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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
しずかな、うらぎり

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66/117

第16話 被験者S

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第16話 被験者S

====================



調査は。


意外な、ところから。


始まった。



◇



「――思い出したことが、あります」


翌日。図書室。


五百旗頭(いおきべ)が、開口一番、そう、言った。


「なんだ」


「白瀬(しらせ)先生の、件です」


……。


白瀬先生。


二か月前の、事件の、犯人。


「人は、噂だけで、他人を、認識するか」を、実験していた、教育実習生。


「あの人が、どうした」


「湊さんが、最後に、言ったことを、覚えていますか」五百旗頭は、言った。「……彼女が、白瀬先生と、話したときの、話です」


「ああ」俺は、思い出した。「たしか、研究ノートを、見たとか」


「そうです」五百旗頭は、頷いた。「そして、こう、聞きました」


五百旗頭は。


ノートに、書いた。


『被験者M』


『被験者S』


「森本くんが、『被験者M』」五百旗頭は、言った。「――では、『被験者S』は、誰ですか」


……。


心臓が。


跳ねた。


「……S」


「はい」


「……しょうじ、しき」


「……そうなります」



◇



「なんで、四季が」俺は、言った。「あいつ、あの事件に、関係ないだろ」


「ありません」五百旗頭は、頷いた。「東海林さんは、噂の、被害者でも、加害者でも、なかった」


「じゃあ、なんで、観測されてたんだ」


「わかりません」五百旗頭は、言った。「……ですが、これは、確認できます」


「どうやって」


「白瀬先生に、聞きます」


「……え?」


「連絡先は、わかります」五百旗頭は、淡々と、言った。「生徒会の、書類に、実習生の、記録が、残って、います」


……こいつ。


生徒会、便利すぎるだろ。



◇



三日後。


駅前の、喫茶店。


白瀬先生は。


前と、同じ、眼鏡を、かけて。


前と、同じ、無害そうな、顔で。


そこに、座って、いた。


「――お久しぶりです」


「……どうも」


「実習は、中止に、なりましたが」白瀬先生は、あっさり、言った。「大学は、続けています。研究テーマも、変えました」


「そうですか」


「今度は、ちゃんと、倫理審査を、通しています」白瀬先生は、微笑んだ。「学びました」


……この人。


反省は、してるんだろうか。


してるような。


してないような。


「本題に、入ります」五百旗頭が、言った。「あなたの、研究ノート。……『被験者S』とは、誰ですか」


白瀬先生は。


コーヒーを、一口、飲んで。


それから、言った。


「……東海林四季さん、です」


……。


やっぱり。



◇



「なぜ、彼女を、観測して、いたのですか」五百旗頭が、聞いた。


「興味深い、対象だったからです」白瀬先生は、言った。「わたしの、研究テーマは、覚えていますか」


「『人は、噂だけで、他人を、認識するか』」


「そうです」白瀬先生は、頷いた。「……実験の、結果。ほぼ、全員が、噂に、影響されました。四十七人中、四十七人」


「……」


「でも」白瀬先生は、指を、立てた。「――例外が、一人、いました」


……。


「東海林さんです」白瀬先生は、言った。「彼女だけが、噂に、影響されなかった。……いえ、正確には」


白瀬先生は。


少しだけ。


身を、乗り出した。


「彼女だけが、森本くんを。……『個体として』、識別して、いました」


「……個体?」


「歩き方。姿勢。癖」白瀬先生は、言った。「彼女は、遠くの、後ろ姿を、見て。……『あれは、森本じゃない』と、断定できた。……四十七人の中で、彼女だけです」


……。


二か月前。


あいつが、言った、ことだ。


『……歩き方が、違う』


「これは、研究上、非常に、重要な、サンプルです」白瀬先生は、言った。「なぜ、彼女だけが、例外なのか。……認知の、何が、違うのか」


白瀬先生は。


熱を、帯びた、目で、言った。


「――だから、記録しました。『被験者S』として」



◇



「……そのノートは」五百旗頭が、言った。「どうなりましたか」


「大学に、提出しました」白瀬先生は、言った。「実習の、報告書と、一緒に」


「他には?」


「他には……」白瀬先生は、少し、考えた。「ああ。……担当の、先生にも、お見せしました」


……。


空気が。


変わった。


「担当の、先生?」五百旗頭が、聞いた。


「ええ。実習の、指導教員です」白瀬先生は、言った。「観察の、許可を、くださった方です」


「その方の、名前は」


「柏木(かしわぎ)先生です」


……柏木。


誰だ。


……いや。


待て。


聞いたことが、ある。


進路指導室の。


あの。


眼鏡の。


「……その方に」五百旗頭が、慎重に、言った。「ノートを、見せた、理由は?」


「報告義務が、ありますから」白瀬先生は、言った。「……というより、あの先生が、興味を、持たれたんです」


「興味?」


「ええ」白瀬先生は、言った。「特に、『被験者S』の、記録に」


……。


俺は。


息を、呑んだ。


「柏木先生は、こう、おっしゃいました」白瀬先生は、思い出しながら、言った。「――『この生徒は、面白いね』と」


「……」


「『他の全員が、認識を、歪められる中で。一人だけ、歪まない』」白瀬先生は、続けた。「『それは、つまり』」


白瀬先生は。


コーヒーカップを、置いた。


「――『この生徒だけが、森本くんを、正しく、動かせる、ということだ』」



◇



……。


喫茶店の、音が。


遠くなった。


動かせる。


四季が。


俺を。


「……それ」俺は、やっと、言った。「どういう、意味ですか」


「わたしにも、わかりません」白瀬先生は、首を、かしげた。「ただ、柏木先生は、そう、おっしゃいました」


「……」


「あのとき、少し、変だとは、思いました」白瀬先生は、言った。「わたしの、研究は、認知の、話です。……『動かせる』というのは、少し、飛躍が、あります」


……。


飛躍。


……いや。


飛躍じゃ、ない。


その人は。


最初から。


別のことを。


考えて、いた、んだ。



◇



「……もうひとつ、伺います」五百旗頭が、言った。


その、声が。


少し、硬かった。


「なぜ、あなたは。……この学校に、実習に、来たのですか」


「え?」


「あなたは、この学校の、卒業生では、ありません」五百旗頭は、言った。「県外の、出身で。この学校とは、縁が、ない」


「ああ、それは」白瀬先生は、あっさり、言った。「柏木先生に、誘われたからです」


……。


「大学の、研究発表会で、お会いしました」白瀬先生は、言った。「わたしの、研究テーマを、聞いて。……『うちの高校で、観察してみないか』と」


「……」


「『面白い生徒が、いる』と、おっしゃって」


……。


面白い、生徒。


それは。


誰だ。



◇



喫茶店を、出て。


俺たちは。


しばらく。


何も、言わずに。


歩いた。


秋の、風が。


冷たかった。


「……五百旗頭」


「……はい」


「整理していいか」


「……どうぞ」


「柏木って先生が」俺は、言った。「白瀬先生を、この学校に、呼んだ」


「……はい」


「白瀬先生が、実験して。……ノートに、俺と、四季を、記録した」


「……はい」


「そのノートを、柏木先生が、見て」俺は、言った。「……『東海林だけが、森本を、正しく動かせる』と、言った」


「……はい」


俺は。


立ち止まった。


「……つまり」


「……ええ」


五百旗頭も。


立ち止まった。


「――誰かが、東海林さんを。……『あなたを、動かすための、道具』として、見ていた」


……。


手が。


震えた。


「……四季は」俺は、言った。「それを、知ったのか?」


「……可能性は、あります」


「どうやって」


「わかりません」五百旗頭は、言った。「……ですが、もし、知ったとしたら」


五百旗頭は。


俺を、見た。


「……彼女は、どう、思ったでしょうか」


……。


どう、思ったか。


……そんなの。


決まってる。


自分が。


俺を、傷つけるために。


使われる、かも、しれない。


そう、知ったら。


あいつは。


……あいつは。


きっと。


自分から。


離れる。


誰にも。


相談せずに。



(第16話 了)

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