↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
しずかな、うらぎり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
58/112

第9話 信用できない女

====================

第9話 信用できない女

====================



翌日。


学校に、着いた、瞬間から。


空気が。


違って、いた。



◇



「――ねえ、知ってる? 三組の、湊(みなと)さん」


下駄箱の、前で。


女子が、二人。


話して、いた。


「湊? ……ああ、あの、小さい子」


「あの人、なんか、変らしいよ」


「変って?」


「前に、いなかったんだって」


……は?


「一年のとき。……クラスに、いた記憶が、ないって」


「え、何それ。こわ」


……。


ちょっと、待て。


それ。


前に。


ミライ本人が、言ってた、やつだ。


「一年のとき、誰にも、見られてなかった」。


誰にも、認識、されていなかった。


だから、記憶にも、残っていない。


……それを。


「元々、いなかった」に。


変換されてる?



◇



教室に、入ると。


話は、もう。


別の、形に、なって、いた。


「――湊って、あれだろ。転校生でも、ないのに、名簿に、載ってなかったって」


「まじで?」


「一年のときの、集合写真にも、写ってないらしい」


「うわ、こわ」


「あと、去年の、図書室の、あの事件」


……。


心臓が。


跳ねた。


「あれにも、関わってたって」


「え、あれ、うやむやになったやつ?」


「そう。……なんか、あの人、真ん中に、いたらしいよ」


……。


全部。


事実、だ。


でも。


全部。


気持ち悪い、形に。


ねじ曲がって、いる。



◇



昼休み。


俺は、三組に、行った。


ミライは。


窓際の、席で。


一人で。


弁当を、食べて、いた。


周りに。


誰も、いない。


「……湊」


「げ。森本」ミライは、顔を、上げた。「なに、来てんの」


「噂、聞いた」


「あー」ミライは、あっさり、言った。「うん。まあね」


「大丈夫か」


「なにが?」


「いや、その」


「べつに」ミライは、卵焼きを、口に、入れた。「今に、始まったことじゃ、ないし」


……。


その、言い方が。


やけに。


平気そうで。


だから、こそ。


苦しかった。



◇



「……なあ、湊」俺は、言った。「これ、お前も、被害者だよな」


「まあ、そうだね」


「同じ、やつが、やってる」


「たぶんね」


「じゃあ、なんで」俺は、言った。「お前が、狙われるんだ?」


ミライは。


箸を、止めて。


少し、考えて。


それから。


言った。


「……邪魔だから、じゃない?」


「邪魔?」


「わたし、あんたに、言ったでしょ。『誰かが、意図的に、やってる』って」ミライは、言った。「……気づいてる人間は、邪魔なの」


……。


ぞ、と、した。


「じゃあ」俺は、言った。「お前が、狙われたのは。……俺に、警告したせいか」


「さあ」ミライは、肩を、すくめた。「タイミング的には、そうかもね」


「……悪い」


「なんで、あんたが、謝るの」


「だって」


「わたしが、勝手に、言ったんだよ」ミライは、あっさり、言った。「あんたの、せいじゃ、ない」


……。


でも。


明らかに。


俺の、せい、だった。



◇



「……それより」ミライは、弁当箱を、閉じた。「森本。ひとつ、頼みが、あるんだけど」


「なんだよ」


「これから、わたしが、何か言っても」ミライは、言った。「……信じなくて、いいから」


「……は?」


「もう、無理でしょ、たぶん」ミライは、淡々と、言った。「『あの、信用できない子が、言ってる』って、なるから。……わたしが、誰かを、疑ったら。逆に、その人が、庇われる」


……。


……そうか。


そう、なるのか。


ミライが。


誰かの名前を、出したら。


「あの、怪しい湊が、人を、疑ってる」に、なる。


むしろ。


疑われた人が。


「かわいそう」に、なる。


「……完璧じゃん」


俺は、うめいた。


「そうだね」ミライは、笑った。「完璧」


笑って、いるのに。


目が。


笑って、いなかった。



◇



放課後。


図書室。


俺は、五百旗頭(いおきべ)に、全部、話した。


「……湊さんの、噂、ですか」


「ああ。……あいつも、狙われてる」


「なるほど」


五百旗頭は。


しばらく、黙って。


それから。


手元の、ノートを、開いた。


「森本くん。……ひとつ、確認させて、ください」


「なんだよ」


「湊さんの、噂。……内容を、覚えていますか」


「一年のとき、いなかった。名簿に、載ってない。集合写真に、写ってない。……あと、去年の事件に、関わってた」


「そのうち」五百旗頭は、言った。「――嘘は、いくつ、ありますか」


……。


俺は。


考えて。


それから。


気づいた。


「……ない」


「そう」五百旗頭は、頷いた。「全部、事実です」


「でも!」


「ええ。事実ですが」五百旗頭は、言った。「……解釈が、悪意で、塗られて、います」



◇



「湊さんは、一年のとき、確かに、存在感が、薄かった」五百旗頭は、言った。「本人が、そう、言っていました。……『誰にも、見られていなかった』と」


「ああ」


「集合写真に、写っていないのも」五百旗頭は、続けた。「……たぶん、事実でしょう。欠席したか、端に、いたか。……そういうことは、起こります」


「うん」


「あの事件に、関わっていたのも、事実です」五百旗頭は、言った。「……ただし、彼女は、加害者では、ありません」


「そうだよ」


「でも」


五百旗頭は。


顔を、上げた。


「――全部、並べると。『得体の知れない人物』に、見える」


……。


そうだ。


事実だけを。


選んで。


並べて。


解釈を、足す。


それだけで。


人は。


「怪しい」に、なる。



◇



「……森本くん」五百旗頭が、言った。「これ、あなたの、件と、同じ手口です」


「……ああ」


「事実を、少しだけ、ずらす。否定できない形で」五百旗頭は、言った。「……同一犯です。ほぼ、確実に」


「だよな」


「そして」五百旗頭は、ペンを、置いた。「――今回で、犯人の、目的が、はっきりしました」


「目的?」


「湊さんを、狙った、理由です」五百旗頭は、言った。「彼女は、あなたに、警告した。……つまり、犯人にとって、都合が、悪かった」


「……」


「犯人は」五百旗頭は、静かに、言った。「――あなたを、孤立させたいんです」


……。


孤立。


「あなたの、評判を、落とす。あなたを、庇う人間を、潰す」五百旗頭は、言った。「……これは、嫌がらせでは、ありません。もっと、体系的な、計画です」


「なんの、ために」


「わかりません」五百旗頭は、首を、振った。「……ただ」


「ただ?」


「――次に、狙われるのは」


五百旗頭は。


少しだけ。


笑った。


ぞっとするほど。


冷静な、顔で。


「……たぶん、わたしです」



◇



その日。


東海林《しょうじ》は。


図書室に。


来なかった。


部活だ、と。


誰かが、言った。


主将に、なったから、忙しいらしい、と。


……そうか。


忙しいのか。


俺は。


そう、思うことにした。


――思う、ことにした。


いま、思えば。


あのとき。


俺は。


「思うことにした」んだ。


本当は。


わかっていた、のかも、しれない。


でも。


考えたく、なかった。


だって。


考えたら。


疑うことに、なる。


いちばん。


疑いたくない、やつを。



(第9話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。