第2.5話 読み合わせ
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第2.5話 読み合わせ
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数日後。
放課後の、視聴覚室。
集められたのは。
俺。五百旗頭。御手洗。不破。日下部。田口。
そして。
湊ミライ。
……なんで、田口まで。
「いや、俺も、呼ばれたんだよ」田口は、困った顔で、言った。「『男子、足りないから』って」
「災難だな」
「お前も、だろ」
……。
ちなみに。
東海林は、来ていない。
部活だ、と。
誰かが、言った。
……本当かどうかは。
わからない。
◇
「はい、みなさん、集まりましたね!」
真壁が。
前に、立った。
手には。
分厚い、台本。
「今日は、まず、読み合わせです!」
「読み合わせ?」
「台本を、声に出して、読むんです」真壁は、言った。「まだ、演技は、しなくていいです。……とりあえず、通してみましょう」
……。
まあ。
読むだけなら。
「配役は、仮です」真壁は、台本を、配った。「今日は、適当に、振ります」
俺の、手元にも。
台本が、来た。
表紙には。
こう、書いてあった。
『冬の図書室(仮)』
◇
「じゃあ、最初のシーン」真壁は、言った。「登場人物が、図書室に、集まる場面です」
「はい」
「森本くん、『部長』役、やってみてください」
「――え」
「セリフ、三行目です」
……。
待って。
俺、裏方志望なんだけど。
みんなが。
こっちを、見て、いる。
……くそ。
俺は。
台本を、開いた。
三行目。
『部長「おい、なんだよ、この状況は」』
……。
深呼吸。
「……おい。なんだよ、この状況は」
……。
しん。
視聴覚室が。
静まり返った。
「……」
「……」
「……もう一回、いいですか?」真壁が、言った。
「……なんで」
「もうちょっと、感情を」
「……おい、なんだよ、この状況は!」
「……うーん」
◇
「――下手くそ」
ミライが。
容赦なく。
言った。
「うるさい」
「棒読みじゃん。ロボットかよ」
「うるさいって」
「『おい。なんだよ。この状況は』」ミライは、俺の、真似を、した。「点、多すぎ。カタコトじゃん」
「そこまで、じゃない!」
「そこまでだって」
……。
くそ。
でも。
自分でも。
わかって、いた。
死ぬほど。
下手だった。
◇
「じゃあ、次!」真壁は、切り替えた。「五百旗頭さん、『委員長』役、お願いします」
「わたし、ですか」
「はい。四行目です」
五百旗頭は。
台本を、見て。
少し、眉を、寄せて。
それから。
読んだ。
「――『わかりません。ですが、状況を、整理しましょう』」
……。
「……」
「……」
「……あの」真壁が、言った。「五百旗頭さん」
「はい」
「それ、演技、してます?」
「していますが」
「……普段と、同じでは?」
「同じですが」五百旗頭は、きょとん、と、した。「この台詞、わたしが、普段、言いそうな、内容です」
「あ、そっか」真壁は、納得した。「じゃあ、それで、いいです」
「いいのか!?」
◇
「じゃあ、不破くん」真壁は、言った。「『教師』役、いってみましょう」
「ふん」
不破は。
台本を、片手で、持って。
少し、姿勢を、正した。
そして。
読んだ。
「――『落ち着きなさい。全員、まだ、無事だ』」
……。
……え。
「――『いいか。パニックに、なるのが、いちばん、危険だ。誰も、勝手に、動くな』」
……。
うまい。
いや。
めちゃくちゃ、うまい。
声が、通っていて。
間の、取り方も、自然で。
完全に。
「先生」に。
聞こえた。
「……不破くん!」真壁が、目を、輝かせた。「経験、あります!?」
「ない」
「え、すごいです! めちゃくちゃ、上手いです!」
「当然だ」不破は、腕を、組んだ。「俺は、何を、やらせても、できる」
……。
こいつ。
むかつくけど。
事実だ。
「……ずるいだろ」俺は、言った。
「才能の、差だ」
「うるさい」
◇
「じゃあ、御手洗さん!」真壁は、勢いづいた。「『女子生徒C』役!」
「わたし?」
「はい! 六行目です!」
御手洗は。
台本を、じっと。
見て。
それから。
深呼吸を、した。
……あれ。
なんか。
やたら。
集中して、いる。
「――『いや……いやよ……!』」
……。
……。
……え?
「『どうして……どうして、こんなことに、なるの……!』」
……。
御手洗の。
声が。
震えて、いた。
目に。
涙が。
浮かんで、いた。
「『助けて……お願い、誰か、助けて……!』」
……。
視聴覚室が。
完全に。
静まり返った。
全員が。
御手洗を。
見て、いた。
◇
「……」
「……」
「……あの」真壁が。
恐る恐る。
言った。
「御手洗さん」
「……はい」
「……そこ、まだ、事件、起きてない、場面なんですけど」
「え?」
「まだ、閉じ込められた、直後で。……不安がってる、くらいの、シーンです」
「……あら」
御手洗は。
台本を、見直した。
「……あら、本当ね」
「……感情、入れすぎです」
「ごめんなさい」御手洗は、頬を、赤くした。「……つい」
……。
こいつ。
なんで。
こんなに。
本気なんだ。
「……御手洗」
「なあに?」
「お前、演劇、やってたのか?」
「いいえ」御手洗は、首を、振った。「でも、わたし、歴史が、好きでしょう?」
「うん」
「歴史って」御手洗は、言った。「……本当に、あったことなの」
「……ああ」
「この劇も、そうでしょう?」御手洗は、まっすぐ、俺を、見た。「……十年前、本当に、あったこと」
「……」
「だったら」御手洗は、言った。「……ちゃんと、感じないと、失礼だと、思うの」
……。
……。
……こいつ。
やっぱり。
芯が、通ってるな。
◇
「――はい、じゃあ、日下部くん!」
真壁が。
空気を、切り替えた。
「『男子生徒B』役、お願いします!」
「はい」
日下部は。
にこやかに。
台本を、開いて。
読んだ。
「――『まあまあ、落ち着いて。とりあえず、状況を、整理しましょうよ』」
……。
うまい。
いや。
うますぎる。
自然すぎて。
演技に。
聞こえない。
「日下部くん!」真壁が、また、目を、輝かせた。「上手いです!」
「そうですか?」日下部は、微笑んだ。「普段、喋ってるのと、同じですけど」
……。
それだ。
こいつ。
普段から。
演技してるんだ。
……こわ。
◇
「じゃあ、最後! 田口くん!」
「お、俺!?」
「『男子生徒A』役です!」
「え、えっと」田口は、台本を、震える手で、持った。「……『お、俺、帰りたい……』」
……。
「……」
「……」
「……あの、田口くん」
「は、はい」
「それ、演技、ですか?」
「……素です」
「素!?」
……。
全員が。
笑った。
◇
で。
一通り、読み終わって。
真壁は。
うんうん、と。
頷いて、いた。
「いいですね! だいたい、見えました!」
「見えたのか」
「はい!」真壁は、言った。「配役、決めますね」
真壁は。
メモを。
見ながら。
「不破くん――『教師』役では、なく、『男子生徒』役で」
「なぜだ。俺は、教師が、上手かっただろう」
「上手すぎて、浮きます」真壁は、あっさり、言った。「高校生が、やる劇なので」
「ぐっ……」
「御手洗さんは、『委員長』役」
「わたしが?」
「はい。……手記を、書く役です」真壁は、言った。「感情、入れられる人が、いいので」
「……わかったわ」
「五百旗頭さんは――」真壁は、少し、迷って。「『教師』役で」
「わたしが、教師?」
「はい」真壁は、頷いた。「なんか、その……偉そうなので」
「偉そう!?」
「褒めてます!」
……。
褒めてないと、思うけど。
でも。
妙に。
納得だった。
◇
「で、森本くんは」
……来た。
俺は。
身構えた。
「――裏方で」
「……え」
「照明と、記録係、お願いします」
「……いいのか?」
「はい」真壁は、あっさり、言った。「だって、下手でしたし」
「……はっきり言うな」
「あと」真壁は、言った。「森本くんは、見てるほうが、いい気がします」
「……見てる?」
「なんとなく、ですけど」真壁は、首を、かしげた。「……そういう、顔してます」
……。
なんだ、それ。
でも。
まあ。
舞台に、立たなくて。
済むなら。
それで、いい。
心底。
ほっと、した。
◇
「あ、あと」真壁は、思い出したように。「湊さんは」
「わたし?」ミライは、頬杖を、ついたまま、言った。「わたし、出ないよ」
「知ってます。……演出補助、お願いできますか?」
「演出補助?」
「はい」真壁は、言った。「さっき、森本くんに、ダメ出ししてたじゃないですか」
「したね」
「あれ、正確でした」真壁は、言った。「『点が多い』『カタコト』……的確です」
……。
おい。
何を。
褒めてるんだ。
「うーん」ミライは、少し、考えて。「……まあ、いいよ」
「ほんとですか!」
「暇だし」ミライは、にやり、と、した。「それに」
「それに?」
「――森本に、ダメ出しできるの、楽しいし」
「するなよ!」
……。
帰りたい。
心底。
そう、思った。
(第2.5話 了)




