第13話 認める
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第13話 認める
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次の日。
俺は。
部活が、終わるのを。
待って、いた。
◇
剣道場の、前。
コンクリートの、段に、座って。
一時間。
中から。
竹刀の、音が。
断続的に、聞こえて、いた。
かん。
かん。
かん。
気合いの、声も。
その中に。
あいつの、声が、あるのか。
……わからなかった。
やがて。
音が、止んで。
部員が、出てきた。
一年生。二年生。
みんな、汗を、拭きながら。
疲れた顔で。
最後に。
東海林四季が。
出てきた。
竹刀袋を、担いで。
髪が、濡れて、いて。
俺を、見て。
少しだけ。
足を、止めた。
「……森本」
「……よう」
「……どうしたの」
「話が、ある」
東海林は。
数秒。
黙って、いた。
それから。
静かに、頷いた。
「……ん」
◇
場所は。
校舎裏の。
誰も、いない、場所に、した。
秋の、夕方。
もう。
だいぶ。
暗く、なって、いた。
東海林は。
壁に、もたれて。
竹刀袋を。
地面に、置いた。
俺は。
その、正面に、立った。
何から、話せば、いいのか。
わからなかった。
でも。
遠回りする、気にも。
ならなかった。
「……四季」
「……ん」
「聞きたいことが、ある」
「……ん」
東海林は。
逃げなかった。
まっすぐ。
俺を、見て、いた。
……それが。
逆に。
怖かった。
◇
「最近の、噂」俺は、言った。「俺の。……あと、湊の」
「……」
「あれ」
俺は。
息を、吸った。
「……お前か?」
東海林は。
目を、そらさなかった。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
言った。
「……うん」
……。
……。
え。
「……うん、って」
「……わたしが、やった」
東海林は。
はっきり、言った。
いつもの、小さな声じゃ、なくて。
ちゃんと。
聞こえる、声で。
◇
頭が。
真っ白に、なった。
……嘘だろ。
いや。
覚悟は、して、いた。
五百旗頭の、話を、聞いて。
ミライの、話を、聞いて。
……たぶん、そうだろうと。
思っては、いた。
でも。
本人の、口から。
こんなに、あっさり。
認められるとは。
思って、いなかった。
「……なんで」
やっと。
それだけ、言えた。
「……」
「なんで、そんなこと、したんだ」
「……」
東海林は。
答えなかった。
「四季」
「……」
「なんか、言えよ」
「……」
「理由が、あるんだろ?」俺は、言った。「何か、事情が。……脅されたとか。誰かに、頼まれたとか」
「……ううん」
「じゃあ、なんで!」
「……」
東海林は。
口を、閉じた。
そして。
それきり。
何も。
言わなかった。
◇
――俺は。
このとき。
初めて。
こいつに。
腹が、立った。
保育園から、ずっと、一緒で。
屋根に、登って、怒られて。
中学で、離れて。
高校で、また、会って。
何回も。
助けられて。
何回も。
見て、もらって。
その、全部が。
なんだったんだ。
「……言えよ」俺は、言った。「理由を、言えよ」
「……」
「言えないなら」俺は、言った。「――ただの、裏切りだぞ」
東海林の。
肩が。
わずかに。
動いた。
でも。
それだけ、だった。
「……うん」
東海林は。
静かに、言った。
「……そう」
「そう、じゃない!」
俺は。
気づいたら。
怒鳴って、いた。
「なんで、認めるんだよ! 否定しろよ! 違うって、言えよ!」
「……」
「そしたら、俺」俺は、言った。「……信じたのに」
……。
東海林は。
少しだけ。
目を、伏せた。
それから。
言った。
「……知ってる」
◇
……。
知ってる。
その、一言が。
いちばん。
効いた。
こいつは。
わかって、いる。
俺が、信じたがっていることを。
わかっていて。
わざと。
認めた。
わざと。
逃げ道を。
塞いだ。
「……なんで」俺は、言った。「なんで、そんなこと」
「……」
「四季」
「……」
「……四季!」
東海林は。
竹刀袋を。
拾い上げた。
そして。
静かに、言った。
「……ごめん」
「……」
「……もう、話しかけないで」
……え。
「……森本と、いると。……たぶん、また、やる」
「また、やるって」
「……」
東海林は。
それには、答えず。
俺の、横を。
通り過ぎた。
追いかけようと、した。
でも。
足が。
動かなかった。
◇
一度だけ。
東海林は。
立ち止まった。
振り返らずに。
背中を、向けたまま。
言った。
「……森本」
「……なんだよ」
「……あのカード」
「……え?」
「……第七役職」
……。
心臓が。
跳ねた。
「……あれ、もう」
東海林は、言った。
「……調べないで」
それだけ、言って。
歩いて、いった。
秋の、夕暮れの、中を。
竹刀袋を、担いだ、背中が。
だんだん。
小さく、なって。
校舎の、角を。
曲がって。
見えなく、なった。
……。
俺は。
その場に。
立ち尽くして、いた。
頭の中で。
さっきの、言葉が。
何度も。
回って、いた。
――第七役職。
なんで。
今。
その話が。
出るんだ?
(第13話 了)




