第4話 立候補
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第4話 立候補
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文化祭が、終わって。
一週間。
学校は、次の、行事に、動き出していた。
――生徒会選挙。
◇
「――というわけで。二年二組から、誰か、出しますよー」
ホームルーム。
また、あの、実行委員(今回は、選挙管理委員)が、教壇に、立って、いた。
「立候補、いませんかー?」
しん。
誰も、手を、挙げない。
当然だ。
生徒会なんて、面倒くさいだけ、だろ。
「じゃあ、推薦でー」
その、瞬間。
教室の、あちこちから。
手が、挙がった。
「はい! 二組から、五百旗頭さん!」
「賛成!」
「賛成でーす!」
……お前ら。
自分は、やらないくせに。
推薦だけは、早いな。
◇
廊下の、向こうで。
五百旗頭が、その話を、聞いたのは。
昼休みだった。
「――は?」
珍しく。
五百旗頭が。
素の、声を、出した。
「わたし、ですか?」
「そう。もう、決まったって」俺は、言った。「クラスの、推薦」
「なぜ、わたし、なのですか」
「なんか、理由も、書いてあったぞ」俺は、思い出しながら、言った。「『理屈っぽくて』『数学ができて』『ちょっと、変だから』」
「――何ですか、それは!」
五百旗頭は。
真っ赤に、なって、叫んだ。
「褒めているのですか! けなしているのですか!」
「たぶん、両方」
「最悪です!」
◇
「だいたい、わたし、生徒会なんて、興味ありません」五百旗頭は、まくし立てた。「時間の、無駄です。会議。書類。行事の、準備。……そんなことに、時間を、使うくらいなら」
「本、読みたい?」
「本、読みたいです!」
……こいつ。
ぶれないな。
「それに、推薦だって、取れませんし」
「推薦?」
「大学の、指定校推薦です」五百旗頭は、言った。「生徒会をやると、有利になる、と、言われますが。……わたしは、理系の、研究職を、目指しています。指定校推薦の、枠は、ほとんど、文系ですし、そもそも、わたしは、一般入試で、行きたい」
「じゃあ、断れよ」
「断ります」
五百旗頭は。
きっぱり、言った。
……のに。
◇
三日後。
掲示板に。
立候補者の、一覧が、貼り出された。
その、二番目に。
五百旗頭 伊織。
「……なんで、載ってんだよ」
「……断りに行ったんです」
五百旗頭は。
死んだ、目を、していた。
「選挙管理委員会に。『わたし、辞退します』と」
「うん」
「そうしたら」五百旗頭は、言った。「担任が、出てきて。……『五百旗頭。お前、うちのクラスの、代表なんだぞ』と」
「うわ」
「『みんなが、推薦したんだ。その、期待を、無下にするのか』と」
「うわあ」
「『それに、内申にも、いい』と」
「言いそう」
「……断れませんでした」
五百旗頭は。
テーブルに。
突っ伏した。
……ああ。
わかる。
あの、圧。
断れないんだよな。
断ると、こっちが、悪いみたいに、なるし。
◇
「――で、次は、応援演説者だってさ」
と。
いつの間にか、そこにいた、湊ミライが、言った。
「応援演説?」
「うん。立候補者には、応援演説する人が、一人、必要なんだって」ミライは、言った。「全校生徒の、前で。『この人に、投票してください』って、演説する役」
「へえ。誰が、やるんだ?」
「もう、決まったよ」
「早いな。誰?」
ミライは。
にやり、と、笑って。
俺を、指さした。
「あんた」
「…………は?」
◇
「なんで、俺なんだよ!」
「知らないよ。クラスで、決まったんでしょ」ミライは、けらけら、笑った。「あー、たしか、理由も、聞いた」
「なんて?」
「『森本は、有名だから』」
……。
は?
「『名前は、全校生徒が、知ってる』」ミライは、指を、折った。「『去年の、あの噂の、森本だ、って。みんな、覚えてる』」
「……」
「『だから、あいつが、演説すれば。注目される』」
……。
……。
やめてくれ。
それ。
いちばん。
やめてくれ。
「森本くん」五百旗頭が、顔を、上げた。「あなた、断らないのですか」
「断る!」
「わたしは、断れませんでしたが」
「俺は、断る!」
――結果から、言うと。
断れ、なかった。
担任に、呼ばれて。
「森本。お前、文化祭、逃げたよな?」
と、言われた、瞬間。
詰んだ。
◇
その日の、放課後。
図書室で。
俺と、五百旗頭は。
並んで。
死んだ、目を、して、いた。
「……立候補者」
「……応援演説者」
「「……最悪だ」」
声が、揃った。
「あら」御手洗が、資料を、抱えて、通りかかった。「二人とも、どうしたの?」
「生徒会選挙です」五百旗頭が、うめいた。「わたしが、立候補者で。森本くんが、応援演説者です」
「あら!」御手洗は、ぱっ、と、顔を、輝かせた。「すごいじゃない! 民主主義ね!」
「そういう、話じゃ、ありません」
「まるで、古代アテナイの、民会みたいだわ」
「出た」
「出た、じゃないわよ」
「たとえが、また、世界史なんだよ」
「わかりやすいでしょう」
「わかりにくいって」
◇
「……森本」
と。
部活帰りの、東海林が、来た。
竹刀袋を、抱えて。髪が、少し、濡れている。
「四季」
「……聞いた。演説、やるって」
「やりたくない」
「……」
東海林は。
少し、考えて。
それから、言った。
「……森本、声、小さい」
「……そうか?」
「……小さい」東海林は、はっきり、言った。「……体育館、広い。……後ろまで、届かない」
「……」
「……練習、する?」
「え?」
「……腹式呼吸。……剣道で、やる」東海林は、言った。「……教える」
……。
こいつ。
なんだかんだ。
面倒見が、いいんだよな。
「……頼む」
「……ん」
東海林は。
少しだけ。
頷いた。
――そのときは。
まだ。
ただの。
何気ない、放課後だった。
こいつが。
このあと。
何を、考え始めるのか。
俺は。
何も。
知らなかった。
(第4話 了)




