第3話 十年前の記録
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第3話 十年前の記録
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「――生徒会室の、鍵を、借りました」
翌日の、放課後。
五百旗頭は。
いきなり。
そう、言った。
「なんで」
「資料庫の、鍵も、一緒です」五百旗頭は、鍵束を、振った。「書記の、権限です」
「……お前、それ、いいのか」
「業務です」五百旗頭は、あっさり、言った。「『過去の、学校行事の、記録を、整理する』。……嘘は、ついていません」
……。
こいつ。
都合よく。
権限を、使うな。
いや。
助かるけど。
◇
旧校舎の、三階。
資料庫。
埃の、匂いが。
鼻を、突いた。
電気を、つけると。
天井の、蛍光灯が。
じじ、と。
音を、立てて。
ゆっくり、明るく、なった。
棚が。
びっしり。
段ボール。
ファイル。
綴じられた、紙束。
「……すごい量だな」
「十年分では、ありません」五百旗頭は、言った。「創立以来の、記録です」
「何十年分だよ」
「六十年ほど」
……。
帰りたい。
◇
「――お邪魔しまーす」
後ろから。
湊ミライが、入ってきた。
「なんで、お前が、いるんだよ」
「暇だから」ミライは、周りを、見回した。「うわ、埃すご。……三年分の、鼻炎が、来そう」
「じゃあ、帰れ」
「やだ」
……。
相変わらず。
で。
その後ろから。
御手洗も。
顔を、出した。
「あら、面白そうな、場所ね」
「御手洗まで」
「古い記録があるのでしょう?」御手洗は、目を、輝かせた。「わたし、こういうの、大好きよ」
……。
こいつは。
わかる。
むしろ。
適任だ。
◇
「では、分担します」五百旗頭は、言った。「十年前の、資料を、探してください。年度で、まとめられているはずです」
「わかった」
四人で。
棚を、探し始めた。
……古い、紙の、匂い。
埃。
静かな、資料庫。
なんか。
探検みたいで。
少しだけ。
わくわく、した。
……いや。
不謹慎か。
これから。
六人、死んだ事件を。
調べるのに。
◇
「――あったわ」
最初に、見つけたのは。
御手洗、だった。
「これ、ではないかしら」
段ボール。
側面に。
年度が。
マジックで、書かれて、いた。
五百旗頭が。
蓋を、開けた。
中身は。
ファイルと。
綴じられた、書類。
学校行事の、記録。
予算の、決算書。
部活動の、報告書。
……普通の。
学校の、記録だった。
「……普通ですね」
「そうだな」
五百旗頭は。
ファイルを。
一冊ずつ。
めくって、いった。
そして。
手が。
止まった。
◇
「……森本くん」
「なんだ」
「これを、見てください」
五百旗頭が。
差し出したのは。
学校の、記念誌だった。
十年前の、年度の。
開かれた、ページには。
その年の。
出来事が。
月ごとに。
並んで、いた。
『四月 入学式』
『五月 体育祭』
『六月 中間考査』
……普通だ。
『十一月 文化祭』
『十二月 ――』
……。
十二月の、欄が。
空白だった。
「……あれ」
「一月も、空白です」五百旗頭は、言った。「二月も」
「三月は?」
「『卒業式』だけ」
……。
三か月。
まるまる。
何も、書かれて、いない。
「学校行事が、なかった、とは、考えにくい」五百旗頭は、言った。「終業式。始業式。学年末考査。……最低でも、それは、あるはずです」
「……消されてる?」
「あるいは」五百旗頭は、言った。「――最初から、書かなかった」
◇
「――ねえ、これ」
ミライが。
別の、ファイルを、持って、きた。
「なんだ」
「新聞部の、部誌。……十年前の」
ミライが。
開いた、ページ。
そこには。
手書きの。
記事が。
途中まで。
書かれて、いた。
『十二月十四日、旧図書室にて――』
……。
そこで。
文章が。
切れて、いた。
その、続きは。
白紙だった。
「……途中で、やめてる」
「みたいだね」ミライは、言った。「その次の、ページも」
ミライが。
めくった。
白紙。
白紙。
白紙。
そして。
最後の、ページに。
一行だけ。
走り書きが、あった。
『先生に、書くなと、言われた』
……。
資料庫が。
しん、と、なった。
◇
「……学校が、隠したのね」
御手洗が。
静かに、言った。
「そうみたいだな」
「わからなくは、ないわ」御手洗は、言った。「六人も、亡くなったら。……学校は、続けられない、かもしれない」
「……」
「進学希望者は、減る。地域の、評判も、落ちる」御手洗は、言った。「隠したくなる、気持ちは、わかるわ」
「わかるのか」
「わかるけれど」御手洗は、顔を、上げた。
「――それでも、いけないと、思うわ」
……。
御手洗の、目が。
いつになく。
まっすぐ、だった。
「歴史って、そうやって、消えていくの」御手洗は、言った。「誰かにとって、都合が悪いから。忘れたほうが、楽だから」
「……」
「そうやって、消えたものは」御手洗は、言った。「……二度と、戻らないの」
……。
こいつが、そう言うと。
妙に。
重い。
◇
「――五百旗頭」
俺は、言った。
「なんですか」
「その、消された三か月。……どこかに、記録は、残ってないのか」
「探しています」五百旗頭は、別の、段ボールを、開けた。「学校が、公式に、消したなら。……残っているとすれば」
「すれば?」
「――事務的な、書類です」
「事務的?」
「ええ」五百旗頭は、言った。「行事の記録は、消せます。文章ですから。……でも、事務書類は、消しにくい」
「なんで」
「予算が、動くからです」五百旗頭は、言った。「お金の、記録は。……法律で、保存期間が、決まっています」
……。
なるほど。
こいつ。
頭が、いいな。
◇
それから。
一時間。
俺たちは。
事務書類を。
ひたすら。
めくった。
……退屈だった。
死ぬほど。
数字。
数字。
数字。
でも。
五百旗頭は。
一枚も。
飛ばさなかった。
そして。
「……ありました」
声が。
少し。
掠れて、いた。
◇
差し出されたのは。
一枚の。
予算の、執行記録だった。
十年前の。
十二月。
『支出:特別清掃費』
『対象:旧図書室』
『金額:(かなりの額)』
『備考:業者委託』
……。
「……清掃費?」
「はい」
「なんで、こんなに、高いんだ」
「通常の、清掃では、ないからです」五百旗頭は、静かに、言った。「――専門の、業者です」
……。
専門。
何の。
……。
ああ。
そういう、ことか。
俺は。
それ以上。
聞かなかった。
◇
「そして」五百旗頭は。
次の、書類を、出した。
「これが、本命です」
『備品廃棄届』
『対象:旧図書室 備品一式』
『理由:使用不能のため』
……。
「備品、全部、捨ててる」
「ええ」五百旗頭は、頷いた。「机。椅子。書架。……全部です」
「……」
「そして」五百旗頭は、指を、さした。「――ここ」
書類の、下のほうに。
手書きで。
追記が、あった。
事務員の、字だろう。
走り書きで。
『※関係書類は、別途、封印』
『(第七役職 関連分 含む)』
……。
心臓が。
止まりそうに、なった。
◇
「……今、なんて」
「『第七役職 関連分 含む』」五百旗頭が、読み上げた。
声が。
震えて、いた。
「……十年前だぞ」
「はい」
「十年前の、書類に。……あのカードと、同じ、言葉が」
「はい」
……。
ぞわ、と。
背中が、粟立った。
あのカード。
一巻の、あと。
図書室で、見つけた。
誰にも、配られていなかった。
七枚目の、カード。
《第七役職》。
あれは。
十年前から。
存在して、いた?
「……ねえ」
ミライが。
ぽつり、と、言った。
その、声が。
いつもの、ふざけた、調子じゃ、なかった。
「これ」
「……ああ」
「――たぶん、掘っちゃ、だめなやつだよ」
……。
資料庫の。
蛍光灯が。
じじ、と。
鳴った。
誰も。
しばらく。
何も。
言わなかった。
(第3話 了)




