第4話 手記
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第4話 手記
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「封印」された、書類は。
見つからなかった。
◇
三日、探した。
資料庫を。
隅から、隅まで。
でも。
なかった。
「学校には、ないのかもしれません」五百旗頭は、言った。「警察に、押収された、可能性が、あります」
「じゃあ、無理か」
「いえ」五百旗頭は、首を、振った。「――別の、経路が、あります」
「別の?」
「新聞です」五百旗頭は、言った。「報道は、二日で、消えました。……でも、その二日分は、残っています」
「ベタ記事だけ、だろ」
「全国紙は、そうです」五百旗頭は、言った。「でも、地方紙は?」
……。
あ。
◇
市立図書館。
地下の、資料室。
マイクロフィルムの、リーダー。
五百旗頭は。
慣れた手つきで。
フィルムを、セットした。
「よく、使い方、知ってるな」
「調べ物で、来ますから」五百旗頭は、言った。「……この学校の、生徒会には、過去の記録が、ほとんど、残っていません。だから、外で、調べます」
……。
こいつ。
生徒会の、仕事を。
そこまで、真面目に。
やってたのか。
画面に。
十年前の。
地方紙が。
映し出された。
◇
「――ありました」
五百旗頭の、声が。
硬くなった。
画面に。
記事が。
映って、いた。
全国紙より。
ずっと。
大きな、扱いで。
『県立高校 図書室で 生徒6人死亡』
『室内から、被害者の手記』
……。
「手記?」
「読みます」五百旗頭は、画面を、指で、追った。
『――現場となった図書室からは、被害者の一人とみられる女子生徒が書き残したとみられる手記が発見された』
『手記には、室内で起きた出来事が、時系列に沿って記されていたという』
『捜査関係者によると――』
……。
五百旗頭が。
そこで。
息を、のんだ。
◇
「……なんて、書いてあるんだ」
五百旗頭は。
少し、間を、置いてから。
読み上げた。
「――『手記によれば、最初に襲われたのは、書き手である女子生徒自身であった』」
「……自分が、最初?」
「はい」五百旗頭は、続けた。「『重傷を負い、行動不能となった彼女は、その後の出来事を、室内の隅から、記録し続けたとみられる』」
……。
動けなくなった、まま。
見ていた。
そして。
書いて、いた。
「『手記に記された、死亡の順序は、以下の通り』」
五百旗頭は。
読んだ。
「『一人目、教師』」
「『二人目、男子生徒』」
「『三人目、男子生徒』」
「『四人目、女子生徒』」
……。
四人。
「そして」五百旗頭は、言った。「手記の、最後の記述です」
五百旗頭は。
画面を。
じっと。
見つめた。
そして。
読み上げた。
「――『死んだと思っていた教師が、立ち上がった。こちらに来る。ああ、そういうことだったのか。わたしは』」
……。
「……そこで、切れています」
◇
……。
資料室が。
静かだった。
空調の、音だけが。
低く。
響いて、いた。
「……つまり」俺は、言った。「犯人は、教師?」
「手記に、よれば」五百旗頭は、言った。「そうなります」
「じゃあ、解決じゃ」
「――解決しません」
五百旗頭は。
画面を、送った。
翌日の、記事。
見出しは。
短かった。
『手記の記述と 司法解剖結果に矛盾』
◇
「……矛盾?」
「読みます」五百旗頭は、言った。
「『司法解剖の結果、手記を書いたとみられる女子生徒の死亡推定時刻は、六人の中で、最も遅いことが判明した』」
……。
「……最も、遅い?」
「はい」
「じゃあ、こいつ」俺は、言った。「――最後まで、生きてたのか」
「そうなります」五百旗頭は、頷いた。
「でも、手記には」
「はい」五百旗頭は、言った。「『教師に、とどめを刺された』と、書かれています」
「……」
「ですが」五百旗頭は、言った。「――教師は、彼女より、先に、死んでいます」
……。
ぞわ、と。
背中が。
冷たく、なった。
◇
「……どういう、ことだ」
「わかりません」五百旗頭は、言った。「ですが、可能性は、限られます」
五百旗頭は。
指を、折った。
「一。手記が、嘘である」
「……嘘?」
「はい。……彼女が、意図的に、嘘を、書いた」
「なんのために」
「わかりません」五百旗頭は、言った。「二。手記の、一部を、別人が、書いた」
「別人?」
「最後の記述だけ、誰かが、書き足した。……あるいは、改竄した」
「……」
「三」五百旗頭は、言った。「――彼女が、間違えた」
「間違えた?」
「暗い室内で。重傷を負って。……朦朧としながら、書いています」五百旗頭は、言った。「……見間違えた、可能性は、あります」
……。
見間違い。
……あ。
それ。
前にも。
あった。
◇
「……なあ、五百旗頭」
「はい」
「それ、二巻の――」
「ええ」五百旗頭は、頷いた。「あの事件と、同じ、構造です」
……。
二巻。
学校中の、生徒が。
「森本を見た」と、証言した、事件。
誰も。
顔を。
ちゃんと。
見て、いなかった。
みんな。
「森本らしい誰か」を。
「森本だ」と。
思い込んだ、だけ、だった。
「人は、他人を、正確には、識別できません」五百旗頭は、言った。「明るい場所で、正面から、見ていても。……間違えます」
「……ああ」
「まして」五百旗頭は、言った。「――暗闇で。出血していて。……死にかけている人間が」
……。
そうだ。
その状況で。
「教師だ」と。
断定できるのか。
「でも」俺は、言った。「じゃあ、あの記述は」
「『教師に見えた誰か』が、立ち上がった」五百旗頭は、言った。「……そう、読み替えられます」
……。
誰かが。
立ち上がった。
でも。
それが。
誰なのかは。
わからない。
◇
「……待てよ」
俺は。
頭を、抱えた。
「六人、全員、死んでるんだよな」
「はい」
「じゃあ、誰が、誰を、殺したのか」
「――永遠に、わかりません」
五百旗頭は。
静かに、言った。
「全員が、被害者で。全員が、容疑者です」五百旗頭は、言った。「そして、全員が、死んでいる」
「……」
「証言者が、いません」五百旗頭は、言った。「唯一の、記録が、この手記。……そして、それが、矛盾している」
……。
詰んでる。
完全に。
「だから」五百旗頭は、言った。「――迷宮入りに、なったんです」
◇
資料室を、出た。
外は。
もう。
暗く、なって、いた。
十二月の、夕方。
息が。
白い。
「……なあ、五百旗頭」
「なんですか」
「これ、解けるのか?」
五百旗頭は。
少し、黙って。
それから。
言った。
「……わかりません」
「……」
「でも」五百旗頭は、言った。「――解ける形には、なっています」
「解ける形?」
「はい」五百旗頭は、頷いた。「情報は、揃っています。死亡順序。手記の内容。現場の状況」
「……」
「不足しているのは」五百旗頭は、言った。「――『そこに、いた感覚』です」
「感覚?」
「記録は、外から見たものです」五百旗頭は、言った。「でも、あの部屋の中で。……人が、どう動いたか。何が、見えたか。何が、見えなかったか」
五百旗頭は。
白い息を、吐いた。
「――それは、記録には、書いてありません」
……。
あ。
そうか。
だから。
こいつ。
演劇を。
やる気に、なったのか。
「……演じるのか」
「はい」五百旗頭は、言った。「――再現します」
その、目は。
完全に。
探偵の、目だった。
(第4話 了)




