↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
しずかな、うらぎり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/115

特別編 牛乳と、ブラックと、生ゴミ

====================

特別編 牛乳と、ブラックと、生ゴミ

====================




十一月の、放課後。


図書室に。


七人が、揃って、いた。



俺。五百旗頭(いおきべ)。御手洗《みたらい》。東海林(しょうじ)。不破(ふわ)。日下部(くさかべ)。湊(みなと)ミライ。


全員。


誰も、呼んで、いないのに。


なんとなく。


集まって。


それぞれ。


好きなことを、して、いる。


五百旗頭は、生徒会の、書類。


御手洗は、世界史の、資料。


東海林は、竹刀袋を、抱えて、隣に。


不破は、頬杖。


日下部は、スマホ。


ミライは、俺の、シャーペンで、机に、落書き。


「……返せ」


「やだ」


……平和だ。


二か月前が。


嘘みたいに。



◇



と。


そのとき。


不破が。


唐突に。


顔を、上げた。


「――なあ、貴様ら」


「なんだよ」


「最近、思うのだが」不破は、腕を、組んだ。「……我々は、なかなか、仲が、いいのでは、ないか?」


……。


全員が。


動きを、止めた。


「……急に、どうした」


「いや」不破は、少し、照れたように、言った。「こうして、七人、集まるように、なっただろう。……以前は、考えられなかった」


「まあ、な」


「だから、だ」不破は、言った。「――親睦を、深めるために」


不破は。


やたら。


いい笑顔で。


言った。


「これから、カラオケでも、行かないか?」



◇



……。


……しん。


図書室が。


静まり返った。


「……ほう」不破の、笑顔が。少し、固まった。「なんだ、その、間は」


「いえ」五百旗頭が、書類から、顔を、上げずに、言った。「……わたし、生徒会の仕事が、ありますので。パスで」


「――は?」


「今日中に、この予算案を、仕上げないと。……明日の、会議に、間に合いません」


「そ、そうか」不破は、頷いた。「では、明日は」


「明日も、会議です」


「明後日は」


「……不破くん」五百旗頭は、顔を、上げた。「生徒会は、毎日、あります」


「……そうか」


一人目。


撃沈。



◇



「……で、では、東海林!」不破は、気を、取り直した。「貴様は、どうだ」


「……」


東海林は。


竹刀袋を。


担ぎ直して。


立ち上がった。


「……ごめん。……部活、戻る」


「今から!?」


「……うん。……今日、居残り、ある」


「……そ、そうか」


「……ごめん」


東海林は。


小さく、頭を、下げて。


出て、いった。


……。


その、瞬間から。


不破の、機嫌が。


目に見えて。


悪く、なった。


「……ふん」


「おい、不破」


「なんでもない」


わかりやすい、やつだ。


本当に。



◇



「……御手洗は、どうだ」


不破が。


明らかに。


テンションを、落として。


聞いた。


「わたし?」御手洗は、資料から、顔を、上げた。「……そんな気分じゃ、ないわ」


「即答だな」


「だって、今、いいところなの」御手洗は、資料を、指さした。「ハプスブルク家の、継承問題。……ここから、ヨーロッパ中が、戦争に、なるのよ」


「知らん」


「面白いのに」


「……それより、カラオケは」


「本を、読んでいるほうが、いいわ」御手洗は、にっこり、笑った。「わたし、残る」


……。


三人目。


撃沈。



◇



「……」


不破は。


残った、面々を。


ぐるり、と、見回した。


俺。


日下部。


ミライ。


……つまり。


男二人と、ミライ。


東海林も。五百旗頭も。御手洗も。いない。


不破は。


しばらく。


その、面子を、見て、いた。


それから。


立ち上がった。


「……もういい」


「おい」


「帰る」


「露骨すぎるだろ!」


「うるさい!」不破は、鞄を、掴んだ。「……せっかく、誘って、やったのに」


「拗ねるな」


「拗ねて、いない!」


ばたん。


扉が。


やたら。


大きな音を、立てた。


……。


四人目。


自滅。



◇



「……はは」日下部が、笑った。「不破くん、わかりやすいですねえ」


「東海林が、断った瞬間に、終わってたな」


「ええ。完全に」日下部は、スマホを、しまった。「……では、そういうことみたいなので。解散ですかね」


「お前も、帰るのか」


「僕、今日、約束が、あるんですよ」日下部は、にこやかに、言った。「三年の、先輩と」


「相変わらず、顔が、広いな」


「顔だけは」日下部は、笑った。「……では、また明日」


……。


五人目。


離脱。



◇



残ったのは。


俺と。


ミライ。


それと。


図書室の、奥に。


引っ込んだ、御手洗。


……。


俺は。


ミライを、見た。


「……じゃ、俺たちで、行く?」


「――は?」


ミライが。


心底、嫌そうな、顔を、した。


「冗談でしょ」


「なんで」


「二人きりで、カラオケ、行くわけ、ないじゃん」ミライは、シャーペンを、投げ返した。「……雰囲気、読めよ」


「お前が、それ言うのか」


「わたしが、言うの」


……こいつ。


いつも、人の、気持ちを。


めちゃくちゃに、掻き回すくせに。


こういうときだけ。


常識人ぶる。



◇



結局。


俺たちも。


図書室を、出た。


廊下は。


もう。


だいぶ。


暗かった。


帰ろうと、して。


自販機の、前で。


なんとなく。


足が、止まった。


「……なんか、飲む?」


「え、奢ってくれるの?」


「奢る」


「じゃ、もらう」


……素直だな、おい。


俺は。


小銭を、入れて。


ボタンを、押した。


ごとん。


ごとん。


二本。


出てきた。



◇



自販機の、横の、ベンチに。


二人で、座った。


秋の、夜の、風が。


少し、冷たい。


「はい、差し入れ」


俺は。


一本を。


ミライに、差し出した。


紙パックの。


牛乳。


ミライは。


それを、受け取って。


じっと、見て。


それから。


顔を、上げた。


「……は?」


「え?」


「なんで、牛乳なん」


「……いや。体に、いいかと」


「わたし」ミライは、言った。「牛乳、飲むと、お腹、壊すんだけど」


「……え」


「乳糖不耐。……知らないの?」


「知らん」


「そんなことも、知らないの?」ミライは、心底、あきれた顔で、言った。「気を、きかせた、つもり? ……気が、利かないんだから、森本は」


「理不尽すぎるだろ!」



◇



「じゃあ」俺は、言った。「……こっち、飲む?」


俺は。


自分が、飲もうとしていた、缶を。


差し出した。


ミライは。


それを、見て。


一秒。


固まって。


それから。


眉間に。


皺を、寄せた。


「――はーーー」


「なんだよ」


「お前」ミライは、言った。「嫌がらせなん?」


「なんで!?」


「無糖の、コーヒー」ミライは、缶を、突き返した。「……こんな、苦いもん、飲めるかー」


「うまいだろ、これ」


「うまくない」


「大人の、味だぞ」


「大人ぶるな」


……。


俺は。


両手に。


牛乳と。


ブラックコーヒーを。


持たされて。


ベンチに、座って、いた。


なんだ、この、状況。



◇



「あのさ、森本」


「……なんだよ」


「気を、きかせた、つもりでも」ミライは、腕を、組んだ。「どっちも、飲めない、わたしからすると。……ゴミを、押しつけられてるのと、一緒だからね」


「ゴミ!?」


「それも」ミライは、指を、立てた。「中身が、ある分。……やっかいな、生ゴミ!」


「生ゴミ!!」


「なんちゅう、嫌がらせですか?」


「嫌がらせじゃ、ねえ!」


……。


俺は。


頭を、抱えた。


善意で。


やったことが。


生ゴミに。


なった。


……こいつ。


本当に。


口が。


悪い。



◇



……でも。


なぜか。


ミライは。


帰らなかった。


文句を、言うだけ、言って。


ベンチに。


座ったまま。


足を、ぶらぶら、させて、いた。


「……帰らないのか」


「帰るけど」


「じゃあ、帰れよ」


「……もうちょっと、いる」


……。


なんだよ、それ。


俺は。


仕方なく。


コーヒーの、プルタブを、開けて。


一口、飲んだ。


「……苦っ」


「ほらね」


「うるさい」



◇



「……ねえ、森本」


「なんだよ」


「わたしたちさ」ミライは、夜の、校庭を、見ながら、言った。「……けっこう、仲、よくなったよね」


「……まあ、な」


「なのに」ミライは、言った。「……全然、学校の外で、会わないよね」


……。


そうだ。


気づけば。


俺たちは。


毎日のように。


図書室で、顔を、合わせている。


でも。


休みの日に。


遊びに、行ったことは。


一度も、ない。


「みんな、個人主義だよね」ミライは、言った。「五百旗頭さんは、生徒会と、勉強。御手洗さんは、本。東海林さんは、部活。日下部くんは、人脈。不破くんは……なんだろ。プライド?」


「ひでえ言い方」


「あってるでしょ」


「……あってるな」


俺は。


苦い、コーヒーを。


もう一口、飲んだ。


「……お前は?」


「わたし?」ミライは、少し、考えた。「……わたしは、暇」


「暇かよ」


「暇だよ」ミライは、けらけら、笑った。「だから、あんたに、絡んでるんじゃん」


……。


それは。


たぶん。


嘘だ。


でも。


突っ込むのは。


やめて、おいた。



◇



「……ねえ」


「なんだよ」


「東海林さんのこと」


……。


俺は。


缶を、持つ手を。


止めた。


「……まだ、怒ってるか?」


「怒ってるよ」ミライは、あっさり、言った。「一生、根に持つって、言ったでしょ」


「……そうか」


「でも」ミライは、足を、止めた。「……ちょっとだけ、わかるんだよね」


「わかる?」


「うん」ミライは、言った。「……わたしも、たぶん、同じこと、したと、思う」


……。


俺は。


ミライを、見た。


「……お前が?」


「うん」ミライは、頷いた。「……大事な人が、危ないってわかって。……でも、言ったら、その人、絶対、突っ込んでいくって、わかってたら」


「……」


「……たぶん、黙って、なんとかしようと、する」


ミライは。


少しだけ。


笑った。


「……頭、悪いやり方だけどね」


……。


なんだろう。


こいつが、そう言うと。


少しだけ。


東海林のことが。


わかった、気が、した。



◇



「……なあ、湊」


「なに」


「お前、あのとき」俺は、言った。「……信じてもらえなくて。……つらかったよな」


ミライは。


少し。


黙って。


それから。


言った。


「……別に」


「嘘つけ」


「……つらかったよ」ミライは、あっさり、言い直した。「めっちゃ、つらかった」


「……」


「でも」ミライは、言った。「……あんた、最後まで。……わたしのこと、疑わなかったよね」


「……当たり前だろ」


「当たり前じゃ、ないよ」ミライは、言った。「……みんな、疑ってた。当然だけど」


ミライは。


夜空を。


見上げた。


「……だから、まあ」


「……」


「……ありがと」


……。


小さい声、だった。


聞こえないくらい。


でも。


聞こえた。


「……おう」


俺は。


それだけ、言った。



◇



少しして。


ミライは。


立ち上がった。


「じゃ、帰る」


「おう」


「あ、そうだ」ミライは、振り返った。「その、牛乳」


「ん?」


「……持って帰って、自分で、飲みなよ」ミライは、言った。「体に、いいんでしょ?」


「お前が、飲めないだけだろ」


「そうだよ」ミライは、けらけら、笑った。「じゃーね、森本」


そう言って。


ミライは。


帰って、いった。


……。


俺は。


両手に。


牛乳と、コーヒーを、持ったまま。


しばらく。


ベンチに、座って、いた。



◇



帰る、前に。


なんとなく。


図書室のほうを。


見上げた。


三階の、窓。


まだ。


明かりが。


ついて、いた。


……御手洗、まだ、いるのか。


ハプスブルク家の、継承問題とやらが。


よっぽど。


面白いんだろう。


……。


俺は。


少し、考えて。


それから。


手に持った、牛乳を。


見た。


……。


まあ。


いいか。


俺は。


階段を、上がって。


図書室の、扉を、開けた。


御手洗が。


顔を、上げた。


「……あら、森本くん。まだ、いたの?」


「これ」


俺は。


牛乳を。


差し出した。


「……差し入れ」


御手洗は。


きょとん、と、して。


それから。


にっこり、笑った。


「あら。……ありがとう」


素直に。


受け取った。


……。


……こいつ。


いいやつだな。



(特別編 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。