第2話 演劇部の依頼
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第2話 演劇部の依頼
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「――冬公演の、脚本が、決まらないんです!」
真壁は。
テーブルに、両手を、ついて。
訴えた。
「はあ」
「うちの部、今、三年が、引退して。部員、六人しか、いないんです」真壁は、言った。「そのうち、二人は、裏方希望。……つまり、舞台に、立てるの、四人」
「少ないな」
「少ないんです!」真壁は、頷いた。「だから、去年みたいな、大作は、無理で。……でも、卒業公演でも、あるので。何か、印象に、残るものが、やりたくて」
……。
なるほど。
部の、事情は、わかった。
でも。
なんで。
それを。
俺たちに、言いに、来たんだ。
◇
「それで」真壁は、目を、輝かせた。「思いついたんです。……この学校の、実話を、やろう、って」
「実話?」
「はい!」
真壁は。
紙束を、めくった。
「十年前」
……。
……ん?
「この学校の、図書室で」真壁は、言った。
「――生徒が、六人、死んだ事件が、あるんです」
……。
図書室が。
静かに、なった。
◇
「……なんですって?」
五百旗頭が。
顔を、上げた。
その、声が。
いつもと。
違って、いた。
「知りませんか?」真壁は、きょとん、と、した。「有名ですよ。……いや、有名じゃ、ないのかな。うち、部室が、旧校舎なんで。上級生から、聞いてて」
「詳しく」五百旗頭は、言った。「話して、ください」
「え、あ、はい」
真壁は。
少し、たじろぎながら。
説明を、始めた。
◇
「十年前の、冬です」真壁は、言った。「金曜の、夜。……図書室に、生徒が、六人、閉じ込められて」
「六人」
「はい。……で、月曜の、朝に、発見されたときには」
真壁は。
少し、声を、落とした。
「――全員、死んでた、そうです」
……。
御手洗が。
資料を、めくる手を。
止めた。
少し、離れた、席で。
東海林も。
本から。
顔を、上げて、いた。
「事故じゃ、なくて?」俺は、聞いた。
「事故じゃ、ないです」真壁は、首を、振った。「……殺し合ったんだ、って」
「……」
「誰が、犯人かも、わからなくて。……全員、死んでるから」真壁は、言った。「結局、迷宮入り。学校も、あまり、公にしてないみたいで」
……。
うちの、学校で。
そんなことが。
「それを」真壁は、また、目を、輝かせた。「舞台に、したいんです!」
◇
「――待て」
俺は、言った。
「不謹慎だろ、それ」
「ですよね!」真壁は、あっさり、頷いた。「わたしも、そう思います!」
「思うなら、やめろよ」
「でも」真壁は、言った。「……忘れられてるほうが、ひどくないですか?」
……。
……ん?
「わたし、演劇部で。……いつも、思うんです」真壁は、言った。「物語って、なんのためにあるんだろう、って」
「……」
「うちの学校で、六人、死んでるんですよ」真壁は、言った。「なのに、誰も、知らない。誰も、話さない。……十年で、もう、ほとんど、忘れられてる」
「……」
「わたしは」真壁は、まっすぐ、言った。「――それ、よくないと、思うんです」
……。
こいつ。
意外と。
まともなことを。
言う。
◇
「もちろん、配慮は、します」真壁は、続けた。「実名は、使いません。学校名も、出しません。……『ある高校の、図書室で』くらいに、ぼかします」
「……ふむ」
「役名も、全部、仮名です」真壁は、言った。「『委員長』とか、『部長』とか。……記号みたいに」
「それで、いいのか」
「そのほうが、いいんです」真壁は、言った。「誰の話でも、ある、ってことに、なるので」
……。
なるほど。
ちゃんと。
考えて、いるらしい。
◇
「で」俺は、言った。「なんで、それを、俺たちに?」
「あ、そうでした」真壁は、手を、打った。「人数が、足りないんです」
「……はい?」
「登場人物、五人プラス、教師で、六人」真壁は、言った。「うちの部、舞台に、立てるの、四人。……二人、足りません」
「……」
「それで、聞いたんです。誰か、手伝ってくれそうな人、いないかって」真壁は、言った。「そしたら、みんな、言うんです」
「なんて」
「『二年二組に、変なやつらが、いる』って」
「――変なやつら!?」
「『事件とか、解決してる、変な集団が、いる』って」真壁は、けろっと、言った。「だから、来ました!」
……。
なんだ、その。
不名誉な。
いや。
事実だけど。
◇
「……お断りします」
五百旗頭が。
静かに、言った。
「あ、やっぱり、だめですか」
「わたしは、演技が、できません」五百旗頭は、言った。「棒読みに、なります。確実に」
「そこは、練習で」
「それに、生徒会の、仕事が、あります」
「……ですよね」
真壁が。
しゅん、と、した。
……。
まあ。
そうだよな。
五百旗頭は、忙しいし。
俺だって。
人前に、立つのは。
絶対、嫌だし。
――と。
「――ですが」
五百旗頭が。
続けた。
「ひとつ、質問が、あります」
「はい?」
「その事件」五百旗頭は、言った。「資料は、どこで、見ましたか」
「え? ……図書室の、郷土資料の、棚です。古い、新聞の、縮刷版とか」
「他には」
「あと、部室に、昔の、部誌が、残ってて」真壁は、言った。「当時の、先輩が、書いてました。……『図書室で、大変なことが、あった』って」
五百旗頭は。
少し。
考えて。
それから。
言った。
「――その資料、見せて、いただけますか」
◇
三十分後。
図書室の、テーブルには。
古い、資料が。
山のように。
積まれて、いた。
新聞の、縮刷版。
部誌の、コピー。
学校の、記念誌。
五百旗頭は。
それを。
一枚ずつ。
めくって、いた。
表情が。
だんだん。
硬く、なって、いく。
「……森本くん」
「なんだよ」
「これ、変です」
「変?」
「ええ」五百旗頭は。
顔を、上げた。
目が。
探偵の、目に、なって、いた。
「――記録が、少なすぎます」
◇
「少ない?」
「六人、死んでいるんですよ」五百旗頭は、言った。「大事件です。全国ニュースに、なるレベルです」
「……ああ」
「なのに」五百旗頭は、新聞の、縮刷版を、指した。「――記事が、これだけです」
俺は、覗き込んだ。
小さな。
ベタ記事だった。
『県内高校で、生徒6人が死亡』
『事故と事件の、両面で、捜査』
……それだけ。
続報が、ない。
「翌日の、新聞は?」
「あります」五百旗頭は、別の、ページを、開いた。「でも、一行です。『捜査を、継続』」
「その次は」
「――ありません」
……。
ぞ、と、した。
「六人、死んだ事件が」五百旗頭は、言った。「二日で、報道が、消えています」
「……そんなこと、あるのか」
「ありえません」五百旗頭は、きっぱり、言った。「――誰かが、消したんです」
◇
図書室が。
静まり返って、いた。
真壁が。
きょとん、と、して。
「……あの。なんか、まずい、感じですか?」
「まずいです」五百旗頭は、言った。「非常に」
「じゃあ、劇は」
「――やりましょう」
「……え?」
五百旗頭は。
資料を、閉じて。
まっすぐ。
真壁を、見た。
「協力します。……脚本にも、参加させて、ください」
「ほ、ほんとですか!?」
「ええ」五百旗頭は、頷いた。「――ただし、条件が、あります」
「なんでしょう!」
五百旗頭は。
言った。
「――事実に、基づいて、書きます」
……。
……おい。
待て。
それ。
演劇じゃ、なくて。
……調査、だろ。
俺は。
隣で。
頭を、抱えた。
――こいつ。
完全に。
火が、ついた。
(第2話 了)




