第15話 なぜ
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第15話 なぜ
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翌日。
放課後。
図書室。
誰も、いない、テーブルに。
俺と、五百旗頭は。
向かい合って、座った。
「まず、確認します」五百旗頭は、ノートを、開いた。「わたしたちは、これまで。……『誰が、やったか』を、追って、いました」
「ああ」
「それは、終わりました」五百旗頭は、言った。「東海林さんが、認めた。……犯人は、確定です」
「……ああ」
「では、今日から」五百旗頭は、顔を、上げた。「――『なぜ、やったか』を、追います」
「……頼む」
「ただし」五百旗頭は、指を、立てた。「感情で、考えるのは、やめましょう」
「え?」
「『きっと、何か、理由が、あったはずだ』」五百旗頭は、言った。「……そう、思いたい気持ちは、わかります。でも、それは、願望です」
「……」
「わたしたちが、やるのは」五百旗頭は、言った。「――行動の、再解釈です」
「再解釈?」
「東海林さんが、実際に、やったこと。……それを、全部、並べます」五百旗頭は、言った。「そして、『別の目的』で、説明が、つくかどうかを、検証します」
◇
五百旗頭は。
ノートに。
箇条書きで。
書き始めた。
「一。森本くんの、噂を、流した」
「……ああ」
「二。物証を、配置した。キーホルダー。署名」
「うん」
「三。湊さんの、信用を、破壊した」
「……」
「四。自分から、図書室に、来なくなった」
「……」
「五。認めたが、理由を、言わなかった」
「……」
「六」五百旗頭は、ペンを、止めた。「――『第七役職を、調べるな』と、言った」
六つ。
並んだ。
「では」五百旗頭は、言った。「仮説を、立てます。……仮説A。『東海林さんは、あなたを、嫌っている』」
「……」
「この仮説で、六つの行動は、説明できますか」
俺は。
考えた。
「……一と、二は、できる。噂を、流して、証拠を、置く。……嫌がらせだ」
「三は?」
「湊を、潰したのは。……邪魔だから、か?」
「では、四は」五百旗頭は、言った。「なぜ、図書室に、来なくなったのですか」
「……気まずいから?」
「嫌っている相手に、気まずさを、感じますか」
……。
感じない。
嫌いなら。
むしろ。
平然と、していられる。
「五は」五百旗頭は、続けた。「なぜ、理由を、言わないのですか。嫌いなら、言えばいい。……『お前が、嫌いだった』と」
「……」
「そして、六」五百旗頭は、言った。「――嫌っている相手に、なぜ、『第七役職を、調べるな』と、忠告するのですか」
……。
……そうだ。
あれは。
忠告、だ。
嫌がらせじゃ、ない。
「仮説Aは」五百旗頭は、静かに、言った。「……成立しません」
◇
「では、仮説B」五百旗頭は、新しい行を、書いた。「『東海林さんは、誰かに、脅されて、いた』」
「ありそうだ」
「では、聞きますが」五百旗頭は、言った。「脅されている人間が。……なぜ、あんなに、堂々と、認めるのですか」
……。
ああ。
そうだ。
あいつは。
目を、そらさなかった。
「脅されているなら」五百旗頭は、言った。「普通は、隠します。あるいは、助けを、求めます。……少なくとも、『わたしが、やった』と、即答は、しません」
「……」
「仮説Bも」五百旗頭は、言った。「……成立が、難しい」
◇
「じゃあ」俺は、言った。「なんなんだよ」
「仮説C」
五百旗頭は。
ペンを、握った。
その、手が。
少し。
震えて、いた。
「――『東海林さんは、あなたを、守ろうと、していた』」
……。
図書室が。
静かだった。
「……検証します」五百旗頭は、言った。「一。噂を、流した」
「……」
「これで、何が、起きましたか」
「……俺の、評判が、落ちた」
「もっと、正確に」五百旗頭は、言った。「あなたは、どう、見られるように、なりましたか」
……。
俺は。
考えた。
噂の、中の、俺。
文化祭を、逃げた、やつ。
備品を、壊した、やつ。
責任から、逃げる、やつ。
目立とうと、した、やつ。
それは。
つまり。
「……『たいしたやつじゃ、ない』」
俺は、言った。
「そう」五百旗頭は、頷いた。「あなたは、『信用できない、平凡な生徒』に、なりました」
「……」
「思い出して、ください」五百旗頭は、言った。「その、少し前。……あなたは、どう、見られて、いましたか」
……。
少し前。
二巻の、事件が、終わった、あと。
「……『あの事件を、解決した、やつ』」
「そう」五百旗頭は、言った。「そして、その前は」
「……図書室の、ゲームを、突破した、やつ」
……。
心臓が。
冷たく、なった。
そうだ。
俺は。
いつの間にか。
「何かを、解決する、やつ」に。
なって、いた。
それが。
今。
消えた。
綺麗に。
◇
「二。物証の、配置」五百旗頭は、続けた。「これは、噂を、補強するためです。……ただの噂なら、消えます。物証が、あれば、消えない」
「……」
「三。湊さんの、信用破壊」五百旗頭は、言った。「彼女は、あなたに、警告しました。……つまり、あなたを、助けようと、していた」
「……ああ」
「彼女が、動けば」五百旗頭は、言った。「あなたの、名誉は、回復するかも、しれません。……それを、防いだ」
「……なんで、そんなこと」
「四」五百旗頭は、答えずに、続けた。「自分から、離れた」
「……」
「これは」五百旗頭は、言った。「――あなたを、自分から、遠ざけるため、です」
「……」
「五。理由を、言わない」五百旗頭は、言った。「言えば、あなたが、追いかけてくるからです。……理由が、わかれば、あなたは、解決しようと、する」
……。
……そうだ。
俺は。
そういう、やつだ。
「そして、六」
五百旗頭は。
ペンを、置いた。
「――『第七役職を、調べるな』」
……。
「これが」五百旗頭は、言った。「――結論です」
「結論?」
「六つの、行動は、すべて」五百旗頭は、俺を、見た。「……ひとつの、目的で、説明が、つきます」
五百旗頭は。
ノートに。
一行。
書いた。
『森本基成を、第七役職から、遠ざける』
◇
……。
息が。
止まった。
「……どういう、ことだ」
「わかりません」五百旗頭は、首を、振った。「でも、式は、成立します」
「式?」
「あなたの、評判を、落とせば」五百旗頭は、言った。「あなたは、『たいしたことのない生徒』に、なる。……もし、誰かが、あなたに、興味を、持っていたとしたら」
「……」
「――興味を、失います」
……。
ぞ、と、した。
「あなたを、庇う人間を、潰せば」五百旗頭は、続けた。「あなたは、孤立する。……協力者が、いなくなれば、調査は、できません」
「……」
「自分が、離れれば」五百旗頭は、言った。「あなたは、彼女を、追わない。……そして、彼女が、知っていることにも、辿り着かない」
「……」
「理由を、言わなければ」五百旗頭は、言った。「あなたは、真相を、追えない。……そして、危険にも、近づかない」
五百旗頭は。
顔を、上げた。
「東海林さんは」
「……」
「――あなたを、無害な生徒に、戻そうと、して、いました」
◇
俺は。
何も。
言えなかった。
頭の中で。
いろいろな、ものが。
音を、立てて。
組み替わって、いく。
あいつが。
図書室に、来なくなった、こと。
目を、そらした、こと。
「気を、つけて」と、言った、こと。
「もう、話しかけないで」と、言った、こと。
「森本と、いると、また、やる」と、言った、こと。
全部。
……全部。
「……なあ、五百旗頭」
「はい」
「これ」俺は、言った。「……もし、本当だとしたら」
「はい」
「あいつ」
声が。
震えた。
「……全部、一人で、やったのか?」
五百旗頭は。
答えなかった。
ただ。
少しだけ。
目を、伏せた。
「……誰にも、相談せずに」俺は、言った。「誰にも、言わずに。……全員に、嫌われる、覚悟で」
「……」
「なんで」
俺は。
テーブルに。
拳を、置いた。
「なんで、そんな」
「……森本くん」
五百旗頭が、言った。
「わたしたちは、まだ、何も、知りません」
「……」
「これは、仮説です。……証明が、必要です」
五百旗頭は。
ノートを、閉じた。
「……調べましょう」
「……ああ」
「第七役職を」五百旗頭は、言った。「――東海林さんが、『調べるな』と、言った、その、意味を」
(第15話 了)




