エピローグ まだ、席は、空いている
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エピローグ まだ、席は、空いている
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十一月に、なった。
銀杏は。
もう。
ほとんど。
落ちて、いた。
朝が、寒い。
制服の、上に。
ブレザーだけじゃ。
足りなく、なって、きた。
◇
放課後。図書室。
いつもの、テーブル。
「――で、結局。柏木先生って、どういう人なんですか」
湊ミライが。
だいぶ、遠慮なく。
聞いてきた。
最近。
少しずつ。
前みたいに、なって、きた。
まだ。
学校では。
「あの、湊さん」と、言われることも、あるけど。
本人は。
気にして、いないふりを、して、いる。
「わかりません」五百旗頭が、答えた。「調べては、いますが。……普通の、教師です」
「普通?」
「ええ。二十七歳。進路指導部。……教員歴、四年目」五百旗頭は、メモを、読んだ。「この学校に、着任したのは、三年前」
「三年前」
「はい」五百旗頭は、顔を、上げた。「――ただ。……この学校の、卒業生だそうです。十年前の」
……。
全員が。
少し。
黙った。
◇
「……あの人、ゲームのこと」俺は、言った。「知ってるのか?」
「わかりません」五百旗頭は、首を、振った。「ですが、あの《第七役職》の、カード。……あれの、コピーを、持っていました」
「見たのか?」
「東海林さんが」五百旗頭は、言った。「……夏に、進路指導室で」
……。
そうだ。
あいつは。
全部。
あの部屋で。
見て、しまった。
「……ねえ」御手洗が、こてん、と、首をかしげた。「その先生、なぜ、森本くんを、『七人目』と、呼んだのかしら」
……。
それだ。
いちばん。
わからない。
「あのゲームの、七人目は」不破が、腕を、組んだ。「……そこの、女だろう」
「わたしね」ミライが、手を、挙げた。
「そうだ」
「じゃあ、森本は、七人目じゃ、ないよね」ミライは、言った。「……六人目、とか?」
「数えるな」俺は、言った。「気持ち悪い」
「あー、そうだった」ミライは、けらけら、笑った。「あんた、人数、数えるの、嫌いだったね」
……。
そう。
俺は。
昔から。
人数を、数えるのが。
嫌いだ。
……だから。
気づかなかったんだ。
あのとき、も。
◇
「――まあ、なんにせよ」
日下部が。
にこやかに、言った。
「調べるんですよね? 森本くん」
「調べる」
「危険かも、しれませんよ」
「かもな」
「そうですか」日下部は、笑った。「では、僕は、また、中立で」
「お前な」
「情報は、流しますよ」日下部は、あっさり、言った。「それくらいは」
……。
こいつ。
相変わらず。
掴めない。
でも。
まあ。
いてくれる、だけ。
ましか。
◇
と。
そのとき。
図書室の、扉が。
静かに。
開いた。
全員が。
一斉に。
そっちを、見た。
……東海林四季、だった。
竹刀袋を、担いで。
制服の、上に。
ジャージを、羽織って。
入り口に。
立って、いた。
……。
空気が。
止まった。
誰も。
何も。
言わなかった。
◇
東海林は。
数秒。
その場に。
立って、いた。
それから。
深く。
頭を、下げた。
「……ごめんなさい」
……。
誰も。
答えなかった。
五百旗頭は。
じっと。
東海林を、見て、いた。
御手洗は。
こてん、と。
首を、かしげて、いた。
不破は。
鼻を、鳴らした。
日下部は。
いつも通り、微笑んで、いた。
ミライは。
……無表情、だった。
東海林は。
頭を、下げたまま。
動かなかった。
長い。
沈黙が、あった。
◇
「……東海林さん」
最初に、口を、開いたのは。
五百旗頭、だった。
「……はい」
「わたしは」五百旗頭は、言った。「――まだ、あなたを、許して、いません」
「……はい」
「あなたが、やったことは。……論理的に、正当化、できません」五百旗頭は、言った。「目的が、何であれ。手段が、間違っています」
「……はい」
「湊さんの、件も」五百旗頭は、続けた。「……あれは、ひどい」
「……はい」
東海林は。
頭を、下げたまま。
全部。
受け止めて、いた。
五百旗頭は。
ふう、と。
息を、吐いた。
それから。
言った。
「――ですが、席は、空いています」
……。
東海林が。
顔を、上げた。
「……え」
「あなたの、席です」五百旗頭は、いつもの、椅子を、指した。「……誰も、座って、いません」
……。
東海林は。
その、椅子を、見た。
それから。
ミライを、見た。
ミライは。
少し。
顔を、そむけて。
それから。
ぼそっ、と、言った。
「……別に。座れば」
「……いいの?」
「よくない」ミライは、言った。「めっちゃ、腹立ってる」
「……うん」
「一生、根に持つから」
「……うん」
「でも」ミライは。
ふん、と。
鼻を、鳴らした。
「……あんたが、いないと。……森本が、うるさい」
「……」
「毎日、そわそわして。……見てられない」
……。
おい。
余計なことを。
◇
東海林は。
ゆっくりと。
歩いてきて。
いつもの、席に。
座った。
俺の、隣。
二か月ぶりに。
誰も。
何も。
言わなかった。
御手洗が。
世界史の、資料を、めくった。
五百旗頭が。
生徒会の、書類を、広げた。
不破が。
頬杖を、ついた。
日下部が。
誰かに、メッセージを、返して、いた。
ミライが。
スマホを、いじり始めた。
いつも通り。
……いや。
いつも通りじゃ、ない。
誰も。
東海林に。
話しかけない。
東海林も。
何も、言わない。
空気は。
まだ。
硬い。
……でも。
全員が。
同じ、テーブルに。
座って、いた。
それだけで。
今は。
十分だった。
◇
「……森本」
帰り道。
東海林が。
隣で。
言った。
「……ん」
「……ありがとう」
「……別に」
「……ううん」東海林は、首を、振った。「……ありがとう」
……。
俺は。
何も、言わずに。
歩いた。
しばらくして。
東海林が。
ぽつり、と。
言った。
「……森本」
「なんだよ」
「……わたし、まだ」
「……」
「……森本のこと、見てるから」
……。
俺は。
立ち止まった。
東海林も。
立ち止まった。
「……それ」俺は、言った。「……こわいんだけど」
「……なんで」
「また、勝手に、なんかするだろ」
「……しない」
「嘘つけ」
「……」
東海林は。
目を、そらした。
「……するかも」
「するなよ!」
「……」
「……次は」俺は、言った。「先に、言え」
東海林は。
少し。
考えて。
それから。
頷いた。
「……努力する」
「努力じゃ、なくて!」
「……」
東海林は。
少しだけ。
口元を、ゆるめた。
二か月ぶりに。
見た、顔だった。
◇
――その、夜。
進路指導室。
誰も、いない、部屋で。
一人の、教師が。
机の、引き出しを、開けて、いた。
中から。
取り出したのは。
一枚の、書類。
生徒の、面談記録。
そこには。
こう、書かれて、いた。
『二年二組 森本基成』
『進路希望 未定』
柏木は。
その、紙を。
しばらく。
眺めて、いた。
それから。
万年筆を、取り出して。
余白に。
一行。
書き足した。
『――そろそろ、こちらから、動くべきか』
引き出しを、閉める。
立ち上がる。
部屋の、電気を、消す。
廊下に、出る、前に。
柏木は。
一度だけ。
振り返って。
誰も、いない、部屋に、向かって。
小さく。
つぶやいた。
「……七人目」
そして。
扉を、閉めた。
(第3巻・完)




