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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
しずかな、うらぎり

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53/112

第5話 届かない声

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第5話 届かない声

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選挙、当日。



体育館に。


全校生徒が、集められた。


六百人。


いや、もっと、いるかも、しれない。


ずらっ、と、並んだ、パイプ椅子。


その、全部が。


埋まって、いる。


……多い。


想像の。


三倍、多い。


ステージの、袖で。


俺は。


原稿を、握りしめて、いた。


手が。


汗で、湿って、いる。



◇



「……緊張、していますか」


隣で。


五百旗頭(いおきべ)伊織が、言った。


制服の、リボンを、きっちり、締めて。


背筋を、伸ばして。


いつも通りの、顔で。


「……してる」


「わたしも、です」


「嘘だろ。全然、そう見えない」


「見えないだけです」五百旗頭は、前を、向いたまま、言った。「……心拍数、たぶん、平常時の、一・六倍です」


「測ったのか」


「感覚ですが」


……こいつ。


こんなときも、数字で、言うのか。


でも。


そう言われて。


少しだけ。


気が、楽に、なった。



◇



演説は、立候補者ごとに。


まず、応援演説者。


次に、本人。


という、順番、らしい。


一人目の、候補者。


三年の、先輩だった。


応援演説者が、堂々と、喋る。


「――彼は、必ず、この学校を、変えてくれます!」


わあ、と、拍手。


慣れてる。


全然、緊張してない。


……くそ。


レベルが、違う。


二人目。


これも、上級生。


やっぱり、上手い。


そして。


「――続いて、二年二組。五百旗頭伊織さんの、応援演説。森本(もりもと)基成くん」


……。


来た。



◇



ステージに、上がる。


マイクの、前に、立つ。


顔を、上げた、瞬間。


――目が。


うわ。


目が、多い。


六百個の、目が。


全部。


こっちを、見て、いる。


息が。


詰まった。


頭が、真っ白に、なる。


原稿の、文字が。


一瞬。


記号に、見えた。


……やばい。


……逃げたい。


……また、逃げたい。


でも。


ここで、逃げたら。


今度こそ。


――そのとき。


思い出した。


剣道場での、あいつの、声を。


『……当日。緊張したら』


『……わたしを、見て』


『……体育館の、いちばん、後ろに、いる』


俺は。


顔を、上げて。


体育館の。


いちばん、後ろを。


見た。



◇



……いた。


ずっと、奥。


立ち見の、列の、いちばん端に。


東海林(しょうじ)四季が。


立って、いた。


こっちを、見て、いる。


表情は。


遠すぎて、見えない。


でも。


立って、いる。


約束、通り。


……よし。


俺は。


息を、吸った。


腹に。


力を、入れて。


「――二年二組の、森本基成です」


声が。


出た。


いつもより。


ずっと、大きく。


「五百旗頭伊織さんを、推薦します」


いける。


届いてる。


たぶん。


「彼女は、数学が、得意です。学年で、いちばんです。……でも、それだけじゃ、ありません」


原稿を、読む。


昨日、何回も、書き直した、原稿を。


「彼女は、答えが、出ないことを。……途中で、投げ出しません」


俺は、続けた。


「わからないことがあると。何日でも、考えます。……ときどき、ご飯も、忘れます」


客席から。


小さな、笑いが、起きた。


……あ。


受けた。


「そういう人が、生徒会に、いたら。……この学校の、問題も。ちゃんと、最後まで。考えてくれると、思います」


俺は。


頭を、下げた。


「……以上です。よろしく、お願いします」


拍手が。


起きた。


……終わった。


やった。


ちゃんと、喋れた。


俺は。


足が、震えるのを、こらえながら。


ステージを、降りた。



◇



続いて。


五百旗頭の、演説。


こいつが。


とんでも、なかった。


「――二年二組、五百旗頭伊織です」


落ち着いた、声。


「わたしは、生徒会に、入りたいとは、思っていません」


ざわ、と、体育館が、揺れた。


おい。


いきなり、何を、言い出すんだ。


「わたしは、推薦されて、ここに、立っています。断ろうとも、しました。……ですが、断れませんでした」


正直、すぎる。


「ですので、公約は、ひとつだけです」五百旗頭は、言った。「――『無駄を、なくす』」


「……」


「この学校には、意味のない、慣習が、いくつも、あります」五百旗頭は、続けた。「たとえば、朝礼の、待機時間。平均、七分。年間で、約二十時間。……これは、授業、二十コマ分です」


客席が。


静かに、なった。


「たとえば、行事の、書類。同じ内容を、三か所に、書かせる、様式が、あります。……なぜですか?」


ざわ。


「わたしは、こういうものを、ひとつずつ、数えて。減らします」五百旗頭は、言った。「派手なことは、しません。でも、皆さんの、時間は、返します」


――拍手。


さっきより。


大きな、拍手。


……こいつ。


すげえな。



◇



で。


そのあと。


公開討論の、時間に、なった。


これが、また。


大変、だった。


五百旗頭が。


他の、候補者に。


質問を、始めたのだ。


「二年三組の、候補者に、質問です」五百旗頭は、マイクを、握った。「あなたの、公約、『学校を、もっと楽しく』とは。具体的に、何を、しますか」


「え? あ、えっと。……イベントを、増やす、とか」


「イベントの、開催には、準備時間が、必要です」五百旗頭は、言った。「誰が、準備しますか」


「……生徒会が」


「生徒会の、現在の、平均活動時間は、週八時間です。ここに、イベントを、追加すると、何時間に、なりますか」


「……えっと」


「試算して、いませんか」


「……して、ないです」


「では、それは、公約では、なく。……願望です」


――どよめき。


客席が。


沸いた。


「うわ、言った!」


「五百旗頭さん、こわ!」


「でも、正論じゃん!」


体育館が。


完全に。


盛り上がって、いた。


……こいつ。


討論会に、してしまった。


生徒会選挙を。



◇



結果。



五百旗頭伊織。


落選。



「……なんでだよ!」


放課後の、図書室で。


俺は、叫んだ。


「あんなに、盛り上がったのに! みんな、拍手してたのに!」


「盛り上がることと、投票することは。……別の、行動です」五百旗頭は、静かに、言った。「みんな、面白がっただけです。……『こわい人』を、生徒会長には、しません」


「……」


「それに」五百旗頭は、少し、笑った。「三年生の、候補が、勝ちました。……当然です。名前も、顔も、知られていますから」


……。


ああ。


そうか。


結局。


選挙も。


「知ってる人」に、投票するんだ。


名前と、顔を。


……なんだか。


前に、聞いた話みたいだ。



◇



「――でも、五百旗頭さん」


御手洗《みたらい》が、言った。


「呼び出されたのでしょう? 生徒会に」


「……ええ」


「え?」俺は、顔を、上げた。「なんで?」


「……書記に、ならないか、と」五百旗頭は、げんなり、した顔で、言った。「新会長から、直接。『あなたのような人が、必要だ』と」


「すごいじゃん!」


「すごくありません」五百旗頭は、机に、突っ伏した。「落選したのに、結局、生徒会に、入るんです。……意味が、わかりません」


「断れよ」


「断りました」


「で?」


「『あの演説を、聞いて、断るのは、無責任では?』と、言われました」


「うわあ」


「……図書室で、本を、読む時間が。……減ります」


五百旗頭は。


心底、悲しそうに、言った。


……こいつの、価値観。


ぶれないな。


本当に。



◇



その夜。


帰り道。


俺は、東海林(しょうじ)と、並んで、歩いて、いた。


「……森本」


「なんだよ」


「……演説、よかった」


「そうか?」


「……うん」


四季は、頷いた。


「……ちゃんと、届いてた」


……そうか。


届いてた、か。


俺は。


少しだけ。


誇らしい、気分に、なった。


――でも。


その、二日後。


俺は、知ることに、なる。


選挙の、感想を、聞いて、回っていた、選挙管理委員の、集計に。


こういう、記述が、あったことを。


『二年二組・応援演説者について。……体育館後方では、ほとんど聞き取れなかった、という声が、複数』


……。


届いて、なかった。


あの、演説は。


後ろまで。


届いて、なかったんだ。


じゃあ。


いちばん、後ろに、立っていた。


あいつは。


……何を。


聞いて、いたんだろう。



(第5話 了)

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