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恋愛推理ゲーム  作者: SSS
きみを見ていたのは、誰?

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47/115

特別編 湊ミライは、噛みつく

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特別編 湊ミライは、噛みつく

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白瀬(しらせ)先生が、学校を、去る、前日。


俺は、たまたま。


その場に、居合わせて、しまった。



◇



放課後。空き教室。


荷物を、まとめている、白瀬先生の、前に。


湊(みなと)ミライが。


仁王立ちで。


立って、いた。


「……なんですか、湊さん」


「先生」ミライは、言った。「ひとつ、聞いていい?」


「どうぞ」


「なんで、森本(もりもと)を、巻き込んだの」


俺は。


廊下の、陰で。


思わず。


足を、止めた。



◇



「なぜ、と、言われても」白瀬先生は、荷物を、まとめる手を、止めずに、言った。「わたしは、人間の、噂に関する、行動心理学的な、動向を、知りたかった。それだけです」


「違うわ!」ミライの、声が、跳ねた。「あんたの、実験に。森本を、使うなって、言ってんだよ」


「使う、と、言われましても」白瀬先生は、首を、かしげた。「彼は、サンプルとして、条件が、合っていた。……たまたま、選ばれただけです」


「たまたま?」


「ええ。恨みも、意図も、ありません」白瀬先生は、言った。「それに、『使うな』と、言われても。人間の、行動原理を、知るためには。……やってみないと、わからない、わけで」


「……うっせーな」


ミライの、声が。


低く、なった。


「そんなこと、言ってんじゃ、ねーんだよ」


「では、何を?」


「お前には」ミライは、白瀬先生を、指さした。「――感情が、ねーのかよ」



◇



白瀬先生は。


少しだけ、間を、置いて。


それから、言った。


「感情は、ありますよ。人並みに」


「嘘つけ」


「本当です」白瀬先生は、あっさり、言った。「というより。……湊さん。あなた、いま。わたしが、感情の、薄い、人間だと。決めつけましたよね」


「……」


「それ」白瀬先生は、微笑んだ。「印象、じゃ、ないですか?」


ぐ。


……こいつ。


使ってくる。


こっちの、テーマを。



◇



「……あー、そう」ミライは、髪を、かき上げた。「じゃあ、聞くけどさ。先生。あんた、彼氏とか、彼女とか。いんの?」


「いますけど」


「……は?」


「彼女なら、普通に、いますよ」白瀬先生は、けろっと、して、言った。「なんなら、今。大学の、同級生と。同棲して、います」


「……」


「もしかして」白瀬先生は、少し、楽しそうに、言った。「そんな、わたしに。『モテなさそう』って、言おうと、しました?」


「……」


「それって」白瀬先生は、言った。「――あなたの、思い込み、というか。願望、ですよね?」


……えぐい。


えぐい、返し方だ。


ミライの、こめかみに。


青筋が、浮いた。



◇



「……だとしてもよ」ミライは、言った。「その彼女。……本当に、好きじゃ、ねーだろ」


「なぜ、そう思うのですか」


「お前」ミライは、まっすぐ、言った。「自分以外、本当に、好きそうじゃ、ねーもんな」


白瀬先生は。


ぴくり、とも、しなかった。


「……それも、感情論、ですよね」白瀬先生は、言った。「理屈で、話さないと。納得しませんよ、僕」


「僕?」


「一人称は、場面で、変えています。研究者としては、『僕』のほうが、しっくりくるので」


「……知らねーよ」


ミライの、拳が。


ぎゅっ、と、握られた。


「そういうんじゃ、ねーんだよ」


「では、どういう、ものですか」


「……お前、ボコボコに、すんぞ」


「ヤンキーですか? あなた」


……。


だめだ。


会話が。


成立して、ない。


いや。


成立、して、いる。


白瀬先生の、ルールの上でだけ。



◇



「……あのさ」


ミライは。


一度、深く、息を、吸って。


それから、言った。


「自分しか、愛せないから。他人の、気持ちが、わからないんだよね。……君は」


「……」


「それを」ミライは、続けた。「観察者側で。……安全な、ところから、見てないと、理解できないって。……可哀想だよね」


白瀬先生の、手が。


ほんの一瞬。


止まった。


……気が、した。


でも。


すぐに。


いつもの、調子で、言った。


「感情が、入りすぎて。……話に、なりませんね」


「そうだね。ならないね」ミライは、言った。「でもさ。……ひとつだけ、言っとく」


「なんでしょう」


「そういうのは」ミライは、言った。「他人を、使って、実験する、もんじゃ、ねーんだよ。……自分、使って。いろいろ、試してみな」


白瀬先生は。


きょとん、と、して。


それから。


にっこり、笑った。


「ええ。そうして、いますよ」


「……は?」


「彼女も」白瀬先生は、言った。「試行実験で。……それで、作りましたし」


……。


ぞわ、と、した。


「これからも」白瀬先生は、続けた。「人の、心理を、研究するために。……いろいろ、使って、いきますよ」



◇



空き教室が。


しん、と、した。


ミライは。


しばらく。


何も、言わなかった。


それから。


ぽつり、と。


「……人間って」


「はい?」


「……そういう、もんじゃ、ねーんだよな」


ミライは。


顔を、上げた。


その目は。


怒って、いるようで。


少しだけ。


悲しそうにも、見えた。


「……それってさ」ミライは、言った。「結局、きみも。……使われてる側だってこと。……気づけないんだな」


「……」


「かわいそうに」


白瀬先生の、笑みが。


ほんの少しだけ。


崩れた。


「……使うも、使われるも、ないでしょう」白瀬先生は、言った。「僕の、思い通りに、できるなら。どちらでも……」


それは。


反論じゃ、なかった。


話題を。


手放しただけ、だった。



◇



ミライは。


くるり、と、背を、向けて。


出口へ、歩き出した。


でも。


扉の、手前で。


立ち止まって。


振り返らずに、言った。


「……先生。あんた、森本のこと。……『被験者M』って、書いてたよね」


白瀬先生の、動きが。


止まった。


「……なぜ、それを」


「ノート、見たもん」ミライは、あっさり、言った。「机の、上に、置きっぱなしだったし」


「……」


「で」ミライは、言った。


「――『被験者S』って、誰?」


沈黙。


長い、沈黙が、あった。


白瀬先生は。


答えなかった。


「……答えられないんだ」ミライは、言った。「ふーん」


それだけ、言って。


ミライは。


空き教室を、出て、いった。



◇



廊下で。


俺は。


ミライと、鉢合わせた。


「……げ。森本。聞いてたの」


「……ああ。悪い」


「うわ、最悪」ミライは、髪を、かき上げた。「かっこ悪いとこ、見られた」


「かっこ悪くは、なかったけど」


「負けたじゃん、わたし」ミライは、吐き捨てた。「あいつ、理屈しか、聞かないんだもん。……全部、『それ感情論ですよね』で、終わり」


「……ああ」


「わたし、頭、よくないからさ」ミライは、言った。「五百旗頭(いおきべ)さんなら。……もっと、うまく、論破できたのかもね」


たぶん。


そうかも、しれない。


五百旗頭なら。理屈で、あいつを、崩せた、かもしれない。


でも。


「……なあ、湊」


「なに」


「なんで、あんなに、怒ったんだ?」


ミライは。


少し、黙って。


それから。


前を、向いたまま、言った。


「……わたしね」


「ああ」


「……一年のとき。誰にも、見られてなかったんだよ」


「……」


「クラスに、いたのに。名前も、覚えられなくて。……誰も、わたしのこと、見てなかった」ミライは、言った。「みんな、勝手に、わたしを、記憶してた。……『あの、地味な子』って」


俺は。


何も、言えなかった。


「あいつがさ」ミライは、言った。「『人は、噂だけで、他人を、認識する』って。……証明して、喜んでたでしょ」


「……ああ」


「あれ」ミライは、言った。「わたしが、ずっと、味わってきた、やつだから」


……。


そうか。


だから、こいつ。


あんなに。


感情的に、なったのか。


「……ま、いいけど」ミライは、いつもの、調子に、戻った。「負けたけどね。完敗」


「……いや」


俺は、言った。


「負けてないだろ」


「へ?」


「あいつ、最後。答えられなかったろ」俺は、言った。「『被験者Sって誰』って。……黙ってた」


「……ああ、あれ」


「それに」俺は、言った。「聞いてて、思ったよ。……あいつ、理屈は、通ってるけど。……なんか、人として、こわい」


ミライは。


ぽかん、と、した顔で、俺を、見て。


それから。


ぷっ、と、噴き出した。


「……あはは。何それ」


「本当だって」


「……うん」ミライは、笑った。「……そうだね。こわいね、あいつ」


その、笑い方は。


いつもの、意地の悪い、やつじゃ、なくて。


なんだか。


少しだけ。


救われた、みたいな。


そんな、笑い方だった。



◇



――理屈では。


たぶん、ミライは。


負けた。


白瀬先生の、ルールの上では。全敗、だったと思う。


でも。


なぜだろう。


見ていた、俺には。


ミライが、負けた気が。


まったく。


しなかった。



(特別編 了)


(――第2巻+特別編・完。第3巻へ、つづく)

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