第3.5話 五百旗頭さんは、宇宙がすき
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第3.5話 五百旗頭さんは、宇宙がすき
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閉じ込められて、何時間――いや、何日か、経った気がする。
わからない。時計は動いているが、外はずっと夜だ。腹は減るのに、なぜか、限界までは減らない。このゲーム、そういうところは、親切設計らしい。
で。
閉じ込められた人間には、やることがない。
推理も、探り合いも、ずっとは続かない。人間、集中力ってものがある。だから、こういう「空き時間」が、できる。
そして俺は、その空き時間を、漫画コーナーで、潰していた。
「森本くん」
五百旗頭が、隣に来た。
珍しい。向こうから来るのは。
「なんだよ」
「暇、ですか」
「暇だな」
「ではでは」五百旗頭は、なぜか、目を、きらきらさせて。「ちょうどいい。聞いてくれますか。宇宙の話を」
……あ。まずい。こいつの、スイッチが、入った。
◇
「いいですか、森本くん。この宇宙はですね、膨張しているんです」
「へえ」
「しかも、加速している。遠くの銀河ほど、速く、遠ざかっている。おかしいと思いませんか」
「思う……のか?」
「思うんです! 普通、投げたボールは、だんだん、遅くなる。なのに、宇宙は、加速する。なぜ? 何が、押している?」
五百旗頭が、床に、指で、数式を書き始めた。
――こいつ、こうなると、止まらない。
憧れていた頃の五百旗頭は、もっと、こう、静かで、ミステリアスで、高嶺の花だった。遠くから見ていた、あの子は。
今、床に正座して、目の前で、めちゃくちゃ早口で、宇宙を語っている、この子は。
(……全然、違うな)
でも。
「――で、その正体が、わからないから、暫定的に『ダークエネルギー』と、名前だけ、つけたんです。名前だけ! ずるいでしょう!? わからないものに、名前をつけて、わかった気になっている! 許せない!」
「お前、宇宙に、怒ってんの?」
「怒っています! だって、悔しいじゃないですか! 目の前に、答えが、あるのに! 手が、届かないなんて!」
……ああ。
こいつ、本気なんだな。
宇宙に。数式に。まだ誰も解いていない、その答えに。
本気で、悔しがれる、やつなんだ。
◇
「森本くんは」五百旗頭が、ふと、手を止めた。「本気で、悔しかったこと、ありますか」
「……ないな」
即答した。五百旗頭が、きょとん、とした。
「ない、のですか」
「ないな。だって、本気、出してないから。悔しがるのは、本気を出した、やつの、特権だろ」
「……森本くんは」五百旗頭が、じっと、俺を見た。「本気を、出したら、どうなるんですか」
「さあ。すごいんじゃね。たぶん」
「たぶん」
「たぶん」
「……ふふ」
五百旗頭が、笑った。「またまた」の口癖もつけずに、ただ、笑った。
「変な人ですね、森本くんは」
「お前ほどじゃねえよ。宇宙に、ガチギレする女」
「ガチギレ、していません!」
「してた」
「……少し、していました」
認めた。
◇
それから、しばらく、俺たちは、どうでもいい話をした。
好きな漫画。嫌いな科目。給食のメニュー。五百旗頭が、実は、辛いものが全然だめなこと。俺が、実は、犬より猫派なこと。
「猫、ですか」五百旗頭が言った。「意外ですね。犬の方が、好きそうなのに」
「昔、飼ってたんだよ。猫」
「今は?」
「……死んだ」
「……そう、ですか」
五百旗頭は、それ以上、聞かなかった。
かわりに、こう言った。
「では、その猫の話も、いつか、聞かせてください」
「なんで」
「知りたいからです。森本くんの、好きだったものを」
……なんて言うんだ、こいつは。
さらっと。攻略対象を、引き出そうとしてる、俺が、逆に、引き出されている気が、する。
いや。深読みか。
――たぶん、深読みだ。
このゲームは、たちが悪い。
好きだと言われても、本心か、わからない。
でも、それは、逆も、同じで。
誰かが、何気なく、優しくしてくれたとき。
それが、本心なのか、役割なのか。
俺には、もう、わからなくなっていた。
(第3.5話 了)
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