特別編 牛乳と、ブラックと、生ゴミ
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特別編 牛乳と、ブラックと、生ゴミ
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十一月の、放課後。
図書室に。
七人が、揃って、いた。
俺。五百旗頭。御手洗。東海林。不破。日下部。湊ミライ。
全員。
誰も、呼んで、いないのに。
なんとなく。
集まって。
それぞれ。
好きなことを、して、いる。
五百旗頭は、生徒会の、書類。
御手洗は、世界史の、資料。
東海林は、竹刀袋を、抱えて、隣に。
不破は、頬杖。
日下部は、スマホ。
ミライは、俺の、シャーペンで、机に、落書き。
「……返せ」
「やだ」
……平和だ。
二か月前が。
嘘みたいに。
◇
と。
そのとき。
不破が。
唐突に。
顔を、上げた。
「――なあ、貴様ら」
「なんだよ」
「最近、思うのだが」不破は、腕を、組んだ。「……我々は、なかなか、仲が、いいのでは、ないか?」
……。
全員が。
動きを、止めた。
「……急に、どうした」
「いや」不破は、少し、照れたように、言った。「こうして、七人、集まるように、なっただろう。……以前は、考えられなかった」
「まあ、な」
「だから、だ」不破は、言った。「――親睦を、深めるために」
不破は。
やたら。
いい笑顔で。
言った。
「これから、カラオケでも、行かないか?」
◇
……。
……しん。
図書室が。
静まり返った。
「……ほう」不破の、笑顔が。少し、固まった。「なんだ、その、間は」
「いえ」五百旗頭が、書類から、顔を、上げずに、言った。「……わたし、生徒会の仕事が、ありますので。パスで」
「――は?」
「今日中に、この予算案を、仕上げないと。……明日の、会議に、間に合いません」
「そ、そうか」不破は、頷いた。「では、明日は」
「明日も、会議です」
「明後日は」
「……不破くん」五百旗頭は、顔を、上げた。「生徒会は、毎日、あります」
「……そうか」
一人目。
撃沈。
◇
「……で、では、東海林!」不破は、気を、取り直した。「貴様は、どうだ」
「……」
東海林は。
竹刀袋を。
担ぎ直して。
立ち上がった。
「……ごめん。……部活、戻る」
「今から!?」
「……うん。……今日、居残り、ある」
「……そ、そうか」
「……ごめん」
東海林は。
小さく、頭を、下げて。
出て、いった。
……。
その、瞬間から。
不破の、機嫌が。
目に見えて。
悪く、なった。
「……ふん」
「おい、不破」
「なんでもない」
わかりやすい、やつだ。
本当に。
◇
「……御手洗は、どうだ」
不破が。
明らかに。
テンションを、落として。
聞いた。
「わたし?」御手洗は、資料から、顔を、上げた。「……そんな気分じゃ、ないわ」
「即答だな」
「だって、今、いいところなの」御手洗は、資料を、指さした。「ハプスブルク家の、継承問題。……ここから、ヨーロッパ中が、戦争に、なるのよ」
「知らん」
「面白いのに」
「……それより、カラオケは」
「本を、読んでいるほうが、いいわ」御手洗は、にっこり、笑った。「わたし、残る」
……。
三人目。
撃沈。
◇
「……」
不破は。
残った、面々を。
ぐるり、と、見回した。
俺。
日下部。
ミライ。
……つまり。
男二人と、ミライ。
東海林も。五百旗頭も。御手洗も。いない。
不破は。
しばらく。
その、面子を、見て、いた。
それから。
立ち上がった。
「……もういい」
「おい」
「帰る」
「露骨すぎるだろ!」
「うるさい!」不破は、鞄を、掴んだ。「……せっかく、誘って、やったのに」
「拗ねるな」
「拗ねて、いない!」
ばたん。
扉が。
やたら。
大きな音を、立てた。
……。
四人目。
自滅。
◇
「……はは」日下部が、笑った。「不破くん、わかりやすいですねえ」
「東海林が、断った瞬間に、終わってたな」
「ええ。完全に」日下部は、スマホを、しまった。「……では、そういうことみたいなので。解散ですかね」
「お前も、帰るのか」
「僕、今日、約束が、あるんですよ」日下部は、にこやかに、言った。「三年の、先輩と」
「相変わらず、顔が、広いな」
「顔だけは」日下部は、笑った。「……では、また明日」
……。
五人目。
離脱。
◇
残ったのは。
俺と。
ミライ。
それと。
図書室の、奥に。
引っ込んだ、御手洗。
……。
俺は。
ミライを、見た。
「……じゃ、俺たちで、行く?」
「――は?」
ミライが。
心底、嫌そうな、顔を、した。
「冗談でしょ」
「なんで」
「二人きりで、カラオケ、行くわけ、ないじゃん」ミライは、シャーペンを、投げ返した。「……雰囲気、読めよ」
「お前が、それ言うのか」
「わたしが、言うの」
……こいつ。
いつも、人の、気持ちを。
めちゃくちゃに、掻き回すくせに。
こういうときだけ。
常識人ぶる。
◇
結局。
俺たちも。
図書室を、出た。
廊下は。
もう。
だいぶ。
暗かった。
帰ろうと、して。
自販機の、前で。
なんとなく。
足が、止まった。
「……なんか、飲む?」
「え、奢ってくれるの?」
「奢る」
「じゃ、もらう」
……素直だな、おい。
俺は。
小銭を、入れて。
ボタンを、押した。
ごとん。
ごとん。
二本。
出てきた。
◇
自販機の、横の、ベンチに。
二人で、座った。
秋の、夜の、風が。
少し、冷たい。
「はい、差し入れ」
俺は。
一本を。
ミライに、差し出した。
紙パックの。
牛乳。
ミライは。
それを、受け取って。
じっと、見て。
それから。
顔を、上げた。
「……は?」
「え?」
「なんで、牛乳なん」
「……いや。体に、いいかと」
「わたし」ミライは、言った。「牛乳、飲むと、お腹、壊すんだけど」
「……え」
「乳糖不耐。……知らないの?」
「知らん」
「そんなことも、知らないの?」ミライは、心底、あきれた顔で、言った。「気を、きかせた、つもり? ……気が、利かないんだから、森本は」
「理不尽すぎるだろ!」
◇
「じゃあ」俺は、言った。「……こっち、飲む?」
俺は。
自分が、飲もうとしていた、缶を。
差し出した。
ミライは。
それを、見て。
一秒。
固まって。
それから。
眉間に。
皺を、寄せた。
「――はーーー」
「なんだよ」
「お前」ミライは、言った。「嫌がらせなん?」
「なんで!?」
「無糖の、コーヒー」ミライは、缶を、突き返した。「……こんな、苦いもん、飲めるかー」
「うまいだろ、これ」
「うまくない」
「大人の、味だぞ」
「大人ぶるな」
……。
俺は。
両手に。
牛乳と。
ブラックコーヒーを。
持たされて。
ベンチに、座って、いた。
なんだ、この、状況。
◇
「あのさ、森本」
「……なんだよ」
「気を、きかせた、つもりでも」ミライは、腕を、組んだ。「どっちも、飲めない、わたしからすると。……ゴミを、押しつけられてるのと、一緒だからね」
「ゴミ!?」
「それも」ミライは、指を、立てた。「中身が、ある分。……やっかいな、生ゴミ!」
「生ゴミ!!」
「なんちゅう、嫌がらせですか?」
「嫌がらせじゃ、ねえ!」
……。
俺は。
頭を、抱えた。
善意で。
やったことが。
生ゴミに。
なった。
……こいつ。
本当に。
口が。
悪い。
◇
……でも。
なぜか。
ミライは。
帰らなかった。
文句を、言うだけ、言って。
ベンチに。
座ったまま。
足を、ぶらぶら、させて、いた。
「……帰らないのか」
「帰るけど」
「じゃあ、帰れよ」
「……もうちょっと、いる」
……。
なんだよ、それ。
俺は。
仕方なく。
コーヒーの、プルタブを、開けて。
一口、飲んだ。
「……苦っ」
「ほらね」
「うるさい」
◇
「……ねえ、森本」
「なんだよ」
「わたしたちさ」ミライは、夜の、校庭を、見ながら、言った。「……けっこう、仲、よくなったよね」
「……まあ、な」
「なのに」ミライは、言った。「……全然、学校の外で、会わないよね」
……。
そうだ。
気づけば。
俺たちは。
毎日のように。
図書室で、顔を、合わせている。
でも。
休みの日に。
遊びに、行ったことは。
一度も、ない。
「みんな、個人主義だよね」ミライは、言った。「五百旗頭さんは、生徒会と、勉強。御手洗さんは、本。東海林さんは、部活。日下部くんは、人脈。不破くんは……なんだろ。プライド?」
「ひでえ言い方」
「あってるでしょ」
「……あってるな」
俺は。
苦い、コーヒーを。
もう一口、飲んだ。
「……お前は?」
「わたし?」ミライは、少し、考えた。「……わたしは、暇」
「暇かよ」
「暇だよ」ミライは、けらけら、笑った。「だから、あんたに、絡んでるんじゃん」
……。
それは。
たぶん。
嘘だ。
でも。
突っ込むのは。
やめて、おいた。
◇
「……ねえ」
「なんだよ」
「東海林さんのこと」
……。
俺は。
缶を、持つ手を。
止めた。
「……まだ、怒ってるか?」
「怒ってるよ」ミライは、あっさり、言った。「一生、根に持つって、言ったでしょ」
「……そうか」
「でも」ミライは、足を、止めた。「……ちょっとだけ、わかるんだよね」
「わかる?」
「うん」ミライは、言った。「……わたしも、たぶん、同じこと、したと、思う」
……。
俺は。
ミライを、見た。
「……お前が?」
「うん」ミライは、頷いた。「……大事な人が、危ないってわかって。……でも、言ったら、その人、絶対、突っ込んでいくって、わかってたら」
「……」
「……たぶん、黙って、なんとかしようと、する」
ミライは。
少しだけ。
笑った。
「……頭、悪いやり方だけどね」
……。
なんだろう。
こいつが、そう言うと。
少しだけ。
東海林のことが。
わかった、気が、した。
◇
「……なあ、湊」
「なに」
「お前、あのとき」俺は、言った。「……信じてもらえなくて。……つらかったよな」
ミライは。
少し。
黙って。
それから。
言った。
「……別に」
「嘘つけ」
「……つらかったよ」ミライは、あっさり、言い直した。「めっちゃ、つらかった」
「……」
「でも」ミライは、言った。「……あんた、最後まで。……わたしのこと、疑わなかったよね」
「……当たり前だろ」
「当たり前じゃ、ないよ」ミライは、言った。「……みんな、疑ってた。当然だけど」
ミライは。
夜空を。
見上げた。
「……だから、まあ」
「……」
「……ありがと」
……。
小さい声、だった。
聞こえないくらい。
でも。
聞こえた。
「……おう」
俺は。
それだけ、言った。
◇
少しして。
ミライは。
立ち上がった。
「じゃ、帰る」
「おう」
「あ、そうだ」ミライは、振り返った。「その、牛乳」
「ん?」
「……持って帰って、自分で、飲みなよ」ミライは、言った。「体に、いいんでしょ?」
「お前が、飲めないだけだろ」
「そうだよ」ミライは、けらけら、笑った。「じゃーね、森本」
そう言って。
ミライは。
帰って、いった。
……。
俺は。
両手に。
牛乳と、コーヒーを、持ったまま。
しばらく。
ベンチに、座って、いた。
◇
帰る、前に。
なんとなく。
図書室のほうを。
見上げた。
三階の、窓。
まだ。
明かりが。
ついて、いた。
……御手洗、まだ、いるのか。
ハプスブルク家の、継承問題とやらが。
よっぽど。
面白いんだろう。
……。
俺は。
少し、考えて。
それから。
手に持った、牛乳を。
見た。
……。
まあ。
いいか。
俺は。
階段を、上がって。
図書室の、扉を、開けた。
御手洗が。
顔を、上げた。
「……あら、森本くん。まだ、いたの?」
「これ」
俺は。
牛乳を。
差し出した。
「……差し入れ」
御手洗は。
きょとん、と、して。
それから。
にっこり、笑った。
「あら。……ありがとう」
素直に。
受け取った。
……。
……こいつ。
いいやつだな。
(特別編 了)




