↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛推理ゲーム  作者: SSS
しずかな、うらぎり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/116

第2話 逃げた男

====================

第2話 逃げた男

====================



文化祭、当日。



体育館の、裏。仮設の、控え室。


二年二組の、男子が。


十人ほど。


集まって、いた。


段ボールに、置かれた、衣装。


フリルの、ついた、スカート。


ピンクの、リボン。


白い、ニーソックス。


……見なかったことに、したい。


「よし、じゃあ、メイクからな!」


女子が、化粧道具を、持って、入ってきた。


やたら、目が、輝いて、いる。


「一人ずつ、座って! 田口(たぐち)、まず、お前!」


「お、おう」


田口が。


覚悟を、決めた、顔で。


パイプ椅子に、座った。


女子が、その顔に。


ファンデーションを、塗り始める。


……。


……。


……あ。



◇



これは。


やばい。



その、瞬間。


俺の、脳内で。


警報が、鳴った。


いや。


わかってた。わかってたんだ。頭では。


男女逆転。アイドル衣装。歌って、踊る。


全部、知ってた。準備も、してきた。振り付けも、覚えた。


でも。


「知ってる」のと。


「今から、自分の顔に、化粧されて、フリルを、着て、全校生徒の、前に、立つ」のは。


別だ。


まったく、別の、話だ。


田口の、顔が。


みるみる、女子っぽく、なっていく。


「うわ、田口、意外と、いける!」


「やめろ! 言うな!」


……無理だ。


心臓が、変な、音を、立てた。


全校生徒。


数百人の、目。


ステージの、上。


名前だけは、有名な、俺。


みんなが、見る。


スマホで、撮る。


一生、残る。


――無理だ。


無理無理無理。



「じゃ、次、森本(もりもと)!」


女子が、俺を、呼んだ。


「――ちょっと、トイレ」


俺は。


そう言って。


控え室を、出た。



◇



そして。


走った。



「あれ? 森本、トイレ、そっちじゃ――」


背後で、声が、したけど。


止まらなかった。


体育館の、裏。


資材置き場。


その、奥の。


壁を、伝う、排水管。


俺は、それに、飛びついた。


手が、覚えてる。小学生の、頃から、こういうことばっかり、やってた。


足を、壁に、かけて。


一気に、登る。


「――お、おい! 森本!?」


下で、誰かが、叫んだ。


追いかけてきた、田口だった。顔だけ、半分、女子。


「お前、なにやってんだ!」


「悪い!」俺は、叫び返した。「無理!」


「無理じゃねえよ! 降りてこい!」


「無理!」


俺は。


排水管の、途中から。


体育館の、庇に、飛び移った。



◇



「――う、うそだろ」


下で、田口が、口を、開けて、いた。


「お前、そこ、どうやって、登った!?」


「気合い!」


「気合いで、登れる高さじゃ、ねえだろ!」


まあ、コツはある。排水管の、継ぎ目に、足を、かけて。手は、ほとんど、支えるだけ。


体重は、下から、押し上げる。腕で、登ろうとすると、すぐ、疲れる。


……なんて、説明してる、場合じゃ、ない。


俺は、庇を、走った。


体育館の、屋根の、縁。


その、先に。


二メートルほど、上の。


渡り廊下の、屋根。


助走。


踏み切り。


――跳んだ。


手が、縁に、かかる。


懸垂の、要領で。体を、引き上げる。


「……お前、よく、そこまで、登れるなあ!!」


田口の、叫び声が。


だんだん、遠く、なった。



◇



それから、しばらく。


俺は。


学校の、上を、移動して、いた。



渡り廊下の、屋根から。


給食室の、庇へ。


そこから、フェンスを、乗り越えて。


理科棟の、非常階段。


途中で、下を、見ると。


先生が、二人、歩いていた。


見つかると、面倒くさい。


俺は、非常階段の、影に、しゃがんで。


やり過ごした。


心臓が、うるさい。


……なにやってんだ、俺。


文化祭の、日に。


校舎の、屋根を。


逃げ回って。


……いや。


でも。


あの、控え室に、戻るよりは。


百倍、まし、だ。



◇



理科棟の、三階の、窓から。


校舎の、中に、入った。


廊下は、静かだった。


みんな、体育館に、いるんだろう。


遠くで。


音楽が、鳴っている。


……たぶん、うちのクラスの、出番だ。


……悪いな。


心の中で。


一応、謝って、おいた。


それから、俺は。


制服の、埃を、払って。


何食わぬ顔で。


廊下を、歩き出した。



◇



で。


逃げ切った、あと。


何を、していたか、というと。



普通に。


文化祭を、見学して、いた。



三年A組の、お化け屋敷。


わりと、本格的で、面白かった。


二年五組の、たこ焼き。


うまかった。


一年の、有志バンド。


演奏は、ぐだぐただったけど、盛り上がってた。


……楽しい。


文化祭、楽しいな。


逃げてよかった。


……いや。


よくない、けど。


でも、まあ。


楽しい。



「――あれ? 森本くん?」


途中で。


御手洗(みたらい)に、遭遇した。


世界史研究会の、展示を、見に行った、帰りらしい。


「げ」


「げ、って、何よ」御手洗は、首を、かしげた。「あら。あなた、ステージは?」


「……終わった」


「もう?」


「うん。もう、終わった」


「そう」御手洗は、あっさり、頷いた。「早かったのね」


……こいつ。


疑わないな。


天然って、便利だな。


……いや。


罪悪感が、増した。



◇



そして。


文化祭が、終わった。


撤収の、時間。


教室に、戻った、俺を。


待っていたのは。


クラス全員の。


視線、だった。


「――森本」


田口が。


メイクを、半分、落とした顔で。


立って、いた。


「お前……」


「……悪い」


「悪い、じゃ、ねえよ!」田口が、叫んだ。「一人、足りないまま、やったんだぞ! 振り付け、ずれるし! 隊形、崩れるし!」


「……悪い」


「しかも、お前」田口は、俺を、指さした。「屋根、登って、逃げただろ!」


「……登った」


「なんで、登れるんだよ!」


「なんでって、言われても」


「あの高さ、無理だろ、普通!」


……そこ?


怒ってるの、そこ?


いや、違うか。


みんなが、怒ってるのは。


もっと、単純な、ことだ。


俺が。


逃げた、ってことに。



◇



と。


そのとき。


教室の、入り口から。


声が、した。


「――森本(もりもと)くん」


五百旗頭(いおきべ)伊織が。


立って、いた。


その、隣に。


東海林(しょうじ)四季も。


二人とも。


笑って、いなかった。


「……あ」


「少し」五百旗頭が、静かに、言った。「お話が、あります」


……やばい。


これは。


屋根から、逃げるより。


面倒くさい、やつだ。



(第2話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。