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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
十年前の、密室

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74/112

第2.5話 読み合わせ

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第2.5話 読み合わせ

====================



数日後。


放課後の、視聴覚室。


集められたのは。


俺。五百旗頭(いおきべ)。御手洗《みたらい》。不破(ふわ)。日下部(くさかべ)。田口(たぐち)。


そして。


湊(みなと)ミライ。


……なんで、田口まで。


「いや、俺も、呼ばれたんだよ」田口は、困った顔で、言った。「『男子、足りないから』って」


「災難だな」


「お前も、だろ」


……。


ちなみに。


東海林(しょうじ)は、来ていない。


部活だ、と。


誰かが、言った。


……本当かどうかは。


わからない。



◇



「はい、みなさん、集まりましたね!」


真壁(まかべ)が。


前に、立った。


手には。


分厚い、台本。


「今日は、まず、読み合わせです!」


「読み合わせ?」


「台本を、声に出して、読むんです」真壁は、言った。「まだ、演技は、しなくていいです。……とりあえず、通してみましょう」


……。


まあ。


読むだけなら。


「配役は、仮です」真壁は、台本を、配った。「今日は、適当に、振ります」


俺の、手元にも。


台本が、来た。


表紙には。


こう、書いてあった。


『冬の図書室(仮)』



◇



「じゃあ、最初のシーン」真壁は、言った。「登場人物が、図書室に、集まる場面です」


「はい」


「森本くん、『部長』役、やってみてください」


「――え」


「セリフ、三行目です」


……。


待って。


俺、裏方志望なんだけど。


みんなが。


こっちを、見て、いる。


……くそ。


俺は。


台本を、開いた。


三行目。


『部長「おい、なんだよ、この状況は」』


……。


深呼吸。


「……おい。なんだよ、この状況は」


……。


しん。


視聴覚室が。


静まり返った。


「……」


「……」


「……もう一回、いいですか?」真壁が、言った。


「……なんで」


「もうちょっと、感情を」


「……おい、なんだよ、この状況は!」


「……うーん」



◇



「――下手くそ」


ミライが。


容赦なく。


言った。


「うるさい」


「棒読みじゃん。ロボットかよ」


「うるさいって」


「『おい。なんだよ。この状況は』」ミライは、俺の、真似を、した。「点、多すぎ。カタコトじゃん」


「そこまで、じゃない!」


「そこまでだって」


……。


くそ。


でも。


自分でも。


わかって、いた。


死ぬほど。


下手だった。



◇



「じゃあ、次!」真壁は、切り替えた。「五百旗頭さん、『委員長』役、お願いします」


「わたし、ですか」


「はい。四行目です」


五百旗頭は。


台本を、見て。


少し、眉を、寄せて。


それから。


読んだ。


「――『わかりません。ですが、状況を、整理しましょう』」


……。


「……」


「……」


「……あの」真壁が、言った。「五百旗頭さん」


「はい」


「それ、演技、してます?」


「していますが」


「……普段と、同じでは?」


「同じですが」五百旗頭は、きょとん、と、した。「この台詞、わたしが、普段、言いそうな、内容です」


「あ、そっか」真壁は、納得した。「じゃあ、それで、いいです」


「いいのか!?」



◇



「じゃあ、不破くん」真壁は、言った。「『教師』役、いってみましょう」


「ふん」


不破は。


台本を、片手で、持って。


少し、姿勢を、正した。


そして。


読んだ。


「――『落ち着きなさい。全員、まだ、無事だ』」


……。


……え。


「――『いいか。パニックに、なるのが、いちばん、危険だ。誰も、勝手に、動くな』」


……。


うまい。


いや。


めちゃくちゃ、うまい。


声が、通っていて。


間の、取り方も、自然で。


完全に。


「先生」に。


聞こえた。


「……不破くん!」真壁が、目を、輝かせた。「経験、あります!?」


「ない」


「え、すごいです! めちゃくちゃ、上手いです!」


「当然だ」不破は、腕を、組んだ。「俺は、何を、やらせても、できる」


……。


こいつ。


むかつくけど。


事実だ。


「……ずるいだろ」俺は、言った。


「才能の、差だ」


「うるさい」



◇



「じゃあ、御手洗さん!」真壁は、勢いづいた。「『女子生徒C』役!」


「わたし?」


「はい! 六行目です!」


御手洗は。


台本を、じっと。


見て。


それから。


深呼吸を、した。


……あれ。


なんか。


やたら。


集中して、いる。


「――『いや……いやよ……!』」


……。


……。


……え?


「『どうして……どうして、こんなことに、なるの……!』」


……。


御手洗の。


声が。


震えて、いた。


目に。


涙が。


浮かんで、いた。


「『助けて……お願い、誰か、助けて……!』」


……。


視聴覚室が。


完全に。


静まり返った。


全員が。


御手洗を。


見て、いた。



◇



「……」


「……」


「……あの」真壁が。


恐る恐る。


言った。


「御手洗さん」


「……はい」


「……そこ、まだ、事件、起きてない、場面なんですけど」


「え?」


「まだ、閉じ込められた、直後で。……不安がってる、くらいの、シーンです」


「……あら」


御手洗は。


台本を、見直した。


「……あら、本当ね」


「……感情、入れすぎです」


「ごめんなさい」御手洗は、頬を、赤くした。「……つい」


……。


こいつ。


なんで。


こんなに。


本気なんだ。


「……御手洗」


「なあに?」


「お前、演劇、やってたのか?」


「いいえ」御手洗は、首を、振った。「でも、わたし、歴史が、好きでしょう?」


「うん」


「歴史って」御手洗は、言った。「……本当に、あったことなの」


「……ああ」


「この劇も、そうでしょう?」御手洗は、まっすぐ、俺を、見た。「……十年前、本当に、あったこと」


「……」


「だったら」御手洗は、言った。「……ちゃんと、感じないと、失礼だと、思うの」


……。


……。


……こいつ。


やっぱり。


芯が、通ってるな。



◇



「――はい、じゃあ、日下部くん!」


真壁が。


空気を、切り替えた。


「『男子生徒B』役、お願いします!」


「はい」


日下部は。


にこやかに。


台本を、開いて。


読んだ。


「――『まあまあ、落ち着いて。とりあえず、状況を、整理しましょうよ』」


……。


うまい。


いや。


うますぎる。


自然すぎて。


演技に。


聞こえない。


「日下部くん!」真壁が、また、目を、輝かせた。「上手いです!」


「そうですか?」日下部は、微笑んだ。「普段、喋ってるのと、同じですけど」


……。


それだ。


こいつ。


普段から。


演技してるんだ。


……こわ。



◇



「じゃあ、最後! 田口くん!」


「お、俺!?」


「『男子生徒A』役です!」


「え、えっと」田口は、台本を、震える手で、持った。「……『お、俺、帰りたい……』」


……。


「……」


「……」


「……あの、田口くん」


「は、はい」


「それ、演技、ですか?」


「……素です」


「素!?」


……。


全員が。


笑った。



◇



で。


一通り、読み終わって。


真壁は。


うんうん、と。


頷いて、いた。


「いいですね! だいたい、見えました!」


「見えたのか」


「はい!」真壁は、言った。「配役、決めますね」


真壁は。


メモを。


見ながら。


「不破くん――『教師』役では、なく、『男子生徒』役で」


「なぜだ。俺は、教師が、上手かっただろう」


「上手すぎて、浮きます」真壁は、あっさり、言った。「高校生が、やる劇なので」


「ぐっ……」


「御手洗さんは、『委員長』役」


「わたしが?」


「はい。……手記を、書く役です」真壁は、言った。「感情、入れられる人が、いいので」


「……わかったわ」


「五百旗頭さんは――」真壁は、少し、迷って。「『教師』役で」


「わたしが、教師?」


「はい」真壁は、頷いた。「なんか、その……偉そうなので」


「偉そう!?」


「褒めてます!」


……。


褒めてないと、思うけど。


でも。


妙に。


納得だった。



◇



「で、森本くんは」


……来た。


俺は。


身構えた。


「――裏方で」


「……え」


「照明と、記録係、お願いします」


「……いいのか?」


「はい」真壁は、あっさり、言った。「だって、下手でしたし」


「……はっきり言うな」


「あと」真壁は、言った。「森本くんは、見てるほうが、いい気がします」


「……見てる?」


「なんとなく、ですけど」真壁は、首を、かしげた。「……そういう、顔してます」


……。


なんだ、それ。


でも。


まあ。


舞台に、立たなくて。


済むなら。


それで、いい。


心底。


ほっと、した。



◇



「あ、あと」真壁は、思い出したように。「湊さんは」


「わたし?」ミライは、頬杖を、ついたまま、言った。「わたし、出ないよ」


「知ってます。……演出補助、お願いできますか?」


「演出補助?」


「はい」真壁は、言った。「さっき、森本くんに、ダメ出ししてたじゃないですか」


「したね」


「あれ、正確でした」真壁は、言った。「『点が多い』『カタコト』……的確です」


……。


おい。


何を。


褒めてるんだ。


「うーん」ミライは、少し、考えて。「……まあ、いいよ」


「ほんとですか!」


「暇だし」ミライは、にやり、と、した。「それに」


「それに?」


「――森本に、ダメ出しできるの、楽しいし」


「するなよ!」


……。


帰りたい。


心底。


そう、思った。



(第2.5話 了)

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