第5話 嘘つきは、誰
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第5話 嘘つきは、誰
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このゲームには、ひとつ、たちの悪いルールがある。
「嘘をついてよい」。
これが、じわじわ、効いてきた。
最初は、みんな、なんとなく、正直に喋っていた。閉じ込められた者同士、協力しよう、みたいな空気が、あった。
でも。
誰かが、一度でも、嘘をつくと。
その瞬間から、全部が、疑わしくなる。
「森本くん」五百旗頭が、真剣な顔で、言った。「わたし、さっき、御手洗さんに、聞いたんです。あなたの、勝利条件を、知っているか、と」
「勝手に聞くなよ」
「そうしたら、御手洗さん、こう言いました。『知らないわ。わたし、森本くんの条件なんて、興味ないもの』と」
「まあ、そうだろうな」
「でも」五百旗頭は、指を、一本立てた。「それが、嘘かも、しれない」
「……ああ」
そうなのだ。
このゲームでは、「知らない」も、「興味ない」も、全部、嘘かもしれない。
本当に知らないのか。知ってて隠しているのか。
見分ける、方法が、ない。
◇
「――なあ、ちょっと、いいか」
俺は、みんなを、集めた。漫画コーナーの、いつもの場所に。
「提案がある。嘘、なしにしないか。しばらくの間、だけでも」
「ほう」日下部が、微笑んだ。「なぜ、です?」
「だって、このままじゃ、誰も、誰も、信じられない。それじゃ、推理も、何も、進まないだろ」
「一理、ありますね」日下部が、頷いた。「ですが、森本くん。ひとつ、問題が」
「なんだよ」
「『嘘をつかない』と、全員が、約束したとして――」日下部は、にこやかに、言った。「その約束自体が、嘘かも、しれませんよ?」
……くそ。
こいつ、正しい。
「……ノーコメント」東海林が、ぽつり。「……信じるかどうかは、自分で、決める」
「四季」
「……わたしは、森本を、信じる」
東海林は、まっすぐ、俺を、見た。
「……森本は、嘘が、下手だから」
「それ、褒めてんのか?」
「……たぶん」
たぶん、か。まあ、いい。
◇
と。
そこに、割り込んできたのが、不破だった。
「――信じる、だと?」不破が、鼻で、笑った。「東海林。貴様、その、モブを、信じるのか」
「……信じる」
「やめておけ。そいつは、貴様を、利用しているだけ、かもしれん」
「……利用?」
「そうだ」不破は、俺を、指さした。「そいつの勝利条件が、貴様を、騙すことだったら? 貴様は、まんまと、引っかかる」
東海林が、俺を、見た。
一瞬。
ほんの、一瞬だけ。
その目に、迷いが、よぎった。
「――不破」俺は、言った。「お前、なんで、そんなに、東海林のこと、気にするんだ」
「なっ」
「さっきから、東海林、東海林って。まるで、東海林が、騙されるのを、心配してる、みたいだ」
「べ、別に、心配など――」
「じゃあ、なんだよ」
「……っ」
不破は、顔を、赤くして、黙った。
それから、絞り出すように、言った。
「……気に、食わんだけだ。貴様みたいな、モブが。東海林の、隣に、いるのが」
……ん?
それって。
なんか。
恋愛感情を、心配してる、っていうより。
もっと、こう――
「森本くん」
五百旗頭が、俺の、袖を、引いた。小声で。
「今の、聞きました?」
「聞いたけど」
「不破くんの、あれは――」五百旗頭が、探偵の目で、言った。「嫉妬、ですね。まず、間違いなく」
「嫉妬? 誰に」
「……森本くん。あなた、本当に、鈍いですね」
「え?」
「ではでは、自分で、考えてください」
五百旗頭は、あきれた顔で、俺を見た。
わからん。何が、嫉妬なんだ。俺、なんか、したか?
◇
その夜。
俺は、また、漫画コーナーで、寝転がっていた。
隣に、東海林が、来た。膝を、抱えて。
「……森本」
「なんだよ、四季」
「……さっきの、不破の、言ったこと」
「利用がどうこう、ってやつか」
「……森本は」東海林の声が、いつもより、少し、小さかった。「……わたしを、利用、してる?」
俺は、体を、起こした。
東海林の、顔を、見た。表情の乏しい、こいつの顔。でも、今は、ほんの少し、不安そうに、見えた。
「してねえよ」
「……ほんとに?」
「してない。俺の勝利条件は、お前を、騙すことじゃない」
「……じゃあ、何?」
「……それは、言えない。ルールだから」
「……」
「でも」俺は、言った。「お前を、騙すことじゃ、ない。それだけは、本当だ」
東海林は、しばらく、黙っていた。
それから。
「……信じる」
ぽつり、と、言った。
「……森本は、嘘が、下手だから」
「さっきも、それ、言ったな」
「……何度でも、言う」
……こいつ。
幼馴染って、やっぱり、厄介だ。
こっちが、必死で、隠してるのに。
勝手に、信じて、くる。
――このゲームは、たちが悪い。
嘘を、ついてもいい。
好きだと、偽ってもいい。
でも。
その中で。
たったひとつ、俺が、本当のことを、言えた相手が。
こいつだったのは。
……まあ、悪くない、気がした。
(第5話 了)




