↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
恋愛推理ゲーム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/114

第7話 消えた一人

====================

第7話 消えた一人

====================



それは、なんの、前触れも、なかった。



朝――といっても、外はずっと夜なので、便宜上の「朝」だ。目が覚めて、いつものように、漫画コーナーで、伸びをして。


俺は、気づいた。


一人、いない。


「……日下部《くさかべ》?」


いない。


昨日まで、そこに、いた。にこにこ笑って、丁寧語で、みんなの話を、聞いていた。


なのに。


いない。



「森本くん」五百旗頭(いおきべ)が、起きてきた。「どうか、しましたか」


「日下部が、いない」


「え?」


五百旗頭の、顔が、こわばった。



◇



俺たちは、図書室じゅうを、探した。


書架の陰。トイレ。カウンターの裏。閉じ込められた、この狭い空間の、隅から隅まで。


でも。


日下部は、どこにも、いなかった。


「……荷物は、ある」東海林《しょうじ》が、言った。


その通りだった。


日下部の、鞄。スマホ。飲みかけの、ペットボトル。


全部、そこに、残っている。


まるで、ついさっきまで、そこにいた、みたいに。


なのに、本人だけが、いない。



「どこ、行ったんだよ」俺は、声を、荒げた。「出口は、ないんだろ。閉じ込められてるんだろ。なのに、なんで、消えるんだよ」


「森本くん、落ち着いて――」


「落ち着けるか! 人が、一人、消えたんだぞ!」


消えた。


その言葉の、重さが、じわじわと、俺たちに、のしかかってきた。


これまで。


俺たちは、どこかで、思っていた。


これは、しょせん、ゲームだ、と。誰かが仕掛けた、手の込んだ、いたずらだ、と。クリアすれば、笑い話に、なる、と。


でも。


人間が、本当に、消えた。


荷物を、残して。


跡形も、なく。



◇



「……端末」御手洗《みたらい》が、ぽつり、と、言った。「端末に、何か、出ているわ」


全員が、検索端末に、駆け寄った。


画面に、短い文が、表示されていた。



《プレイヤー・日下部久遠が、脱落しました》



「脱落……?」


「脱落、って、何」俺は、画面を、睨んだ。「脱落したら、どうなるんだよ。どこに、行くんだよ。日下部は、無事なのか?」


でも、画面には、それ以上、何も、書かれていなかった。


脱落した。


ただ、それだけ。


その先が、どうなるのかは。


一言も、説明が、なかった。



「……おかしい」


五百旗頭《いおきべ》が、画面を、睨んで、つぶやいた。


「何が、おかしいんだよ」


「ルールには、こうありました。『敗北した者は、脱落する』。つまり、日下部くんは、何かに、敗北したはず。でも――」五百旗頭は、指を、折って、数え始めた。「勝利条件を、達成できなかった? まだ、そんな段階じゃない。嘘が、ばれた? 誰も、彼を、追い詰めていない。役割を、見抜かれた? ……わたしたちの、誰も、彼の役割を、指摘していません」


「じゃあ、なんで」


「わからない」五百旗頭は、唇を、噛んだ。「どの条件にも、当てはまらないのに、彼は、脱落した。まるで――自分から、負けを、選んだ、みたいに」


自分から、負けを、選んだ。


そのときは、誰も、その言葉の意味を、深くは、考えなかった。


でも、五百旗頭の、この違和感は、正しかった。


……それが、わかるのは。まだ、ずっと、先のことだ。



「……ねえ」御手洗が、こてん、と、首をかしげた。いつもの、癖。でも、今日は、その仕草が、やけに、寒々しく、見えた。「日下部くん、昨日、言っていたわよね。『クリアすれば、出られる』って」


「言ってたな」


「彼は、経験者だった。前にも、こういうゲームを、くぐり抜けた。だから、彼の言葉は、信じられる、と思っていた。……でも」


御手洗は、言葉を、切った。


「その彼が、まっさきに、消えた」


……そうだ。


一番、頼りに、なるはずの、経験者が。


誰よりも、先に。


いなくなった。



◇



「――次は、誰なの」


その、ひとことが。


全員の、心に、突き刺さった。


御手洗が、言ったんじゃ、ない。


東海林が、言ったんじゃ、ない。


誰が、言ったのか。


……いや。


たぶん、全員が、心の中で、思っていた。


次は、誰が、消えるんだ。


クリアするまで、俺たちは、一人ずつ、消えていくのか。


クリアすれば、本当に、全員、戻れるのか。


それとも――日下部は、もう。



「やめましょう」


五百旗頭が、きっぱりと、言った。


「疑心暗鬼に、なるのは、相手の思う壺です。落ち着いて、考えましょう。日下部くんが、消えた。それは、事実。でも、悲観する材料は、まだ、揃っていません」


「……五百旗頭」


「わたしは、諦めません」五百旗頭は、俺を、見た。強い、目だった。「必ず、このゲームを、解く。全員で、ここを、出る。日下部くんも、含めて」


その、まっすぐさに。


俺は、少しだけ、救われた。


こいつは、強い。


宇宙に、ガチギレできる、やつは。


こういうときも、諦めないんだ。



◇



その夜。


俺は、眠れずに、日下部の、残した鞄を、見ていた。


飲みかけの、ペットボトル。半分だけ、減っている。


こいつ、本当に、消えたのか。


それとも――どこかで、無事に、しているのか。


わからない。


ただ、ひとつだけ。


妙に、引っかかることが、あった。


日下部は、昨日、確かに、言った。「クリアすれば、出られる」と。「自分は、前のゲームから、出られた」と。


出られた。


出られた、って。


……あいつ、勝った、とは、言ってなかったよな?


ふと、そう、思った。


でも、すぐに、俺は、その考えを、頭の隅に、押しやった。


面倒くさいことを、考えるのは、性に、合わない。


それに――今は、そんなことより。


消えた日下部が、無事で、あることを。


ただ、願った。



(第7話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。