第17話 あいつも、使われたんだ
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第17話 あいつも、使われたんだ
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その日。
俺は、一人で、帰り道を、歩いて、いた。
事件も、終わって。噂も、消えて。
平和な、夕暮れ、だった。
――だから。
油断して、いた。
「よー、森本」
校門の、脇。
いつもの、場所に。
湊ミライが、立って、いた。
「……お前、また、待ち伏せか」
「暇だったから」
「暇なら、帰れ」
「やだ」
……こいつ。
学習しないな。
いや、俺が、か。
◇
並んで、歩き出す。
しばらく。
どうでもいい、話を、した。
文化祭が、どうとか。進路希望が、どうとか。
でも。
ふと。
ミライが。
声の、調子を、変えた。
「ねえ、森本」
「なんだよ」
「あの、実習生。……白瀬先生、だっけ」
「ああ」
「処分、決まったんだって?」
「ああ。実習中止。単位も、なし」俺は、言った。「大学にも、報告が、行ったって」
「ふーん」
ミライは。
空を、見上げた。
それから。
ぽつり、と。
言った。
「……へぇ」
「なんだよ」
「あいつも、使われたんだ」
――え。
◇
俺は。
足を、止めた。
「……今、なんて」
「え? 何が?」ミライは、きょとん、と、した。
「使われた、って、言ったろ」俺は、言った。「白瀬先生が。……誰に?」
「さあ?」
「さあ、じゃ、ないだろ!」俺は、詰め寄った。「お前、何か、知ってるのか」
ミライは。
面倒くさそうに。
頭を、かいた。
「……別に。知ってるって、ほどじゃ、ないよ」
「じゃあ、なんで」
「ただ、変だな、って、思っただけ」ミライは、言った。「あの先生さ。……なんで、うちの学校に、来たと、思う?」
「なんでって。……実習だろ」
「実習先って、どうやって、決まるか、知ってる?」ミライは、俺を、見た。「ふつうは、母校か、大学が、提携してる、学校。……白瀬先生、うちの、卒業生じゃ、ないよね」
「……そうなのか?」
「調べた」ミライは、あっさり、言った。「あの人、県外の、出身。うちの学校とは、なんの、縁も、ない」
……。
ぞわ、と、した。
五百旗頭も。
言っていた。
「なぜ、この学校だったのでしょう」と。
◇
「……じゃあ、なんで」
「誰かが、呼んだから、じゃない?」ミライは、あっさり、言った。「『うちの学校で、研究してみないか』って。……そう、誘われたら。研究者は、来るでしょ」
「誰が、そんなこと」
「さあ?」
……また、それか。
「湊」俺は、言った。「お前、絶対、何か、知ってるだろ」
「知らないって」ミライは、肩を、すくめた。「わたしが、知ってるのはさ。……こういう、パターンが、あるってこと」
「パターン?」
「うん」ミライは、指を、立てた。「自分では、何も、しない。手も、汚さない。……ただ、『やりたがってる人』を、見つけて。……場所を、用意してあげるの」
「……」
「そうすれば」ミライは、言った。「その人は、勝手に、動く。勝手に、実験して。勝手に、結果を、出す。……そして、バレたら。勝手に、処分される」
ぞっと、した。
「用意した、やつは」俺は、言った。「……何も、してない、ことに、なる」
「そう」ミライは、頷いた。「証拠も、ない。命令も、してない。……ただ、機会を、あげただけ」
それは。
まるで。
白瀬先生が、やったことと。
同じ、構造だった。
噂を、流しただけ。
あとは、人が、勝手に、思い込んだ。
……その、上に。
もう一段。
同じ、構造が。
乗って、いる?
◇
「……なあ、湊」
「ん?」
「それって、つまり」俺は、言った。「白瀬先生の、後ろに。……誰か、いるってことか」
ミライは。
答えなかった。
ただ。
ゆっくりと。
歩き出した。
「……第七役職」
「え?」
「まだ、終わってないよ」ミライは、前を、向いたまま、言った。「あんたたち、あの、図書室のゲームで。……全部、終わったと、思ってるでしょ」
「……」
「終わってない」ミライは、言った。「むしろ。……あれは、たぶん。始まりだった」
「湊」俺は、言った。「お前は、何者なんだ」
ミライは。
立ち止まって。
振り返った。
夕日が、逆光で。
その表情は。
よく、見えなかった。
「……わたしは」
「……」
「わたしも、たぶん」ミライは、静かに、言った。「……使われた、側」
その、声が。
いつもの、ふざけた、調子じゃ、なくて。
俺は。
何も、言えなかった。
◇
「――なんてね」
次の、瞬間。
ミライは。
いつもの、にやにや顔に、戻って、いた。
「今の、かっこよかったでしょ。ちょっと、練習した」
「……練習?」
「うん。『わたしも、使われた側』って。……ミステリーっぽくない?」
「お前……」
「あははっ! 森本、顔! 超、真剣に、聞いてた!」
「ふざけんな!」
ミライは。
けらけら、笑いながら。
曲がり角へ、走って、いった。
「じゃーね、森本! また、明日!」
……くそ。
からかわれた。
……いや。
本当に?
さっきの、あれ。
全部、冗談、だったのか?
夕暮れの、道に。
一人、残されて。
俺は。
しばらく。
動けなかった。
◇
――その、夜。
職員室。
誰も、いない、部屋で。
一人の、教師が。
机の、引き出しを、開けて、いた。
中から、取り出したのは。
一枚の、カード。
いや。
正確には。
カードの、コピー。
そこには、こう、書かれて、いた。
《第七役職》
教師は。
それを、しばらく、眺めて。
それから。
小さく。
つぶやいた。
「……面白い」
引き出しを、閉める。
「やはり、彼だったか」
(第17話 了)




