第8話 言っても、信じない
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第8話 言っても、信じない
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その日。
俺は。
帰り道で。
待ち伏せ、されていた。
「よー、森本」
校門の、脇。
いつもの、場所に。
湊ミライが、立って、いた。
でも。
いつもと。
少し、違った。
にやにや、して、いなかった。
「……なんだよ」
「歩こ」
それだけ、言って。
ミライは、歩き出した。
◇
しばらく。
二人とも。
何も、言わなかった。
秋の、夕方。
銀杏の、葉が。
だいぶ、落ちて、いた。
「……ねえ、森本」
「なんだよ」
「今の、状況。……どう、思ってる?」
「どうって」俺は、頭を、かいた。「……最悪だな」
「そうじゃなくて」ミライは、言った。「……誰かが、やってると、思う?」
……。
俺は、少し、考えて。
それから、答えた。
「……思う」
「うん」
「キーホルダーとか。署名とか」俺は、言った。「あんなの、偶然じゃ、ない。……誰かが、置いて、書いてる」
「だよね」
ミライは、頷いた。
「じゃあ」
「うん」
「……誰が、やってると、思う?」
……。
俺は。
答えられ、なかった。
◇
「わかんない」俺は、正直に、言った。「……でも、近いやつだ」
「うん」
「キーホルダー、拾える距離。書類、触れる立場。俺の行動、知ってるやつ」俺は、言った。「……たぶん、俺の、周りにいる」
「うん」
「でも」俺は、言った。「……誰も、思い浮かばない」
ミライは。
少しだけ。
目を、細めた。
「……ほんとに?」
「ほんとに」
「五百旗頭さんは?」
「あいつは、ない」俺は、即答した。「一緒に、調べてる。……疑うなら、俺に、証拠、見せない」
「御手洗さんは?」
「もっと、ない」
「なんで」
「あいつ、嘘つけないだろ」俺は、言った。「顔に、出る。……というか、そもそも、そういう発想が、ない」
「日下部くんは?」
「……日下部は」俺は、少し、考えた。「わかんない。何、考えてるか、読めない。でも、あいつが、こんな、地味な、嫌がらせを、するか?」
「不破くんは?」
「あいつは、正面から、殴ってくる」俺は、言った。「陰で、こそこそ、しない」
ミライは。
ひとつ、ひとつ。
頷きながら、聞いていた。
そして。
最後に。
言った。
「……東海林さんは?」
……。
俺は。
思わず。
笑った。
◇
「――は? 何言ってんだ」
「聞いてるだけ」
「四季が、そんなこと、するわけないだろ」
「なんで?」
「なんでって」俺は、言った。「幼馴染だぞ。保育園から。……あいつは、俺を、ずっと」
……。
そこで。
言葉が。
詰まった。
ずっと。
見て、くれて、いた。
あいつは。
そう、言った。
二か月前に。
……なのに。
最近。
顔を。
見て、いない。
「……ないって」俺は、言い直した。「絶対、ない」
「そう」
ミライは。
それ以上。
何も、言わなかった。
◇
「……なあ、湊」
「なに」
「お前」俺は、言った。「……誰か、わかってるのか?」
ミライは。
前を、向いたまま。
少し、歩いて。
それから。
言った。
「……わかんない」
「嘘つけ」
「ほんとに、わかんない」ミライは、言った。「証拠、ないもん」
「でも、見当は」
「……」
ミライは。
答えなかった。
その、沈黙が。
全部だった。
「言えよ」俺は、言った。「誰なんだ」
「言わない」
「なんで」
ミライは。
立ち止まって。
俺を、見た。
その、目が。
いつもの、からかうような、目じゃ、なくて。
なんだか。
少しだけ。
疲れて、いるように、見えた。
「……言っても」
「うん」
「あんた、信じないよ」
……。
◇
「信じる」俺は、言った。「言えよ」
「信じないって」
「信じるって、言ってるだろ!」
「じゃあ、聞くけどさ」ミライは、言った。「さっき、わたしが、東海林さんの名前、出したとき。……あんた、なんて、言った?」
「……」
「『は? 何言ってんだ』って、笑ったよね」
「……」
「証拠も、聞かずに」ミライは、言った。「……即答で、否定した」
「それは……」
「わたし、別に、東海林さんが、犯人だなんて、言ってないよ」ミライは、言った。「ただ、名前を、出しただけ。……なのに、あんたは、笑った」
……。
反論。
できなかった。
「そういうこと」ミライは、また、歩き出した。「……人はね。信じたいものしか、信じない。……疑いたくない人のことは、疑わない」
「……」
「それ、悪いことじゃ、ないよ」ミライは、言った。「……でも」
ミライは。
少しだけ。
声を、落とした。
「……そういうときが、いちばん、危ないの」
◇
曲がり角で。
ミライは、立ち止まった。
「じゃ、わたし、こっちだから」
「おい、湊」
「なに」
「……お前」俺は、言った。「なんで、そこまで、してくれるんだ」
ミライは。
きょとん、と、して。
それから。
ふん、と、鼻を、鳴らした。
「……別に。してないし」
「してるだろ。わざわざ、待ち伏せして」
「暇だっただけ」
「嘘つけ」
「……うるさいな」
ミライは。
そっぽを、向いて。
それから。
ぼそっ、と、言った。
「……あんた、去年のわたしに、似てるから」
「え?」
「……なんでもない」
ミライは。
そう言って。
さっさと、歩いて、いった。
……去年の、あいつ。
誰にも、見られていなかった、頃の。
……いや。
今の、俺は。
見られすぎて、いる。
逆、だろ。
……いや。
そうか。
違うのか。
見られている。
でも。
誰も。
本当の、俺を。
見て、いない。
それは。
たしかに。
同じ、かも、しれない。
◇
家に、帰って。
スマホを、見た。
東海林からの、連絡は。
なかった。
最後に、メッセージが、来たのは。
一週間前。
『……今日、部活、遅くなる』
それだけ。
俺は。
メッセージを、打とうとして。
……やめた。
なんて、送ればいい。
「最近、どうしてる?」
幼馴染に、送る文章じゃ、ない。
「なんか、あった?」
……何も、なければ、変な、やつだ。
結局。
俺は。
何も。
送らなかった。
――そして。
その、翌日。
学校で。
今度は。
湊ミライの、噂が。
流れ始めた。
(第8話 了)




