『恋愛推理ゲーム 3』 第1話 文化祭が、やってくる
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『恋愛推理ゲーム 3』
第1話 文化祭が、やってくる
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秋。
図書室の、窓から。
グラウンドの、銀杏が、見える。
まだ、半分だけ、黄色い。
三年生が、引退して。部活は、二年が、中心に、なった。
東海林四季も、剣道部で。責任のある、立場に、なったらしい。
最近は、練習が、長引くことも、多いようで。
図書室に、来るのが。前より、少し、遅くなった。
……まあ。
忙しいんだろ。
そう、思って、いた。
そのときは。
◇
「――というわけで。文化祭の、出し物を、決めます」
ホームルーム。
学級委員が、黒板の、前に、立った。
「展示は、決まってます。教室で、写真展。……問題は、ステージ企画です」
ざわ、と。
教室が、揺れた。
うちの学校は、クラスごとに、ステージで、何かやるのが、伝統らしい。
去年は、劇。一昨年は、漫才。
で、今年は。
「候補が、ひとつ、出てます」学級委員は、少し、笑いながら、言った。「――男女逆転、企画」
「なにそれ!」
「詳しく!」
「女子が、学ラン着て。男子が――」学級委員は、間を、置いた。「アイドルの、衣装で。歌って、踊る」
教室が。
爆発した。
◇
「賛成ー!!」
真っ先に、手を、挙げたのは、女子だった。
続いて、なぜか、男子も、ノリで、手を、挙げた。
「面白そうじゃん」
「一生の、思い出だろ」
「田口、お前、絶対、似合うって」
「うるせえ! ……でも、まあ、やってやるよ」
……こいつら。
なに、盛り上がってんだ。
俺は。
静かに。
机に、突っ伏した。
冗談じゃ、ない。
なんで、俺が。
全校生徒の、前で。
アイドルの、衣装で。
歌って、踊らなきゃ、いけないんだ。
「森本」
田口が、俺の、肩を、叩いた。
「お前も、やるよな?」
「やらない」
「なんで!」
「面倒くさい」
「出た、それ」
◇
放課後。図書室。
俺は、ぐったり、しながら。
テーブルに、突っ伏して、いた。
「――どうしたのですか、森本くん」
五百旗頭伊織が、本から、顔を、上げた。
「聞いてくれ、五百旗頭」俺は、うめいた。「うちのクラス、文化祭で。男子が、アイドルの衣装で、踊ることに、なった」
「知っています。わたしも、同じクラスですので」
「他人事みたいに、言うな!」
「面白そうですね」
「面白くない!」
五百旗頭は。
まったく、他人事の、顔で。
本の、ページを、めくった。
「安心してください。わたしは、音響係です。踊りません」
「代わってくれ」
「お断りします」
◇
「あら、なんの話?」
御手洗澪が。
世界史の、資料を、抱えて、やってきた。
今日の、私服は、蛍光グリーン。目に、痛い。
「森本くんが、アイドルに、なるんですって」五百旗頭が、言った。
「ならない!」
「あら」御手洗は、目を、輝かせた。「衣装は? 何を、着るの?」
「知らん」
「フリルかしら。それとも、ミニスカート?」
「聞くな」
「わたし、見に行くわ」御手洗は、にっこり、笑った。「絶対」
「来るな!」
「ふふ。……まるで、宝塚の、逆ね」
「たとえが、また、世界史じゃないだろ、それ」
「あら、そうね。……失礼」
◇
「――うっそ、まじで!?」
入り口から。
とんでもない、笑い声が。
響いた。
湊ミライだった。
「聞いた聞いた! 森本が、アイドルやるって!」
「早いな、情報!」
「もう、学年中に、広まってるよ」ミライは、腹を、抱えて、笑った。「あー、おかしい。……ねえ、写真、撮っていい?」
「撮るな!」
「動画も」
「やめろ!」
「ねえ、なんの曲やるの? 振り付けは?」ミライは、目を、輝かせた。「ちょっと、踊ってみてよ、今」
「踊らねえよ!」
……こいつ。
楽しそう、だな。
いや。
みんな。
楽しそう、なんだよ。
俺以外。
◇
と。
そのとき。
図書室の、扉が、開いた。
「……」
東海林四季だった。
竹刀袋を、抱えて。
いつもより、少し、遅い、時間に。
「四季」
「……ん」
四季は。
俺の、隣に。
いつも通り。
座った。
「部活、長引いたのか」
「……うん。……三年、いなくなったから」
「大変だな」
「……別に」
四季は、それだけ、言って。
タオルで、首を、拭いた。
少し、髪が、濡れている。
練習、きつかったんだろう。
「東海林さん」御手洗が、言った。「聞いた? 森本くんが、アイドルに、なるのよ」
四季の、手が。
止まった。
「……アイドル?」
「文化祭。男女逆転で、男子が、衣装着て、踊るんだって」ミライが、にやにや、しながら、言った。「森本、めっちゃ、嫌がってる」
「……」
四季は。
俺の、顔を。
じっ、と、見た。
いつもの、無表情で。
それから。
ぽつり、と、言った。
「……森本、似合う」
「――似合わねえよ!」
全員が。
声を、上げて、笑った。
◇
その、笑い声の、中で。
俺は。
なんだかんだ。
悪くない、な、と。
思って、いた。
面倒くさいことは、山ほどある。
文化祭。衣装。踊り。
でも。
こうやって。
全員が、揃って。
くだらないことで、笑ってる。
一年前は、こんなの。
想像も、しなかった。
……まあ。
やるだけ、やってみるか。
そう、思った。
――このときは。
まだ。
俺は。
自分が。
文化祭の、当日に。
全部を、放り出して。
逃げ出すなんて。
思っても、いなかった。
(第1話 了)




