い、舞台で。


ずっと。


座ったまま。


動かずに。


でも。


御手洗は。


静かに。


頷いた。


「……わかったわ」


「本当に、いいですか?」


「ええ」御手洗は、言った。「……その人は、本当に、そうしていたのでしょう?」


「……はい」


「動けなくて。痛くて。……でも、書き続けた」御手洗は、言った。「なら、わたしも、そうするわ」


……。


こいつ。


やっぱり。


本気だ。



◇



「――で、俺は」


不破(ふわ)が。


腕を、組んだ。


「『部長』役だ。……どういう、人物だ」


「えっと」真壁は、資料を、見た。「運動部の、部長で。体格が、いい。……最初に、パニックに、なる人です」


「パニック?」


「はい。……というか、いちばん、暴れます」


「なぜだ」


「わかりません」真壁は、言った。「……でも、手記に、そう、書いてあります。『部長が、暴れた』と」


「……ふん」不破は、鼻を、鳴らした。「愚かだな」


「不破くん」


「なんだ」


「……たぶん、その人、いちばん、怖かったんだと、思います」


……。


不破が。


少し。


黙った。


「体が、大きい人ほど」真壁は、言った。「怖いとき、暴れるんです。……止まれなくなるんです」


「……」


「わたしの、兄が、そうだったので」真壁は、あっさり、言った。「わかります」


不破は。


しばらく。


何も、言わずに。


それから。


ぼそっ、と。


言った。


「……了解した」



◇



「日下部くんは、『物知り』役」


「はい」


「情報を、整理する人です」真壁は、言った。「みんなを、落ち着かせようと、します」


「僕に、ぴったりですね」


「はい。……ただ」


「ただ?」


真壁は。


少し、言いにくそうに。


「――この人、途中から、何も、言わなくなります」


「……ほう」


「手記に、書いてあります」真壁は、言った。「『物知りが、黙り込んだ』と」


「なぜ、でしょう」


「わかりません」真壁は、首を、振った。「……何かに、気づいたのかも、しれません」


……。


日下部は。


いつもの、笑顔のまま。


少しだけ。


目を、細めた。


「……面白いですね」


……。


……こいつ。


楽しんでるな。



◇



「田口くんは、『気弱な男子』役」


「あ、はい」


「……素で、いけると、思います」


「素で、いいんですか!?」


「はい」


「よし!」


……。


こいつ。


喜ぶな。



◇



で。


稽古が、始まる、前に。


湊(みなと)ミライが。


手を、挙げた。


「はい、湊さん」


「ひとつ、いい?」


「なんでしょう」


「この劇さ」ミライは、言った。「――どう、終わるの?」


……。


全員が。


真壁を、見た。


「……それが」真壁は、頭を、かいた。「実は、まだ、決まってないんです」


「決まってない?」


「はい」真壁は、言った。「だって、真相が、わからないので」


「……」


「犯人が、誰かも。何が、あったかも」真壁は、言った。「……全部、わかってないんです」


「じゃあ、どうすんの」


「とりあえず」真壁は、言った。「――わかってるところまでを、忠実に、やります」


……。


「そこから先は」真壁は、五百旗頭を、見た。「……五百旗頭さんが、書いてくれるって」


……。


全員の、視線が。


五百旗頭に、集まった。


五百旗頭は。


平然と。


言った。


「――ええ。書きます」


「書けるのか?」俺は、言った。


「今は、書けません」五百旗頭は、言った。「……でも、稽古を、してから、書きます」


「稽古を、してから?」


「はい」


五百旗頭は。


ホワイトボードの。


配役表を。


見た。


「――演じれば、わかることが、あるはずです」



◇



その、夜。


帰り道。


俺は。


ミライと。


並んで、歩いて、いた。


「……ねえ、森本」


「なんだよ」


「あんた、あの配役、どう思う?」


「どうって」


「五百旗頭さんが、教師役」ミライは、言った。「御手洗さんが、手記を書く役」


「……ああ」


「あれさ」ミライは、言った。「――偶然?」


……。


え。


「真壁さんが、決めたんだよね」ミライは、言った。「読み合わせを、一回、見ただけで」


「……そうだな」


「なのに」ミライは、言った。「めちゃくちゃ、噛み合ってない?」


……。


たしかに。


五百旗頭が、教師役。


「犯人かもしれない役」を。


探偵役が、演じる。


御手洗が、手記を書く役。


「記録」を、扱う人間が。


「記録を残した人」を、演じる。


「……偶然、だろ」


「かもね」ミライは、言った。「……でも」


ミライは。


白い息を。


吐いた。


「――なんか、誰かが、そう配ったみたいじゃない?」


……。


心臓が。


少しだけ。


嫌な、音を、立てた。


誰かが。


役を。


配る。


……それ。


前にも。


あった。


一巻の、あの、ゲームで。



(第5話 了)

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