第1話 冬の図書室
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『恋愛推理ゲーム 4』
第1話 冬の図書室
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十二月。
銀杏は、とっくに、落ちて。
グラウンドの、土が。
朝は、白く、なって、いる。
制服の、上に。
コートを、着ないと。
もう。
無理な、季節だ。
……そして。
図書室の、暖房が。
効きすぎて、いる。
◇
「……暑い」
俺は。
ブレザーを、脱いだ。
「暖房、強すぎだろ」
「窓際は、寒いですよ」
五百旗頭が。
生徒会の、書類から、顔を、上げずに、言った。
「図書室の、空調は、書架の、保護が、優先です。……人間の、快適性は、二の次です」
「本のほうが、偉いのか」
「本のほうが、古いですから」
……。
相変わらず。
屁理屈が。
うまい。
◇
「――あら、暑いの?」
御手洗が。
資料を、抱えて、やってきた。
制服の、上に。
今日は。
蛍光レッドの、カーディガン。
……冬でも。
目に、痛い。
「暑い」
「わたし、ちょうどいいわ」
「お前、それ、着てるだろ」
「これ、薄いのよ」
「見た目が、暑苦しいんだよ」
「失礼ね」
御手洗は。
ぷう、と。
頬を、膨らませて。
それから。
いつもの、席に、座った。
……。
いつも通り、だ。
少なくとも。
表面上は。
◇
三か月、経った。
秋の、あの、騒動から。
学校は。
すっかり。
元通りに、見える。
噂は、消えた。
誰も。
森本基成のことも。
東海林四季のことも。
話さなく、なった。
……人は、忘れる。
面白くなくなれば。
すぐ。
それが。
いいことなのか。
悪いことなのか。
俺には。
まだ。
わからない。
◇
図書室の、扉が、開いた。
「……」
東海林が。
入ってきた。
コートを、着て。
竹刀袋を、担いで。
前と、同じ、格好で。
でも。
前と、同じでは、なかった。
「……こんにちは」
東海林は。
小さく。
頭を、下げた。
「……こんにちは」五百旗頭が、返した。
「……こんにちは」御手洗も、返した。
それだけ。
東海林は。
少し、離れた、席に。
座った。
いつもの、俺の隣、じゃ、なくて。
一つ、空けた、席に。
……。
三か月。
ずっと、そうだ。
東海林は。
図書室に、来る。
でも。
毎日じゃ、ない。
週に、二回か、三回。
そして。
隣には、座らない。
誰も。
何も、言わない。
でも。
全員が。
気づいて、いる。
◇
……修復した、とは。
言えない。
でも。
壊れたまま、でも。
ない。
五百旗頭は、東海林と、事務的な会話をする。
御手洗は、普通に、話しかける。
不破は、たまに、突っかかる。
日下部は、いつも通り、微笑む。
湊ミライだけは。
まだ。
東海林と。
一言も、口を、きいて、いない。
……三か月。
まあ。
一生、根に持つ、って。
言ってたしな。
あいつ。
◇
「……そういえば」
俺は、話題を、変えた。
「柏木先生の、件。……何か、わかったか?」
五百旗頭が。
ペンを、置いた。
「……何も」
「何も?」
「ええ」五百旗頭は、ため息を、ついた。「三か月、調べました。……ですが、何も、出ません」
「教員の、記録は?」
「見ました。普通です」五百旗頭は、言った。「二十七歳。教員歴、四年目。この学校に、三年前に、着任。……担当は、進路指導と、二年生の、現代文」
「うん」
「勤務態度、良好。生徒からの、評判も、悪くない」五百旗頭は、続けた。「……唯一、変わっているのは」
「十年前の、卒業生ってことか」
「そうです」五百旗頭は、頷いた。「母校に、戻ってきた。……それ自体は、珍しくは、ありません」
「でも」
「ええ」五百旗頭は、言った。「――なぜ、あの人が、あなたを、『七人目』と、呼んだのか」
……。
三か月。
その、謎は。
まったく。
解けて、いない。
◇
「あと」俺は、言った。「あの、カードは?」
「《第七役職》ですか」
「ああ」
「まだ、机の中に、あります」五百旗頭は、言った。「わたしのほうでも、いろいろ、試しました。……紫外線。薬品。透かし」
「探偵かよ」
「探偵の、真似事です」五百旗頭は、少しだけ、笑った。「……結果は、何も。ただの、紙です」
……。
行き詰まり。
完全な。
行き詰まり。
「……あのさ、五百旗頭」
「なんですか」
「これ、もう。……追わないほうが、いいのかな」
五百旗頭は。
顔を、上げた。
「……なぜ、そう思うのですか」
「いや」俺は、言った。「三か月、何も、出ない。……それに」
俺は。
少しだけ。
東海林のほうを、見た。
東海林は。
こっちを、見て、いなかった。
本を、読んで、いた。
……でも。
たぶん。
聞いて、いる。
「……もう、いいのかな、と」
五百旗頭は。
少し、黙って。
それから。
静かに、言った。
「……わたしは、追います」
「なんで」
「気持ち悪いからです」五百旗頭は、あっさり、言った。「解けない問題を、放置するのは。……気持ちが、悪い」
……。
こいつ。
ぶれないな。
「でも」五百旗頭は、続けた。「森本くんが、やめたいなら。……わたしは、止めません」
「……」
「あなたは、もう、十分、巻き込まれました」五百旗頭は、言った。「……降りる権利は、あります」
……。
降りる。
権利。
……そうか。
そうだよな。
◇
と。
そのとき。
図書室の、扉が。
勢いよく。
開いた。
「――失礼しまーす!」
見知らぬ、女子が。
立って、いた。
髪を、後ろで、ひとつに、まとめて。
やたら。
目が、輝いて、いる。
「あの! ここに、二年二組の、森本くんと。二組の、五百旗頭さんは、いますか!」
「……いるけど」
「よかった!」
女子は。
ずかずかと。
入ってきて。
テーブルの、前に、立った。
「わたし、演劇部の、部長で。二年四組の、真壁です!」
「……はあ」
「実は」
真壁は。
手に持った、紙束を。
どん、と。
テーブルに、置いた。
「――お願いが、あります!」
……。
なんだ。
この、勢い。
いやな、予感が、した。
(第1話 了)




