第4話 攻略対象
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第4話 攻略対象
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俺の勝利条件は、五百旗頭から、俺への恋愛感情を、引き出すこと。
で、あの箸休めみたいな時間のあと、俺は、ちょっとだけ、思った。
(あれ。これ、意外と、いけるんじゃね?)
だって、宇宙の話で、あんなに、盛り上がった。猫の話も、聞いてくれた。「知りたい」とか、言ってくれた。
これはもう、実質、両想い――
「森本くん」
「はいっ」
「なぜ、そんなに、にやにやしているのですか。気持ち悪いですよ」
「ひどっ」
撤回。実質でもなんでもなかった。
◇
とはいえ、やらなきゃ、出られない。
俺は、勇気を出して、五百旗頭に、話しかけた。攻略、開始だ。
「なあ、五百旗頭。あのさ」
「なんですか」
「昨日の、宇宙の話、面白かった。もっと、聞きたいな、と」
我ながら、下手くそだ。でも、間違ってはいない。もっと話して、距離を縮めて、いい感じになって、恋愛感情を、引き出す。作戦としては、正しい。
ところが。
五百旗頭は、俺の顔を、じいっと、見た。
それから、すっと、目を、細めた。数学の問題を、解くときの、あの目で。
「……森本くん」
「な、なんだよ」
「あなた、急に、優しいですね」
「え」
「昨日から。やけに、わたしに、話しかけてくる。宇宙の話を、聞きたがる。猫の話も、した」
「そ、それは」
「――このゲームは、恋愛推理」五百旗頭の声が、低くなった。「誰が、誰を、好きな『役』か、当てるゲーム。だとすれば」
まずい。こいつ、勘が。
「森本くん。あなた、もしかして――わたしを、『攻略』する役、なのでは?」
ばれた。
いや、正確には、当てられた。
しかも、思いっきり、正解を。
◇
「ち、ちがう」
「またまた。図星の顔をしていますよ」
「してない」
「では、聞きますが」五百旗頭が、ずい、と、詰め寄ってきた。「昨日の『知りたい』は、本心ですか。それとも、攻略の、一環ですか」
「それは……」
言えない。だって、両方だ。半分は、作戦。でも、半分は――いや、それも、よくわからない。
俺が、黙っていると。
五百旗頭は、ふ、と、口の端を、上げた。
「――いいでしょう」
「え」
「あなたが、わたしの『攻略役』かどうか。それを、確かめます」
「確かめる、って」
「簡単なことです」五百旗頭は、腕を組んだ。「あなたを、観察します。四六時中。あなたが、本心で近づいているのか、役割で近づいているのか。論理的に、見極める」
「四六時中!?」
「ええ。ではでは、覚悟してください、森本くん」
……あれ。
これって。
攻略しようとした結果。
逆に、こいつに、張り付かれる、ことに、なったのでは?
◇
で、実際、五百旗頭は、俺に、張り付いた。
「森本くん、その漫画のどこが好きなんですか。論理的に説明してください」
「論理も何も、面白いから面白いんだよ」
「非論理的ですね。減点です」
「減点すんな」
飯を食うときも。
「森本くん。なぜ、そんなに、早く食べるのですか。観察の対象として、興味深いです」
「見んな。食いにくい」
寝るときも。
「森本くん。寝相を、観察しても?」
「寝れねえよ!」
……こいつ。攻略対象を、観察するって、こういうこと、じゃないだろ。
でも。
張り付かれて、四六時中、一緒にいて。
気づいたら、俺たちは、めちゃくちゃ、喋っていた。
くだらないことも。宇宙のことも。猫のことも。
攻略、とか、観察、とか、そういう名目で。
ただ、ずっと、一緒に、いた。
◇
「――ねえ」
御手洗が、遠くから、その様子を、眺めていた。こてん、と首をかしげて。
「あの二人、なんだか、仲がいいわね。まるで、ロミオとジュリエットの、バルコニーの――」
「出た」と、通りかかった俺は言った。
「出た、じゃないの。世界史じゃなくて、文学だったでしょう、今の」
「あ、ほんとだ。珍しいな」
「わたしだって、たまには、文学の、たとえくらい――」
「まあ、いいや」
このとき、俺は、聞き流した。
御手洗の、たとえが、ほんの少し、いつもと、毛色が違ったことを。
世界史の女が、文学のたとえを、したことを。
――たいしたことじゃ、ない。そう、思った。
思って、しまった。
(第4話 了)




