第3話 それぞれの秘密
====================
第3話 それぞれの秘密
====================
五百旗頭から、俺への恋愛感情を、引き出せ。
それが、俺の「勝利条件」だった。
……いや、無理だろ。
だって五百旗頭は、俺のことなんか、なんとも思ってない。同じ班になって一週間。減点、監修者いじり、あとは宇宙の話。それだけの関係だ。
そこから「恋愛感情を引き出せ」って。無茶ぶりにも程がある。
「森本くん」
びくっとした。
「な、なんだよ」
「さっきから、わたしのことを、ちらちら見ていますね。ではでは、白状しなさい。何を企んでいるのですか」
「企んでない」
「またまた」
くそ。バレてる。いや、バレてないけど、勘がいい。
落ち着け、森本 基成。相手は、恋愛感情を引き出す、対象。つまり、攻略対象。
……口にすると、字面が最悪だな。
◇
一方その頃、俺以外の五人も、それぞれ、スマホを見つめて、固まっていた。
「……」東海林は、無言で、画面を、二度見していた。
「ふむ」御手洗は、こてん、と首をかしげていた。
「なるほど。これは、なかなか」日下部は、丁寧に、微笑んでいた。
「……ちっ」不破は、舌打ちして、俺を、睨んだ。
なぜ睨む。
全員に、それぞれの「勝利条件」が、届いたらしい。
そして、ルールでは、それを、口にできない。
「――整理、しましょう」
最初に動いたのは、やっぱり五百旗頭だった。こういうとき、こいつは強い。
「全員に、勝利条件が配られた。内容は、言えない。でも、ひとつ、確かなことがあります」
「なんだ」
「わたしたちの目的は、全員バラバラ。誰かの勝利は、誰かの敗北かもしれない。――つまり」
五百旗頭は、ぐるりと、みんなを、見回した。
「今この瞬間から。わたしたちは、味方のふりをした、敵かもしれない」
しん、とした。
「……重いなあ」と俺は言った。
「重いのよ」と御手洗。
「もっと、こう、なんか、平和なゲームはなかったのか。すごろくとか」
「すごろくで脱出できると思うの?」
「思わないけど」
◇
「では、まず」御手洗が、指を、一本立てた。「発想を、変えましょう。このゲームの名前は?」
「……恋愛推理」東海林が、ぽつり。
「そう。恋愛推理。つまり――誰が、誰を好きな『役』なのか。それを、推理するゲーム。であるならば」
御手洗の、目のでかい顔が、ぐいっと、俺に近づいた。
「たとえば。森本くんが、五百旗頭さんを、好きな役だと、仮定する」
「ぶっ」
五百旗頭が、盛大に、むせた。
「な、なぜ、そこで、わたしと森本くんなのですか、御手洗さん!」
「例よ、例。ローマ皇帝ネロだって、最初は仮定から――」
「出た」と俺。
「出た、じゃないわよ」
「たとえが世界史なんだよ、やっぱり」
「わかりやすいでしょう」
「わかりにくいって、何度も」
◇
で。
探り合いというのは、始まってみると、地味だった。
誰も、自分の条件を、言えない。だから、みんな、遠回しに、相手を探る。
「東海林さんは」日下部が、にこやかに聞いた。「どなたか、気になる方は、いらっしゃるんですか」
「……」東海林は、日下部を、じっと見て。
「……ノーコメント」
「おや。つれないですね」
「……日下部こそ」
「僕ですか? 僕は、全方位に、平等に、親切ですよ」
「……あやしい」
「よく言われます」
こいつ、聞き役の顔して、しれっと、自分のことは何も喋らない。さすが「みんなの日下部くん」。底が、見えない。
と、そのとき。
「――おい、モブ」
不破が、俺の前に、立ちはだかった。
「なんだよ、不破」
「貴様。五百旗頭に、妙に、話しかけているな」
「班だからな」
「……ふん。まあいい。だが、覚えておけ」不破は、なぜか、東海林を、ちらりと見て。「俺は、貴様の思い通りには、させん」
「思い通りって、何が」
「……っ、それは」
不破は、言葉に詰まって、そっぽを向いた。
なんなんだ、こいつ。さっきから、東海林のことを、気にしてる気が、する。まさか、東海林の条件を、知ってるのか?
……いや。それとも。
まあ、いい。面倒だから、深く考えない。
◇
その夜――というか、窓の外は真っ暗なのに、時計は動いているのか止まっているのか、よくわからないその「夜」に。
俺は、漫画コーナーの床に、寝転がっていた。
「……森本」
東海林が、隣に、座った。膝を抱えて。
「なんだよ、四季」
「……このゲーム」
「ん」
「……勝てると、思う?」
めずらしい。こいつが、弱気なことを言うのは。
俺は、天井を見たまま、言った。
「さあな。でも、まあ」
「……まあ?」
「報酬が出るって言うんなら、もらえるもんは、もらっとくかな、と」
「……」
東海林が、ふ、と、笑った気配がした。表情の乏しいこいつが、笑うのは、本当に、たまにだ。
「……森本」
「なんだよ」
「……やっぱり、やる気」
「……ちょっとだけな」
「……知ってる」
知ってる、か。
幼馴染ってのは、厄介だ。こっちが隠してるつもりのことを、勝手に、知っている。
――まあ、こいつにだけは、いいか。
そう思っている自分に、俺は、ちょっとだけ、驚いた。
(第3話 了)
最後まで読んでいただきありがとうございます。続きが気になったら、ブックマークしていただけると励みになります。




